「エル。今日のリーシェの寝てる時の様子はどうだったかしら?」
狂った吸血鬼の始末を済ませてから3年程の月日が経ったとある日、私はエルを自室へと呼び出し、リーシェが寝ている間の様子を聞き出していた。何故なら、その情報から悪夢を見ている間隔や強度を予想して、それに合った対策をパチェと一緒に議論するためである。もう1つは、朝から夕方までは私も寝ていて、その間の様子を見る事が不可能であるからと言うのもある。
ただ、エルの報告を元にすると、3年前のあの日を境として悪夢を見る間隔は急激に延び、夢を見る時間も最後の惨い光景を殆んど見る事がなく目覚められる程にまで、極端に減少している事が推測出来た。このままの調子でどんどん良くなれば、パチェとの対策の話し合いに使った手間と時間を全て水泡に帰す事にはなるだろうけど、それに越した事はない。
ちなみに、ここまで急激に調子が向上した原因については一瞬悩んだけれど、すぐにフランの吸血行為によってリーシェに与えられた強烈な快楽が、悪夢を打ち消す寸前にまで追い込んだからと言う考えが浮かんだ。しかし、そうだと言う確信が未だ持てずにいたし、そもそも証拠がない。当然、リーシェに直に聞けば早いだろうけど、聞いてはいけないような気がしてならないので、この件については後で考える事にしよう。
「就寝時のリーシェ様の様子ですかー? それなら私の目から見た感じですけど、1週間前と比べて……そうですね。
「ただ?」
すると、エルはリーシェが寝ている時の様子について、1週間前と比べて圧倒的に良く見えたと答えた後、何かを話そうとして言葉に詰まらせていた。1週間前と比べてまた急激に良くなった理由もそうだけど、言葉に詰まった理由の方も気になったため話の続きを促したところ、エルは再び言葉を発し始める。
「今日、夕方にお部屋に行った時に寝起きのはずなのに、激しく運動をした時みたいに何故か汗だくになってたんですよ。今までも寝汗を結構かいてましたけど、今日程酷くはなかったので言いませんでしたねー」
「へぇ……他には?」
「他には、そうですね。ベッドに腰かけていたリーシェ様に話しかけても上の空だったみたいで、しばらく気づいてもらえなかった位です」
「なるほど」
何でも今日、寝ていたはずなのに寝汗にしてはかきすぎな量の汗をかいていた上に、話しかけても上の空であって中々反応してくれなかったりと、今までにない様子の変化が見られたらしい。今まで寝汗の件について報告しなかったのは、かいても常識的にはギリギリおかしくないレベルのものだったからなのと、問いかけに対する反応が鈍かったと言う出来事が起こらなかったためのようだ。
「エル。その事について、リーシェから何か聞いてないかしら?」
「残念ながら、聞いてないですねー。あっ……そう言えば、今日部屋にリーシェ様と一緒に居たフラン様も、同じような感じでしたね。リーシェ様程の量の汗はかかず、上の空にも至ってませんでしたが、恍惚の表情を浮かべてはいました。ちなみに、その後2人は駆け足で入浴しに行きましたよー。洗濯物も、それなりに血とか汗で汚れてたので、先ほど洗面所に新しい服とタオルを置きに行きましたし」
「ん……?」
そんな事があったなんて、大丈夫なのだろうか。そう思った私はすぐさまエルに何があったか聞いていないかと尋ねてみたところ、何も聞いていなかったと答えた。で、間髪入れずにリーシェの部屋には同じく血で汚れ、汗だくであったリーシェとフランが入浴しに行ったと言うところまで話を聞いて、様子がおかしかったのはあの時のような吸血行為があったためだと理解が出来た。
が、それなら血で汚れるだけならまだしも、汗だくになるとは考え難い。吸血行為以外に激しめのスキンシップをしていたのだとしか考えられないが、それが何かまでは流石に予想は出来なかった。一体何があったのか、少し気にはなるけれど……あの時以来、リーシェの精神は安定の方向に向いているから、追及はしないでおこう。
と言うか、あの時はともかくとして、フランだけリーシェを存分に堪能していてズルい。リーシェの部屋と言う邪魔の入らない空間で2人きりで吸血しあったり、スキンシップを堪能したり、一緒のベッドで寝たり……流れに上手く乗ったフランが、凄く羨ましい。
私も上手く流れに乗りたいけど、あの時のフランに来たみたいにそう都合良く乗れる流れなんて来ないだろう。ならば、そのためならば、私は能力を全力で使ってでも流れを手繰り寄せるか、むしろ作ってみせよう。
「えっと、お話し中のところを申し訳ないのですが……レミリア様にお手紙が来ておりますので、ご覧の程をよろしくお願い致します」
「ええ、ありがとう。下がっても良いわよ」
なんて感じで、他人どころか館の皆にバレたら恥ずかしい煩悩まみれの思考を巡らせながらエルと会話を交わしていると、筒状に丸められた紙を持ったメイドの1人が私のところへと近寄ってきて、それを手渡してきた。曰く、私への手紙らしい。
レイブン家の面々からの手紙か、他の同格の吸血鬼一家からの手紙なのか、はたまた別の誰かからの手紙なのか、そんな事を考えながら開いて読む。
「……」
そこに書かれていたのは、息子や妻が突然何者かも分からない存在に誘拐され、居場所も何も分からなくてどうにも出来ないから助けて欲しいと言う、とある弱小吸血鬼一家の主からの依頼の手紙であった。
何でうちにこの手紙を寄越して来たのかは全く不明だし、普段なら受けないと言う選択肢もちらついただろう。しかし、私の勘がこの依頼をすぐさま受けるべきであると強く主張をしてくるため、受ける事に決める。
そうなると、戦闘スタイルとあらゆる危機を察知する能力を持ち、副次的に探知に優れているリーシェを連れていく事は自明の理となる。連れていかなくても不可能ではないけど、極めて長い期間を要する事になってしまうためだ。で、勿論館の守りの事を考えると全員を連れていく訳にもいかないため、今回はフランに留守番をしてもらう必要が出てくる。
「エル。フランとリーシェを呼んできてもらえる?」
「フラン様と、リーシェ様をですか? 分かりました」
なので、この事を伝えるためにフランとリーシェをエルに呼んできてもらうように頼み、その間に私はいつでも出発出来るように準備を始めた。
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