「良く頑張りましたね、リーシェ。それと、先ほども言いましたけれど、本当にごめんなさい。あの時から見ていたのにも関わらず、まごついてすぐに助けに行けなくて……」
「全然気にしてないから大丈夫だよ、母様……」
父様たちに対する静かな怒りを露にしている母様は、申し訳なさそうな表情を見せた後、優しく抱き抱えてくれた。その後、あの時私が謎の力で窮地を切り抜けていた時から見ていて、まごついたりしなければすぐに助けに行けたのにごめんなさいと、気の毒に思えてくる程謝ってきた。
私としては、今回の出来事に関しては母様は悪くないと思っている。もしかしたら、他の人たちにはそうは見えないかも知れないけど、そんなのは知らない。少なくとも私はそう思っているから、母様に気にしていないと言う事を伝えた。
「リーシェ、本当に優しいのですね。ただ、それだと自分自身が許せなそうなので、これが解決したら何か貴女が欲しい物をあげたり、私にやって欲しい事をやるつもりでいます」
すると、母様の顔が少し緩んだものの、まだ責任は感じているらしい。この騒動が終息したら、私の欲しい物をあげたりやって欲しい事をしてあげると、そう面と向かって言ってきた。
ただ、いざそう言われるとなかなかこれと言った物や事が出てこない。本にしろ絵を描く道具にしろいくらあっても嬉しいし、母様にやって欲しい事だってそもそもの話、一緒に居るだけで幸せなためである。
「思い付かないから、後で決めても良い? 母様」
「勿論ですよ、リーシェ。では、それについては後で聞きますね。さてと……」
色々な考えが頭の中を巡り、今すぐ決められない。だから、後で決めても良いかと聞いたら、勿論だと言ってくれたので考える時間が出来た。
そうして母様が一息つくと、今までの慈愛に満ちた感じとは一転し、凍てつくような瞳で父様たちを見据え、背中に背負っていた金色の弓を手前に持ってくる。次に魔法陣から月光の輝きを放つ矢を取り出すと、弓にそれをつがえた。
「この状況、どう説明してもらいましょうか……? まあ、大体は見当がつきますし、最後の辺りは目にしていましたけれど、こう言うのは本人の口から話してもらわないと駄目ですからね」
普段であれば魔力や妖力の総量的に父様の放つ圧力が勝っているものの、今の母様は父様を軽く凌駕する力を放っている。滾る怒りによって、出せる力が倍以上に増えているのだろう。
「えっと、これは何か――」
「あ、1つ言い忘れてました。もしも、話に嘘偽りがあると判明した場合は……」
そんな母様に気圧されたお客さんが何とか説明をしようとした時、母様はつがえた矢を頬に掠るか掠らないかのギリギリの場所に放ち、後ろの壁に大穴を開けた。
「貴方の身体に大穴が開く事になりますよ。あの後ろの壁のように」
「……」
で、間髪入れずに壁の大穴を指差してからお客さんの心臓辺りを指差し、次に大穴を開けられるのは貴方の番であると宣言した結果、怯えたお客さんが今までの流れを一字一句全てを正直に話す。
しかし、それによって母様の怒りが収まる事はなく、結局はお客さんと父様の首根っこを掴むと、私に『ごめんなさい。ちょっと行ってきます』と笑顔を見せてから、地下室へと2人を引きずって行った。
(流石、怒ると怖いなぁ。母様は)
あらゆる吸血鬼を凌駕すると言える力で2人を引きずっていく母様を見て怖いと思いつつ、何だか嬉しい気持ちに少しばかり浸っていると……
「何か凄い音がしたけれど……大丈夫かな、リーシェ」
「大丈夫よ、フラン。リーシェが居なくなる運命は一切見えなかったから」
私の部屋の方から、姉様2人の会話が聞こえてきた。凄く心配してくれているようで、今すぐにでも目の前に現れて無事である事を表明したかったけど、使いきった力がまだ回復してないせいで疲労感が凄くて動けず、見つけてもらうまで待つしかなかった。
「……あ、フラン! リーシェが居たわよ!」
「本当だ……ねえ、リーシェ。大丈夫? 凄く辛そうだよ?」
「うん、大丈夫だけど……魔力使いきって疲れちゃった……」
「そうなんだ……じゃあ、私が部屋まで背負ってってあげるね!」
「ありがとう、フラン姉様。お願い」
「うん、任せて!」
待つ事およそ10分、レミリア姉様が疲れきって動けない私を見つけると、同じく私を探していたフラン姉様をこちらへと呼び寄せてきた。そして、凄く辛そうだけど大丈夫かと、私を心配してくれた。
だから、その問いに対して大丈夫だけど魔力を使いきったせいで疲れた事を伝えると、フラン姉様は動けない私を背負って部屋まで運んであげると言ってくれたので、言葉に甘えて運んでもらう事に決めた。
途中、レミリア姉様から何があったのか聞かれたので、今まであった出来事を事細かに全てを話した。すると、一瞬怒りを露にするも、母様が地下室に2人を首根っこ掴みながら引きずって行ったと伝えたところで、いつもの姉様たちに戻った。
「お母様が怒ってるなら大丈夫だね、お姉様!」
「ええ。それにしても、リーシェに『能力』が発現してて良かったわ。でなければ、大変な事になっていたかも……」
「うん。本当に謎の能力に目覚めたみたいで、良かったと思ってる」
そんな会話をしつつ、背負われながら部屋へと戻った後はフラン姉様とレミリア姉様に着替えも含めて、身の回りの世話をされた。恥ずかしかったけど、動けないし色々汚れたままでベッドに寝る訳には行かないのでしょうがなかった。
「あら……リーシェ、凄く眠そうね」
「まあ、魔力全部使ったんだし、眠くなるのも無理ないよ。お姉様」
「確かにそうね。リーシェ、ゆっくりおやすみなさい」
「うん……お休み、レミリア姉様」
身の回りの世話をされた後はベッドに寝かされ、姉様たち2人に両端から見守られながら、安心感から私は気絶するようにして眠りについた。
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