「パチェ。貴女に会って話をしたいって来客が門前に居るのだけど、どうする?」
合計で1ヵ月にも及ぶリィとの魔法談義の最終日を終え、こあと一緒に本の整理と清掃を行っていた時、いつもの様に大図書館へと訪れていたレミィから声をかけられた。曰く、私に会って話をしたいと言う来客が今、門前で美鈴と会話をしながら待っているとの事。
レミィやフラン、リィに会いたいと言う来客ならいざ知らず、私を指名して会いたいと言う来客は全く居ない訳ではないものの、極めて珍しいから少し驚いた。
ちなみに、スカーレット家と付き合いの深いレイブン家の面々ですら、館に訪れた時も特に話さず帰る事が多い。
「私に来客なんて珍しいわね。それで、一体誰なの?」
「この間、うちに挨拶しに来た
「無論よ。それにしても、どうして私なのかしらね……?」
そんな事を考えながら来客とは一体誰なのかと尋ねると、レミィは『アルネビシア・ウィズダム』と言う名前の魔女を出してきた。
確か、彼女は少し前に色々と仕出かしていたコルベルシア家の勢力の一部と激突、犠牲を出しながらもそれらを打倒して上位吸血鬼一家の仲間入りを果たしたルマナヴァ家の右腕とも呼べる魔女との話だった。
つい先日、そこの当主と夫人が挨拶しに来た時に聞いた事だったし、妙に誇らしげにしていたからしっかりと覚えている。
にしても何故、今吸血鬼界隈で話題となっているルマナヴァ家の魔女がわざわざ、本拠地のあるハンガリーから遠出してまで私に会いたがっているのか、その意図が全くもって分からない。故に、普通なら延期するなり断るなりしていただろう。
しかし、うちとも敵対しているコルベルシア家の勢力を打倒する勢力に所属しているのであれば、少なくとも会って会話をする位なら問題はない。そうでなくても、レミィが私に話を持ってきた時点で
加えて、私がやっていた本棚の清掃や本の整理は必要不可欠な事ではあったものの、別に今すぐ急いでやる必要
「そう言う事なら、レミィ。今なら特に断る理由もないからルマナヴァ家の魔女、連れてきても良いわよ」
「ええ、分かったわ」
「それと、こあ。本の整理と本棚の清掃が途中なのだけど、残りを皆で頼める? 駄目なら後回しでも良いけど」
「大丈夫です。今日の残りの箇所整理はお任せ下さい!」
故に、レミィにその
とは言え、やる準備と言ったら絶対に見せられない一部の本を隠したり、話の種になりそうな魔導書や普通の本を何冊か選んだり、滅多に使わない物置と化している机の上を少し片付けたりする位ではあったから、大して時間はかからなかった。後は、例の魔女が連れてこられるまで待つのみである。
「何この本の量……紅魔館の大図書館、なんて羨ましい……はっ! レミリアさん、あそこに居る方がパチュリーさんでしょうか!?」
「ええ、そうよ。にしても貴女、本当に元気ねぇ……うちの妖精メイドと大差ないわ」
「あはは……魔法の知識と知恵以外、お前はそこらの妖精と大差ない奴だと主様から良く言われます」
「まあ、でしょうね」
準備を終えて更に待つ事3分、入り口の開けておいた大扉からレミィに連れられ、水色の髪に
ただ、これ程までに陽気な性格の持ち主であるからか、一挙一動が少し大袈裟で声も大きい。加えて、この場が本だらけの最高の環境であるのも相まり、誰がどう見ても幸せそうだと思う表情をしている。あの時のルマナヴァ家の当主と夫人や今のレミィが、魔女であるアルネビシアを妖精メイドと大差ないと言うのも納得の立ち振舞いである。
勿論、これは良い事ではあるのだろう。ただ、テンションが高過ぎて静かな環境に身を置くのを好む私や、同じく自室で1人黙々と魔法研究・開発などを行って過ごすのを好むリィとはそう言った意味での相性があまり良さそうではなく、話が長引いたりすると疲れてしまうだろう。
「どうも、パチュリーさん! 私、ルマナヴァ家に仕える月光の魔女こと『アルネビシア・ウィズダム』です。今日は本当にありがとうございます! 呼び方は適当でどうぞ!」
「どういたしまして。もう既に聞いてはいるようだけど……私はパチュリー・ノーレッジ。紅魔館で、のんびり魔女をやらせてもらっているわ」
そんな事を頭の中で考えていると、彼女は机の向かい側に分かりやすく用意しておいた椅子の隣へと立ち、私に向かって頭を下げてからを始めた。なので一応、こちらも礼儀として立ち上がってから自己紹介を行う。
レミィとのやり取りを見聞きして分かってはいたものの、かなり元気で明るい故に彼女の声が静かな大図書館内に響き渡っている。こあや白髪の妖精たちも時折視線を向けてくるけど、まあ仕方ない。
「じゃあ、後は2人で思う存分話し合いなさい。私はこれで部屋に戻るわ」
「レミリアさんも、当主直々のご対応ありがとうございます! それでは、何を話しましょう……?」
軽い自己紹介が終わり、アルネビシアをここまで連れてきたレミィが大図書館を後にし、さてどんな話が始まるのかと身構えていたところ、何を話そうかと本人が今この場で考え始めたのを見て肩透かしを食らった。
こうなると、私が主導で話を振らなければいけなくなる可能性が出てくるけど、会話のストックはある程度は用意してあるとは言っても1人の力ではそれ程長く会話は続けられないだろう。こちらとしては、それならそれで構わないけど。
「えっと、アルネビシア。もしかして、何も決めずに来たとかかしら?」
「いえ、違います! ただ、ストックを用意しすぎて何を話そうかと考えているだけなので!」
そう思いながら話のストックがないのかと尋ねると、逆にストックがありすぎて話の良い流れが全く思い付いていないだけである事が判明した。この調子だと、もしかしたら数時間単位で話が続いてしまいそうな気がしてならない。
「なるほどね。その程度なら別に気にしなくても良いわよ。さてと……」
と言う訳で、魔女同士の会話として無難と思われる魔法についての話題を私が振り、時間を長くしすぎない事と彼女を満足させる事の両立をさせてしまおうと決意した。
まあ、これについては数秒の間に咄嗟に浮かんだ内容であったから、正直言って大丈夫かと思ってしまうけど、今は気にしていてもしょうがないから止めておこう。
「凄い魔法知識量ね。知恵もかなり回る様だし、流石コルベルシア家勢力に大立ち回りを演じたルマナヴァ家の右腕の魔女なだけあるわ」
「ありがとうございます! あっ……えっと、ここまでの良い雰囲気を私の話で台無しにしたくないので、ここら辺で切り上げますね!」
そんな感じで咄嗟に浮かんだ話が上手く流れにはまり、何だかんだ言って繋ぎ程度に考えていた会話が続く事1時間、アルネビシアが切り上げたいと伝えてきたため、特に異論もない私はそれを了承した。
終わってみれば案の定、彼女のテンションの高さに終始圧倒され気味で疲労感が凄かったけど、ためになる部分もあったりして会話をする事自体は嫌ではなかった。まあ、だとしてもリィは嫌がりそうではあるけど。
「それでは、改めて本日は大変ありがとうございました!」
「こちらこそ、ためになる話をありがとう。アルネビシア」
こうして、やたらとテンションの高いルマナヴァ家の魔女であるアルネビシアとの会話の時間は、終わりを告げる事となった。
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