「大事な時に申し訳ないけど……何も聞かずに一旦中断して私と一緒に来て欲しいの、お願い!」
いつもと変わりなく、異変に必要不可欠な魔法の紅い霧の術式構築を含めた魔法談義を地下の大図書館にて行っていたある日の夜9時、私とパチュリーは妙に慌てているレミリア姉様から魔法談義の中断をお願いされていた。
理由を話さない上で一緒に来てくれと言う事は、レミリア姉様1人では解決が難しい厄介事が舞い込んできて、それを早急にどうにかする必要性が生まれているのだろう。
詳しい事を聞きたい気もするけど、そんなのは現場に行けば嫌でも知れるし、今はレミリア姉様についていくのが先決だ。
「レミィがそう言うなら良いわよ。リィもそれで良い?」
「うん。レミリア姉様のお願いなら、聞かない理由なんてないし」
と言う訳で、今やっている構築作業を中断した上で、同様にレミリア姉様からのお願いに頷いたパチュリーと一緒に、少し急ぎ目に後をついていった。机の上は散らかっているけど、こんな状況だから致し方ない。
(この先って……まさか)
色々と考えながら急ぎ目に向かっていると、レミリア姉様の行く先が怪我や体調不良などの際に、快復するまで治療を受けたりゆっくり休むための部屋がある方だと気づいた。つまり、館の家族の内誰かが魔法の助けを得る必要性が出てくる程の、酷い怪我か体調不良に陥ったため呼ばれた可能性が極めて高い。
ただ、私の回復魔法の腕はパチュリーのそれを大幅に下回っていて、精々誰かを吸血した時に出来る牙の傷を完治させる程度でしかないので、治療と言う意味では呼ばなくても問題はないはずだ。
それでも私も共に呼ばれたと言う事は……いや、現場に到着する前から考えるのは止めておこう。恐らく、私の精神が持たない。
(そっか、館の家族たちじゃなかったんだ……)
そうして、レミリア姉様やパチュリーと共に私は目的の部屋へと入っていった訳だけど、治療技術に長けたメイド妖精さんに介抱されていた人物が、見も知らぬ人間の女性と男の子が1人ずつと言う夢にすら思わなかった存在であったため、心にのしかかっていた不安感は大部分が消え去っていった。
「レミィ、この人間たちって?」
「ええ。十中八九、人里の人間よ。連れ込んだ美鈴も私も確認したわけじゃないけど、幻想郷で非力な人間が住める場所と言えばそこしかないから」
とは言え、パチュリーやレミリア姉様の言っている通り、状況からしてこの人間さんたちは人里に住んでいると見て良い。館の家族が怪我を負った訳でないとは言え、これでは不安感が完全に消え去る事はないだろう。
そして、傷の具合から見て女性の方は動くのも厳しいと思える重傷ではあるものの、能力による反応も併せれば命が失われる事はほぼないと判断出来る。
男の子の方は脚の怪我を痛がってはいるものの、妖精さんたちに話しかけられる程には元気で、こちらは命の危機を心配しなくても良さそうだ。
「なるほどね。それで、お願いってその2人の治療?」
「うーん……優先すべきは大人の方ね。パチェの魔法なしでもいけない事はないだろうけど、万全は喫しておきたいから。勿論、子供の方にもある程度お願いするわね」
「分かったわ。任せておきなさい」
とは言っても、女性の方は急に悪化する可能性が完全に排除出来ない以上、レミリア姉様が焦ってパチュリーの回復魔法の力を借りに来たのは理解出来た。連れ込んだだけでも誤解を招きかねないのに、万が一紅魔館内で死んだともなれば、あらぬ誤解を解く事はほぼ不可能になる恐れがあるから尚更である。
にしても、どう言った経緯で2人がこれ程の怪我を負い、紅魔館へと連れ込まれて妖精さんたちの治療を受けるに至ったのかが、少し気にはなる。美鈴が連れ込むと言う判断を下した以上、紅魔館の目と鼻の先で火急の事態が起きたのだけは確かだからだ。
(はぁ……)
が、レミリア姉様が知ってさえいれば私が知るのは全て終わってからでも良いし、最悪知らなくても支障はない。むしろ、それよりも先にこの人間さんたちが怪我をしていて、かつ紅魔館で無事に保護して治療を行っている事を人里の誰かに伝える方が重要なのは、言うまでもないはずだ。
しかし、私を含めた紅魔館の面々は紫さんに霧の湖以外に外出は控えてと言われているため、人里に直接出向く事は実質不可能と言えた。
それならばと手紙書いた上で経由して送るにしても、紫さんはまだギリギリ冬眠の時期なのに加えて藍さんは昨日来たばかりで当分来ないので、信用の面も含めて人里に出入りが可能なチルノや大妖精にお願いする必要がある。
(うーん……まあ、そう都合良くはいかないよね)
と言う感じで考えたは良いものの、能力でチルノや大妖精の居場所を探ってみると、今日に限って霧の湖ではなく東へ10㎞行った人里に居ると判明した。つまり、私が湖まで直接出向いてこの手紙を2人に渡し、代わりに知り合いの大人に渡してもらう計画は速攻で破綻したと言う事だ。
「……妖精さん、紙2枚と封筒と何か書くものある?」
「紙と鉛筆なら机の上にありますよ! 封筒は流石にないので、あるところに取りに行って下さい!」
そうと決まれば、私に出来る最後の手段を実行するべく妖精さんに必要な物品の場所を聞き、ないものは手早くある場所に向かって取りに行った後、早急に伝えるべき内容を記した手紙の用意を始めた。
その際、レミリア姉様から何をするつもりなのかと尋ねられたので、やろうとしている事を全て話したところ、特に悩む素振りもなくそのまま任された。
良く考えたら、本来なら行動に出る前に許可を取らなければいけなかったのだけど、過ぎてしまった事は仕方がない。次からは気を付けよう。
「レミリア姉様、どうかな? こんな感じで書いてみたんだけど」
「うーん……私的には良いと思うわ。誤字脱字はないし、読みやすい字で書かれてる上に威圧感もないから」
「そっか、ありがとう」
不足している部分がないか何度も見返し、完成した手紙をレミリア姉様にも見せ、認めてもらった後は紙を丁寧に畳んで封筒に入れて保護を済ませると、この手紙を運んでくれる
チルノや大妖精と友達になって1ヵ月経った頃、万が一の連絡手段がないと困る日が来るかも知れないと遅まきながら思い、定期的に私の雷の力と少量の血液を提供する代わりに任意の時間での召喚に応じてもらう契約を結んでいたのだけど、本当に良かったと心から思った。
「いつもありがとうね、鳥さん。じゃあ、この手紙をチルノか大妖精によろしく。出来たら誰か他の大人に渡るまで一緒に見てて」
思考を巡らせつつ、使い魔の鳥さんの邪魔にならない場所に手紙をくくりつけ、部屋の開けた窓から空に放った後は能力を発動した上で目を瞑り神経を集中、鳥さんの視覚と聴覚を通して手紙が渡るまでの様子を見守る態勢を整えた。
とは言え、最大飛行速度は時速約600㎞、昼夜問わずの非常に優れた探知能力に視力、性質故に戦闘は得意ではないものの知能自体は高いため、余程強い存在にでも襲われない限りは問題なく飛び続ける事が可能である。
加えて、契約時の記憶同期や私の能力も補助として使っているため、余程のトラブルでもない限りは上空から探す時間もさほどかからないで済むとは思うけども。
(えっと、チルノと大妖精は……)
1分程度で鳥さんが人里の上空に到着し、速度と高度を下げて探し回る態勢に入ると、ある建物の2階に用意されていた和風のベンチに腰かけ、楽しそうに話しながら『おしるこ』を食べる2人が視界に入った。
とても微笑ましいこの光景を断ち切る事になるのは申し訳なさを感じるけど、こっちも出来る限り早く人間さんには人里に戻ってもらわないと、私はともかくレミリア姉様が気の張り詰め過ぎで体調を崩しかねないのが今現在の状況で、そんな中頼りになるのが2人だけなのだ。
無論、その分の埋め合わせは後日紅魔館に遊びに来た時にするつもりだ。出来る限りの事はするつもりだし、チルノや大妖精の希望ともあらば、何なら1日霧の湖で遊ぶ時間を倍に増やしたりしても良い。
『何か脚にくくりつけられてる……これって、手紙? 何なんだろう?』
『分からないけど、リーシェちゃんが鳥さん使ってまで私たちに渡すって事は、何かあったんだと思う』
『うーん……まあとにかく、開けてみてから考えよっか!』
そして、鳥さんが自身に先に気づいたチルノの膝の上にゆっくりと降り立ち、くくりつけられた手紙を1通ずつ2人が開封して目を通すところを見て、ひとまず第1段階は達成したと安心した。
しかし、今更だけど私と同じ雷属性かつぼんやりと白い光を放つ鳥さんは、高度をある程度下げた時点で相当目立っていた。もう少し気を使うべきだったと反省した。
でも、今は特段隠蔽に力を入れるべき時でもなかったし、チルノや大妖精が居る場所は人里の人が来ない場所だったから、そこは幸いであったと言える。
『チルノちゃん! この手紙、
『分かった! でも、信じてくれるのかな?』
『うーん……絶対に信じてくれるよ! 大丈夫!』
手紙を見終えた後、残り少なかったおしるこを少し急ぎ目に食べた2人は鳥さんを連れたまま少し薄暗い建物内に入っていくと、廊下を歩いていた慧音と呼ばれる青みがかったメッシュの入った銀色長髪の女性に話しかけ、持っていた手紙を手渡した。
大妖精が先生と言っていたのを見るに、人里内で誰かに何かを教える立場に居る人物なのはすぐに分かった。しかも、能力での反応からして相当な実力者であり、もしかしたら守護者の役割も兼ねているかも知れない。
この情報が全て正しい事が前提となるが、彼女の人里内部での影響力はかなり大きいと見て間違いないだろう。いきなり理想的な人物へ手紙が渡った事に、今日は実に運の良い日だと感じた。
『怪我を負った人里の人間を自身の住みか付近で門番が発見して保護、その引き取りを依頼……か』
『やっぱり、リーシェちゃんは吸血鬼だから……信用出来ませんか?』
『いや、信じるさ。手紙の内容が懇切丁寧なのもそうだが、何より今のお前たちの口振りと目を見れば、そう決めるに値するだろう』
更に、チルノや大妖精経由で手紙を渡したのが功を奏した様で、手紙の内容を信じるに値しないもの、または何かの罠と切り捨てられる事なく彼女には信じてもらえたのは本当に良かった。
とは言うものの、人里から使者がやって来て2人の人間さんを連れて帰ってもらうまで、完全に安心出来ない訳だけど。
「ふぅ。レミリア姉様、手紙は無事に渡ったよ。後は、人里から使者が来るまで人間さんを手厚く保護してるだけかな」
「お疲れ様。そして、ありがとうね」
「えへへ……後、相談もせずに行動を起こしてごめんなさい。レミリア姉様」
「確かに相談は欲しかったわね。でも、リーシェの行動は皆のためになるって思ったから私も止めなかった訳だし、あまり気にしなくて良いわ」
そうして、慧音と呼ばれる女性に手紙が渡った事を確認した私は鳥さんを通しての見守りを止め、レミリア姉様に手紙渡しには成功したと報告を済ませると、頭を撫でられて褒めてもらえた。
相談もせずに勝手にやったのは大きな反省点だけど、レミリア姉様の役に立った事が表情から見てとれて、本当に嬉しい限りである。
無論、次から即対応が求められる緊急事態でも発生しない限り、レミリア姉様もしくはフラン姉様に相談をしてから行動に移すと言う基本を守らなければと、心から誓った。
ここまで読んで頂き感謝です。お気に入りや評価をしてくれた方に感謝です。感想を書いて下さった方も、ありがとうございます。
幻想郷の住人に完全なオリキャラを追加するとしたら、どの程度なら許容範囲でしょうか?
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1人
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2人
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3人
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追加しない方が望ましい