「リーシェ、大丈夫? 本当、アイツらいきなりでイラッとしたなぁ」
「うん。私は凄く疲れただけで、怪我はないから。それよりも、フラン姉様は大丈夫?」
「全然大丈夫だよ! まあ、憂さ晴らしに時間かけすぎて私も疲れたけどね」
襲撃を仕掛けてきた聖魔騎士団と戦って勝利したものの、消耗が激しかったのもあって生き残った敵の撤退を完全に見送った後、戦闘前とはうってかわって清々しい表情をしたフラン姉様に大丈夫かと心配をかけられていた。
私自身、能力と魔法の使用でかなりの疲労が溜まってはいるものの、相手の攻撃には一切当たっていないため、怪我は全くなかったため、フラン姉様の問いに対して問題ないと答え、逆に姉様の方が大丈夫なのかと聞き返した。
しかし、流石はフラン姉様だった。普通であれば魔法銀によってつけられた傷は再生能力がかなり阻害され、自然治癒では若干厳しめであるにも関わらず、殆んど治っている。これが私であれば、恐らく今頃回復魔法のお世話になっていた事だろう。
「そんな事よりも、リーシェのあの『イチイバル』って魔法、凄かったけどもしかして……私との初めての1つなの?」
「鋭いね。確かに、イチイバルは完成したら最初にフラン姉様に見せようと思ってた魔法だよ。本当なら、こんな初披露になるはずじゃなかったんだけど……」
魔法銀でつけられた傷ですらほぼ普通に自然治癒させてしまう、フラン姉様の再生能力の高さについて考えていると、私が戦闘中に放った『【神弓】イチイバル』について、フラン姉様から私との初めての1つなのかと聞かれた。
確かに、今のような事がなければ地下室へと向かい、的を用意して当てて見せてフラン姉様に披露し、喜んでもらうつもりであった。そのため、これが初めて見せるつもりだった魔法だと答えた。
「そっか……えへへ、私もリーシェに
「あんな状況だったのに、フラン姉様は満足なの?」
「うん! だって、あんな状況でリーシェの初披露の魔法を見るなんて事、そうそうないでしょ? だから、私的には大満足だよ!」
「うーん……まあ、本人が満足なら良いかな」
すると、フラン姉様は図らずもあのタイミングで初めて見せる事となったイチイバルをとても喜んでくれたらしく、満面の笑みを浮かべてお礼を言ってくれた。それを聞いた私は、あんな状況だったのに満足だったのかと、フラン姉様の表情を見れば分かるような質問をしてしまい、案の定満足だったよと返された。
私的には落ち着いた状況で見せてあげたかった気持ちが拭えないけれど、当の本人が満足そうにしているのを見て、まあ良いかと納得する事に決める。
「はぁ……はぁ……リーシェ、フラン! 大丈夫だった!?」
「あ、レミリア姉様。凄く疲れたけど、私は大丈夫だったよ」
「私もリーシェと同じで、全然平気。それよりも、お姉様の翼と美鈴の怪我が……」
「私の翼に空いた穴の事なら大丈夫よ。すぐに治るから。それに、美鈴も怪我自体はしてるけど、命に影響する程ではないから安心しなさい」
そんな時、館の出入り口の扉が勢い良く開き、翼に穴が開く怪我をしたレミリア姉様と、大小様々な傷を負っていた美鈴が中に入ってくると、私とフラン姉様の下へと駆け寄ってきて、怪我などがないかと念入りに聞いてきた。私としては怪我をしている2人の方が心配なのだけど、見た目に反して大した事なくすぐに治る程度のものらしいので、ホッとひと安心だ。
「いやぁ……私とした事が油断してしまい、レミリアお嬢様の翼に穴を開ける怪我を負わせてしまいました。申し訳ないです」
「この程度の怪我ならすぐに治るから、そんなに気にしなくても良いわよ。むしろ、聖魔騎士団の上位者2人を相手に、あそこまでやり合えるなんて凄いと思うわ。サボったせいならともかく、必死に頑張っていたせいで生まれた隙なのだから、仕方ないわよ。美鈴」
「そう言って頂けて、恐縮です」
私と姉様2人のでそんな会話を交わしていると、美鈴が突如レミリア姉様に頭を下げ、怪我をさせてしまった事を謝罪し始めた。美鈴曰く、レミリア姉様の翼の怪我は油断してしまった自分を庇ったが故のものであるらしい。
ただ、レミリア姉様は然程気にしている様子などはなく、むしろ上位者相手に善戦していた事を褒め称え、励ましていた。それを聞き、仕えている主に自分のせいで怪我をさせた事を気にしていた美鈴は心のつかえが取れたらしく、表情を和らげて少しだけ微笑んでいた。落ち込んでいる美鈴は見たくなかったから、元気になってくれて良かった。
「さてと、状況確認はこれまでにして……後始末しなきゃね。3人とも、手伝える余力はあるかしら?」
「うん。戦うのは無理かもだけど、それ位なら問題ないかな」
「私は全然問題ないよ!」
「疲れはありますが、その程度であれば。ですが、それにしても何か色々と飛び散ってて、片付けが大変そうですね……」
「あはは……これ、殆んど私のせいなんだよね。ごめんなさい」
そうしていると、レミリア姉様が館の後始末をするから手伝えるかと私たちに聞いてきた。私的には、戦う体力はないけれど後片付けを行う体力程度ならあると思っているので、問題ないと答えた。後に続き、フラン姉様と美鈴も同様に問題ないと答えた事で、臓物などが飛び散ってて地獄と化したエントランスの後始末を始める事となった。
死んでしまっている人の一部は危険な装備品を剥いだ上で保存魔法のかけられた食糧庫に置き、残りの死んでいる人たちは庭の一点に集め、レミリア姉様の結界魔法で囲った後にフラン姉様の超火力の火炎魔法で焼き始めた。戦った後にこれ程の魔法をホイホイ出せる姉様2人に、私は内心とても凄いと思った。まあ、私が軟弱なだけなのだろうけど。
その間、私やいつの間にか出てきていた食事や清掃担当のメイドさんたちと一緒に館の清掃を始め、飛び散った血などの汚れを清掃用魔法道具で一切の残しがないように一生懸命頑張った。
「凄いよね、メイドさんたち。普通の人だったら、この状況で耐えられないのに……ありがとう」
「まあ、私たちはお嬢様方の食事担当なので、この位なら余裕で許容範囲ですが……お褒め頂き、光栄です」
「それに、吸血鬼の館に仕えているならこれ位耐えないと、やってられませんわ。そうでしょう? リーシェ様」
「あぁ……うん、確かに。でも凄いと思うのは変わらないかな」
メイドさんたちとそんな会話を交わしつつ、少し経って死んだ人たちの処理を終えた姉様2人も加わり、数時間かけてようやく襲撃前と殆んど変わらない状態にまで仕上げる事に成功した。担当のメイドさんたちと比べたら動きも掃除の腕も良くなかっただろうけど、聞いたらお疲れ様ですと普通に言われただけなので、特に問題はなかったのだろう。
「ふぅ……これで疲れを癒したら、4人で聖魔騎士団の対策を練りましょう。存外厄介な奴らだったからね」
「確かにそうだね、レミリア姉様」
「まあ、実際その通りだったし」
「そうですね。私も実際に戦って、そう実感しましたから」
そして最後に、全員で聖魔騎士団の再度の襲来に備えて対策を練る事を誓って、波乱の1日は幕を閉じる事となった。
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