「あら、お目覚めの様ね。少しは身体も癒えたかしら?」
紅魔館へ攻め込もうとした敵を撃退して館に戻って来てから半日と5時間、運命的な出会いをして連れてきた
命に別状はなかったものの、魔力も体力も枯渇させる位の激しい攻撃を繰り出してきた分、目覚めるのは早くて2日後だと思っていたから正直驚いた。
流石に動くのは辛そうではあるみたいだけど、この調子なら1週間前後でまた戦える位には快復してくれるだろう。まあ、手合わせ程度ならともかく、あれ程の戦いはお互いに利がないので2度とするつもりはない。
「五体満足で居れている……と言うか、貴女たちが居るのであればここは紅魔館……?」
「そうよ。後、先に言っておくけど、ここに連れてきた理由に貴女にとって損となるものはないわ。実はね、ここの住人に
「うん! ちなみに、私たち以外の皆も了承してくれてるよ!」
などと頭の中で半日前の戦いを振り返っていると、ここが紅魔館かと彼女に質問されたので、そうだと答えた上で先に連れてきた理由を説明しておいた。
これから共に暮らすと言うのに、理由の説明がないせいで変な誤解を抱かれるのは良くない。その上彼女の場合、私やフランの命を奪おうと全力で攻撃を仕掛けていたので、尚更変な誤解を招きやすいし当然だと思う。
「ここの住人になる事に異論はありませんが……理解に苦しみます。どうしてそこまでして私を? 状況が状況だったとは言え、貴女方を殺そうとしたのですけど」
「簡潔に言えば、貴女が館の中の雰囲気をより良くしてくれる運命を感じたからよ。こう言うからには当然、平穏に暮らしてもらうために必要なありとあらゆる準備はもう済ませているわ」
すると、そう言う類いの誤解は招かなかったものの、何故ここまで住人にしたがるのかと至極最もな疑問を抱かれた。なので、これも解消出来る様にしっかり答えた上で、望む暮らしをしてもらえる様な備えも済んでいると伝えた。
加えて体調の回復と雰囲気に慣れてもらった後、館の家事や緊急時の館内防衛などのやってもらいたい仕事があるとも言って、協力をお願いしたけど、二つ返事で了承してくれたのには驚いた。運命を感じたと言っても、ここまで円滑に進むとは予想していなかったからだ。
つまり私やフランとやり合える程の力を身に付け、吸血鬼や悪魔狩りを生業としなければならない位、今まで衣食住に困っていたのだろう。お陰で運命的な出会いを果たせて嬉しい訳だけど、彼女の人生を考えると手放しで喜んで良いのだろうかと思う。
「失礼します……見た感じ、何日か休めば元気になりそうですね。良かったです!」
「確かにね。それにしても、話を聞いた時は本当驚いたわ」
「私も、パチュリー様と同じです。自ら相対した相手を連れて来られるなど、普通は予想出来ませんから」
「うん……」
そんな事を考えながら彼女とのやり取りを交わしていると、妖精メイドから話が伝わっていた様で、美鈴とパチェ、こあとリーシェが部屋の中へと入ってきた。
で、そのすぐ後に愉快な妖精5人組とクレイナ似の妖精メイド、他数人の古参の妖精メイドたちが興味津々な表情をしながら入ってきた。皆、新しく一緒に暮らす彼女の事が気になって仕方ないらしい。
リーシェだけテンションがいつにも増して異様に低いのが気になったけど、髪の毛のセットも着替えもしてない完全な寝起き状態なのを見るに、寝てる途中で叩き起こされたせいだと分かった。
美鈴やパチェ、こあと同様に彼女が目覚めたら何をしてでも呼んでくれと妖精メイドに指示した私のせいなので、少し申し訳ない気持ちを抱く。
「さてと、全員揃ったところで……貴女の名前を教えてくれる? 本当はあの時聞くつもりだったけど、それどころじゃなくなったからね」
妖精メイド経由で呼んだ全員が部屋に来たところで、私は彼女に対して名前を尋ねた。妖精であればこの流れは省くところだけど、人間であればほぼ確実に名前が存在する以上、必要だと考えて持ってきた流れであるものの、彼女の表情が曇ったのを見てやってしまったかと内心で思った。
どう言った過去があったのかは分からないけど、明らかに自分の『名前』に良い思いを抱いていない事だけは確かだろう。なので、すぐさま謝ろうと口を開こうとした瞬間、先に彼女が話し始めたため、耳を傾ける事にした。
「申し訳ありません。実は私、数多もの妖精たちの様にちゃんとした名前を持っていないんです。なので、どうか訳を聞かずに名前を授けてはくれないでしょうか?」
「あら、そうなの? 別に謝る必要なんてないし、訳も深掘りするつもりなんてないけど、名前を授けて欲しいと言われるなんて予想外の事態ね。うーん、どうしようかしら……?」
結果、そもそも他の人間や私たちの様に名前すら持っていなかった事が判明し、更に名前を授けてくれないかと
前もって分かっているならともかく、突然頼まれるとピンと来る良い名前が思い付かない。かと言って、適当な言葉を並べてさっさと決めるのは出来なくはないが、名前の授与の面で考えれば言語道断の行為なため、長い時間をかけて思考を巡らしていく。
(……あっ、思い付いた! ふふっ、この名前ならきっと大丈夫ね!)
集まってもらった皆や彼女に待ってて欲しいとお願いしつつ、部屋の中を歩き回るなどして考える事数分、ふと窓から見えた夜空と月光に照らされ美しさが際立つ花を咲かしている植物が良い具合に収まっているのを見て、これだと言う名前を思い付いた。
数分程度で思い付いたため、ついさっきまで考えていた事と全力で矛盾している気がしなくもないけど、まず間違いなくこれ以上のピンと来る良い名前は、どれだけ時間をかけようとも思い付かないと断言出来る。
「決まったわ。貴女の名前は、咲夜。十六夜咲夜よ!」
「『イザヨイサクヤ』……ですか」
「ええ。私を含めた、
で、その思い付いた名前を私なりに考えた由来も交えて伝えた後は、何やら考え事をしている彼女を見ながら返答してくれるまで皆と共に待った。
気に入ってくれるだろうか、あまり気に入らないと言われたらどうしようか、しっかりとした思いから告げた名前ではあるものの、やはり多少なりとも考えてしまうのは避けられない。
しかし、名前を告げた時の彼女の穏やかな表情や仕草から推測して、少なくとも不快には思われていないはず。故に、そこまで不安には思わなくても大丈夫だと信じよう。
「凄いですね。今まで味わった事がない位に、心が暖かくなってきました」
「それはつまり、気に入ってくれたと見て良いかしら?」
「はい、とても気に入りました。では改めて……レミリアお嬢様、そして紅魔館の皆様方。どうか、この十六夜咲夜をよろしくお願いいたします」
すると、案の定私の不安は外れていた様で、彼女は十六夜咲夜と言う名前をたいそう気に入ったらしい。さっきまで身体が動かしづらそうだったのが嘘みたいに立ち上がると、私や部屋に居た全員に微笑み、早速授けた名前を名乗ってくれた程である。
そして、正直咲夜とリーシェの関係性がどうなるか
と言うか、あの様子だとそう遠くない内にエルやクレイナと言った、過去に仲がとても良かった人間のメイドと同等以上には仲良くなってくれるかも知れない。何故かは分からないけどそれ自体は望ましい傾向なので、理由は別に考えなくても良いだろう。
(ふふっ、これからが楽しみね!)
こうして、一時は私やフランと刃を交えた『十六夜咲夜』を、今日から本人同意の下紅魔館の住人として迎え入れる事となった。
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