「お父様……どうしたの? リーシェの部屋に来るなんて珍しいじゃない。何か用事?」
「そうだ。と言っても、用があるのはレミリアにフランじゃなくて、リーシェにだが」
「父様が私に用事……?」
「ああ、お前のお披露目だ。気が進まんが」
この部屋に滅多な事では訪れる事のない父様の登場に、私は面食らうと同時に少しだけ身構えた。放つ雰囲気がいつもの感じではなく、何らかの不満や怒りを抑え込んでいる時みたいだからだ。こちらを見ても何も言わない事から、自分に対する何かではない事は理解出来た。
そう言う雰囲気を醸し出しつつ、話を中断させるタイミングで私の部屋に訪ねてきた父様に対して、レミリア姉様は少し驚きつつも何か用事でもあるのかと聞くと、父様はそうだと言って頷いた。ただし、私への用事であるらしいけど。
父様曰くスカーレット家の三女、つまり私が産まれた時に恒例のお披露目をしようとしたけど、今までなあなあにしてきたらしい。
「ふーん……そう言えばあったっけ。誰が見に来るのか知らないけど、どうせソイツらもリーシェを貶すに決まってる。
私の翼にすら『吸血鬼らしくない』って貶す奴らも居たくらいだから」
「……どうしてもやるの、お父様?」
「ああ」
するとそれを聞いた瞬間、フラン姉様から笑顔が完全に消え去った。瞳の色がほんの少しだけ濃くなり、得体の知れない圧力を放つようになる。レミリア姉様も同じく笑顔が消え去り、私の方と父様を交互に見た後、どうしてもやるのかと問いかけてくれた。
お披露目をやるかどうかの結果は変わらなかったけど、余程私の事を心配してくれているのだと、嬉しく思った。
(それにしても、フラン姉様も容姿の事で貶された事があるんだ……翼の宝石、綺麗なのに。私が貶されても平気なのに、姉様が貶されたって
3人の会話を聞きながらそんな事を考えていると、父様が私の手を掴んで連れて行こうとしたので、それについていく事になった。
「リーシェ……」
「フラン姉様、私は大丈夫だから……行ってくる」
「……うん」
悲痛な面持ちのフラン姉様たちに見送られながら、父様と一緒にお客さんが居ると言うエントランスへと向かった。そして到着すると、そこに居る吸血鬼らしき男の人が私の姿を目に入れるなり……
「ああ……なるほど。お前が渋っていた理由が良ーく分かった。こんな姿じゃなぁ……」
「……」
容姿を貶してきた。まあ、フラン姉様が翼を貶された事があると聞いてから予想はしていたし……て言うか、そもそもこの程度では不意打ちされても何とも思わないけど。
その後も色々と、よくもまあそんなに思い付くなと感心するレベルで貶してきて、父様はそれを黙って見ているだけと言う退屈な時間が続く。
「用事はそれだけ? 私の容姿の事を貶すなら気の済むまで勝手にやって良いから、本を読みに部屋に戻らせてくれない? 退屈なんだけど……」
「「……」」
あまりにも長いこの退屈極まりない時間に、別の意味で耐えきれなくなってきた私は思わずそんな事を言ってしまい、この場の空気を凍りつかせてしまった。その後、怒りか何かに震えるお客さんを見て、止めれば良かったと後悔しても後の祭りであった。
(どうしよう……謝ったら許してもらえるのかな……!?)
謝ったら許してもらえるのだろうかと考えていると突然、ここに居たら死んでしまうかもしれないと言う危機を感じた。なので、半ば反射的に後ろに飛び退くと、さっきまで居た場所に眩い光の柱が立つのが見えた。
(……危なかったぁ)
とんでもない威力だった。もしも避けられなければ、最悪消し飛んでいたかも知れないと言う事実に身震いしていると、またしてもあの不快感を感じた。すると、今度は何故か『全魔力を使った攻撃をする』事を思いつき、違和感を感じたもののそれを実行する準備に入った。
「今度こそはぁ!!」
「……今!」
そうして物凄いスピードで迫ってきたお客さんに対して、全魔力を込めた大きな光弾を放ち、上手く命中させる事に成功した。しかし、その反動を抑えきれずに後ろへ吹き飛ばされて壁に叩きつけられてしまった上に、魔力枯渇による疲労感から動けなくなってしまった。
「なんて威力だ……しかし、もう動けないようだなぁ!」
「……」
おまけに当てた相手は無傷とは行かないものの、まだまだ余裕を持って動けると言うアドバンテージがある。どちらが有利なのかは火を見るよりも明らかだった。
このままでは命が危ない、何とかしなければと思った。しかし、動けないこの状況だと何のしようもない。どうしたら良いのだろうと思っていると、父様がお客さんの前に立ち塞がり、行動を止めてくれた。
「貶す程度ならまだしも、流石にそこまで許可はしていないし、するつもりもない。そこまでにしておけ」
「それくらい、アイツにはやって良い――」
言っている事はあれだが、ひとまず私の命は守ってはくれるらしい事は分かって安心していると、さっきまで全く感じなかった母様の気配を後ろに感じたので、振り向いてみた。
「ごめんね……リーシェ」
すると、そこには私に申し訳なさそうな表情を見せながら、父様たちに対する滾る怒りを露にしていた、母様が居た。
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