(ふぅ……)
聖魔騎士団の襲撃があってから、早いもので10年もの平和な月日が過ぎたある日、私は自作の他の魔法研究と平行して今までやった事がなかった『防御系』や『補助系』の魔法の練習をしていた。
何故なら、襲撃の日から何日か後にあった対策の話し合い……半ば振り返りとフラン姉様の反省会と化したあの時に、レミリア姉様から本格的な協力をお願いされたからだ。
今までは能力による回避と探知、遠距離系の攻撃魔法研究に集中していたが故に、防御系や補助系の魔法は練習や研究を殆んどしていなかった。
しかし、姉様2人の背中を預けられた以上は練習せざるを得ないし、大きな戦闘経験が2度しかない私を信頼してくれたのだから、それに見合う働きを見せなければならない。
更に付け加えれば、魔導師相手に攻撃魔法のみでは不安過ぎてしまう。姉様2人に致命傷は負わせやしないと言う決意もあったから、あまり成果が振るわなくても、私のやる気もそれなりの水準を維持出来ていた。
「相変わらずですねー。リーシェ様、たまにはご自愛してくれないと、レミリア様やフラン様も心配しますよ?」
「ちょっ……! せめてノックぐらいしてから入ってきてよ、エル。もし私が着替えてて、素っ裸だったらどうするつもりだったの?」
そんな事を頭の片隅で考えながら、いつも通り魔導書を読みつつ何故か他の魔法に比べて会得しにくい防御系や補助系魔法の術式を解読していると、ノック音なしに突然扉が開いて、中にエルが10年前の子供だった頃のテンションで入ってきたのを確認した。
来た当初は水色の髪で青い瞳の可愛い女の子であったけど、今では見た目なら美しい大人の女性と化していた。メイドさんとしての仕事も文句無しの出来で、他のメイドさんたちをまとめる役割もそつなくこなしていたのは良いものの、ほぼ小さい頃の性格そのままで成長してしまっている。
故に、何の脈略もなく私を含めた姉妹3人の誰かの部屋に押し掛けてきて遊びに来たり、背後から抱きついて来るなどの行動が目立っている。まあ、私も姉様2人も悪い気は全くしてないから行動自体は止めるつもりはないけど、ノックもなしに部屋に来られると流石に困る。特に着替えの時なんかに来られた日には、同性であろうとも顔から火が出る程には恥ずかしい。
「どうもしませんよー? 私が
「いや、普通は同性だろうと長く共にしている人同士でも気にする物なんだけど……」
だから、エルに対して部屋に来る時にはせめてノックぐらいはしてくれないと、着替えをしてた時なんかは恥ずかしくて困るからと言ったものの、前から長く居る上に同性なんだから別に気にしないで良いだろうと言って聞かなかった。子供だった時とは訳が違うんだけど……まあ、何度言っても自由奔放なあの性格は治った試しがないから、もう諦めて自分で対策しておかなければと思った。
「失礼するわよ、リーシェ……って、エルも居たのね」
「レミリア姉様にフラン姉様、どうかしたの? 何か用事?」
「ええ。実はね、今から私とフランで『狩り』に行こうと思ってるのだけど、リーシェ。貴女も行かない? 突然すぎるのは承知しているのだけども……」
そんな感じの思いをエルに抱いていると、開けっ放しにしてあった扉からレミリア姉様とフラン姉様が改まった感じで部屋に入ってきた。こう言う場合は何らかの頼み事をしてくる場合が多いため、どんな用件かと身構えていると、人間の村に『狩り』に行くので一緒に行ってみないかと言うお誘いであった。
姉様2人曰く、一緒に狩りに行きたいと言うのもあるけれど、1番は生きている人からの吸血や私の存在で恐怖を与えるなど、
それに、今までやむを得ず人を殺すなんて事はあっても、私の方から攻め込んで人を殺すなんて事はなかった。無闇にただ殺しまくるだけと言うのは論外だけれど、どのみち自分や姉様2人の生きる糧を得る程度には殺さなければいけない。今まで食べてきた食事の中にだって、姉様2人が狩ってきた人間が入っている事が何回かあるのだから。
「分かった。姉様2人の足を引っ張らないように頑張るから」
「あら、断られると思ってたのだけど……意外ね。まあ、そう言う事なら精一杯サポートするわ」
「やったぁ! リーシェも一緒に狩りに行ってくれる!」
色々と頭の中で考えに考えた結果、一緒に狩りに向かうべきだと判断した私は姉様2人にそう伝えたところ、レミリア姉様には意外だと言う顔をされた。私の今までの行動を見ていて断られる事前提で提案してきたのだろうから、レミリア姉様が驚くのも納得である。ただ、フラン姉様はそう言うの云々よりも一緒に行く事が出来ると純粋に嬉しがっていた。
「リーシェ様が自分からお出掛けとは、明日は雨ですかねー? まあそれは良いとして、行ってらっしゃいませ。私、ご無事をお祈りしておきますねー」
「ありがとう、エル。じゃあ、行ってくるから」
そうして、エルから無事を祈られながら私たち姉妹は、人間の村に狩りに向かうために館を飛び立った。
と言うか今更気づいたけど、飛行速度は姉様2人の方が速かった。今までまともな飛行訓練をした事がなかったから仕方ないとは言え、これではいざと言う時に困るだろう。狩りから戻ったら、飛行訓練にもある程度の時間を割こうと私は決意する。
「姉様たち、飛ぶの遅くてごめん……」
「良いのよ、気にしなくても」
「そうだよ! むしろ、飛行訓練してない割には結構速いじゃん!」
「そうかな……? ありがとう」
姉様2人とそんな会話を交わしていると、遠目に村らしきものが見えてきた。フラン姉様曰く、今日狩りに行くのはその村であるらしいけど……
「煙……? 火事なのかしら?」
「さあ、どうなんだろうね。まあ、とにかく注意して行ってみるしかないよ! お姉様!」
「確かに、私も
どう言う訳か、村の中心部付近から煙が立ち上っているのが見えた。もう既に他の吸血鬼に襲撃でも受けていたのだろうか。
そんな事を考えながら、姉様2人と共に私は煙が立ち上っている村へと警戒しつつ向かって行った。
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