「文、少し時間良いかしら? 頼みがあるのよ」
「あやや、呼び止めてくるなんて珍しいですね。勿論良いですけど、どうしました?」
外では雪が舞い、強い冷気が覆い尽くす天気となっている今日、いつもの様に新聞配達に訪れていた文を、帰り際に私は呼び止めていた。何故なら、紅魔館の住人についてを新聞で、主に人里へ向けた特集を組んでもらえないかと依頼するためだ。
今のところは紫の助けもあり、金銭面でも食糧面でもほぼ不自由なく暮らせてはいるものの、何もかも頼りきりなのは流石に色々な意味でまずい。
吸血鬼である私やフラン、リーシェが生を繋ぐのに必須な『人間』はともかく、それ以外は紅魔館が可能な限り自給するべきだろう。紅霧異変から半年は経過した訳だし、そろそろ本格的に動いても問題はほぼないとは思う。
(私も、全力で頑張らなきゃね)
咲夜や咲夜直属妖精メイドの作る料理やお菓子、青髪の妖精他数人がチームを組んで作る衣服や各種小物類、文のカメラで撮った写真に引けを取らない絵を描く妖精メイド、他にもこの計画を相談しお願いした全員が快く引き受けてくれた。
ないとは思うけど、万が一の時の安全策もリーシェ曰く『1ヵ月半でひとまずは解決すると思う』みたいなので、本当にありがたい限りである。
まあ、度重なる注意などの賜物で昔よりは大分マシにはなったものの、それでも自分で時々様子を見に行くか、フランもしくは美鈴辺りに見に行かせないと、自身の体調と時間とお金を過剰に削る可能性が結構あるところが玉に瑕なのだけど。
「分かりました。定期購読とネタ提供をして頂いている身、すぐにとは行きませんが特集は組みましょう。3日後位に、撮影のためにまた来ますね」
「感謝するわ。お金は必要かしら?」
「いえ、今後とも定期購読とネタ提供を継続して頂ければと」
「なるほど。ええ、
で、私が思い描いていた計画の初期段階の概要を話し、協力依頼をした結果は即了承だった。わざわざ対価を支払って文の新聞の定期購読を選択したり、館の住人たちにネタの提供を無理ない程度にやってもらった甲斐があった。
無論、最優先は私を含む館の住人たちではあるにしろ、人里に深く関われば関わる程、何かあった時の防衛に関わる必要性も高まってくる訳だけど、その位なら致し方ない。
とは言うものの、幻想郷の最重要拠点を攻撃し暴虐の限りを尽くそうとする様な愚か者は大半が慧音に、手に負えなくても速攻で駆けつけた霊夢と魔理沙の最強コンビに滅殺されることになるだろうから、実際に私たちが関わる可能性は低いとは思うが。
「見ーつけた! 部屋に居ないから、どこに行ったのかと思ったよ!」
「あらあら。そんなに慌てなくても、私の部屋で勝手に待ってても良かったのに」
「うーん……ちょっとだけ、気持ちが逸っちゃったかな!」
新聞を持ってきた文を見送った後、さてこれから何をしようかと考えながら後ろを向いた瞬間、いつの間にか居た興奮気味のフランに抱きつかれた。私の胸に顔を埋め、翼をパタパタと動かしてから見せてくれた笑顔が、とにかく可愛くて仕方ない。
(もう少し、一緒に居る時間を増やそうかしら?)
発言内容や行動を鑑みるに、今の場合は私に甘えたい欲求が突発的かつ強く出ているのだろう。あの忌まわしき吸血鬼異変後から、状況が落ち着いてきたお陰で割と良くある事である。
この光景が幻想郷移住前後問わず、ほんの僅かでも気を抜けば地獄と化す事件の1つ1つを、私含めた館の皆で乗り越えてきた結果の賜物だと思うと感慨深い。
「そう。可愛い妹に愛されて、私は本当に幸せ者ね」
「私もお姉様の妹で幸せだよ! この運命には感謝しなきゃ!」
「違いないわ。さて、私の部屋で良いかしら?」
「良いよー!」
やる事もないし、何より本人が望むのであればと言う訳で一旦離れてもらい、取り敢えず存分に甘えたい欲求を満たしてもらうために私の部屋へと戻る。その際に、さりげなく手を差し出してみると、嬉しそうに握り返してくれた。
なお、この時館の掃除をしていたらしい咲夜からずっと見られていた事に気づくが、恥ずかしい事をしてはいないから別に気にしない。目が合った瞬間、微笑まれ頷かれた理由についてはその限りではないが。
「ねえ、お姉様。もしかしなくても、私と一緒の髪型にしてるよね?」
考え事をしながら部屋へと戻り、扉を閉め一緒にベッドに腰かけたところで、フランが私の髪を見ながら嬉々としてそう聞いてきた。余程嬉しいのか、表情が緩んでいて可愛らしさに拍車がかかっている。
ただ、今までにも何度か同じ髪型をした事があったのに、その時と比べても遜色ないどころか、それ以上の喜び様を見せている点が実に不思議だ。私のところに来る前に、何かあったのかも知れない。
「してるわよ。お揃いで喜ぶ顔が見たくなってね」
「そっか! えへへ……お姉様も私とお揃いかぁ」
「もしかして、リーシェも同じ髪型にしてたの?」
「うん! しかも、お姉様と同じ理由だったから凄いよね!」
「そうなの? 確かに凄いわね、それは」
そう考えながらフランの問いかけに答えてみると、話の流れで凄い喜び様を見せた理由が判明する。口裏を合わせてそうした訳ではないのに、そんな偶然もあるんだなと感心した。
同時に、リーシェと同じ考えだった点に強い心の繋がりを私は改めて実感し、何とも形容しがたい暖かさや幸福感に包まれた様な感覚を覚える。
色々ありながらも、愛する妹たちと同じ星の下に生まれてこれた運命に感謝すると共に、これからもずっと、今の関係を保っておくために頑張ろうとの決意をより強く固めた。
「お姉様って、私のして欲しい事を言わなくてもしてくれるから大好き! してくれなくても大好きだけど!」
「500年近くもフランと一緒に過ごしてきたのよ? この位分かって当然だわ」
そんなこんなで、やって欲しいであろう行為をするなどしつつ一時を過ごす事1時間と少し、欲が満たされてきたのか目に見えて落ち着いてきた。
休憩をほぼ挟まず色々としてたから、ゆっくりしているはずなのに疲れが出てきたけど、私自身も幸せな気持ちが大きいから全く問題ない。誰に何と言われようが、これはありとあらゆる財宝や名声に勝る報酬だと断言しよう。
(……頑張らなきゃ。皆のために)
そして、論ずるまでもなくこの幸せが永遠に続く保証などどこにもないから、常々備えておく必要性はある。油断し大惨事を招くなど、持っての外だ。
しかし、過剰なまでに『万が一』に備えるあまり自分を追い詰め過ぎてしまえば、精神を壊してしまうに違いない。リーシェにしつこく注意している立場上、何事も程々にと自制しなければ。
「フラン。突然で申し訳ないけど、近々……早くて明後日、遅くて5日後からね。最低でも新しく9人の妖精を
「新しい妖精メイド? 一応説明お願い、お姉様」
「勿論、言われなくてもするわよ」
しょうもない話などでフランとの時間を楽しみつつ、ここぞと言うタイミングで話を一旦切り上げた。ほぼ確定している、遅くても5日後に館の住人が増えると言う最重要事項を、経緯なども含めて伝えるためだ。
(運命って言うのは、本当に面白いわ)
文と話をした少し前、霊夢に借りたものを返しに博麗神社へ行った帰り、気まぐれに遠回りルートで空を飛んでいた時、偶然見かけた妖精の集団に群がられ住人にさせて欲しいと勢い良くお願いされた時は、大層驚いた。あながち間違いとは言い切れないものの、妖精の楽園扱いを受ければそうもなる。
「へぇ、そりゃまた急だね。運命でも感じた?」
「まあ、そんな感じよ」
館の皆の優秀さを考えれば、今のままでも普通に問題ないとは思うが、紅魔館自給計画に割く住人は中盤でもそれなりに多い。終盤~成就段階ともなれば
他の皆に寄せる負担を考えれば、緊急性はそれ程高い訳ではなくとも重要性は極めて高い。計画始動期の内に、この辺の問題に可能な限り手をつけておくのは必須だろう。
「お姉様が良いなら、分かった。他の皆は……うん、言うまでもなく頷いてくれると思うよ。ビックリするとは思うけどね!」
「ありがとう。じゃあ、この一時の後皆に話して回ってくるわ」
「今すぐじゃなくて良いの?」
「えっと、今すぐかぁ。うーん……」
伝えるべき事を伝え終えると、フランは特に何も言わずに新しい妖精メイドの迎え入れに賛成してくれたと同時に、皆に今すぐ言わなくて良いのかと訪ねてくる。話の内容的に、至極当たり前の問いかけだろう。
しかし、全員に伝えて回るとなると館の住人の数や広さなどの要素から、それなりに長い時間が経ってしまう。実際に来るまでにはまだ時間があるし、何より私自身この気分を今は一時的にでも断ちたくないと思っている。
勿論、この姉妹水入らずの時間が1日中続くと言うのなら話は別である。館にやって来るのが早くて明後日とは言え、1日以上放置しておくのは色々と良くないのだから。
「……来るのは今日じゃないし、フランとの姉妹水入らずの時間だから後でも大丈夫よ。1日中ずっとだとか、がっつりふれあいをしたいとかでない限りはね」
「じゃあ、先に皆に伝えてきて良いよ。待ってるから」
すると、フランは私に先に伝えてきて欲しいと促してきた。表情や仕草、声色から鑑みるにふれあいではなく、ただ普通に甘えたい気持ちが一時を過ごしてく内に、再燃してきたと見て良い。
(ふふっ、可愛いわね)
と言う訳で、ニコニコしながらこちらを見てくるフランを微笑ましく思いながら、皆への報告を行いに部屋を後にした。
ここまで読んで頂き感謝です。お気に入りや評価をしてくれた方に感謝です。感想を書いて下さった方も、ありがとうございます。
幻想郷の住人に完全なオリキャラを追加するとしたら、どの程度なら許容範囲でしょうか?
-
1人
-
2人
-
3人
-
追加しない方が望ましい