目覚めたら、レミリアとフランの妹になっていました   作:松雨

186 / 251
今話は咲夜視点です

※今話から始まる間章は最大でも7話の予定です


間章その4 『完全で瀟洒な紅魔館のメイド』
咲夜と美鈴


「ふぅ……相変わらず、部屋数も部屋の広さも並みじゃないわ」

 

 約1ヵ月前、気乗りしないまま吸血鬼狩りとしてレミリアお嬢様率いる軍勢と全力で対峙して負けた私は今、何の因果か彼女が当主の紅魔館の住人『十六夜咲夜』として、メイドの仕事をこなしつつ暮らしていた。

 

 最初、気を失いこの館へと連れてこられた時はどうせ見せしめに弄ばれ殺されるか、吸血鬼の食料として死ぬかの2択だと内心思って諦めていたけれど、まさか夢にすら思わなかった程の厚待遇を受ける事になろうとは全く考えず、驚きを禁じ得なかった。

 

 例えば、由来込みで名前を授けてくれたり、私が平穏に過ごせる様な良環境の提供、ほぼ経験がなかった様々な肉体・精神的に嬉しい気遣いを住人たちから受けるなどだ。

 

 勿論、実質的な対価としてやたらと広い館内の清掃やお嬢様たちへの食事の用意、敵襲の際の館内防衛や見回り、場合によっては来客への応対などの決して楽ではない仕事が複数与えられている。

 

 しかし、合間にちゃんとした休息を取る事は出来るし、何があろうと週に1日は仕事に縛られない自由に使える休みだってもらえる。加えて、仕事量自体も優秀な妖精メイドが沢山居るからか、それ程ある訳ではないので、()()()()()()()()嫌で辛いなどとは思っていない。

 故に、普段は絶対に無理をしてはいけないとのお嬢様からの命令をしっかり守りつつ、頑張っていこうと決意した。

 

(さてと、これで優先すべき部屋の掃除は終わったし、次はあるかしら……ん?)

 

 頭でそう考えながら私が優先すべき分の清掃を終え、用具の片付けを済ませた上で次にやる仕事があるかどうか確認のために渡された紙に目を通したところ、裏側に『リーシェの就寝中の様子確認』と言う、初めて見る妙な項目があるのを発見した。

 

 曰く、ほぼ毎日3回程度は毛布をはぐり、ベッドから落ちかけるか落ちたりする事もそれなりにある上、酷い場合はどうしてそうなったのか理解不能な状態で寝ている事もある故の項目らしいけど、本当かどうか信じきれていない。

 

 いや、レミリアお嬢様がこう言った肝心なところでふざけた冗談を言うはずなどないし、そもそも妖精メイドたちがリーシェお嬢様の寝相について話しているのを割と良く聞くから、本当なのだろう。

 

 にしても、これだけ多くの住人から話のネタにされてるのに全く気にする素振りも見せないのは、実に不思議である。案外気にしてないだけかも知れないけど、今日起きてからそれとなく尋ねてみようか。

 

「リーシェお嬢様、入ります……えっ?」

 

 着ている服の汚れがないか目を通し、それを終えた後ノックと声掛けを小さめに抑えてリーシェお嬢様の部屋へと入ったのだけど、フカフカのカーペットが敷いてある床に形容し難い体勢で熟睡している光景は、流石に予想を超え過ぎて声が出てしまった。

 

 寝る前のレミリアお嬢様が渡してくれた紙のお陰でこの程度の衝撃を受けるに留まったものの、仮に事前知識なしに部屋に入ったら確実に体調が悪くて倒れていると勘違いし、大騒ぎしていた事だろう。

 

 これ程までに酷い寝相なら、妖精メイドたちが話のネタにしたくなる気持ちも理解は出来る。まあ、あくまでも理解は出来ると言うだけであり、私は話のネタとしてリーシェお嬢様の寝相を使うつもりは全くないものの、本人から振ってきた場合はその限りではない。

 

「お身体、失礼します……よいしょっと」

 

 あれこれ考え事をしていたものの、当然このまま床に放置しておく訳にも行かないので、知らぬ間(睡眠中)に身体に触れる事に対して小声で詫びを入れつつベッドにゆっくりと寝かせ、はぐられた毛布をかけて落ちていたお二人(レミリアとフラン)を象ったぬいぐるみを、定位置である枕の隣に置いた。

 

 夢の中で大好きな姉2人と一緒に居るからなのか、随分と幸せそうな寝顔をしながら時折『姉様待って』や『えへへ』などの寝言を言っている。もしかしたら、今日の酷すぎる寝相もこの夢が大きく影響を与えているのかも知れない。

 

 ちなみに、今のところ私はリーシェお嬢様と違って寝る時に見る夢は殆んど不気味なものだけではある。ただし、こればかりはすぐにどうにかなるものでもないから、仕事をこなしたりしつつ気長に暮らして良い夢を見れる様になるまで待とう。

 

「ああ、咲夜さんでしたか。リーシェお嬢様の寝相チェックを終えたと言ったところでしょうか?」

「まあ、そんなところね。で、今日の優先的にやるべき仕事を終えたから、一旦長く休憩をとろうかと考えてた訳よ」

 

 優先すべき最後の仕事を終え、部屋を出ながらもう1度渡された紙を注視して見落としがないか確認をした上で休憩を取ろうとしたその時、右側の廊下から歩いてきていたらしい美鈴から声をかけられた。

 

 美鈴が館内に居る理由は大体が休息のための食事を取るとの理由なので、今も恐らくそうなのだろう。後は、美鈴や門番妖精のみでは対処の難しい強力な敵の襲来を知らせるためとの可能性もあるが、纏う雰囲気からして確実に違うと分かる。

 

「そうなんですね。私もある程度の時間が経ったので、少し休憩をとろうかと思っていて……もし良ければ、ご一緒しても大丈夫ですか?」

「勿論、構わないわ」

 

 すると、美鈴が休憩を取るなら自分も一緒に居て良いかと尋ねてきたので、特に1人で居たい理由もなかった私は二つ返事で了承、このまま食堂へと向かった。

 

 レミリアお嬢様の突拍子もない思い付きで体術の手合わせを行う事になった時は急すぎて戸惑ったけど、彼女と案外気が合った上に短期間で互いに比較的気楽に接す仲になれたので、これについては特段気にする必要はないだろう。むしろ、感謝でしかない。

 

 けど、これから何度もレミリアお嬢様の急な思い付きに振り回されそうになる気がしてならないので、いつ如何なる時でも動ける様に心の備えはしておくつもりではある。

 

「あっ、美鈴さまに咲夜さまだ! 色々なお菓子とかあるけど、食べる? 水以外だと、紅茶とコーヒーがあるよ!」

「そうですね、食べます。後、飲み物は水でお願いします」

「私も美鈴と同じでお菓子は食べるわ。で、飲み物はコーヒーをお願い」

「はーい!」

 

 そんなこんなで食堂を訪れ、取り敢えず目についた位置の椅子に座って他愛もない会話をしていると、調理場の妖精メイドの1人から声をかけられた。お菓子や飲み物はいるかとの事なので、せっかくだからと私と美鈴は各々リクエストした。

 

 と言うか、紅魔館に来て1ヵ月程度しか経っていない私が妖精メイドたちから『様』呼ばわりされるのは嫌ではないものの、やはり違和感しかない。各種家事の技術が妖精メイドたちを大きく上回っているならまだしも、決してそうではないからだ。

 

 まあ、レミリアお嬢様に聞いたら、ここの妖精メイドたちは何故か()()()()()()()()()()()()()()()()()を除くと、全員に必ず様をつけて呼ぶ性質を持っているとの事だったから、慣れるしかないだろう。

 

「相変わらず、妖精メイドの方々が作るお菓子は美味しいですよね。咲夜さんはどう思います?」

「全く同じよ。昔、6歳の頃から半ば無理矢理やらされてたお陰で料理やお菓子づくりはそこそこ出来るけど、流石の私もここまで美味しいものは無理だって思う位ね」

「あはは……それでいてレミリアお嬢様が手放しで褒める程に強いって、苦労してたんですね」

 

 で、少し経ってから妖精メイドの1人が各種お菓子やとリクエストした飲み物を持ってきてくれた後は、お互いにそれらを味わいながらのリラックスした会話を存分に楽しんだ。

 

 自分自身、こうやって誰かとさほど親しくしたりせずとも生きてはいけると考えていたけど……紅魔館へやって来てからはとてもではないが、もう1度前と同じ生活をしろと言われても嫌だとしか答えられない。

 

 そして、ここは私以外に人間が1人も居ない悪魔の館ではあるけれど、皆が皆一癖も二癖もあっても優しい。故に、私にとっての理想郷だと、たった1ヵ月暮らしているだけでもそう思う。

 ない方が良いのは言わずもがな、仮にいずれこの場所を滅そうと試みる不埒な輩が出てきたとするならば、私は決して()()を許さない。故に全力を以て、無慈悲に排除に取りかかる覚悟だ。

 

「咲夜さまー! 結構長く楽しそうに話してるけど、もうそろそろレミリアさまたちの料理の仕込みを始めませんかー?」

 

 改めて、頭の中で色々と決意を固めながら美鈴との会話を更に続けていると、調理場のまとめ役である妖精メイドから料理の仕込みをしないかと話しかけられた。

 

 長く話し込んだ感覚はなかったのだけど、そう言われたので一応魔道具も兼ねた懐中時計を見て確認してみたところ、まさに料理の仕込みを始める予定の時間に近くなっている事に気がつく。

 ここに来た時はそれなりに時間に余裕があったので、彼女の言う通り相当長く話し込んでいた様だ。

 

「あら、確かにそうね。と言う訳で、私はそろそろ行くわ。話の途中でごめんなさい」

「全然構いませんよ」

 

 なので、美鈴には途中で会話を遮って申し訳ないと謝りつつ、料理の仕込みを行うためにまずは、調理場近くの更衣室へと向かった。

 




ここまで読んで頂き感謝です。お気に入りや評価をしてくれた方に感謝です。感想を書いて下さった方も、ありがとうございます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。