「ちょっとお姉様……あれって不味くない?」
「ええ、誰がどう見ても不味いわね。まさか、私たちが狩りに行こうとしたら『魔女狩り』が行われるところを見る事になるとは思わなかったわ」
あの後、煙が立ち上る村の様子が見える位置まで近づいてみた時、私たちはある光景を目撃してしまい、レミリア姉様の隠蔽魔法を使って上空に留まらざるを得なくなってしまった。その光景とは、1人の魔法使いの女性が何らかの手段で拘束され、炎が燃えたぎっている巨大な箱のような物の中に入れられそうになっているものであった。
私の記憶と大分違うものの、やっている事自体は『教会主導の魔女狩り』そのものである。図書館の本で見たり、他の人から聞いた事はあっても、実際に目撃するのは初めてだ。
レミリア姉様の話や図書館の本の情報では、魔女さんの大半は何もしていないのに罪をでっち上げられるか、酷い時には視界に入ったと言う理由だけで死罪になる事が多いと聞いた。今回のあの魔女さんも、そう言う類いであんな状況に陥っているのだろうか。
「お姉様。あの魔女さん、助ける?」
「ええ。正直人助けってがらじゃないけど……と言う訳でリーシェ。あの魔女を害する奴らの始末、よろしく頼むわ」
「え? 姉様じゃなくて、やるの私?」
「そうよ。初手を私がやると、失敗する運命しか見えないからね」
「……分かった。じゃあ、その間周りの監視をお願い」
すると、レミリア姉様からあの魔女さんを現時点で害している人間を始末してくれとお願いをされた。曰く、自分自身でやると失敗してしまう運命しか見えないかららしい。フラン姉様でも同様との事。
出来るのが貴女しかいないと言われれば、自分がやるしかない。そう思った私は能力を発動させ、まず最初に魔女さんとその周辺に居る人物の位置情報を正確に取り入れた。
(紫髪の魔女さんの魔力はこうで、その周りの人の魔力は……凄く嫌な感じなのが分かりやすくて助かるよ、本当に)
次に、紫髪の魔女さんの魔力を紐付けして、万が一の際に私の放った魔法が彼女を自動で避けるか自壊して消滅するようにしておく。
「『遥か古代の神の矢よ、我が前あらわる幾多の敵――』」
そして、最後に『【神弓】イチイバル』の魔法詠唱を始め、魔女さんの周りを最優先として、危害を加えてきそうな人物を合わせた17人に狙いを定めたけど……
「ん? 上空に高魔力反応……っ! 触れざる天使に、レミリアとフランドール!? こんな時にぃ!!」
レミリア姉様の魔力隠蔽魔法を貫通し、詠唱中に感づかれてしまう。どうやら、狙う対象の中に居た探知系魔法を使っていた魔導師に引っ掛かってしまったらしい。
と言うか、そもそもこんな近距離で魔力を長時間垂れ流していれば、いくらレミリア姉様の隠蔽魔法があっても魔導師であれば大半は気づいてしまうだろう。自分自身で隠蔽魔法を覚えていなかった事が悔やまれた。
「そりゃ長ったらしく詠唱してれば気づかれちゃうか……仕方ない!『【神弓】イチイバル』!!」
ただ、そんな事を今更悔やんでも仕方ない。今はひとまずレミリア姉様にお願いされた魔女さんの救出を最優先するため、私は詠唱を途中で破棄し、略詠唱にして負担度外視で速攻で2本の矢を生成した後、すぐに下に向けて放った。
そうして放たれた矢は空中を1秒から2秒程度飛翔した後、合計20本もの魔法矢へと分裂して、私が狙った対象に向かって青白い尾を引きながら向かって行く。その様子を見ながら、青白い尾を引きながら飛んでくと結構目立つから、推進力に他の目立たない方法を考えておいた方が良いかも知れないと、ふと思った。
「うぁぁ……腕がぁ……」
「身体が痺れて言う事を聞かねぇ……雷魔法か!」
「これでは、魔女を処刑するどころではありませんね……」
「あの距離から頭を撃ち抜くとは……なんと言う狙いの正確さなんだ、化け物め!」
しかし、これで終わりではない。何故かは分からないけど弱りきっている魔女さんを守りつつ、私たちの目的を達成しなければならないからだ。なので、私は1番経験豊富なレミリア姉様に魔女さんの守りをお願いして、フラン姉様と私で『狩り』をする事を決める。
と言ってもやる事は館の防衛戦と殆んど変わらず、敵をフラン姉様と協力をしてたまに血が美味しそうだと感じた人間たちに接近し、首筋に噛みついてその血を頂くだけである。本当はそれだけではなく、身体ごとゆっくりそのまま食べてしまいたいと言う欲求はあったけど、この状況でそれをしてしまって何か不利益を被る程、私は馬鹿ではない……はず。まあ、吸血行為の際に感じる快感や食事欲に靡きかけてる時点で、本能が若干優勢であるのは間違いない。
「はぁ……はぁ……ふふっ」
そうして、敵からの自分やフラン姉様に対する攻撃を捌きつつ、少しずつ魔女さんを殺そうとしていた人たちの血を飲んでいると、今までにない程の満たされる感じが私の身体を駆け巡った。辺りに漂う血の匂いも合わさって、半分位は本能に負けているのが自分でも良く分かっているけれど、うっかり皆殺しにしてしまわないように残りの理性で何とか抑え込もうと努力した結果、私の理性が優勢になっていった。
「ひ、ひいぃ! あぁぁぁ……」
「こんなの勝てる訳ねぇ! スカーレット家総出とか無理だ! タイミング悪すぎだろふざけんな!」
「天使が血を浴びて悦に浸ってる……いや、見た目がそうなだけで吸血鬼だからおかしくはないのですが……」
「とにかく、魔女処刑云々は中止して逃げるぞ! 聖魔騎士団の上位者クラスが居ない時点でまともな戦いになるわけがないからなぁ!」
そんな中、フラン姉様が
「レミリア姉様、どうする? 追撃しに行く?」
「いや、私たちは別に皆殺しに来た訳じゃないから放っておいて良いわ。食糧もしばらく分確保出来たしね」
「なるほど。分かった」
なので、レミリア姉様に追撃をするかと聞いてみたところ、目的は達成出来たし皆殺しに来た訳じゃないから放っておけと言ってたため、逃げていく敵に関しては無視する事に決まった。
こうして、初めての私の『狩り』は幕を閉じる事となった。
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