「保護対象の吸血鬼の護り、侵入者の内訳に妙な奴らの増加……面倒な仕事が増えたわ」
何者かに誘拐されたからどうにか探し出し、救出してくれとの依頼を受け、色々と想定外の出来事が起こりながらも何とか大人の女吸血鬼とその子供である吸血鬼の救出を達成して、館で保護する事になってからあっという間に1年が経った。
一時的にではあるとは言え、保護対象の吸血鬼が館の住人となる事によって、私たちの生活は良くも悪くもかなり変化したと言えた。
具体的に挙げるなら、良い意味では姉妹の仲がより深まって、リーシェやフランとふれあう頻度が増えた事だろう。
特に、悪夢の件も落ち着いてきたのか、何かと部屋から自分の意思で出る事が結構少なくなったリーシェが私を心配し、大好きな魔法研究に使う時間を割いて部屋を訪れ、一緒に居てくれる時間が増えたのは嬉しかった。
加えて、フランとだけしていたふれあいを、頼んだら私ともよくしてくれるようになったのには感動すら覚えた。その内容はとても口に出せたものではないけど、これが私の活力源の1つとなっている。
悪い意味の方も具体的に挙げるなら、館全体に多少なりともピリピリしたムードが漂う様になった事だろう。理解を得ているとは言え、可愛い妹2人や館の住人たちに余計な面倒事を振りかけ、それによる負担を強いている訳だから、本当に申し訳ない。
後は、保護対象の彼女が未だに殆んど私たちと意思疎通を図ろうとしてくれない事だろう。まあ、こっちに関してはやむを得ない事情がある上に不都合もほぼ起こってないし、部屋に殆んど閉じ籠って無闇に出歩かれなければ守るのも容易くなる。時間をかけて心を開いてくれれば良し、最後まで開いてくれなくても特に問題は起こらないから、見方によって良いとも悪いとも言えるだろう。
(ふぅ……)
こんな感じで、何だかんだ面倒な出来事が増えたのは事実としてあるけど、今すぐ保護対象の2人をどうにかして追い出し、依頼など知らぬ存ぜぬを突き通すと言う選択肢を取れば即座に面倒事を消し去る事は可能だ。しかし、これは当たり前だがやらない。
何故なら、いずれ私を含めた皆に『破滅』を押し付ける羽目になってしまう可能性が高いからだ。まあ、そんな行為なんて可能だったとしても、元から一切やろうとは思わなかったけれど。
「レミリア姉様、大丈夫? ご飯の時間、1時間位過ぎてるよ。一緒に食べに行こう」
「あら、そうなの? 分かったわ」
そんな事を考えながら当主としての仕事をしていると、知らない間に部屋に入ってきていたリーシェにご飯の時間だと、そう声をかけられた。どうやら、私が色々と考えながら仕事をしている間に食事をする時間をとうに過ぎていたらしく、心配して来てくれたようだ。
もう少しで必要な分の仕事は片付きそうだったから、食事は後にしようかと思ったけれど、リーシェの表情を見てそんな気は即座に失せた。なので、今やっている仕事は一時中断し、一緒に食事を取りに行く事に決めた。
「あっ、お姉様! 早く来て、一緒に食べよう!」
「お待ちしてましたよ! お仕事、お疲れ様ですー」
「来たわね、レミィ。今日は貴女の好みのメニューらしいわよ」
そうして、リーシェと一緒に食堂へと足を踏み入れた瞬間、フランやエル、パチェや館のメイドたちから一斉に労いの言葉をかけられた。
しかも、皆がまだ出されていた食事に手をつけず、私の分だけ出来立てかつ好みの料理が出されていた上、更に『お疲れ様です』と垂れ幕までかけられていた事に気がついた。そんな素振りは見なかったと記憶しているのだけど……いつの間にこんな準備を済ませていたのだろうか。
「レミリア姉様。何度も言うけど……仕事が辛かったら、私たちを頼って。私とフラン姉様を楽させたいって思ってくれてるのは嬉しいし、これをいつも無理ばかりする私が言っても説得力薄いと思うけど……今の姉様、凄く辛そうに見えるから」
「うん。私もリーシェと同じ事を思ってるからさ、お姉様。辛い時位、仕事を丸投げして休んでくれても良いんだよ? あっ……私たちが仕事をしっかり出来るか心配だと思うけど、出来ない事があったら一生懸命勉強するから」
で、相変わらず美味しいエルたちの作る食事を味わって食べつつ可愛い妹2人やパチェ、美鈴たちと話し始めて少し経った頃、リーシェから不意に『仕事が辛かったら私たちを頼って』と言われた。どうやら、リーシェから見た今の私がとても辛そうに見えるらしい。
そしてフランに至っては、出来ない仕事に当たったら勉強をしてでも知識を会得して、私を休ませたいみたいな事まで言ってきた。他にもエルや美鈴、パチェまでもがリーシェの話に同意して『ちょっとは休め』とか『趣味の時間を作れ』とか、内容は違えど私を気遣う内容の言葉をかけてくれた事から、皆もフランやリーシェと同じ様に私が見えているようだ。
確かに、女性吸血鬼を流れで保護してからやる事は増えたりして前よりも大変にはなったけれど、その分姉妹3人の仲が深まり、一緒に過ごしたりする時間も増えたから、辛くて仕方ないと思った事はない。
しかし、それはもしかしたら私の感覚がおかしくなってしまっただけで、実際に身体に辛さが来ていて、それを皆が察知している可能性もなくはない。だから、いずれ訪れるかもしれないその時のために、フランとリーシェにお願いする事に決め、言葉をかけた。
「気を遣ってくれてありがとうね。今日はまだ大丈夫だけど……じゃあ、その時があったらお願いするわ」
「えへへ……任せて、お姉様!」
「うん、勿論だよ。レミリア姉様」
すると、2人は私を助ける事が幸せだと言わんばかりの笑顔を見せながら、任せてくれと言ってくれた。
これで、本当に辛いと思った時は丸投げしても良くなったけど、そうやって丸投げをする度に妹2人の時間が潰されていくと言うのは、どう足掻こうと事実として存在するのは間違いない。
だから私は、仕事の丸投げは自分の体調などと相談して不味いと思った時だけにして、安易な理由で仕事を丸投げする事のないように自制心を強く持とうと誓った後、ひとまずこの場は皆との楽しい食事と会話だけを楽しもうと決め、止まっていたフォークを再び動かして料理を口へと運んだ。
ここまで読んで頂き感謝です。お気に入りや評価をしてくれた方に感謝です。感想を書いて下さった方も、ありがとうございます。