目覚めたら、レミリアとフランの妹になっていました   作:松雨

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失敗恐怖症の新人メイド

「うーん……駄目だ。全然進まない……」

 

 とある日の夜、用事で来たパチュリーと一緒に自分の部屋で過ごしていた私は、日課である魔法研究を始めていたものの、すぐに頭を抱える事になってしまっていた。

 その理由は、姉様2人のためにパチュリーの助けを借り、6年前の最高の思い出となった誕生日会直後から開発を始めた『超回避陣術(アヴォートサークル)』と言う、私の生まれ持った能力を参考にした、敵からの不意打ち攻撃を反射的に回避する魔法の術式の構築が、ある時を境として殆んど進まなくなったためである。

 

 原因としては、パチュリーの試用の際に数々の欠点が芋づる式に挙げられてしまい、それらの解決のために術式大幅再構築をせざるを得なくなってしまった事が大きかった。後は、平行して開発中の別の魔法に手を回す必要があったと言う理由も、小さいながらあった。

 

 とは言え、前述のトラブルが全く起こらずに全てが順調に進んでさえいれば、一昨年の今頃までに術式を分かりやすく書いた紙を、姉様2人をデフォルメした絵と一緒に贈る約束を余裕で守れていただけあって、ドンドン先延ばしになった事に対して悔しい思いで沢山だった。なので、時間の3分の2を割いてまで術式大幅再構築に労力を回し、これ以上は延ばさせないと気合いを入れて臨んだりもした。

 

 ただ、結果が約束を守れなかった事を謝りに行った時に笑顔で許してくれた姉様2人の事が頭に浮かび、これ以上は延ばせないと焦る気持ちも合わさり、余計に進まなくなってしまう。当然、これは姉様2人のせいではないけど、今の私は完全に底無し沼に嵌まったような感じになっていた。

 

「リィ。焦る気持ちは痛い程分かるけど、この様子だと今やっても時間の無駄になると思うから、一旦それから離れて別の魔法の研究でもやるか、別の事をして遊んだりしながらリラックスをするのはどう?」

「別の魔法の研究か、リラックス?」

「ええ。例え、今の再構築してる魔法を速攻で完成させたとしても、リィが体調とか気分を考慮せずに無理して作ったと分かれば、手放しに喜んでくれないだろうから」

 

 すると、自分の時間を割いてまで私に色々と助言を与えてくれたりしているパチュリーから、これ以上やっても時間を無駄に投げ捨てる事になってしまうだろうし、いっそのこと他の魔法を研究するか別の事をしてリラックスでもしたらどうかと言ってきた。

 曰く、例えこのまま時間を割いて完成させたとしても、今の無理している状態では姉様2人に喜んでもらえないのではと思ったからとの事。その言葉に対して、私はぐうの音も出なかった。

 

「うん。確かにその通りだね、パチュリー。ちょうど血も飲みたくなってきた事だし、気分転換も兼ねて一緒に食堂に行かない?」

「ええ、良いわよ。時間は有り余る程あるし、付き合うわ」

 

 と言う訳で、一旦この魔法の研究から離れてリラックスに時間を割こうと決めた私は、ちょうど血を飲みたい欲求が出て来始めたのもあって食堂に行く事を提案し、パチュリーに了承されたため、早速部屋の扉を開けて向かおうとした。

 

「リィさん! 避けて……!」

「えっ……うわっ!?」

 

 すると、その瞬間に私から見て左の方から『避けて!』と、切羽詰まった感じで呼び掛けるメイドさんの声が耳に入ってきた。一体どうしたのかと思い、そう呼び掛ける声が聞こえた方向に振り向いたところ、眼前に特殊加工が施された血液保存用のティーポットが、何故か蓋の取れた状態で飛んで来ていたのが見えた。

 

 当然、そこから撒き散らされる事となった人の血は、避けようともせず呑気に振り向いた私にくまなく降りかかり、血まみれ状態となってしまった。匂いも良く、顔を伝って口の中へと入ってきた血を飲み、凄く美味しいと感じただけにかなり勿体ないなと思ったけど、そんな事よりも床に顔から突っ伏していた、綺麗に黒と白が半分ずつで分かれた不思議な髪を持つのが特徴の、14歳のメイドさんである『クレイナ』の方が心配であるため、声をかけた。

 

「えっと、クレイナ? 大丈夫?」

「はい。わたしの方は大丈夫ですけど……それよりも、ごめんなさい! 大切なお洋服が血まみれに……えっと、お怪我はありませんでしたでしょうか!?」

「私なら全然平気だし、パチュリーも大丈夫だって」

「そうでしたか……本当、紅魔館に来てから何かとご迷惑ばかりかけてて……すみません」

「そんなに思い詰めなくても大丈夫。わざとじゃないって、皆も私も分かってるから」

 

 どうやら、転んだ時にティーポットから溢れた血でメイド服が汚れてしまってはいたものの、怪我などは運が良かったらしく、一緒に持ってきていた割れたグラスで少し手を切ってしまった程度で済んでいた。大した事がなくて、ホッとひと安心である。

 

 その際、紅魔館に来てから迷惑ばかりかけて申し訳ないと冷や汗を垂らしながら謝罪をしてきたけど、わざとじゃないのは理解してるため、即座に思い詰める必要なんてないと笑顔で言って安心させた。

 

 何故かは知らないけど、ほんの小さな失敗ですら極端に恐れる性格のクレイナにとって、ティーポットの中身を雇い主の妹である私にぶちまけると言う失敗は、もはや死と同義だと宣告されているようなものであるためだ。

 2週間前、狩りにレミリア姉様と一緒に行った時の半ば強制的な流れで連れてきた時、私ですらやる事のあるほんの小さなミスをしただけにも関わらず、震えていた事からこの事実が判明した。

 

 故に、メイドの仕事を彼女に教える事になっているエルたちに対して、失敗した時の注意の仕方や怒り方、その後のサポートにも気を遣う様にと、レミリア姉様が皆に注意喚起した位である。

 

「うーん……無理して持ちすぎよ。もう少し、手に持つ物の量を減らした方が良いわね。今回はこの程度の怪我で済んだけど、大怪我する事もあるかもしれないのだから」

「勿論です! パチェさん、これからしっかり気を付けます! それと、リィさん。後片付けまでやってもらって、本当にすみません……」

 

 そして、私とクレイナがそう言うやり取りを交わしつつ後片付けをしていた時、回復魔法で彼女の軽い怪我の治療を終えたパチュリーが、無理して手に物を持ちすぎであると指摘し、次からはもう少し量を減らさないと大怪我をしてしまうかもしれないと、注意をした。

 結果、元気良く気を付けますとパチュリーに宣言をしていたため、この件についてはもう大丈夫だろう。クレイナは同じ失敗を2度した事は、今のところメイドの仕事の練習以外ではないためだ。

 

「私がやりたくてやった事だし、大丈夫だよ。それよりも全身が汚れちゃったし、今からお風呂に入ってくるね。だから、汚れた衣類の洗濯をお願い」

「分かりました! お任せ下さい!」

「ありがとう。じゃあ、パチュリー。また後でね」

「ええ、また後でね」

 

 それから、後片付けまでやってもらってすみませんと謝ってきた事に対しては、私が勝手にやっただけだから気にしなくても良いと言いつつ、血まみれとなったためにお風呂に入ろうと決め、その際に汚れた衣類の洗濯をお願いする事にした。

 

 結果、これについてもクレイナが快く了承してくれたため、ありがとうとお礼を言った後に、私はお風呂へ入りに浴室へと向かった。

 




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