「えへへ、美鈴! ようやく満足いくものが出来たから、受け取って欲しいな。それと、時間がかかり過ぎてごめんね」
苦節数十年、美鈴の身体を案じて計画して実行した魔道具製作が数々の実験や試作品作りを経て終わりを告げた今日、ようやく胸を張って渡せる領域となった実物を持って、私は門の前へと訪れていた。
妖力や『気』を必要に応じて魔道具の稼働に必要な魔力へと変換し、他の術式を発動させる根幹術式や
しかし、これで美鈴の怪我が大幅に減る事を考えると、上手くいかずにもどかしく思った時期も良い思い出にはなった。
そして、これ程までに上手く行ったのは私1人で必死に研究開発しようと努力したのもあったけど、魔法素材を加工する最高の技術を教えてくれた青髪の妖精さんたち、術式についての的確なアドバイスをくれたパチュリーのお陰でもある。
もし、便利な魔法素材をくれた吸血鬼さんや彼女たちのサポートのどちらか、または両方が欠けていたとしたら、ここまで早く最高のものを作る事……いや、ほぼ不可能であっただろう。だから、協力してくれた皆には後で何かお礼をしなければならない。
「いえ、謝る事なんてないですよ。それはそうと、早速着けてみても良いですか?」
「うん! 着けてみても良いよ……と言うか、是非着けて欲しい。それと、着けてみた時の感想を正直に遠慮なく言ってくれたら助かるな」
などと、協力してくれた皆へのお礼を今後どうしようか考えながら美鈴に魔道具『ロステカレット』を渡し、実際に手首に着けてもらった。
改良に改良を重ねて自信があるとは言え、やはり肝いりの術式を全て組み込んだ完成品を着けてもらう瞬間は凄まじい緊張を感じる。生きてきた中で一二を争うと言っても過言ではない。
と言うか今更だけど、これの名前は美鈴に決めてもらうべきだったのではなかろうか。まあ、気に入ってくれてるのがせめてもの救いであるけど。
「……凄いですね。気の巡りが良くなったせいか、身体が軽くなった感じがします。負担も思った程はありませんし……込められている効果の発動は、私の自由でしたっけ?」
「そう。根幹術式以外は思いのままで、万が一の時は勝手に発動してくれるし。それで、当たり前だけど付与された術式の発動よりも美鈴の生命維持が優先されるから、そこは安心してね」
「はい。えっと、ありがとうございます。大事にしますね、リーシェお嬢様」
しかし、私が抱いていた不安は美鈴がいつもやる様な太極拳の練習や、虚空に攻撃を放ったりして身体の調子を確かめ、色々聞いてきた上で嬉しそうにお礼を言ってきてくれた事で解消された。これで、いざと言う時に役に立ってくれる事だろう。
ただ、この魔道具が本格的に役に立つのは敵の襲撃時、特に相手が美鈴と近いかそれ以上の強さを誇る
(えへへ……)
それにしても、喜んでくれた美鈴がしゃがんで目線を私の背丈に合わせ、優しく抱き寄せてやってくれた頭撫では、レミリア姉様やフラン姉様がやってくれるいつもの撫で方とは違った感じで何とも心地良かった。
普段は仕えている立場であるとの事から、こう言う類いの行動は要求しない限りはやらないのもあるけど、奇しくもその時の彼女が昔母様に似ているやり方で撫でてくれていたのも理由の1つだった。
「あっ、問いかけもせずにすみません」
「ううん、大丈夫だから……止めないで、今みたいにもっとやって?」
だから、ハッとした美鈴がそれを止めようとした時に私は、止めなくても良いと伝えた上でもっとやってくれとお願いした。自分からやってくれるなんて滅多にない、と言うか初めての機会なのだから、すぐに止められたくないと思うのは致し方ないだろう。
勿論、ずっと味わっている訳にもいかないのである程度のところで仕舞いにするつもりではいる。
ちなみに、これ程に最高の魔道具を製作出来たのは、青髪の妖精さんたちやパチュリーの協力があってこそであると言うのも途中で伝えたところ、門番の仕事が一段落ついたらお礼をしに行きますと答えてくれた。
こうすれば、私1人の手柄ではなく協力してくれた皆の手柄として美鈴も見てくれた事だろう。いくら作業量的には1番多かったとしても、自分だけお礼をされるのは心苦しいから良い。
「あっ、美鈴だけリーシェ堪能しててズルい! 私もやる!」
「落ち着きなさい。私やフランはほぼ毎日やってるのだから、そんなに頭を撫でたりしたければまた後ですれば良いでしょ? 勿論、本人に聞いてからだけど」
「むぅ、そうだけど……でも、心なしか私が抱きしめてる時よりも凄く幸せそうな気が……」
そんな感じで美鈴に頭を撫でられる心地よさに浸っていると、気づかない内に姉様2人がやってきていたらしい。この状況を羨む様な発言と態度を取るフラン姉様と、それをなだめるレミリア姉様が目に入ってきた。
どうやら、フラン姉様には私が美鈴とのスキンシップをしている方がかなり幸せそうに見えているらしいけど、単に感じる幸せの種類が違っているだけである。幸せの大きさも、本来なら比べ難いため何とも言えないものの、それを無視した上で言えばそれ程差がある訳ではない。
「何かごめんね。でも、フラン姉様も美鈴に優しく抱き寄せられて頭を撫でてもらえば、きっと分かると思うから。ね?」
「ふーん……リーシェがそこまで言うなら、美鈴。私にも同じ事をして!」
「分かりました。レミリアお嬢様も、同じ様にしましょうか?」
「……ええ、お願い」
ただ、このままだと徐々に不機嫌となってきたフラン姉様の矛先が美鈴へと行かないとも限らないし、大好きな姉様と館の皆が私が起因となって喧嘩する光景など1秒たりとも見たくない。
故に、取り敢えず謝った上で美鈴に同じ事をしてもらえば分かると言い、何とか機嫌を元に戻したその流れで、レミリア姉様も同じ様にしてもらう事が決まった。
「お姉様。美鈴の撫で方、何だかとっても懐かしい感じがするよ……」
「へぇ、そうなの? 懐かしい感じと言えば、亡きお母様かしら? 後は、エルとかクレイナもそれに値すると思うのだけど」
「うーん……その2人の感じもするけれど、ハッキリ答えろって言われたらお母様かな」
そして、交代する形でフラン姉様は美鈴に頭を撫でられたりし始める訳だけど、これが想像以上に癒し効果を発揮してくれた様で、自分から抱きつきに行くなどの行為を取り始めていた。
で、フラン姉様が終わるとレミリア姉様も同じ様にされ始めるものの、やはり反応も似た感じに落ち着いた。
今更だけど、良く考えたら門の前と言う目立つ場所でする様な事ではなかったと思ったものの、姉様2人は全く気にしていないみたいだし、私に関してならそもそもいくらでも嘲笑されようとも平気である。なので、この事については考えるのを止めよう。
「さてと、リーシェ。もうそろそろ良いかしら?」
「ふふっ……次は私が部屋でリーシェを抱きしめたりするんだからね!」
「うん、良いよ。美鈴に目的のものはちゃんと渡したから」
そうして、レミリア姉様が頭撫でをされ終えたタイミングで一緒に館内へ戻ろうと促されたため、美鈴に一声かけてから私は姉様2人についていった。
ここまで読んで頂き感謝です。お気に入りや評価をしてくれた方に感謝です。感想を書いて下さった方も、ありがとうございます。