「お姉様……この2人、本当に来たくて来たの? テンションの高い方はともかく、眠そうにしてる吸血鬼さんの方は今すぐ帰りたそうにしてるけど」
「うん、私もそう思う。レミリア姉様、実際のところはどうなのかな?」
フラン姉様やメイド妖精さんと一緒に部屋で待機する事約1分、私はレミリア姉様が案内してきた2人の中位吸血鬼一家当主が、本当に手合わせしたくて来たのかどうかと、少しだけ戸惑っていた。
片や扉が開くなり、天使にも見える私の容姿を見た珍しさと言うまるで関係のない事で高揚し、片や凄く眠そうにしていて今すぐ帰って寝たい様に見えたためだ。
一緒に部屋の中で待っていたフラン姉様も同じ様に感じたらしく、彼らの姿を見るや否や疑問を投げ掛けていたため、私もそれに乗る形で投げ掛けた。
最初にレミリア姉様から手合わせをすると聞いていたため、その体で準備と心構えは済ませてはいるものの、例え急に中止になったとしてもだから何だとしか思わないけど。
「大丈夫よ。テンションの高い『リーテノン伯爵』は勿論、眠そうにしている『ケルラノ伯爵』の方も来たくて来ているらしいから。レイブン伯爵、そうよね?」
「当然です。彼らが私に仲介を依頼してきたので、今日はここに連れてきました」
ただ、フラン姉様と私の疑問は、レミリア姉様が紅魔館に2人を連れてきたレイブン伯爵に確認を取った上で、来たくて来ているから大丈夫と伝えてきたため解消される事となった。これで、後は予定通りに手合わせを済ませるだけとなる。
「リーテノン伯爵、我々は彼女に手合わせを願いに来たのです。いつまでも関係ない事を考えてたら進みません。それに、初対面で容姿について言及するのはあまりよろしくないかと」
「おお、そうだった……リーシェ嬢。至らぬばかりに、申し訳ない」
「別に私は気にしてないから大丈夫。それよりも、手合わせをするなら早く地下室に行こう」
それから、今この場に全く関係のない私の容姿についてを考えていた灰色長髪のリーテノン伯爵が、何か誤解していそうな目で見ていた薄い紫髪のケルラノ伯爵に諌められてからの謝罪を受け入れるやり取りを交わした後、目的を早く達成するためにここに居る皆で地下室へと向かった。
良く考えたら命のやり取りがある非常時を除き、館の主力陣にミドナやネイビス以外と大小問わずに平和的な手合わせをするのは初めてだ。しかも、姉様2人や妖精さんたちだけならともかく、レイブン伯爵と夫人も観客に居る訳だし、緊張のあまりピンチでもないのに風属性魔法『ウェンテの飛槍』を使ってしまわない様に気を付けなければならない。
「それでは、まずはオレから行かせてもらおう。リーシェ嬢、お手柔らかに頼む」
「分かった。リーテノン伯爵、こちらこそよろしく」
頭の中で色々と考えを巡らせながら地下室へと着くと、リーテノン伯爵が私に向かって頭を下げ、自分から行かせてくれと言ってきた。どうやら、1対1の手合わせを先にやるのは彼だと決まっていたらしい。
なので私も、それに対して母様やレミリア姉様に教えられたお嬢様的な挨拶で返し、戦闘体勢を整える。
「行くぞ! 我が力を見てみよ!」
そして、この手合わせはリーテノン伯爵がとんでもない速さで接近して、手に持った魔法文字が刻印された棒を振り下ろしてきたところから始まった。当たり前だけど、食らったらひとたまりもなさそうなので避けた。
しかし、流石上位クラスに片足を突っ込む強さであるだけに、何と厄介な攻撃だろうかと思えてならない。攻撃の威力はもとより、かなり高い技術力に裏打ちされた振り下ろしや薙ぎ払い、突きのタイミングが見事であり、油断すればすぐに捉えられてしまう程だったからだ。
勿論それだけではなく、吸血鬼の身体能力に種族の力、優れた魔法を活かした攻撃なども織り交ぜてくるものだから、中々理想通りに反撃出来ないでいた。
数々の防御系魔法や自身の能力を上手く使う事で、反射回避抜きでも相手の攻撃は全て迎撃、防御や回避出来ているものの、私の近接戦闘能力の低さが改めて露呈した一幕となる。
「防がれるか避けられるかで攻撃が通用しない……反撃の雷魔法もまともに受ければまずい威力、これで最も弱いとは……スカーレット家は、オレの想像を超える程に恐ろしいらしい」
「……」
その後も、優れた技術と身体能力を駆使した魔法文字の棒による攻撃は避けるか防御結界の展開で受け流しつつ反撃し、種族としての力や魔法による攻撃は同じく魔法で迎撃する流れが続いた。
しかし、先程まで力を隠していたらしい彼がここに来て全てを解放し、姉様2人の通常状態を彷彿とさせる位に速くなっているため、反射回避が時折発動する程には厄介な相手と化している。
当然、技術力をそのままに一撃の重さも比例して上がり、通常の防御結界では受け流してもガラスを鉄の棒で殴るが如く破られる。故に、防御の際は
ちなみに、雷魔の結界の最高強度でもレミリア姉様の『
今日の手合わせ相手は姉様2人のそれと比べれば劣るけど、結界にかなりの勢いで蓄積していくダメージを考えると、決して弱くはなくむしろ強い部類に入る吸血鬼さんと言えるだろう。
「済まないが、この辺にして欲しい!」
「……? 良いけど、急にどうしたの?」
「あぁ。これ以上はオレが参りそうだし、リーシェ嬢はケルラノ伯爵ともやる予定がある以上、あまり消費しすぎるのも良くないだろうと考えてな」
「確かに、貴方の言う通りだね。それに、私も疲れてきたから止めるタイミングとしてはちょうど良いかな」
更に数分、戦闘中に色々と考えを巡らしながら戦闘を続けていると、攻撃の反動で距離が離れた瞬間に突如としてリーテノン伯爵が動きを止めた。
いきなりの事に困惑しながら尋ねてみたところ、彼本人の体力が限界に近くなってきたのと、次に控えているケルラノ伯爵との手合わせに私が消耗し過ぎては支障をきたすとの考え故の行動だったとの事。
確かに、通常状態の姉様2人に張り合える強さのリーテノン伯爵とこれ以上やり合えば、消耗のし過ぎで次の手合わせが出来なくなるだろう。
私個人としては別にそうなっても問題ないけど、最初に約束をした以上はそうはいかない。なので、その提案を受け入れて次の手合わせに向け、ある程度の休憩を取る事を決めた。
「ケルラノ伯爵、休憩終わったからやれるよ」
「では、私ともよろしくお願いいたします」
「分かった。よろしくね」
念には念を入れて30分休み、先程の戦闘にて使った魔力などがある程度回復してきたところで、ケルラノ伯爵にもう大丈夫だと声をかけて、2回目の手合わせが始められた。
1回目をしっかりと見ていたからか、最初から全力全開で私に向けて氷と土属性魔法による弾幕を撒いてきているため、神々の目を筆頭とした無属性魔法で迎撃、迎撃しきれない分は回避でやり過ごした。
リーテノン伯爵よりも強力無比な魔法攻撃と魔法の種類、私と違って武器を持っていないのを見るに、完全な魔法使いタイプであるようだ。
本来であれば彼の妖気の強さと魔法技術力の高さが合わさり、苦戦する相手であるはずだったものの、私自身も魔法を使った遠距離での撃ち合いを得意としているため、体感的には1回目よりは楽に感じている。とは言え、油断出来る程の相手ではないが。
「むぅ、リーテノン伯爵の時も思いましたが、リーシェ嬢は魔法使いと同時に、研究開発者でもあるのですか?」
「うーん……そうと言えるね。戦闘で使った魔法の半分以上が、自分で研究開発したものだから」
そんな中、撃ち合いをしている最中でも聞こえる位の大声で、ケルラノ伯爵が私は魔法の研究者であるのかと尋ねてきた。
パチュリーやパチュリーと同等の魔女さんには圧倒的に劣るけど、私自身も多くの魔法を作り上げたりしているため、研究開発者と言えるだろう。なので、彼の問いかけに対して頷く。
「半分以上も自分で……やはりそうでしたか。すみませんが、
「あっ、そうなの……? まあ良いけど」
すると、まだまだ余裕がありそうだったのにも関わらず、何を思ったのかもう限界だから止めても良いかと聞いてきた。
一体どうしたんだと疑問に思ったものの、何であれ当の本人が止めたいと言ってるのに続ける理由も別になかったため、同意を示して手合わせの中止を決める。
こうして、中位吸血鬼一家の当主2人との手合わせは終わりを告げる事となった。
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