「クレイナ。エルの体調が優れないってその話、本当なの?」
「はい。本当ですよ、リィさん」
いつものように魔法の研究を行いつつ、4年目に突入した姉様2人のために開発している魔法の大規模術式再構築がようやく終わりの兆しを見せようとしてきた時、私は自室へと訪れてきたクレイナから聞いたある話に、思わず顔をしかめてしまった。
何故ならその話の内容が、エルの体調が優れない事をメイドさんたちが発見、休めとの命令を下して欲しいとのお願いがフラン姉様経由でレミリア姉様に伝えられ、その命令でしばらく仕事を休む事になったと言うものだったためである。
曰く、身体を動かす度に痛みが走ると言う不調らしく、その強さはメイドの仕事の時は勿論の事、日常生活にも多少影響している程だと言う。
しかも、普通なら参りそうな痛みであったにも関わらず、それを長い間隠して仕事をしていたと言う訳だから、メイドさんたちが命令を下して欲しいと願うのも、それを聞いたレミリア姉様が即決で命令を下して休ませようとしたのも理解出来た。
昔よりも減ってきたものの、今も度々似たような案件で姉様2人から怒られたりしている私が言えた義理ではないけれど……エルはもう60歳なのだから、これを機にそろそろ自分の身体を労って、働く日数と時間を大幅に減らして欲しいと思う。
「分かった。じゃあ、エルのところに行ってくるね。伝えに来てくれてありがとう、クレイナ」
「どういたしまして、リィさん!」
頭の片隅でそう考えつつ、私はエルの体調が優れない事を伝えに来てくれたクレイナに対してお礼を言った後、今やっていた全ての魔法の研究を一旦放り出し、メイドさんたちの部屋へと向かっていった。その際にどうか、体調が優れないとは言ってもそんなに酷くありませんようにと、願うのも忘れない。
そして、エルの休んでいるであろうメイドさんたちの部屋へと足を踏み入れると、ベッドで寝転がっているエルの側に、楽しそうに会話を交わすレミリア姉様とフラン姉様が居るのを見つけた。私よりも先に来ていたみたいだけど、この話は先に姉様2人に来ていたのだし、当たり前だろう。
「あっ、リーシェ! エルが体調良くないって聞いたんだ!」
「うん。今さっき、クレイナから聞いたよ。だから、魔法の研究を途中で放り出してきたの」
「へぇ……やっぱり、リーシェも私とお姉様と一緒で、エルの事が好きなんだね!」
「勿論だよ、フラン姉様。エルは、私たちの大切な
「ふふっ……確かに、当然の答えよね」
頭の片隅でそんな事を思い浮かべていると、部屋に訪れた私に気がついたフラン姉様から、エルの体調の事を聞いてやって来たのかと声をかけられた。勿論、この部屋を訪れたのはそう言った理由があったからであるため、その問いに対してそうだと答えた。
で、私がそう答えたのを聞いたフラン姉様が、自分やレミリア姉様と同じでエルの事が好きなんだねと言ってきたので、それは当然だと強く同意を示す。何せ、姉様2人は別次元なのは言うまでもなく、他の館の住人たちも私にとって、命をかけても守りたいと思える大切な家族と同等の存在だと認識しているからだ。
ちなみに、そんな私の様子を見ていたレミリア姉様は、まるで最初からそう答えるのが分かっていたかのような反応を見せていた。私がメイドさんたちの中でも1番良く話すのがエルだし、そう言う反応にもなるのだろう。
「エル。体調が良くないって聞いたよ? 結構無理してたみたいだけど、大丈夫なの?」
「えっと……レミリア様とフラン様には説明しましたけど、のんびり日常生活を送る位であれば、まあ大丈夫ってところですね。メイドの仕事に関しては、出来なくはないけど動きがあるから痛くて辛いと言ったところです。その……隠しててすみません、リーシェ様」
姉様2人とそう言うやり取りを交わした後、私はベッドで寝転がって休んでいるエルのところへと向かうと、今の体調について大丈夫なのかと聞いた。ここに来る前にクレイナから既に詳細は聞いてはいたけれど、一応本人からも聞いておきたかったからだ。
まあ、案の定クレイナから聞いた通りの内容であったため、それについては特段驚きなどの感情は発生しなかった。しかし、最後に黙っていて申し訳ないとエルが謝ってきた時に、何故今まで隠していたのかが理解出来た気がした。
当然、そんな気がしただけであって、実際にそうであると言う根拠なんて何もないけど……私には、そうとしか思えなくなっていた。
「ううん。エルの気持ち、たった今痛い程分かったから謝らなくても良いよ。それよりも、その話は終わりにして姉様たちと一緒に、楽しくお話しない?」
「お話……確かに嬉しいですけど、リーシェ様。どうか、私よりもご自身の趣味を優先して下さいな」
だから、申し訳なさそうに謝ってきたエルにその事で謝らなくて良いと答えた後、その話を終わりにして自分を含めた4人で、満足するまで楽しく話でもして過ごさないかと提案を持ちかけた。
すると、少し嬉しそうな様子を見せつつもすぐに真面目な表情へと戻り、私よりも『魔法の研究の方を優先して下さいな』と、気を遣う発言をしたのを聞く。どうやら、この部屋に入ってきた時のフラン姉様との会話で、魔法の研究を途中で放り出してきたと私が言ったのを、しっかりと聞いていたらしい。
「エル。魔法の研究を途中で放り出したのは、私の固い意志なの。だからね、私の事は考えずに貴女の気持ちだけを考えて良いよ」
「分かりました。では……お時間と気持ちの許す限り、今日はよろしくお願いします」
しかし、魔法の研究を途中で放り出したのは、あくまでも趣味であるそれよりも、エルの体調や気持ちの方が大切であると考えているからに他ならない。なので、私の事は気にせずに自分がどうしたいのか決めて欲しいと、そう伝えてみた。
結果、それなら時間と気分の許す限りはお願いしたいと言ってきたため、元から居る姉様2人とエルの団らんの場に、私も加わる事となった。
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