「本当、リーシェのそう言うところは前からあまり変わらないよね。嬉しいけどさ」
「全くよ。私たちよりは身体が弱いのだから、もう少し労るべきだと思うのにね」
唐突に、怪我を負った人里の人間さんを保護する事となってから15時間、本来ならとっくに眠っている時間帯にも関わらず、耳に痛い指摘をしつつも何だかんだ付き合ってくれている姉様2人と一緒に、人里の使者が来た時に備えていた。
正直言ってしまえば私自身、態度や顔に出さない事は出来るもののかなりの眠気は感じているし、館の家族……とりわけ姉様2人から、出来れば無理せず身体を優先して寝て欲しいと言われている。
今すぐにベッドに寝転がり、そのまま寝ても怒られはしないだろう。むしろ、褒められるかも知れない。
(ごめんなさい……ちょっとだけ、無理をするね。姉様)
しかし、これはレミリア姉様やフラン姉様から頼まれてやった訳ではなく、館の家族のために私が確固たる意思を持ち、その辺は百も承知で勝手にやった事である。
更に言えば、私が居ない事で人里の使者の誰かしらから不興を買い、巡りめぐって館の家族に苦しみや悲しみや恐怖などが与えられる可能性が完全にないとは言い切れず、震える位に怖い。
仮に、無理せず眠る事を選んで
故に、余程のキツい不調でも襲いかからない限りは最後までやると、レミリア姉様とフラン姉様に強い口調で告げた訳だ。まあ、何だかんだ言っておいて普通の立ち振舞いが可能な時間の限界値は、かなり少ないと言うのが現実なのだけど。
「あら、リーシェの使い魔の鳥が部屋の中に飛んできたって事は……遂に、この時がやって来た訳ね」
心の中で改めて決意を固めていると、人里の人間さんたちに見えないだろう高度を飛ばせていた使い魔の鳥さんが、部屋の扉から私の肩へと飛んできた。使者の人たちが紅魔館へ向かってきたのを確認したら戻ってきてとお願いしていたので、どうやらその時がやって来た様である。
「そうみたい。だから、そろそろ庭に出て待ってなきゃ」
「ええ。フラン、私たちも行くわよ」
「はーい! そう言えば、太陽が出てる時の外出なんて初めてだよね!」
なので、鳥さんを労ってから立てかけていた日傘を手に取り、姉様2人と一緒に中庭へと向かった。一体どんな存在が紅魔館へとやって来るのか、性格はどんな感じなのか、何にせよ私の振る舞いで印象を悪くしないようにしなければならないから、緊張してきた。
ただ、レミリア姉様やフラン姉様と言う私にとってこの上ない程に心強い味方は居るからさほど辛くはないし、紫さんや藍さんと相対した時の様な振る舞いを心がければ、少なくとも印象は悪くならないはずだ。
(やっと来た……)
大きめの日傘を差して中庭に出て待つ事10分、鳥さんを通して見た慧音さんと、その少し後ろを
いくら真昼かつ相当な実力者である慧音さんが一緒に来るとは言っても、途中で使った能力での反応からして力のない普通の人間さんが吸血鬼の館へ来る選択肢を選べるとは、相当勇気があるらしい。もしかしたら、里の長や保護した人間さんと親しい間柄の可能性もある。
「ようこそ、紅魔館へ。私、前日にチルノや大妖精を経由して手紙を送った、スカーレット家三女のリーシェと申します。以後お見知りおきを」
「待っていたわ、人里の使者。同じく、スカーレット家長女かつ紅魔館の当主レミリアよ」
「これまた同じく、スカーレット家次女のフランドールだよ! 呼び方はまあ、貴女たちの自由にしてね」
そんな事を考えながら、私たちの前に降り立つ慧音さんたちに対して私は1歩前に足を踏み入れて自己紹介を行い、姉様2人はそれに続いての自己紹介を行った。
時間帯と天候が吸血鬼にとっては最悪な上、チルノや大妖精から私たちの事をある程度聞いていたからか、慧音さんはほぼ自然体で居るものの、流石に人間さんたちの方は気を張り詰めている様だ。
まあ、彼らの目の前に居るのは
「出迎えありがとう。私は
「分かりました。レミリア姉様、フラン姉様、早く行こう」
「ええ、お互い立ち話をしたい訳じゃないものね」
「はーい!」
私や姉様2人の自己紹介が済んだ後は簡単に慧音さんが自己紹介を済ませ、美鈴以外の全員で治療中の人間さんが居る部屋へと向かった。
最初は緊張感が張り詰めていたけれど、元気良く挨拶してすれ違う妖精さんやいつもの様に私に微笑ましい悪戯をしてくる妖精さん、楽しそうに話しながら掃除をする妖精さんたちを見て、多少は雰囲気が和らいでくれたらしい。
けど、紅魔館は慧音さんたちにとって妖怪の住む未知の場所な上、訪れた訳が訳なだけに居心地が良いとはお世辞でも言えないだろう。私としても、早く事を済ませてレミリア姉様を安心させたいとの理由でさっさと目的を達成しておこうと思っているからか、自然と足取りも速くなっていく。
「慧音先生!」
「良かった、元気そうだな。痛いところはあるか?」
「ううん、僕はないよ! 後、お母さんもあの紫の人と妖精さんのお陰で大分辛さが減ってきたって!」
「ご心配かけて、本当にすみません。妖怪襲撃時、咄嗟に避難出来ていれば……」
「いや、貴女のせいではないので謝らなくても良いですよ。むしろ、妖怪の襲撃にあったにも関わらず息子さん共々無事で居てくれて、本当に良かった」
そうして目的の部屋へと到着した瞬間、起き上がって食事を取り終えていた男の子が慧音さんへと自力で歩いて向かい、女性の方もお世話をしていた妖精さんやパチュリーの力を借りて慧音さんの下へとやって来た。どうやら、慧音さんとこの2人は勉強を教える先生と生徒、その親と言う関係で居たらしい。
ついでに、この様な事態に陥ったのは人里に襲撃を仕掛けたと言う、妖怪さんの仕業とも話の中で判明した。十中八九、人間さんを自身の糧として喰らうつもりだったのだろうけど、だとしたら何故紅魔館前を通る愚行を犯したのだろうか。
まあ、この人間さんたちが無事に紅魔館を出発して帰ってくれて、なおかつ館の家族や
「何故、人を喰らう妖怪であるはずのお主らがここまでしてくれたのかは分からぬが……それはともかく、あの娘の父、あの子の爺として感謝してもしきれん。ありがとう」
「里長の俺からも、同じくお礼を申し上げたい。本当にありがとう」
「私たちには感謝しなくても大丈夫ですから、それよりも、治療に尽力してくれた皆の方にお礼をしてあげて下さい。そちらの方が、私としては非常に嬉しいので」
で、慧音さんと一緒に来ていた2人の人間さんからは助けてくれたお礼を受けたけど、私たちに対してよりも妖精さんたちやパチュリーに言ってくれと丁寧に受け流した。
あの女性と男の子を助けた理由が紅魔館近辺で死なせたら非常に困ると考えたからなのと、会話に使う時間を少しでも減らし、早く帰ってもらってゆっくり眠りたいからである。勿論、私も姉様2人も決してそれを口や態度に出す事はない。
「帰るのね。なら、これを持っていきなさい」
「これは……本当に良いのか? お主らにとっても重要な物資だとは思うのだが」
「1人の3~4日分なら問題ないわ。それよりも、彼女の怪我を早く治させたければうちの妖精メイドが書いたメモの通り、治療用の道具を使ってあげて」
これらのやり取りが終わって慧音さんたち5人が帰るとなった時、棚から取り出した魔法の包帯などの怪我を治療するための道具が入った箱を1つと、メイド妖精さんが書いた道具の使用方法などが書かれたメモを、レミリア姉様がお爺さんへと手渡した。
本来なら男の子の方はともかく、女性の方は状態が良くなってきてはいるけれど、それを鑑みても紅魔館で治療に専念させた方がより良い選択肢と言えたかも知れない。
とは言え、私たちは元々慧音さんたちが来た後も滞在させる事については、彼女の命に関わらない限りは考えていなかった。加えて、当の本人が人里に帰りたがっているのだから、帰った後でも館で行っていた治療を一定の水準で行えるものを念のために渡すのは、至極当然の事と言えるはずだ。
「紅魔館の皆、人里の人間を保護して治療してくれて本当にありがとう。すぐには出来ないが、お礼としていずれ何か贈ろうとは思っている」
そして、保護した人間さんを含めた人里の使者たちを見送るために門前へ姉様2人やパチュリーと一緒に出てきた際、立ち去る前の慧音さんがお礼云々と私たちに向けて言い始めた。
しかし、私としてはお礼として何か物品をもらうより、紅魔館の皆と人里の関係が敵対的になりさえしなければそれで良いし、と言うかそれが良い。そうすれば、自動的に紫さんや博麗の巫女と言った幻想郷の最高勢力とも、敵対せずに済むためである。
まあ、そうは言っても何かくれるのならそれはそれでありがたいし、贈り物を断る理由も特にないから、そう言う事ならのんびり待っていると返答を返しておいた。なお、レミリア姉様やフラン姉様も、私と同様の返答を返していた。
「さてと、事も済んだ事だし……寝るわよ。リーシェはもう限界間近だし、流石の私たちもそろそろ辛くなってきたところだから」
「そうだね! じゃあ、今日はお姉様の部屋で3人一緒に寝よう!」
「ええ、リーシェもそれで良いかしら?」
「うん、良いよ……」
こうして門前でのやり取りを終わらせ、慧音さんたちが保護した人間さん2人を丁重に抱えて飛び去っていくのを確認した私は、同じ様に真昼まで起きてて眠くなってきた姉様2人と一緒に眠るため、レミリア姉様の部屋に向かった。
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幻想郷の住人に完全なオリキャラを追加するとしたら、どの程度なら許容範囲でしょうか?
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1人
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2人
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3人
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追加しない方が望ましい