(うーん……
私が初めて紅魔館の住人以外と会って話をした日からあっという間に5年もの月日が経った頃、私はいつも通り自分の部屋へと籠って『誘導陣術』の研究に勤しんでいた。
研究当初に頓挫しかけたものの、計算方法をガラッと変えたり図書館の魔導書を読み込んで勉強した結果の術式の改善と、負担軽減のための呪文詠唱を取り入れる事によって何とか消費魔力を当初の3分の1へと抑え、付与した魔法の威力と射程距離の大幅減衰の問題も解決へと導く事に成功した。
しかし、それでもこの魔法を組み込んだ攻撃の最大射程距離は100mを僅かに超える程度に留まり、計算上威力も普通の人間や弱い吸血鬼には十分過ぎるまでにはなったけど、並以上の吸血鬼や優れた魔導師や吸血鬼狩りが相手では力不足が否めない。誘導性能も補助に使える程度ではあるけど、使い物にならなかったあの時よりは格段に進歩していると言える。まあ、それでも実戦で使えるのかと聞かれたら、欠点がありすぎて無理だと答えざるを得ないけど。
(ふぅ。やる事が多いけど、頑張る……あっ)
誘導陣術のみに集中出来たら今頃もう少しは進歩していただろうけど、そう言う訳にも行かない。能力の扱いに他の魔法の研究と改良、弓や人を殺さない吸血の仕方の練習だってあるし、それにレミリア姉様やフラン姉様との触れ合いだってある。これらを全ておざなりにしてまで一極集中するなど、私の身の安全を棒に振っているのと同義だから、一極集中したい気持ちはあっても抑えて均等にやっていかなければならない。
そんな事を考えつつ、メイドさんの淹れてくれた紅茶を飲みながら悩んでいた時、急に頭の中に魔法の研究が上手く行きそうなアイデアが浮かんできた。何故急に浮かんできたのかは分からないし、上手く行くかなんて分からないけど、取り敢えずそのアイデアを術式構成に組み込んで机上で計算をしてみた。
「よし! でもまさか、こんな簡単な事に気がつかなかったなんて……恥ずかしい」
今まで暗礁に乗り上げていた射程距離の問題解決に光明が見えてきたため、嬉しさのあまり声をあげると同時に、恥ずかしさで顔が赤くなるのが、
まあ、魔法を嗜む誰かに見せるか見られて指摘される前に気づけたなら良しとしよう。そう思いながら、私は術式再構築の作業に入った。普通なら相当な時間を要する作業ではあるものの、今回は一部の要素を消去・追加して調整を加えるだけであるため、余程馬鹿な事をしてしまわない限りそれ程の時間は必要ない。
(ここをこうして……あの構成は要らなかったら消して……)
そうして数時間の作業の後、上手い事要素の消去と追加と調整を終えた。これで、理論上では最低限実戦に使えるレベルには達したはずなので、後は地下室で実際に発動させてみてどんな感じになるのかを見るだけとなった。
なので私は、今書いていた魔導書と愛用の羽ペンを持った後、カップに残っていた紅茶を飲み干してから部屋を出て地下室へと歩みを進めようとした。
「あっ、リーシェ様またいつもの地下室に魔法の試し撃ちに行くんですかー?」
すると、ちょうどそのタイミングで部屋の前に来ていたとあるメイドさんに声をかけられ、これから地下室に行くのかと声をかけられた。フラン姉様が半年前に『狩り』に出た際、人が出歩かない真夜中に1人で町の外を歩いていたのが気になって連れてきたと言っていた9歳の女の子で、エルと言う名前のメイドさんだ。勿論、人間である。
最初は私よりも3㎝くらい小さな9歳の女の子に吸血鬼の館で働かせるのは常識的にどうかと思ったが、何故か本人が私と姉様2人に懐いて働くのにノリノリで、かつ館の他のメイドさんたちが彼女をえらく気に入ると言う展開があったため、レミリア姉様が正式に雇って今に至っている。
「うん、そうだよ」
「やっぱり。で、それは急ぎですか?」
「いや、必要な事はこの本に書き込んであるし、今すぐやらないと不味いって事はないから、特に急いでないよ」
「なら、それは後にした方が良いですよー? リーシェ様が構ってくれないって不機嫌そうにしてましたから」
「あっ……」
そんな感じでエルがここに来た経緯を考えつつ、魔法のために地下室に行くのかとの問いに対して肯定の意を示したら、それは急ぎなのかと更に問いかけてきた。普段はそこまで聞いてこないのに、今日に限ってどうしてそこまで深く聞いてくるのかと疑問に思いつつも、特段急ぎではないと言う事を伝えたところ、それなら後にしておいた方が良いとの忠告を受けた。
エル曰く、フラン姉様が最近私が構ってくれないと不機嫌そうにしていたからと言うのが、忠告の理由であるらしい。それを聞いて、私の頭に心当たりがいくつか浮かんできたため、これは魔法の試し撃ちどころではないなと理解した。
「教えてくれてありがとうね、エル」
「いえ、お気になさらずー」
なので、その事を教えてくれたエルにありがとうとお礼を言いつつ、私は急いでフラン姉様の部屋に向かう事に決めた。
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