一は全、全は一。故に二人は全と一   作:鉤森

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はいお久しぶりです。明けましておめでとうございます。


まさかこっちが続くとは思わなかった。ちょっとおねショタのリハビリがてらに書いてたら出来てしまったので、出しときます。


暇つぶしにでもどうぞ?


「水姫」と「悪魔」

懐かしい、夢を見た。

 

 

「"『ありえない』なんてことはありえない"。

 

ンン、そうですねぇ。最初の講師としてマスターに起用されたガリィちゃんから、赤豆ボウヤに憶えておいて欲しい言葉はまずコレですかね。」

 

 

謡うように、どこか芝居めいた口調で、美しい少女の姿をした人形が告げる声。文字通りというか物理的に尻に敷かれた状態で講義されるという屈辱的な情景に、痛みに、エドワードは酷く覚えがあった。…ああ、忘れるハズもない。これは今や馴染みに馴染みつつある「鋼」の手足を貰う以前の、修行用として与えられた左脚の可動脚(シャクレス)で明け暮れた修行時代。痛みと共に刻まれた、その頃の記憶だと、エドワードは理解した。

ならば人の事を散々っパラ蹴り倒し投げ倒し、仕舞いにはご丁寧に可動脚(シャクレス)を凍て砕いてまで動けなくしたガキの頃の自分を尻に敷くのは、鮮やかな青い洋装に身を包んだ自動人形(オートスコアラー)「ガリィ・トゥーマーン」に他ならない。

 

キャロル曰く、「性根の腐ったガリィ」。彼女は最初にエドワードの元に寄越されたキャロルの端末であり、いうなれば四機(よにん)の内で最も古いエドワードの師に当たる。その身には最も多く傷を、痛みを、教授(おしえ)を刻まれた。故にこそ、本人こそ自覚していないが確かにエドワードの内で、ガリィという存在(かぞく)はやや特別な位置にあった。こうして何度も、夢として想起する程度には。

 

これはそんな彼女との、最初の授業の記憶(ユメ)だとエドワードは気付く。だが気付いたからと言って夢は止まらない。刻み込まれた傷をなぞるように、記録された過去を再生するように、夢は進んでいく。

 

 

「もしもマスターの奏者(マスター)たらんとするのなら、今後『ありえない』なんて言葉は使わない事です。ありえない、不可能。それこそが人外共が好んで掲げ、人類の認識と未来に植え付けた『奇跡』と呼ばれるモノ。そしてボウヤは、マスターは、そして錬金術はソイツらを踏みにじってぐちゃぐちゃに壊すのがお仕事です。」

 

「きせ、き…。」

 

「早い話が思考を止めるな、ってコトですよ。どんな理不尽な展開でも『奇跡』にだけは膝を屈してはいけません。ええ、仮に世界中の他の誰がそう(・・)であったとしても、どんな状況下に置かれたとしても。ボウヤだけはソレを許されない(・・・・・・・・・・・・・・)。マスターの手を取るとは、そういう事です。」

 

 

そこまで言った所でガリィは倒れ伏すエドワードから腰を上げ、そのまま投げだしたこちらの手を引っ掴んで強引に上へと引き上げた。全身の痛みもあってか展開に思考が追い付かず、間抜けな声を上げるだけのエドワードを掴んだままガリィはクルクルと回りだし、程なくしてソレはワルツの如く、抱きかかえるような形で静止した。

真冬の澄んだ水面を思わすガリィの眼差しが、過去の記憶そのままにエドワードを覗き込む。それは笑んだ口元に覗いた鮫歯も相まって、喰らいかかる寸前の鮫を錯覚させた。

 

否、それは錯覚ではなかったのだろう。何故なら彼女は、ガリィは今しがた言ったばかりじゃないか。

『ありえない』なんてことはありえない(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)、と。つまるところ、コレは教育であると同時に警告(・・)なのだ。

 

 

「だから強欲に。冷静に。しかれど熱を持って…ボウヤ、アナタは頭を廻すのよ。小憎たらしい世界のために。バカで可愛そうな人類のために。そして何よりも、アナタとマスターのために(・・・・・・・・・・・・)。」

 

「茹だった頭ならガリィがちゃーんとキンキンに冷やしてあげる。歩きにくいなら支えてアゲルわ。ガリィ達はその為にいるんだもの。」

 

「出来ないなら冷やして砕いて、マスターから忘れさせてあげる(・・・・・・・・・・・・・・)。膝を折るならそんな脚、砕いてあげる。とってもとっても残念なことですけど、ガリィは(・・・・)その為にいるんだもの。」

 

「ああ!そ・れ・と・もお…

 

 

   キヒッ…もし怖気づいたなら、このまま、優しく壊してもいいんだけど?」

 

 

その言葉に微塵も嘘はないだろう。己惚れるつもりなどないが、どれだけ己が逸材だったとしても。仮に最後の錬金術師であったとしても、目の前のガリィは見込みなしと判断すれば綺麗に砕いてみせるだろう。そしてそれは口にしないだけで、この場にいないキャロルの本音であったのかもしれない。

そう。——……なればこそ、吐き出す解答(こたえ)は決まっていた。

 

 

「エド、ワード…!」

 

「…あん?」

 

ありったけの睥睨と共に吐かれた言葉に、至近距離にあったガリィの顔が怪訝そうに笑みを消す。

そうだとも、ここで選ぶ言葉は決まっている。それは警告に怖気づいた従順姿勢などではない。過去の憎悪による奮起でもない。まして絶望から選ぶ自死などでは断じてない。

 

「エドワード、エルリック…だ…!ガリィ・トゥーマーン!」

 

示すのは、何処までも折れない「鋼」の意思。前に進む覚悟と、扉の前に待つ魔女の手を取る決意。この俺はボウヤ(・・・)でもアナタ(・・・)でもないのだと、己が己としてここに立つのだと。アイツに、彼女たち(・・・・)に刻み込むこと。

即ちそれは、それこそは!!この場で「エドワード・エルリック」を示すということ!!

 

 

 

 

 

「俺はエドワード・エルリック、錬金術師だ!!テメェの豆チビマスターにもキッチリ伝えとけ、もういっぺん必ず目の前に立って、この俺の名前を聴かせてやるってなぁ!!」

 

 

 

 

 

*************

 

 

 

 

「あら?お早いお目覚めですねえ、エド。いい夢でも見れました?」

 

 

「別によくねえよ。っつか、多分わかって言ってんだろ…ちょっと腹減ったから目が覚めちまっただけだっつの。」

 

 

「ミカちゃんみたいな言い草止めてくださいよ。ま、それなら折角ですし、お皿並べるの手伝って貰えます~?」

 

 

「ン、おう。」

 

 

 

 

*************

 

 

 

 

「え?世界各地で悪魔や天使が行方不明に?」

 

「ええ、イッセー。それに付け加えるなら堕天使も、という話らしいわ。」

 

 

日本某所、駒王町。その町の一角に君臨する駒王学園旧校舎の一室にて、不意にその「事件」は語られることとなった。

話題を切り出したグレモリー眷属を率いし「王」ことリアス・グレモリーは優雅な仕草で茶器に満たされた紅茶を一啜りすると、眷属達の興味深そうな視線を一身に受け止める。だが集団失踪事件という字面だけでも思わず身構えてしまいそうな物騒な話題を口にするリアスであったが、その顔つきは真剣…というよりは神妙な、どこか疲れたような、なにか疑わしいモノを目にしたとでも言うような、そんな表情だった。

 

「お兄様やアザゼル曰く、ここ最近世界中でそういう失踪事件が立て続けに起きているらしいのよ。だから私達にも念のため気を付けておくようにと言われたのよ。…でもねぇ、正直…。」

 

リアスは聞いたままに、その「事件」の内容を口にした。奇妙で奇怪。悪魔の姫が言うのもなんだが「低俗なオカルト染みている」というその話を口にした。

曰く、その失踪は不自然なほどに形跡がないのだという。ある者は任務の最中、またある者は休暇中と、失踪した場所もタイミングも見事なまでにバラバラ。中には先程まで食事をしていたような痕跡だけを残したまま消えた者までいるのだと言う。無論、被害者同士の関係性や共通点なども特に見られていない。失踪したとみられる場所の周辺にも争った形跡などは一切見られず、本当に煙のように消えてしまうのだとか。

 

「…なんか、日本の『神隠し』みたいな話っすね。」

 

「カミカクシ?ああ、日本の妖怪や神による誘拐事件(Missing)…だったわよね。天狗の仕業だったかしら。」

 

「でもリアス、それはもしかしなくても相当な重大事件なのでは?もしかすると先日会談の場を襲撃してきた『禍の団』が関わっているかもしれませんのに…。」

 

「実際その可能性も含めて調査中、ということらしいわ。でも…どうにも不可解というか、その線も今一つ薄そうなのよ。」

 

「…?どういう事ですか、部長。」

 

「それがね裕斗。失踪したで終われば確かに大事件なのだけれど、彼ら…悪魔や天使、堕天使たちなんだけどね?数日経つと戻ってくるみたいなのよ。」

 

「え?も、戻って…て、皆さん帰ってきてるんですか?」

 

「そうよ、ごく自然に。特に変わった様子もなく、アッサリと…だからこそ余計に気が抜けないとも言えるけど。」

 

 

そこまで言った所でリアスは再び紅茶を口にした。リアスが少しばかりぬるくなってしまっていた紅茶を一息で飲み干したところで、今まで質問に参加していなかった小猫が質問を投げかける。見れば、大皿に盛られていた高級茶菓子はすべて彼女の胃袋に納まってしまったらしい。ずっと食べ続けていたのだろうことは容易に窺い知れた。

それはそれとして、小猫は思ったままに当然の疑問を口にする。

 

 

「…なら、その人達に直接聞けばいいのでは?それとも、なにか話も出来ない状態なんでしょうか。」

 

「いいえ、いたって健康みたいよ。あらゆる方面から調べたらしいけどどこにも異常はナシ。精神面も含めてね。」

 

「なら…憶えていない、とか?」

 

「…ないというよりか…不思議なことに、彼らは自分がいなくなっていたことに気付いていなかったらしいの。というか、否定しているのよ。」

 

「はい?」

 

「つまりね…ある任務中に消えていた者は、自分はそのままずっと任務についていて、今やっと帰宅したという。またある休暇中に宿から消えた者は、ごくごく普通に休暇を満喫して家路に着いたのだというの。他にも色々あるみたいだけど、要は皆一様に『自分が消えていたこと』自体を否定しているみたいなのよね。」

 

「え、つまり当人たちは失踪中のハズなのに、失踪していなかった場合の存在しない記憶(・・・・・・・)がある?」

 

「そういうことよ。…明らかに何かされている以上は確実に無視できる案件ではないのだけれど、現状では確認できる被害らしい被害もそうない上、手がかり一つ掴めない現状じゃあ動きようもないらしくて…けどやっぱり警戒は必要で…。」

 

「ああ、それで…。」

 

一誠や他の眷属はようやく己が主、リアスの疑わしい眼差しと脱力感の理由を理解した。

 

つい先日の「禍の団(テロリスト)」襲撃を考えれば、一時的とは言え戦力が消えるような事象は到底無視できない。加えてリアスの『情愛』を冠する性質や、敬愛する魔王の実妹という立場から言っても、もし自らの眷属にまで魔の手が降りかかることを考慮すれば警戒は必須だ。

…だがだからといって、何をどう気を付ければいいというのだろう?容疑者や手法は愚か、動機や目的もわからず、被害者さえいると言っていいのか疑わしき怪事件。学生という立場に加えてこれから先の戦いに備えての戦力増強、やることは沢山あるにも関わらず、そんな都市伝説めいた愉快犯もどきにも備えろと言う。重ね重ね、どうしろと言うのだろうというのがリアスの本音であった。

 

リアス・グレモリーという少女はバカではない。貴族としての教養にも富み、やや夢見がちな気質こそ見られるが根本的には真面目かつ勤勉な悪魔である。だがなまじ強大な力を有しているだけに、その思考はどちらかと言えば直線的…というか脳筋寄りであるのも否定できない。

答えのない迷路を真面目に睨みつけて思考するような行為にはとことん不向きな彼女の頭脳は、こうして容易く容量限界を迎えたのだった。

 

「正直なところ雲を掴むような話ではあるのだけれど、事件終息までは少なくとも各自の警戒は怠らないで頂戴。それと少しでも情報は欲しいから、なにか変わったことがあったら逐一報告して。この際怪しい噂でも何でもいいわ。」

 

「う、噂ですかぁ?」

 

「詳細の掴めない怪事件なだけに、どんな前兆があるかもわからないもの。それに『禍の団』の事もあるから、小さな噂や違和感は敏感に察知しておく必要があるわ。」

 

「そうですね。しばらくの間は情報収集にも意識は割くべきかも…勿論、ギャー君もしっかり外に出て集めてきて。」

 

「えぇええっ!?」

 

「アハハ…ほどほどにね、小猫ちゃん。」

 

「なら俺も、元浜達にも聞いとくかな…ン?アーシア、どうしたんだ?」

 

 

「あ…いえ、イッセーさん。大したことじゃないんですけど、噂と聞いて、そういえば桐生さん少し気になる事を聞いた気がして。」

 

 

「ン?ああ、それなら私も聞いたな。少々変わった二人組…異国の兄妹らしき姿を町でよく目にすると聞いたな。」

 

 

「…変わってると言うのは、どのように?」

 

 

「不審な仕草などではなく、単純に身なりというか恰好らしいな。揃いの金髪、三つ編みに、兄は派手な赤い外套(コート)を着ていて眼を惹いたと。あと妹だが…なんというか…。」

 

 

 

 

 

 

「『魔女』。」

 

 

少しだけ言い淀んだゼノヴィアの言葉を引き継ぐようにして、アーシアの、かつてそう(・・)呼ばれた少女の口からそれは告げられた。

静かで穏やかなその声は、言の葉は、しかしやけに重苦しく感じさせられた。

 

 

 

「三角のトンガリ帽子に、ローブを纏う…『魔女』のようだった、そうですよ?」

 

 

 

 

 

歯車はこうして、誰知らるる事もなく着実に廻りだしていた。

二人が紡ぐ破滅の機構。あらゆる全てを敵に回した破壊と再生の唄声は既に、もう手遅れなほどに侵食している…その事実に気付けるものは、まだ誰もいなかった。

 

 

 




ぐぬぬ…
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