目覚めたら、レミリアとフランの妹になっていました   作:松雨

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人里冬祭り(前編)

「へっへーん! あたいの最高傑作、どうだ!」

 

 相も変わらず元気一杯なチルノから呼ばれ、何かするのに最適な広場へと招かれた私たちは、そこで見せられ自慢されたものの出来栄えに、良い意味で言葉を失っていた。

 

 今日以前、霧の湖や紅魔館で一緒に遊んだ時に色々と見せてもらったり、館の妖精さん経由で話を聞いたりしていたから、その時みたいな綺麗な氷像でも見せるのだろうと考えていた。

 

(これが、チルノの全力全開……)

 

 が、実際に見せられたのは、今まで作って見せてきた作品が霞んでしまう位に、これでもかと拘った作品ばかりである。だからと言って、今まで見たものから発せられた氷の力を鑑みれば、手を抜いていたとは思っていない。

 

 定番の剣や盾などの武具や各種家具、初見のミニチュア紅魔館や博麗神社、自身を含めた私たちの等身大氷像、他にも色々と細かい道具類、相当手間暇かかったに違いない。

 見渡した感じ手伝っている誰かの気配も姿もなさそうなので、自慢げになるのも十分に納得出来る完成度と断言しても良いだろう。手伝いがあったとしても、自慢げになるのも無理はない。

 

(うんうん、そうだよね)

 

 当然、氷精のアトリエが人里内にある以上他の人間さんたちが通りがかる訳だけど、芸術に興味があるらしい人たちはほぼ全員歩みを止め、そうでなさそうな人たちでさえ僅かであっても関心を寄せている。

 

 ルーミアたちはもとより、私も微塵たりとも関与してはいないものの、チルノが称賛されているのを見聞きすると、自分が姉様たちに褒められた時に弱いが似た、そんな感情を抱く。

 

「どうもこうも、凄いって言葉以外出て来ない。初めて見たよ、こんな綺麗なもの」

「うん、間違いない」

「そうだよね、本当に」

「私も、リーシェと同じ」

「……ありがと。あたい、頑張った甲斐があったよ」

 

 で、私がチルノへ褒め言葉を贈ったのに続いて3人も好意的な一言を贈ると、彼女は照れくさそうにしながら微笑んだ。いつもの笑顔とはまた違った感じのそれを見てると、自然と心が温かくなってきた。

 

(……)

 

 もしも、チルノが大妖精と共に紅魔館の住人(家族)になってくれたとしたら、愛する館の家族たちの笑顔がもっと増えて、更に幸せになってもらえそうな気がしてくる。

 

 無論、たった今僅かに芽生えたもので各所の実情を考慮しておらず、かつ今の関係を崩してしまう可能性がなくはないから、言ったりはしないし言えないが。

 

「ん? 子供……はい。どうかしました?」

 

 なんて事を考えながら、手に取った氷の盾の文様を眺めていた時、弱い力で翼を引っ張られた感触がしたので振り向いたところ、僅かに私よりも小さい子供がそこに居た。この行動により、チルノやルーミアたちも彼の存在に気づく。

 

 随分と緊張しているのは良いとして、何かを気にしてキョロキョロしている理由が謎である。周りの人間さんたちの楽しげな様子が、余計に予想を立てにくくしているけど、どうでも良い。

 

「あのっ。えっと、これお願いします……」

 

 どう解釈しようと、用事があって私に声をかけたのは明らかなので用件を尋ねると、紅魔館への依頼の手紙とお金を手渡してきた。内容は、自分で食べるための紅魔館特製クッキー3枚の納品である。

 

 1度慧音さん経由で食べてから大層気に入り、もらったお小遣いを使ってまで欲しくなったと書かれているのは実に嬉しい事ではあるが、彼にお小遣いをあげたと言う母親は吸血鬼嫌いみたいなのが気になる。キョロキョロする仕草、日時の細かな指定と配達先が何故か寺子屋な理由はこれなのだろうか。

 

「依頼ですか、分かりました……っと。鳥さん、この手紙は咲夜に、お金はレミリア姉様によろしく」

「わぁ……凄い! カッコいい鳥が、何もないところから出てきた!」

「ありがとう。じゃあ、明日の朝~お昼までの間には寺子屋に届くと思うので、それまで待ってて下さい」

「はーい」

 

 とは言えど、他人の家庭事情に首を突っ込む暇も義理も気もないので、情報伝達や彼への軽い説明などのやるべき事を手早く済ませ、見送ってからチルノの作品観覧を再開した。

 

(凄いや、ここまで上手く行くなんて)

 

 それにしても、ここまでの速度で広まってくれるなどとは夢にも思わず、応対をしつつも内心かなり驚いている。

 レミリア姉様が文さんに頼んで館の宣伝文をバッチリ載せてもらったり、頼んでもいないのに善意で宣伝してくれたチルノや大妖精の力が、かなり大きいだろう。

 

 大変な思いをしてまで私たちのために動いてくれる2人は、館の妖精さんたちだけではなく、私にとっても唯一無二の親友と言える。いや、家族ではないけど家族みたいな存在か。

 

「人間の子供の舌までも唸らせるなんて、流石は咲夜さんのお菓子だね。リィちゃん」

「うん。だって、あんなに美味しいんだもの。当然だよ」

「しかし、広まるまで随分と早かったよな。これも、チルノと大ちゃんが、人里の色んな場所で宣伝してたお陰なのかー?」

「文さんの新聞も忘れちゃいけないけど、私も本当にそう思うよ……ありがとう、感謝してる」

「へへっ、どういたしまして! そう言ってくれると、大ちゃんも喜ぶと思うぞ!」

 

 言わずもがな、たかがお礼の一言程度で返せぬ恩ではあれど、言わない選択肢などないので、心の底からの感謝と共に言葉を贈った。近い内に恩返しをするのは確定として、毎日が幸せである様に祈っておこう。

 

 勿論、何かが起こる可能性が否定出来ない世界で、起こらないのが1番ではあるけれど、せめて私の手に届く範囲で何かが起こった時は、全力でその身と心を守る次第だ。

 

「よし。あるやつ全部見た事だし、そろそろ行くぞー」

「分かった。じゃあね、チルノ」

「おう! 気が向いたらで良いけど、帰りにまた寄ってって。もしかしたら、氷像増えてるかも知れないから!」

「だってよ。私は良いけど、リグルはどう?」

「良いんじゃない? ルーミアとみすちー次第だけどさ」

 

 そして、氷精のアトリエ内にある作品を全てじっくりと見終えた後はチルノと別れ、適当に歩き回りながら次に行く場所を考え始めた。相変わらず、道を歩く人の数は普段と比べて多く、人気店とおぼしきお店の列の長さは長いままとなっている。

 

 しかし、それを理由として寄らない選択を取っても、一時中断される時になるまでこの状況が変わる事はないだろう。3人のいずれか、または全員に今現在寄りたい欲求が芽生えているのなら、出来る限り早めに決める必要はありそうだ。

 

(っ……!)

 

 そう考え、ルーミアたちに声をかけようとした私だったけど、突然聞こえてきた男の人同士の怒鳴り合う声に、一瞬思考と行動が中断された。内容の一部に、愛する家族への露骨な罵倒が存在したからだ。

 

 全員が全員、私や愛する家族へ好意的ではないのは理解していても、やはり直接的な罵詈雑言を吐かれると、胸が締め付けられる程に辛い。対象を自分だけに留めてくれれば、何を言われようが気にしないで居れたのにと思う。

 

「ほら、すき焼き食べに行くぞ!」

「せっかく来たのに、楽しんでくれないと、()()()()()()。ねっ?」

「……うん」

 

 もし仮に、相手を殴り飛ばしてまで罵詈雑言を否定してくれた酔っている人間さんの存在、ルーミアたちが心情を理解してくれつつも言葉や態度で暗に気にしないで行こうと示してきた事、この2つがなければ十中八九、私は言い争いに加担していただろう。

 下手すれば、今ここで相手に手を出して大惨事を引き起こし、館の誰も幸せにならない結末を迎える可能性もあった。

 

(助けられてばかりだなぁ、本当に)

 

 姉様2人や美鈴、咲夜にパチュリーにこあ、メイド妖精さんたちがそう易々と他人の悪口で傷つく訳がない。私が私の悪口を聞いても、そよ風が吹いている程度にしか感じないのと一緒だ。

 平常時にはちゃんと分かっていても、いざその時が訪れると、親しい友人や家族の抑えが基本必要となる自分自身に、嫌気が差してくる。

 

 だが、そんな事を考えるのは今でなくて良い。私との時間を楽しんでくれているルーミアとミスティア、リグルにこれ以上嫌な思いをさせる訳にはいかないのだから。

 

「うーん、相変わらず列の長さは変わらないなー」

「すき焼きだからじゃない? 本当、暖かい格好してきて良かったね。リーシェ、時間かかりそうだけど大丈夫?」

「数時間程度なら余裕。皆が大丈夫なら、だけどね」

「リィちゃん、それは程度って言えるの……?」

 

 一転して心を切り替え、冬の間は特製すき焼きが有名だと言うお店の前に出来た、他の店を超える長蛇の列に皆で並ぶ訳だけど、何故だか進み方が極端に遅い。

 

 ただ、沢山食べる人や食べるのが遅い人、何かトラブルが起きている可能性などがあるから、全くおかしい話ではない。私には有り余る程の時間があるし、友達3人としょうもない会話でもしながら待っていよう。

 

「皆様、大変長らくお待たせいたしました! お知らせもせず申し訳ございません!」

 

 長引く事を想定し、ルーミアたちの防寒対策に簡易的な風属性の結界を張ってから案の定長い時が経った頃、お店の戸が開くと同時に、店員のお姉さんが申し訳なさそうに入店可能であると、並んでいた全員に呼びかけた。

 

 何があったのかは知らないけど、こちらとしては美味しいと聞く特製すき焼きが食べられれば、お店側の事情なんて興味はないし、一言謝罪があった訳だから、何の問題もない。謝罪がなかった程度では、イライラしたりしなかっただろうけど。

 

「やっとか! 待ちわびたぞ」

「リーシェのお陰で待ち時間はそんなに寒くはなかったけど、お腹空いてきたからなぁ」

「うんうん。すき焼き、楽しみだねリィちゃん」

 

 そして、同じく待ち遠しさのあまり駆け足になりかけている、他の人間さんたちについていく形で、私たちもお店の中へと入っていった。




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