起きてからずっと雨が降り続けている嫌な天気である今日、そんなのが心底どうでも良くなる位に幸せな気持ちで満たされていた。
何故なら、青髪の妖精さんたちの力を借りて作った、私原案の半袖の服やミニスカートを身につけているリーシェとの一時を過ごせているためである。
寒かろうが暑かろうが関係なく、かなり緊張してしまうとの理由から起きている時は常に長袖とロングスカートで過ごし、寝る時も長袖長ズボンの寝間着以外をリーシェは決して自ら着ようとしない。
例え、館の皆が全力でお願いしたとしても色々な条件が上手く重なったりしなければ、大抵は無理だと即答する程に嫌がってしまう。ちなみに、今までに条件が上手く重なった回数は、記憶に残る限りではたったの1回である。
だから、今の状況に持ってくるために
(……)
これが、私自身の欲が大きく混じっている故の行為なのは否定出来ないし、否定するつもりもない。ただ、リーシェの身体を心配する気持ちだってない訳ではないし、むしろしっかりと持っている。
幸運な事に、暑さで体調を崩した経験は今までに1度たりともなかったが、いずれそんな日が来ないとも限らない。
だからどうか、これをきっかけとして薄着に少しでも慣れてもらい、暑くて辛い時位は自分から進んで着てくれる事を願うばかりだ。
当たり前だけど、見られるのが嫌なら着るのは自分の部屋に1人で居る時だけでも良い。
「フラン姉様……」
「大丈夫だよ! こんな事言うのもあれだけど、私だってリーシェ以上に崩してるから! それに、完成よりもこの時間を過ごせてる事自体が、私にとっての幸せだからさ!」
「うん、ありがと」
それにしても、今まで使いたいと衝動に駆られた事は腐る程あったけど、毎回何とか理性で抑える事が出来ていて本当に良かったと言わざるを得ない。
もし、衝動の赴くままにプレゼントされていた3回分を使いきっていたとしたら、我欲から来る願いだろうがそうでなかろうが、私原案の服を身につけてもらう事などもっての外だったのだから。
(ん? この音は……)
すると、トランプでピラミッドを作っていたリーシェのお腹から、空腹時に鳴るあの音がかなり大きく響いてきた。時計を見たら、もう夜食を取る時間帯を少し過ぎていたから、これも何らおかしな事ではない。
それに、私が来る前はずっと魔法関連で頭を良く使っていたみたいだし、加えて今は慣れない格好をしてもらっているのだから体力の消費量も増えるし、尚更だろう。
「あっ、えっと……」
「リーシェ、お腹空いたの?」
「……うん」
「そっか。じゃあ、食堂に何か食べに行こう!」
「えっ」
なので、私から視線を逸らして恥ずかしがるリーシェの手を掴み、していた遊びを中断して一緒に食堂へ向かっていった。のんびり楽しむためだけの食事とは違うため、途中で倉庫から人の血液入りの瓶を持っていくのも忘れない。
(うん。まあ、そりゃそうなるよね)
今日以降しばらく来る事のない、大切な1秒1秒をしっかりと楽しみつつ食堂へと入ってから少し経つと、中で紅茶を飲みながら楽しそうにしているお姉様と咲夜の視線が、同時にリーシェの方を向いた。
更に数秒後、仕事をしている妖精さんたち10人の視線も向いたためか、リーシェが翼を寝る時の様に畳んで私の後ろに密着する形で素早く身を隠してしまった。肩に手をかけ、時折顔だけ出して皆の方を見る仕草が何とも微笑ましい。
ただ、ここに来た目的が食事であるため、至福の一時を味わってばかりも居られない。なので、リーシェを優しく離して食堂の席に隣同士で座り、やって来た妖精さんに食事の用意をお願いした。
「リーシェ、その格好って自分の意思でしたのかしら?」
それから一緒に会話を楽しみつつ待っていると、お姉様がこっちにやって来て、リーシェに対して今の格好に関する質問を投げかけてきた。
半袖にミニスカートと言う、普段絶対にしないであろう格好をしているのを見かければ、私を含む誰かから断れない程に強く勧められたのではとお姉様が思うのも、至極当然の流れと言える。
(私、どう思われてるのかな……?)
が、正直に言ってしまえばリーシェがくれたものではあると言えど、強制力のある叶え紙を使ってこの状況を作り出しているので、お姉様の疑問は半分当たっている。故に、それについてこの場で露にされても致し方ないだろうと思っていた。
「そう、
「なら良いけど……それにしても、半袖にミニスカートも似合ってるじゃない。いつもの格好とは随分と違うけど、可愛らしさが醸し出ていると思うわ」
「……」
しかし、リーシェは何の迷いもなく完全な自分の意思でこの格好をしているとお姉様に断言し、叶え紙云々の話は一切口にする事はなかった。おまけに、表情を見たらかなり恥ずかしがりつつも、とても幸せそうにしていると理解出来た。
つまり、あまりにも高頻度でなければとの条件下、自分にとって強い抵抗感のある事象の対象となろうとも、私が心から幸せそうならそれすらも構わないと、内心考えているも同義なのだ。
ならば、申し訳ないと思い過ぎるのは逆にリーシェの思いに反する訳だ。どうしても考えるのなら、全て終わってからにしよう。
「お待たせしました! リーシェさま、フランさま、ゆっくり楽しんで食べて下さいねっ!」
「うん、ありがとう……」
「勿論だよ、ありがとうね!」
そんなこんなで続いた、お姉様とリーシェの会話が終わりを告げたとほぼ同時に頼んだ料理が運ばれてきたので、いつもの様に妖精さんにお礼を言ってから、まずは純粋に血を加えていない状態のものを口に運び始める。
(うん、妖精さんの料理も変わらず美味し……ん?)
で、相変わらず安定した味と見た目の料理を楽しんでいると、時計が夜中の2時を過ぎているにも関わらず、続々とメイド妖精さんや美鈴、パチュリーにこあまでもが食堂へとやって来始めた。遊び道具まで持っている妖精さんも居ることから、まるでパーティーを開く前の様相だとしか言えない。
恐らく、ここまで来る時にすれ違った妖精さんから、伝言ゲームの要領でリーシェの話が広まった結果なのだろう。館の守りはパチュリーの強力な防御結界があるから安心だとしても、一気に注目を浴びてしまえば許容範囲を容易く超えると思われた。
「ふ、フラン姉様ぁ……」
案の定、自身に向けられる視線の数が急増してしまった上、やって来た皆のやり取りにも格好についての話が含まれていたため、リーシェの食事の手が一時的に止まり、助けを求めるかの様に椅子を寄せてきて声をかけてきた。
私としては、時間帯的に来ても精々20人前後だろうと思っていたから、まさかパーティーの時とほぼ同等の人数が食堂へ集結してくるのは予想していなかった。想定が甘過ぎたと、そう言わざるを得ない。
「ごめんね。半ば無理に食堂に誘っておいてなんだけど、料理は部屋に持っていって食べる? 私はそれでも平気だよ!」
「ううん、まだ戻らなくても良い。だって、フラン姉様が凄く幸せそうにしてるのに、それを私が邪魔したくないから」
「リーシェ……」
だから、今すぐ食堂での食事を中断して残りの料理を全部部屋へと持っていくかと提案したのだけど、リーシェは私を思いやってくれたために、それを拒否してきた。
自分よりも、館の皆……今回の場合は私を優先するその性格がいつもよりも更に嬉しく感じ、思わず涙まで出てくる。この一時を味わい終えてある程度時間が経ったら、どの様な形であれ喜んでくれる様なお礼をしなければならない。
「あっ……でも、私が食べてる間だけで良いから、時折頭とか背中を優しく撫でたりさすったりしてくれると、緊張感が和らいで落ち着けるから嬉しい」
「うん、分かった!」
その後は、リーシェの緊張感を和らげるために要望通りにしつつ、あっという間に即席のパーティー会場と化した食堂で、変わらず食事とジャンルを問わない会話を楽しみ続けた。
途中で咲夜や美鈴、パチュリーやこあが間隔を空けて話しかけてきたりしたものの、私が優しく頭を撫でたり背中をさすったりしているお陰か、声が小さくなると同時に口数は少なくなっても、さっきよりは緊張しなくなっているらしい。
(ふふっ……)
にしても、格好について褒められた時の顔を真っ赤にしてする照れ笑いや足のばたつかせ、視線逸らしや被っていた帽子で顔を隠す仕草はとても可愛らしく、見ているだけで満たされていく。
もし、何らかの出来事によって心が絶対零度の如く凍っていたとしても、それを苦もなく溶かしてくれそうな程には暖かかった。
しかも、どれも普段の生活ではまず見られないだけに、尚更その思いが心の中で強くなっていった。無論、普段から故意に誘発させる様な事は、絶対にしてたまるものかと思っているが。
「何だかんだで結構長く楽しんだなぁ。さてと、そろそろ部屋に戻って遊ぼう! リーシェ!」
「分かった。妖精さん、私とフラン姉様の分のお片付けお願いね」
「「はーい!!」」
それから更に時間が経った頃、流石にリーシェも耐えれる限界に近くなってきただろうと思い、切り上げるために呼びかけたところ、その目がほんの一瞬だけ虚ろなものになった様に見えた。見間違いでなければ、これは疲れから来る眠気に耐える限界へと、かなり近づいてきている証拠である。
本来なら、部屋に戻った後もまだまだ遊ぶつもりではいたけれど、本当に眠気が限界近いのであれば、いくら叶え紙を使ったとは言えそこまでさせるのは鬼畜の所業だ。と言う訳で、その辺について聞いてみるとしよう。
「それはそうと、リーシェ。本当は眠気が限界近いのを隠してたりする?」
「うん。フラン姉様と沢山遊んで、お腹いっぱいになるまで血を飲んで、妖精さんの料理を食べて、館の家族たちに私の格好を見られたりして疲れてきたせいか、今すぐ寝たいと思う位には眠気が強くなってきてる」
「やっぱり? じゃあ、今日はもうおしまいだね!」
「えっ? 自分で言っててなんだけど、本当に良いの……? 頑張れば、諸々を考慮したとしても3時間は何とか耐えられるけど」
「当たり前だよ! リーシェが眠くなったら、私も一緒に寝るつもりだったし!」
「そうなんだ。フラン姉様と一緒に……えへへ」
結果、私の見間違いなどではなく本当に限界近かった事が判明したため、相変わらず私を気遣うリーシェに有無を言わさず部屋に戻って寝ると決め、早速実行へと移した。
着替えなどの準備をすっ飛ばしてこのまま寝ようとも考えたけど、それをすると起きた時に妙に気持ち悪いので、いつも通りに行う。
(あっという間だったなぁ……)
終わってみれば体感的にはあっという間だったけど、今日はここ数十年で最も幸せだった。仮に、幸せの種類が違うリーシェやお姉様との『ふれあい』込みで順位をつけたとしても、ほぼ変わらないと断言しても良い。
「ねえ、フラン姉様。今日は幸せだった?」
「勿論、幸せだったよ! 本当にありがとう、リーシェ!」
「……良かった。そう思ってくれたなら、私も頑張った甲斐があったよ」
「ふふっ。だからさ、もし私に何かして欲しい事とかあったら遠慮なく言ってね! これが、私からのお礼!」
色々と考え事をしながら寝る準備を済ませ、リーシェの部屋のベッドに後から入ると、今日の一時についての感想を求められたけれど、言うまでもない。心から思ったままの言葉を口に出し、今日のお礼に私にして欲しい事があったらさせる権利を提供した。
絶対にあり得ない仮定だけど、今日が幸せでないとするならば、今まで生きてきた中での幸せな出来事がほぼ全て不幸とか、いたって普通の出来事となってしまう訳で、至極当然の話だろう。
お礼云々も、精神的に負担のかかるお願いをした以上は同等の権利を与えるのは常識、私だけが負担なしで良い思いをするなど、論外にも程があるのだから。
「それなら、1つだけお願いを言っても良い?」
「うん、勿論だよ!」
「ありがとう、フラン姉様。でね、お願いなんだけど……明後日、もしくは明々後日辺りにその……久しぶりに、2人きりで『ふれあい』しない? 今日は疲れちゃったし、明日も多分疲れが残ってるだろうから」
すると、早速したいお願いが1つあると今にも寝そうな様相のリーシェが言ってきたので、お互いに向かい合いながら聞く態勢を整えたところ、全く予想していなかったお願いをされた。
それは、ここ数ヵ月色々あってしていなかったふれあいを2~3日後、久しぶりに2人きりでしないかと言うものであった。
(ふれあいかぁ……)
確かに予想外ではあったものの、それ自体の難易度は特段高くない。加えて、私自身も話を聞いてからリーシェと同じ様に、その日が来るのが待ち遠しくなってきていた。当然、選択肢は了承しかない。
「そっか……分かった! 私もその日を楽しみにしてるね!」
「ありがとう、フラン姉様。大好きだよ……」
そうして、リーシェに対してふれあいを了承する旨を伝えたところ、幸せそうな笑みを浮かべてからすぐ、私を抱き枕の要領で抱いてから眠りについた。
今の季節に加えて本人の体温が若干高めなのも相まり、正直に言えば結構暑い。ただ、不思議と眠気の方は失せる事はなく、むしろ少しずつ強くなってきていた。何だかんだ言って、私自身気づかぬ内に疲れが溜まっていたのだろうか。
(お休みなさい、リーシェ)
頭の中で考え事を済ませた後、私は眠りに落ちるまで今日の出来事でも振り返りながら、のんびり待っていると決めた。
ここまで読んで頂き感謝です。お気に入りや評価をしてくれた方に感謝です。感想を書いて下さった方も、ありがとうございます。
幻想郷の住人に完全なオリキャラを追加するとしたら、どの程度なら許容範囲でしょうか?
-
1人
-
2人
-
3人
-
追加しない方が望ましい