目覚めたら、レミリアとフランの妹になっていました   作:松雨

207 / 249
平穏な一時

「ふぅ……いつも以上に血が染み渡るわ」

「うん! スペルカードルールでとは言え、私たち全力でやり合ったもんね」

 

 とある日の朝、地下室にてレミリア姉様やフラン姉様とスペルカードルールの範囲内で全力で戦い、入浴を済ませた上で休息のため、私の部屋で咲夜が作ってくれたお菓子や人の血液を嗜んでいた。

 

 普通に戦っても強い姉様2人はこのルールでも当たり前の様に強く、誰にも見せていなかった新技を使ったにも関わらず、突破寸前にまで追い込まれた。今日は何とか姉様2人に勝てたものの、流石に疲れが酷いからもう戦いたくはないと、そう思わせる程に激しい戦いであった。

 

 なお、今回の戦いを入れてもレミリア姉様とは11勝13敗、フラン姉様とは12勝13敗と、僅差で負け越している。私とて手を抜いたりしている訳ではないのだけど、やはり実力で少し下に位置していると言う事だろう。だから、スペルの改良などの努力を怠らず、姉様2人に近づいていく決意はある。

 

「しかし、あのラストスペルには見事にやられたわね。弾幕量や放つ位置の巧妙さとかもさることながら、舞う様に来る鳥型の弾幕は本当に厄介よ。最後の最後で集中力を欠いたのが悔やまれるわ」

「えっと、天符『双守(そうしゅ)舞鳥(まいちょう)』だったっけ。私もそれでやられたんだけど、こんなに強力な耐久型のスペルなら、きっと異変解決者も容易に突破出来やしないよね!」

「えへへ……ありがとう。レミリア姉様、フラン姉様」

 

 にしても、余程私の耐久スペル(天符『双守の舞鳥』)が強くて衝撃を受けたらしく、ここでも姉様2人が大げさなのではと思う位褒めてくれるから、何だかとってもむず痒い。

 

 とは言え、ここまで褒められてはいてもそれに胡座をかいて調子に乗り過ぎたり、油断して練習や研究開発を怠らない様に気をつけなければならない。肝心な時に役に立ちませんでしたなんて事になったら、目も当てられない惨事なのだし。

 

「そう言えば、最近はあの氷精たちとの関係はどうなの? たまに霧の湖へ行ってるみたいだけど、本当は外出したくないのを我慢してたりとかない?」

「確かに、それは私も気になるところかな。こっそり見に行った時は楽しそうだったけど……ね」

 

 とても和やかで楽しい雰囲気の中過ごしていると、レミリア姉様がチルノや大妖精との関係について少し不安そうに訪ねてきた。そして、フラン姉様もレミリア姉様と同じ不安を私に対して抱いていると分かった。

 

 まあ、チルノと大妖精が黄髪の妖精さんたちの友達となり、館に招き入れられた後私とも友達となってから、今までの振る舞いや性格から見ればかなり外出する頻度が増えた訳で、当然の反応だと言える。

 

 ただ、そうは言ってもチルノや大妖精たちのお願いを聞き入れて、霧の湖へ万が一の日傘と時計を持って遊びに行く頻度はおおよそ2週間に1度、私にとって都合の良い天気の日の朝6時から8時の2時間だけと言う、無理のないものとしている。決して、過度に自分の意思を抑えてはいないと断言しても良い。

 

「大丈夫。チルノと大妖精との関係なら良好、外出自体は2人も含めた妖精さんたちに結構お願いされるけど、行っても良いと強く思える時以外は断ってる。その時はまあ、凄く申し訳なくなるけど」

「そう……正直少し心配だったけど、どうやら取り越し苦労だったみたいね。想像通りの展開じゃなくて良かったわ」

「うん! 本当、昔よりも自分の意思を大事にしてくれてるみたいで、良かった!」

 

 なので、チルノや大妖精との関係は良好だと答えた上でもう1つの問いかけに対して堂々と、霧の湖へ遊びに行く時は心が外出の方に傾いている時であると言い切ると、不安そうだった姉様2人の表情はすぐに元の穏やかなものへと戻った。どうやら、抱いていた不安は綺麗さっぱり消えてくれた様だ。

 

 相変わらずの気の遣われ様だけど、レミリア姉様やフラン姉様にとって私の存在がとても大切なものなのだと改めて確認出来るから、鬱陶しいなどの負の感情は微塵も感じていないし、むしろ心地良い。

 まあ、だからと言ってわざわざそれを狙い、何かしら心配させる様な行動を取るなどと言う短絡的で愚かな行為は絶対に取れないし、絶対に取るつもりなどは微塵もないが。

 

「さてと。しっかり休んで、咲夜のお菓子も人間の血も十分嗜んだし、館内でも歩き回らない?」

「お散歩かぁ……うん、良いよ! リーシェはどう? まだ一緒に居ない?」

「勿論。今は、レミリア姉様とフラン姉様と一緒に居たい気持ちの方が強いから」

 

 そんなこんなで楽しく過ごしつつ休憩する事1時間、使った魔力が大分回復してきたところでレミリア姉様が館内散歩を提案してきたため、二つ返事で受け入れた。

 とは言え、館内散歩は生まれてから今までもはや数え切れない位にやってきているので、1人でやれば流石に退屈であるとは言わざるを得ない。

 

 が、それもレミリア姉様やフラン姉様が一緒に居るならば、そんな一時も途端にいつまでも味わっていたい幸せな一時と化す。

 今日の分のパチュリーとの作業も済み、スペルカードルール用の魔法の研究開発も同様に済んでいて、他に約束もしていない以上は断る事など出来るはずもない。

 

(ん? この気配……)

 

 それを含め、頭の中で色々と思考を巡らせながら姉様2人と廊下を歩いていると、今この場で決して感じるはずのない優しげな気配が横を駆けていった。

 同時に、考える間もなく私たちの眼前につい先程までどこにも居ないはずだった大妖精が、何らかのお菓子が入った袋を持って現れる現象が発生したのを見るに、どこからか瞬間移動でもしてきたのだろう。

 

「へぇ……大妖精。まさか、妖精の貴女にそんな力があったなんてね」

「私もだよ。もしかしたら、幻想郷って妖精にも強い子が多いのかな? まあ、まだ2人だけだから何とも言えないけどさ」

 

 私自身、黄髪の妖精さんから聞いていたのと先日実際に寝起きで大層驚かされた記憶から、優しげな気配を感じた時点でもしかしたらと予想はしていたため、今回は驚きはしなかった。

 しかし、これを見るのは初めてだったらしいレミリア姉様とフラン姉様は、不意打ちだったのもあってそこそこ驚いていた。初めてやられた私よりは驚いていなかったけど。

 

「驚き方、リーシェちゃんとそっくりなんですね……それとこれ、人里の美味しい和菓子屋で買った『おせんべい』です。少ないですけど、良かったら3人で食べて下さい!」

 

 そして、姉様2人の反応に上機嫌となった大妖精は、手に持っていたおせんべいが入っていると言う袋を3つレミリア姉様に渡すと、今度は走ってこの場を去っていった。

 

 これがどの位の値段がするのか、大妖精が持っているお金の何割を使って買ってくれたのかは聞きそびれたから分からないけど、それよりもわざわざ自分のお金を使ってまで買ってくれたと言う事実だけで、十分ありがたいし嬉しい。次遊びに来てくれた時、しっかりとお礼はしなければと強く実感した。

 

「人里のお菓子……梱包も丁寧だし、大妖精があそこまで言うなら余程腕の立つ者が作ったのでしょうね」

「そうだね! でも、さっき咲夜のお菓子を食べたばかりだから、明日のおやつの時間に食べる方が良いかも」

「うん。結構な量の人の血液も飲んだし、お腹が全然空いてない時に食べても、きっと本来の美味しさを感じられないと思う」

 

 で、本来ならすぐにでももらったおせんべいは食べるべきなのだろうけど、ついさっきまで咲夜のお菓子や人の血液を存分に嗜んでいた事もあり、ひとまず明日のおやつの時間に回すと決め、通りがかったフラン姉様の部屋に入って机の上に置いておいた。

 

(時間が出来たら……青髪と赤髪の妖精さん辺りに相談でもしてみようかなぁ)

 

 立ち去る際、家具や各種装飾品の配置や色合い、デフォルメされた私やレミリア姉様のぬいぐるみなどの置物に結構な気を遣っているフラン姉様の部屋と比べ、清潔感と魔法関連とベッド以外にあまり気を遣わず面白味のない私の部屋の差が、どう言う訳か今更急に気になり始めてきた。随分と久しぶりに部屋の模様替えが行われて、ガラッと雰囲気が変わったからだろうか。

 

 故に、そろそろ本腰入れようかとも考えたけど、今は異変に向けて色々とやる事が多いし、普通の魔法の研究開発だってある。何なら姉様2人や館の家族、チルノや大妖精との時間の方が大切だから、時間が出来たら少しずつやっていく事にしよう。

 

「幻想郷に来る前も来てからも色々とあったけど、こうやって何も考えず、ただひたすら姉妹3人での幸せな一時を過ごす……こんな平和な時が、長く続いてくれれば良いわね」

「本当だよね。お姉様にリーシェは勿論の事、パチュリーにこあ、美鈴に咲夜、メイド妖精さんたち、皆が笑顔で居てこその紅魔館だもの!」

「そう。他愛もない会話をしたり、馬鹿な事をして笑いあったり、微笑ましく過ごす様子を見せてくれたり、辛い時に慰め支えてくれたりする愛する館の家族が欠けるなんて、この世に存在する如何なる拷問よりも辛くて苦しい事だから」

 

 その後は頭の隅で何をしようか考えつつ、決して褪せる事のない幸せな一時を堪能しながら、レミリア姉様やフラン姉様と同じ様にこの平和が続く事を強く願った。

 

 だが、今までの経験から分かる通り平和と言うのは願うだけで手に入れられるものではなく、私たちの努力により()()()()()()なのである。

 で、そうして勝ち取った後もそれを奪いに来る何かから守るために終わりなき努力を続けていく必要だってある訳で、並大抵の難度ではない。

 

(……)

 

 無論、その程度の壁で怖じ気づき立ち止まる程に私の心は柔ではない。大きく矛盾してしまうため、実際に実行するのはおろか口にすら出せないが、愛する館の家族の笑顔や命を守るためならば、私の命を盾として使って最悪死ぬ事すら厭わぬこの気持ちは、決して変わらないのだから。

 

「リーシェ、どうかしたの? 何か思い悩むと言うか、言いたそうな顔してるけど……」

 

 すると、考え事をしていて表情が険しくなっていたらしく、フラン姉様から変に心配されてしまった。別に何か悩んでいた訳でも言いたかった訳ではないものの、そう言ったところで後々追及を受けそうな気すらしてくる。

 

 が、だからと言って考えていた事をそっくりそのまま正直に述べると、姉様2人から私を気遣うが故の烈火の如き怒りを受ける事になってしまう。それで雰囲気が最悪まで降下するだけでなく、何より姉様2人を傷つけ泣かせるのが嫌なので、この場は()()()隠す事が限界に来そうな程に強くなってきた眠気について、話す事に決めた。

 

「あっ……えっと、もうそろそろ眠気が限界に来そうで……」

「そっか。お姉様、そろそろお散歩は終わりにしよう。リーシェが何か眠たいってさ」

「分かったわ。じゃあ、軽く準備してから3人で私の部屋で寝ましょうか。ちょうど私も眠気を感じ始めてきた事だし」

 

 結果、姉様2人との館内散歩の時間は終わりを告げる事となってしまったものの、不必要な発言で傷つけ泣かせる罪を負わず、最後まで穏やかな気持ちを抱いてもらったままで済んだ。




ここまで読んで頂き感謝です。お気に入りや評価をしてくれた方に感謝です。感想を書いて下さった方も、ありがとうございます。

幻想郷の住人に完全なオリキャラを追加するとしたら、どの程度なら許容範囲でしょうか?

  • 1人
  • 2人
  • 3人
  • 追加しない方が望ましい

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。