「リーシェ! どうして、弱ってたのにあんな無茶をしたのさ! 貴女を守るために私たち……頑張ってたのに!」
リーシェの身を削る一撃によりお父様が放置しておいても死ぬ状況にまで追い込まれた後、倒れたあの子を介抱するため私とフランは駆け寄った。先ほどの一撃で魔力を使い果たしていたらしく、リーシェから感じる力が弱々しいものとなっている。
館に襲撃者が来たあの時のように自分の身体の事を考えず、無茶をしたリーシェに対してフランが泣き声をあげながら感情を露にし始めた。自分たちはリーシェを守るために頑張ったのに、その本人が無茶して傷ついたら意味がないだろうと言う思いと、姉妹3人で楽しく笑って暮らす事が出来なくなるかも知れないと言う悲しさが入り交じっているのが良く分かった。私だって、フランと似たような感情を抱いているからだ。
「だって……ごほっごほっ……ふぅ……ふぅ……」
「ちょっ、血を吐いてるじゃない……フラン! 貴女の気持ちは痛い程分かるけど、今は喋らせては駄目よ!」
そんな風に感情を露にしたフランを見て、リーシェが何とか言おうとした時、突然苦しみながら咳き込み始めた。それだけなら良かったのだけど、同時に血まで吐き始めると言う今までにない光景を見て一瞬だけ物凄い悪寒を感じ、脳裏に最悪の事態が過る。
(これは相当不味いわ……早くどうにかしないと、リーシェが死んじゃう!!)
リーシェから感じる魔力の異常な少なさと、苦しみながら血を吐くと言う事から、生命維持のための魔力までも無理やり絞り出して先程の一撃を繰り出したと言う事が分かった。要するに、このまま何もしなければ胴体に大穴のあいたお父様と一緒に死んでしまう訳なのである。絶対に避けなければならない。
「フラン! 私は急いで大図書館に行って、回復系の魔導書に役に立ちそうな本とか先に探してるから、貴女は館のメイドたちを連れてきて!」
「分かった!」
ただ、どうにかしようにも私やフランは簡易的な回復魔法しか使えず、更にこの館にはそれ専門の魔導師が1人も居ない状況である。外から専門の魔導師を呼んでくる時間も残されていない。なので、私は大図書館から回復系の魔導書やその他役立ちそうな本を探す事に決め、フランにはそのための人手を集めに行ってもらう事に決め、それをお願いして了承をしてもらった。
「さようなら、お父様。リーシェを殺そうとするのは一生許さないけれど、感謝している部分もあるわ」
「ふん……」
メイドさんを呼びにフランが出て行ったのを確認した私は、死にかけのお父様に対してリーシェを殺しかけた事は許さないと宣言しつつ、今まで受けた恩に関しては感謝している部分もあると告げた。それからすぐ、私は死にかけのお父様にグングニルを突き刺して息の根を止めた。
(リーシェやフランに
最大の事を済ませた後、頭の中で親殺しの咎を止めを刺した私1人で負う事を決意し、苦しみのあまり気を失ってしまっていたリーシェを背負い、大図書館へと向かった。
それからは、なけなしの魔力を使って下級悪魔を出来るだけ召喚して、リーシェの身体を癒すために目的の物を探す人手を増やした。かなりの広さを誇る地下の大図書館には、何年経っても読みきれない程の量の本があるため、フランの連れてくるメイドたちだけでは人手不足が否めないからだ。
「さて、お前たち。よろしく頼むわよ」
「「了解です!!」」
召喚した悪魔たちに、回復系の魔導書や他に役立ちそうな本を探すように指示を出した後、私も彼らと一緒に魔導書や本を探し始めた。
「お姉様ー! 連れてきたよ!」
「あら、早いわね。じゃあ、貴女たちもフランから聞いたと思うけど、よろしくお願いね」
「「承知致しました!」」
探し始めてから10分後、フランが館に居るメイドの3分の2に当たる60人のメイドを連れてきて図書館へと入ってきた。なので、彼女たちにも悪魔と協力して目的の物を探してもらうようにお願いし、気を失っていたリーシェをフランに任せ、再び探索を始めた。
「あのぉ……レミリア様。これなんかどうです? 死にかけている妹様、リーシェ様でしたよね。彼女を助けるには、僕的にはこの秘術しかないかと思いますが、如何でしょう?」
「……確かに『
「はい。この秘術、名前の通り……1人の生け贄が必要です。それも、生け贄となる者の心からの同意が必要と言う、厳しい条件がありますね」
そうして、館の住人や召喚した悪魔たちと共に気の遠くなる程ある本の中から目的の物を探し始めてから2時間、1人の気の弱そうな悪魔から声をかけられ、『秘術大全集』と言う本に載っていた秘術『命の贈り物』のページを見せられた。
本によるとこれは、どんな回復魔法でも治療不可能な大怪我や病気、呪いなどを治し、魔力なども全回復させる効果のある光の雫を生成する、回復系術技の極致とも言える技のようだ。で、この光の雫による治癒効果はありとあらゆる妨害が意味をなさない程強力なものであるらしい。
しかし、それを生み出す対価として1人の命を必要とし、更に命を差し出す人物が心の底から対象に自身の命を差し出す事に同意すると言う条件が必要との事。当然、脅迫や洗脳と言った強制的な手段では生成は不可能であるようだ。
(私やフランは3人で笑いあったりしたい思いがあるから無理、美鈴やメイドたちだっていくら仕えてるとは言え、流石に吸血鬼に命をあげるのは躊躇うだろうし……)
まあ、これ程までに強力な秘術なのだから、条件は厳しくて当たり前と言うのは分かっていたけど……この条件は流石に厳しすぎやしないかと思った。この館に居るメイドたちは殆んど自由意思でここに居るのだけど、吸血鬼に心から命を差し出すような人物が存在するとは思えなかったからだ。
「リーシェ様を
頭の中で色々と思いを巡らせていると、沢山のメイドたちが居る中から私の下に歩いて近寄って来て、私の命を使ってくれと迷いなく言ってきた1人のメイドが居た。それは、私とフラン以外では断トツでリーシェの事を心配し、幽閉されていた際の夕食作りを毎日やっていた、専属と言っても差し支えない人であった。
言いたい事は沢山あったけど、その瞳を見て命を差し出すと言う言葉が本気だと直感した私は、とにかく秘術大全集を見ながら2つの魔方陣を、寸分の狂いもないように時間をかけて展開させた。そうして出来た青い方にリーシェを寝かせ、赤い方にリーシェのメイドに立つように指示を出す。
「もう一度聞くわ。貴女はリーシェに、その命を差し出す意思が
「はい、レミリア様。私はリーシェ様を救うために、この身の全てを差し出す覚悟はあります」
そして最後に、リーシェのために命を差し出す覚悟があるかと問い、リーシェのメイドが迷いなく覚悟があると言い切った瞬間、彼女の身体から虹色の光の粒子が1つ、また1つと立ち上り始め、青い魔方陣の上空に集まり始めた。
「っ! なるほど……これが、秘術で命が失われていく感覚ですか。相当の苦痛は覚悟していましたが、まさか襲い来るのが『心地よい眠気』とは思いませんでしたよ……」
すると、同時に生命力を吸い取られて力が抜けたリーシェのメイドが床に座り込み、虹色の光が青い魔方陣の上空に集まる様をじっと見つめていた。起こっている事はあれだけれど、生命の輝きが一点に集まるその様子は、思わず見とれてしまう程の美しさであった。
「最後に1つ……どうして、貴女は命をかけてまでリーシェの事を想っててくれたの? 吸血鬼なのよ、あの子」
秘術が発動してから15分経ち、彼女の命がもうすぐ失われようとしている時、ふとそんな事が気になって聞いてみた。吸血鬼であるリーシェに心から命をかけても良いと思える、何か特別な理由があると思ったためだ。
「気まぐれ……とでも思っておいて下さいませ……」
しかし、彼女は私たちに理由を教える気が全くないらしく、気まぐれとでも思っておいてくれと弱々しい声で最期にそう言った後、眠るようにして息を引き取った。
同時に、青い魔方陣の上空に集まっていた虹色の光の塊から一滴の光の雫がリーシェの身体に滴り落ち、水面に水滴が落ちた時と同じような感じで光の波紋がゆっくりと広がり、それに応じてリーシェから感じる魔力が加速度的に増えてくるのを私とフランは実感していく。
「ん……」
そして10分後、苦しみで気を失っていたリーシェの瞳が、ゆっくりと開くのをこの場に居る全員がしっかりと確認を済ませた。
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