アンケートの結果伝えが大幅に遅れてしまい、大変申し訳ありませんでした。
(うーむ……)
副メイド長の吸血鬼さんの様子を見て心配したレイブン兄弟による頼みを受けた私は、万が一偵察を行っている事に気づかれない様に注意しつつ、能力に加えて偵察蝙蝠を経由して様子をフラン姉様の助けも借りながら伺い続けていた。
取り敢えず、30分経ってもまだ戦闘に発展する様子もなく、お互いに不毛な言い合いをしているに過ぎない。が、相手の方が厄介者かつ力的に上位に位置しているせいか、精神的な意味ではメイド長さんたちの方が不利そうではあった。
ただ、強いとは言えあくまでもミドナとネイビス、私とフラン姉様よりは圧倒的ではなくとも弱いため、戦闘が起こった際に介入したとしても相手を侮り油断さえしなければ、問題なく対処は可能だ。いや、こう言う考えを持っている時点で少なからず油断しているのかも知れないが。
「リーシェ、何も起こらないでくれると良いね」
「うん。本気で命のやり取りなんて、出来るなら交わしたくないもの」
「まあね! お姉様たちが悲しむもん!」
しかし、自分や紅魔館の皆や友人の身を守るための覚悟なら出来ていても、やはり命を懸けたやり取りなど1秒たりとも交わしたくはない。殺しに快楽を覚える様な狂人でもなければ、試合形式であろうと戦いに楽しみを覚える戦闘好きでもないためだ。
姉様2人やパチュリー、たまにレイブン兄弟とは戦ったりするけれど、それは万が一の際に守る力がなければ危険であるとの理由から来ていた。
本来であれば、誰かとの戦闘なんてどの様な理由であっても面倒くさくて仕方ないから、出来るならば部屋で閉じ籠って魔法の研究でもして過ごしていたいと思っている。
なので、フラン姉様の問いかけに対して同意を示した。私やレミリア姉様との
『この場で望む返事を寄越さなければ……うむ、そうだな。近い内に我が主に進言してここへと攻め込み、奴の息子を無惨に殺してくれようか』
『なっ……貴様ら、ふざけているのかっ! 今すぐに撤回しなければこの場で叩き斬ってやる!!』
『ふはははは! この場で1番強い貴様ですら我々以下の癖に、何を抜かすか。小娘が』
そんな時、蝙蝠を経由して届いた音声に込められた言葉が、聞き始めた頃よりも鋭く大きくなり始めてきた。特に、メイド長さんの怒鳴り声と相手の嘲るかのような笑い声が大きく聞こえてきている。
(……)
普段は如何なる場合でも穏和を心がけ、負の感情を一切表に出さない彼女が魔力を剥き出しにして激昂している姿を見て非常に驚いたし、側に居る部下のメイドさんも同じなのか一瞬固まっている。
だけど、メイド長さんの立場で考えてみた結果、姉様2人に対して殺してやろうと言われているのと同義であると気づき、私は彼女に深く深く心の中で同意を示した。
それにしても、あれだけ言われて懐の刀に手を出さない理性があるのは凄い。私だったら、色々考える前に雷を落としていそう……と言うか、昔姉様2人を殺すと言われて頭に血が登り、罵倒したり手を出すどころか問答無用で雷を落として消し飛ばした事があるだけに、余計にそう思えた。
『まあ良い。奴の息子は今は無理でも、小娘位であれば安易――』
すると、本気で激昂した奴がその身に潜めていた魔力を解放し、レイピアに手をかけて今すぐに斬りつけそうな雰囲気を醸し出し始めた。
更に、奴に呼応する様にして残りの来客も同様に魔力を解放し始め、あわや一触即発の状況となってしまう。
「うわっ、本当にやりそう……って、そんな事を言ってる場合じゃない! フラン姉様、カーテンと窓開けて!」
「確かにまずいね……分かった!」
こうなれば、1秒でも長くモタモタしていれば門番さんたちにとって最悪の事態になりかねないと判断、フラン姉様にカーテンと窓を開けてもらい、私は既につがえていた矢をレイピア持ちの人物へと放った。初手で攻撃を仕掛け、嫌が応でもこちらへ意識が向ける事が目的であるため、門番さんたちに当たらなければその他は二の次である。
「姉様!」
「うん!」
勿論、やるのはこれだけではない。間髪入れず、敵が何が起こっているのか分からずに居る隙を狙い、フラン姉様に呼び掛けて80m先の現場へと全速力でこれ以上やらせないため、間へと割り込んでもらった。
ちなみに、私は身体も近接戦闘技術もフラン姉様みたいに特段優れている訳でもないため、話し声が聞こえる程度の高度で矢をつがえて待つ感じとなっている。
(レミリア姉様、面倒事を持ち込んでごめんね)
相手が何処の所属だとか、どれ程の力と勢力を誇るのかが全くもって分からない以上は姿を見せたくはなかったのだけど、こればかりは状況からして致し方ない。心の中でレミリア姉様に謝りながら、唖然状態から立ち直った
「それ以上やると、リーシェが撃ち抜いて沈黙させた奴みたいになるか、私が全員粉微塵に吹き飛ばす事になるけどそれでも良い?」
「なんと……!」
「くっ……ここに来る前、万が一を考えて探知すれば良かった! 流石に、コイツらまで相手にしきれんぞ!」
満面の笑みを浮かべ、これ以上やるなら殺すと言うも同然の最終通告をフラン姉様がしたからか、唖然状態から立ち直った敵が今度は目に見えて動揺し始める。
この時、既にメイド長さんたちを攻撃してやろうと言う意思はなくなってくれた様だけど、色々な意味でやり合いをあまり望まない私や、当事者であるメイド長さんたちにとってはありがたい話だ。
「でさ、返事を聞いていないんだけど。ねえ、これ以上やる? それとも諦めて帰る? チャンスは1度しかないからね」
「はぁ……帰るさ。レイブン家はともかく、今はまだスカーレット家に敵対しても良いとの許可は得ていない。しかし、我が組織はいずれ貴様の家も滅してやるから覚悟はしておけ」
「……」
そして、3分間もの長い様で短い私とフラン姉様、厄介者たちとのにらみ合いが続いた後、厄介者たちの方が折れて帰ってくれた事によってギリギリやり合いが起こらずに終わった。
とは言え、私が既に1人を瀕死に追い込んでいる以上、今後紅魔館と彼らの所属する……銀系統の充実した装備品や小道具からして相当強力な、吸血鬼狩りを含めた吸血鬼に対して敵対的な組織か集団、そことの本格的な敵対となった訳であり、全くもって面倒極まりない。運命と言うのは、やはり中々残酷である。
「先程は、本当の本当の本当にありがとうございました!! 貴女方が介入してくれなければ、もしかしたら……」
「どういたしまして。それにしても、メイド長さんって本当に兄弟の事を慕ってるんだね」
「そりゃあもう! おこがましいですし、種族も年齢も何もかも違いますが、私にとっては彼らはまるで自分の子供の様で……あっ、今言った事は恥ずかしいですから、内緒にしていただけると助かります」
「分かった、約束する」
頭の中でそんな事を考えながら、謎の魔法を使って結構な速さで逃げ帰る厄介者を見送った後、分身を1人門前に置いたフラン姉様やメイド長さんたちと一緒に館内へと戻っていった。
私が敵を瀕死にした以外は何も起こらずに済んだためか、先程までの一触即発寸前のピリピリした雰囲気が嘘の様にほぼ消え去り、一転して穏やかな雰囲気となった。完全ではないのはまあ、致し方ないだろう。
特にメイド長は涙ぐみながら事が済んだのを喜んでいたけど、ミドナやネイビスの2人に対してはレイブン伯爵と夫人とは違って畏怖などの感情を抜いて純粋に強く慕っているから、当然と言える。
(……あっ、伯爵と夫人たちの反応だ)
なんて事を考えながらメイド長さんたちを見ていた時、こちらへと時速700㎞で向かうレイブン伯爵たちの反応が、40㎞圏内のギリギリ内側に現れた事に気がついた。どうやら、無事に目的を達成した様である。
この様子なら、何かあったりしなければ10分もしない内に館へと到着するだろう。そうすれば、今まで起きた事をメイド長さんたちと一緒に説明してからもてなしてくれたメイドさんたちや伯爵と夫人に挨拶を済ませ、念のために最後に彼らがどう言う存在なのか知っているかを聞けば終わりである。
時と場合によっては、もしかすれば1日は泊まるかもしれないと思っていただけに、およそ9時間で留守番が済んでしまうとなると、少しだけ拍子抜けだ。
まあ、出来る限り短く済んだ方が私やフラン姉様にとってもそうだけど、実際に現場へ向かっていた伯爵や夫人、館に残っている住人たちにとってもありがたいだろう。だから、展開はこれで良い。
(ふぅ……)
こうして、長い様で割りと短かった私やフラン姉様の留守番の役割は、多少のトラブルはありつつも無事に終わりを告げる事となった。
ここまで読んで頂き感謝です。お気に入りや評価をしてくれた方に感謝です。感想を書いて下さった方も、ありがとうございます。