「ぐっ……何なの、今のは……?」
紅魔館へと攻め込もうとしてくる敵対集団との空戦中、何の兆候もなく突如として現れた人間さんに
彼女の『特殊能力』による攻撃がまるで理解不能であり、現時点で効果的な対処方法が見出だせないためだ。
さっきは初見で反射的に回避行動を取れたけど、仮に取れなかった場合は首筋に魔法銀のナイフが深く刺さり、肩の比ではない苦痛を味わうか、命の危機にまで発展していた可能性があっただけに尚更である。
(うーん……聖女とはまた違った方向で厄介な相手だなぁ)
これが、技術も基本スペックも全てが私よりも大幅に劣る相手が使用してきたのであれば、警戒には値するとしてもまだマシであった。
しかし、今回はほんの僅かの相対があっただけでも分かる、基本スペックはともかく技術に関しては劣るなどと
まさに彼らの言っていた『切り札』であり、故に彼女の振るう刃が命に届く前に、全身全霊を以て対処に当たるべき敵だと認識した。
リーシェよりも若干短く見える程度の銀髪に紺色の瞳、腰回りに多量のナイフを備える事が出来る特殊な黒色のロングコート様の服を身に付け、並みの相手なら気圧されそうな雰囲気も相まって、より強く実感せざるを得ない。
「なるほど。今回は、一筋縄では行きません……か!!」
「うわっ、速い上に案外重い! さっきのアレよりかは全然対処しやすいけど……これが、本当に人間の成せる技なの? 貴女、実は人外だったりとかしない?」
「生憎、これでも私は純粋な人間です。信じるか信じないかは、別にどうでも良い事ですけど」
そう考え、長時間戦闘を見据えた戦法から『狂気の啓示』の使用を含めた全力での短期決着の戦法へと切り替え始めた時、彼女が人間とは思えない速度で接近して連撃を仕掛けてきたため、回避するかレーヴァテインで受け止めた。
あの特殊能力の脅威には幾ばくか劣るものの、それを抜きにしても人間とは考えられない速さと高い技術に裏打ちされた攻撃であるために、気を抜く事は即ち死に繋がりかねない。
加えて、私の分身が大半止めてはくれているものの、彼女以外の敵が襲撃を仕掛けたりしてくる時もある。なので、変わらず全身全霊を以て対処を行い続けた。
「くっ! 警戒してたのに、動きが全く見えなかった……どう言う事なの?」
「ふぅぅ、間に合いましたか……流石はスカーレット家の次女。今まで相対した他家の吸血鬼とは、比べ物にならない脅威ですね」
「そりゃどうも。私から言わせれば、貴女も大概脅威的よ」
たった数十秒の時が倍以上に伸びたと感じる位に身体的にも精神的にも極限に近い環境で戦い続け、ようやく彼女が見せてくれた隙を狙ってレーヴァテインを振るったが、これも僅かにロングコートを擦っただけで結局は終わってしまった。それどころかむしろ、反撃のナイフ投げによる傷を負わされる始末である。
状況からして、突如現れナイフを振るった時と同様の能力を使用したのだろうけど……好ましいタイミングで攻撃を繰り出した時でさえ、対処が間に合ってしまえば致命傷すら回避が出来る程とは、何とも恐ろしい。
「ですから、私も生きるためになりふり構ってはいられなくなりました。ご容赦を」
「えっ」
そんな時、かなり速い速度で飛んで行ったはずのナイフがもう既に彼女の手元にある上、何処からどう取り出したかすら分からない約30本の魔法銀ナイフが、私を全方向から包囲する様に宙に浮かんでいた事に気づく。良く見たら、正体不明の歪んだ謎のオーラを纏っている。
あの特殊能力によるものなのかとか、ナイフが纏っているオーラは何なのかとか色々と思うところはあるけど、2~3本程度ならともかく全部食らえば不味い事だけは理解した。
故に、確実にこれを乗り切るためには『
これは、出る前に渡してもらった魔導書の最後の空白のページに、後付けで貼られた紙に術式も含めて事細かく記されていた、リーシェの開発した多段階防御迎撃魔法である。
今まで培ってきた技術をふんだんに使い、つい最近完成した最高の魔法だと聞いたが故に、そんな大切なものを使わせてもらうプレッシャーを私は少なからず勝手に感じてしまっていた。
「リーシェ、ありがとう。貴女の
しかし、危ない状況なのにそんな理由で使わずいたせいでとんでもない事態に陥ったとなれば、リーシェをどん底に叩き落としてしまうため、今この時に使わない手などない。
だから、私は心の中でお礼をしながらそれを使おうとして、咄嗟に複合防御魔法を重ねて唱えた上で魔力供給のためにフォーオブアカインドを解除しようとしたものの、それを行う必要はなくなった。
(ナイフが、落ちていく……?)
何故なら、ついさっきまで私を包囲していたナイフが纏っていた謎のオーラが消失した上、地面に向かって落下していく現象が発生したためである。
何事かと思って彼女の方を見てみると、煌々と紅く輝く鎖に身体を拘束されていたので、恐らくあれの影響で私への攻撃どころではなくなったと考えられた。
そして、ほぼ同時に天空の魔法陣から槍型の弾が私と何故か彼女を避ける様にして周りの敵へと降り注ぎ、かなりの数が貫かれるなどして落ちていった。これは、相当精巧な魔法のコントロール技術が伺える攻撃だと言えるだろう。
で、共に戦っている中でこんなとんでもない真似が出来る人物と言えば、お姉様しか居ない。そう思い、分身に周囲を固めさせつつ見回してみた。
「ギリギリセーフね。それにしても貴女、人間でここまでフランとやり合えるなんて凄いじゃない。正直、エルやクレイナの時みたいな出会いをしたかったのだけど……これも運命、仕方ないわ」
すると、お姉様が隣に舞い降りてきてから周りを見渡し、それを終えてからすぐに彼女に向けて言葉を投げ掛け始めた。この様子を見るに、予想通りとんでもない真似をやってのけたのはお姉様であった様だ。
拘束している彼女に向けて槍型の弾を降らせなかった理由についても不思議に思ったけど、何か運命を感じていたからだと発言から読み取れた。誰が見ても出会いはこれ以上ない位に最悪だけど、ここからどうにかなるのだろうか。
(うわっ! お姉様の鎖が……)
そんな事を考えていると、彼女を縛っていた紅く輝く鎖が謎の歪みと閃光の発生と同時に切断され、冷や汗をかきながらも拘束から脱出される光景が目に入ってきた。
これも今までと同様、どんな原理でやったのかはまるで理解出来ないけど、力ずくでないのだけは確かだと言える。
「さてと……フラン。私も加勢するから、援護をお願い」
「うん! それと、気をつけてね。この人間さん、他にも強くてかなり厄介な能力を使うよ!」
「勿論よ。油断せず、全力を以て
と同時に、こんな芸当を見せられてはいよいよ不味いと感じたお姉様が、物凄い魔力を解放して援護をお願いしてきたので、残っている周りの敵は味方と分身に任せ、私はお姉様の援護にかなりの力を注ぎ込もうと決めた。
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