「うーん……」
紅魔館に新たな住人である美鈴が加わる事になってから、気づけばもう10年もの月日が経っていた。幽閉生活の最初の頃は1ヵ月が1年かのように感じていたのに、今では10年前後が私の感覚で2~3ヵ月位しか経っていないように感じていた。
良く考えたら、私はこの広く薄暗い部屋の中で本を読んで物思いに耽ったり、暇潰しに魔法の開発や実験とかやったり、たまに来る姉様2人や美鈴と楽しく遊んだりなど、代わり映えのない生活サイクルを繰り返していた。これでは、誰であっても時間の感覚が実際よりもおかしく感じる事だろう。
(さて、5年……いや、6年前だったっけ? まあ良いや。どうせ暇だし、奥義魔法の試し撃ちしよっと)
そんな事を考えつつ、数年前からコツコツ実験や改良を数えきれない程やり、つい昨日術式開発を終えた『雷天の矢弾』と名付けた魔法の試し撃ちを始めるため、雷弓を持っていつもの定位置につく。
この魔法は、完成すれば膨大な魔力で生み出した特殊な1本の矢の形をした弾を雷弓を使って放った後、これまた膨大な雷の力によって一瞬で超加速させ、その矢弾の持つ運動エネルギーと雷の力を合わせて生み出された破壊力で相手にダメージを与えるものとなる。ただ、その分消費する魔力が桁違いとなり、毎日の自己鍛練を年単位で欠かさずに総合魔力量を増やした私でも、2発が限界な程だ。
それと、実戦で使う機会がないから、実際にどのくらいの効果を発揮してくれるかは不明なのが欠点と言えた。
「ふぅ……」
大きく息を吸って吐き、構築した術式によって魔力を矢弾の形に練って、それを雷弓につがえる。その後、放った後超加速させる術式や衝撃波などを抑える術式を矢弾に付与した後、この地下室の中でも飛び抜けて頑丈な結界が展開されている扉へと向けて放った。
「うわぁ……」
そうして放った魔法の矢弾は、青白い尾を引きながら超高速で飛んで行って結界が張られた扉に当たり、私以外に誰も居ない地下室に爆発音を響かせた。それだけなら特に驚きはしなかったけど、当たった部分の結界に綻びがあった事に気づいた時は、まさかこれ程の威力を持っているとは思いもしなかったため、とても驚いた。
綻び度合いから、15~20発放つ事が出来れば扉ごと結界を破壊する事が可能だと推測が出来る。まあ、精々2発が限界な今の私では到底不可能ではあるけど。出来るようになるのは数十年……いや、数百年後だろうか。分からないけど。
とにかく、これで私も威力などはともかくとして、レミリア姉様の『スピア・ザ・グングニル』や、フラン姉様の『レーヴァテイン』に相当する魔法を会得する事が出来た。後は、これを使いこなすせるようにするのみであるが、これはホイホイ放てるような魔法ではないため、今日はひとまずおしまいにして、名実共に完成したと言えるこの魔法を、私の『魔導書』に書き記す作業に移る。これも、有り余る時間を消費するために始めた事の1つである。
(いつか、600ページあるこの本を一杯にしたいなぁ)
最初はただ暇潰しをしようと始めた事であったけど、やっていく内に楽しくなってきて、今ではこの本を一杯にする程魔法を開発したいと言う初めての将来の目標まで出来た。今はまだ殆んど埋める事は出来ていないから、目標達成のために何十年……いや、何百年もの時間がかかる事が予想されるけれど、飽きずに続けたい。
(あれ? いつも食事を運んでくるメイドさんが来ない……また何かあったのかな?)
羽ペンを走らせ、空白の部分に『雷天の矢弾』を構築する術式について書き込んでいた時、ふと頭の中にそんな事が浮かんだ。私に良くしてくれているメイドさんの作る料理を食べながら物思いに耽ったり、魔法の改良アイデアを出すのが楽しみだったのだけど、来ないものは仕方ない。料理を食べながらでなくともアイデアは出るし、物思いにだって耽られるし、読書だって出来るのだから。
(そう言えば、あのメイドさんと全然会ってないけど……元気かな? 死んじゃう前に、会えれば良いなぁ)
そうして次に頭に思い浮かんだのは、幽閉前に姉様2人以外の人で1番親しかったあのメイドさんの事だった。年単位でもう顔はおろか、声すら聞いていないから今どうしているかが全くもって不明であったからだ。
私が幽閉している間にもう1度会って、元気な姿を見てみたい。あまり時間が経ってしまうと、ずっと無病息災であってもどうしようもない『寿命』が来てしまい、会えなくなってしまうからだ。向こうから来てくれれば嬉しいのだけど、父様が止めてしまうから難しいだろう。ただの人であるメイドさんに、吸血鬼に対して真っ向から力で抗える訳がないから、しょうがない。
(どうにかならないかな……父様)
一瞬だけ父様がどうにかならないかと言う妙な考えが頭に浮かぶも、流石にそれは不味いだろうと思い直した。まあ、思い直そうが直さまいがどちらにしても、私には祈る事しか出来ないけど。
そんな事を考えながら羽ペンを走らせていると、開発した魔法について、いつの間にか魔導書に必要な部分を書き終えていた。なので私は、ちょうど眠かった事もあってすぐにベッドに横になり、考え事でもしながら眠りについた。
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