「疲れたぁ……」
自分の吐息の音すらハッキリと聞こえる程に静かな部屋の中、私は開発した魔法についてを記した魔導書の編纂と保護作業を終え、ベッドに仰向けになっていた。カーテンを開けて窓から外を見れば、いつの間にか夜が明けようとしている。
夕方の食事を取った後に始めてから日を跨ぎ、次の日の明け方まで魔法に夢中となるのは良くある事だし、何ならもっと長くしていた時もあったから、本当ならそれ程疲れもしなければ珍しいとも言えない。
しかし、編纂中であった魔導書が私の魔法技術の集大成を記したものであったのと、作り上げたは良いものの様々な理由から致し方なく、もう使うつもりなどないとして扱うと決めた魔法について記した魔導書であった。
前者はともかく、後者は事実上の禁忌魔法なのにも関わらず何故残しておくつもりなんだと、明るみに出たらそう言われそうではある。
だけど、何年もの時間をかけて開発した魔法を使わずに
更に言うと、それを構成する術式は他の魔法への転用が可能な確率が高い。頓挫していた魔法の開発がトントン拍子で進み始めた経験が何度もあるから、尚更だ。
勿論、例えそうだとしても
(ふぅ。さて、かなり早いけど疲れたから寝よ……ん? ノック音?)
そうして、まだ動けるけど疲れてはいる事からかなり早めではあるものの、寝ようとして毛布を被ったタイミングで部屋に小さなノック音が響いた。叩き方からして恐らく、黄髪の妖精さんか
もし、予想通りこの時間帯に2人のどちらかが訪れてきているとしたら、結構珍しいと言えるだろう。普段なら黄髪の妖精さんはまだ寝ていて、黒髪の妖精さんは仕事中であれば庭で剪定をしていて、そうでなければ大抵部屋か大図書館で勉強しているためだ。
となると、一体どんな理由で部屋に来たのだろうか。足音が落ち着いていたのを見るに、急を要する事態でないのだけは確かであるけど……一緒に遊ぶか、もしくは本を読んだりなどして過ごしたい気分に、たまたまなったのかも知れない。まあ、それは聞いてみなければ分からないけども。
「……」
「やっぱり、黒髪の妖精さんだったんだね」
そんな事を考えながら入ってきても良いよと声をかけると、ゆっくりと扉が開いて黒髪の妖精さんが1人で遠慮がちに入ってきた。 どうやら、私の予想は当たっていたらしい。
見た感じ何か言いたそうにしてるみたいだけど、私が今まさに寝ようとしていたのもあってか、こちらを凝視して固まってしまっている。
「ごめん、やっぱりやめとく……」
「え……あっ、別に止めなくて良いよ! ほら、隣に座って!」
で、何故か着けていた眼鏡を外してレンズを拭きながら部屋から急いで出ようとしたから、一瞬言葉が出て来なくなるもすぐに黒髪の妖精さんを引き留め、私の隣に座ってもらった。
その時に彼女は凄く遠慮がちな態度を取ってきたけど、明らかに疲れたか何かして寝ようとしてたのに、自分が来たお陰で水を差してしまう結果となった訳だ。
あまり気にしなくてもと思ったけれど、私の立場に例えればレミリア姉様かフラン姉様で同じ事をしてしまった訳であり、それなら致し方ないのかも知れない。
「さて。この時間にわざわざ訪ねてきたのなら、私に何か言いたい事とかあって来たと思うんだけど、どうなのかな?」
「えっと……多分、ロクでもない自分本位な理由……」
あまり深く考えていても仕方のない事を考え、黒髪の妖精さんにどうして珍しい時間に私の部屋へと訪ねてきたのかと聞いてみたところ、個人的には非常に納得出来る理由であった事が分かった。
全体的に珍しい空間収納系の技能を使い、出した数冊の本や資料を使って色々説明をしてくれたけれど、その訳を端的に言えば魔法や神話、小説などを一緒に見て小難しい事はなしにして楽しく語り合いたいとの事だった。
有名な神話や小説についてならまだしも、魔法に関してはパチュリーの方が語るに足るのではと思ったのだけど、良く考えてみたら昨日から長期間の魔法研究に力を注いでて、彼女には暇がなかった。
聞いてみたら案の定、研究に入る前のパチュリーから魔法に関して何かあったら、まずは私に声をかけてみると良いよと言われていたらしい。
本人はこれをロクでもない自分本位な理由だと卑下していたけれど、パチュリー経由で来た話かつ黒髪の妖精さんが身内であるから、私は全くそう思わなかった。
何かと忙しいレミリア姉様と違い、魔法の研究や開発に使えるだけの時間も、それすらしていない暇な時間も結構あるから、むしろこの程度の話なら聞いてあげるべきなのではと考えている。
「ううん、全然ロクでもない理由じゃないと思うから……私の事は気にしないで、とにかく魔法の話をしよう! パチュリーみたいに、満足出来る話になるかは分からないけど」
「本当? ありがとう、リーシェさま」
と言う事で、
(……)
仕事終わりや休みの日はパチュリーと良く一緒に本を読んだりしていて普通よりは知識もあるからか、会話の内容に困る様な事態には殆んどなっていない。もう1歩踏み込んで、難しい話をしてみても良いのかも知れないと頭によぎる。
ただ、そうは言っても今回の黒髪の妖精さんの目的は、私と小難しいのはなしに純粋に
「魔法、難しいけどやっぱり奥深くて面白い……ね」
「でしょ! まあ、難しいし手間も居るから大変なんだけど」
「うん。でも、そんなのは……分かってる」
なので、出来る限り専門的な用語や自前の魔法に使っている術式について話に入れる事は自重し、かつ要所要所以外は受け身でのやり取りをする様にと心がけた。結果として、笑顔で色々と話してくれる彼女が見れたので成功と言って良いだろう。
私としても、パチュリーとの話とはまた違った黒髪の妖精さんとの会話はかなり楽しく、ついさっきまで感じていた眠気や疲れがどこかに吹き飛んだ様な気がしている。
(うーん……少し眠くなってきたかな?)
しかし、これらの要因から2時間魔法の話が続いてくると、流石にネタも尽きかけてきたのも相まって少しずつ眠気や疲労を感じる様になってきた。
この調子では、神話や小説の話をする頃にはウトウトして話にならなくなる可能性がある。もしそうなれば、せっかく喜んでくれている彼女に失礼になってしまう。
「もうこんなに……ごめん。魔法の話ばかりしてたから、次に行くね」
「うん、分かった。それと、謝らなくても良いよ」
だから、それとなく神話や小説の話へと誘導しようと考えて声をかけようとした瞬間、当の本人から長引いた事に対する謝罪と次の話に移行すると伝えられた。どうやら、備え付けの時計を視界に入れた際、かなりの時間が過ぎていた事に気がついたらしい。
私としては、自分が興味を抱いて好きな話題であれば饒舌になる気持ちが良く分かっているため、微塵も怒りなどは感じていない。なので、全く気にしていない旨を彼女に伝え、次の話を促して移行してもらった。
「それでね……えへへ、話が合うってやっぱり良いね」
「確かに、私もそう思うよ」
で、当然神話や小説の話になっても黒髪の妖精さんの高いテンションは低下する事なく、持ってきた本や資料を全力で活用して説明を楽しげにしてきた。
紅魔館へと来た当初以降、殆んど見せなかった大はしゃぎを見せてくれる程に幸福感を感じてくれている様で、多少の疲れや眠気を押して話をした甲斐があったと強く実感出来た。
私と同じ趣味を更に1つ持っているのも知れた事だし、これを機会に彼女との会話が今までよりも増えるだろう。
「ふぅ……リーシェさま、ありがと」
「うん。いつでもって訳じゃないけど、また付き合うよ」
こうして、黒髪の妖精さんが満足感を抱いてくれるまでの5時間、自分も楽しみつつ眠気や疲労を感じさせずにこの一時を過ごす事に成功した。
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