「いやぁ……流石、スカーレット家の当主とそのご家族方でしたね! 未だ子供ながら、1000年単位で生きる吸血鬼も真っ青なご活躍をされるとは、いやはや恐れ入りました」
「最小限の動きで多数の敵を屠るレミリア嬢、ただ純粋なまでの狂気と力で敵の攻撃をはね除けて聖魔騎士団を始末したフラン嬢、遥か遠くから敵を射抜く正確さ、浴びた者を塵と化す程の強烈な雷を操り、ついぞ敵に少しの接触すら許さなかったリーシェ嬢……誰が付けたのかは知らないが、触れざる天使と言う異名は言い得て妙だな」
とあるお客さんに強く誘われ、レミリア姉様やフラン姉様と共にドレスで着飾って『勝利の祝宴』の行われている吸血鬼の館に居た私は、そこでのテンションの高さに辟易していた。
確かに、聖魔騎士団との戦いでの私の活躍を褒められるのは悪い気はしないけど、大きな声と高ぶる気分に身を任せたそれをもう少し、どうにか出来ないのだろうかとは思う。まあ、勝利を祝うための宴なのにしんみりしているのもおかしいから、これが正しいのだろうけど……やはり、私はこう言う場所は苦手だ。
「ふふっ、凄いでしょ? フランとリーシェは。私の自慢の妹よ!」
「えへへ……お姉様とリーシェは凄いもんね!」
正直、今すぐ理由を付けて帰りたくなってきた。なのだけど、体調が悪い訳でも、精神を抉るようなトラウマを抱えている訳でもないし、一緒に居るだけで辛くなるような人物が居る訳でもないのに、帰るのはやはり不味い。
まあ、実際に帰りたいと言わないのは、誘われて了承したのに嘘ついてまで帰るのは良くないと思っているからと言うのが理由ではなく、私と一緒に行けるのを嬉しがっていた姉様たちをガッカリさせるのが忍びないのと、満面の笑みで楽しそうな様子を見せる姉様たちを見てると、心が癒されるからだ。だから、余程の事が起らない限りは帰るつもりはない。
「お姉様。リーシェ、何だか元気なさそうだよ? もしかして、帰りたいのかなぁ……」
「ん? あら、本当ね……リーシェ。フランはああ言ってるけど、実際のところどうなのかしら? 帰りたかったら言ってね」
なんて事を頭の中で考えていると、そんな私の考えを察したらしいフラン姉様がレミリア姉様に、私が帰りたいと思っているのかもしれないと言い、それを聞いたレミリア姉様が私に本当なのかどうかを聞いてきた。
レミリア姉様は表情に現れてはいなかったけど、フラン姉様の表情には分かりやすく、一緒に居たいから出来れば帰って欲しくないと言う気持ちが表れていた。実際に声に出して言わないのは、私の事を良く考えてくれているからだろう。
「ううん、違うよレミリア姉様。こう言う賑やかな場所に着飾って来るのは初めてだから、気圧されるだけなの」
「なるほど。確かに、リーシェはこう言う賑やかな宴に参加するの初めてだものね……フラン、ただ単に初めてで不安がってるだけで、帰りたい訳じゃないみたいよ。良かったわね」
「うん……リーシェ! 私が一緒に居てあげるから、安心して大丈夫だよ!」
「ありがとう、フラン姉様。頼りにしてる」
そんなフラン姉様を見た私は、折角楽しそうにしているのに私のせいで落ち込ませるなんてとんでもないと思い、咄嗟にあながち嘘とも言い切れない言葉を思いつき、帰りたいのかと聞いてきたレミリア姉様にそう答えた。
すると、レミリア姉様は確かにと納得してくれたようで、私が帰りたくないらしいとフラン姉様に伝えてくれた。その結果、フラン姉様の表情にはみるみる笑顔が戻り、自分が常についていてあげるから安心して大丈夫だよと私に言ってくれる程になる。後は、実際にある帰りたいと言う気持ちを悟られないように、立ち振舞いに気を付けよう。
「はぁ……良くもまあ、他人とあんなに盛り上がれるよね。私には無理かな」
「本当、そう思うよ! 私も館の皆とならともかく、流石に他人とはあそこまで盛り上がるまでにはならないなぁ」
「フラン姉様も? へぇ、いつも誰と会話する時でも元気一杯だから、こう言う時はあれ位盛り上がれると思ったんだけど、なんか意外だね。レミリア姉様なら納得だけど」
「うん。確かに、お姉様はリーシェに近い感じだからね」
それからは特筆するような出来事はなく、大食堂に用意されている多種多様な料理と、メイドさんがテーブルに2つ用意されていたワイングラスに注いでくれた人の血とワインを味わいつつ、騒いでいる吸血鬼たちを遠目で見ながらフラン姉様と話をしたりしながら過ごしていた。ちなみに、レミリア姉様は祝宴に同じく来ていたレイブン家や、その傘下の吸血鬼一家の面々たちとの対応のため、この場を離れている。
「お前たちが、後衛のお前たちがちゃんと守ってくれなかったから……!」
「ちょっ、落ち着いてくださいませ! 祝宴の席で暴れるのは不味いですって!」
「知るか! お父様が死んだのに、お祝い気分で居られる訳ない!!」
そんな時、誰かの大声とお皿やグラスの割れる音と、それを必死に止めているだろうメイドさんの声が、私とフラン姉様の耳に入ってきた。
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