「ふむふむ...ここか...それともここか...。」
カキカキ...
「なかなか凝った作りにするんだね...。」
と、ぼくが不意に水を差すと
「シャゴホッドは、設計上まだ量産体制にはない。
部品数も多く、既存の戦車との互換性もない...。
故に、慎重にならざるを得んのだ。」
と、この爺さん ソコロフが言う。
そんなこんな、西棟の研究棟で開発の監視をしていると
ピーッ ガシャッ
研究室のセキュリティのロックが解除され、中に誰かが入ってくる。
「っ!誰だ!」
と、ぼくがホルスターに手をかけるが、
「あぁ、ターニャ...。」
と、ソコロフが知人のように声をかける。
「あら?いきなり警戒されては困るわ、おチビさん。」
と、目の前に現れた...胸が異様におっきー女の人が佇んでいる。
ターニャ...愛称か...それに金髪...
色々と思案していたが、ふと我に返って
「ち、チビじゃないし!てかあんたこそ誰なんだよ!
いきなり研究棟に入ってくるなんて、相当な階級なんだろうな。」
と、問い詰めると
「いいえ、坊や。私はただのKGB工作員よ。」
と、目の前の女は、ぼくらが敵対しているフルシチョフ政権の支配下にあるKGBのスパイだと告白した。
「け、KGB?KGBがなぜここに。」
やはり訳がわからなくなり、この女を怪しむ。
「話せば長くなるわ。それに、そんなに警戒することでもないわよ。
私も今は大佐のとらわれの身だもの。」
「そ、そう...って、そうか。あんたが...。」
と、思い出したかのようにぼくはヴォルギン大佐からの告知を思い出す。
『そういえば、ソコロフ奪還時にいい女がいたのだが、お前も楽しむか?
どうやらKGBのスパイらしいが、まだ役立ちそうだ。』
『け、結構です!!女の人なんてまだぼくには早すぎます!!』
『ふっはっは!早く大人になれ、シェルド中佐。』
「何よ、何か言いたいことでもあるのかしら?」
目の前の金髪女はぼくをじっと見てくる。
「何も...ただ、あんた大佐に、その...ヤられてるんでしょ?アレを...。」
と、心配の目を向けるが、
「?...あぁ、何、そのこと?平気よ、まだね。」
余裕っぽく笑顔をぼくに見せるが、体は少し痛んでいるのがうかがえた。
それに...
スンスン...
ガソリンの匂い...?一体どこから...
「それよりも、ターニャ。これが例の物だ。」
と、ソコロフが何かの小型フィルムを渡す。
「いいのかしら?こんなお目付役の、仮にも将校さんの目の前で渡すなんて。」
「ぼくは気にしないよ、ヴォルギン大佐にはそこまで深い思い入れはないし。それに、あの人は多分,......もうすぐ死ぬから。」
と、ぼくは彼女の疑問を払拭する様に答えた。
死ぬ。そう確信を持って答えれたのはなぜかわからないが、不意にそんなことが口から出る様になっていた。
まるで最初から誰が死んで誰が生きるか,知っているかの様な素振りで...。
それを怪しんだのか、ターニャと呼ばれる女スパイは目を細めて問い詰める様に聞いてくる。
「そう......坊やは何で大佐が死ぬと思うのかしら?」
僕は少しその質問に答えるまでに時間を置いてから,一言だけ答えた。
「...ザ・ボス......。」
「...そのザ・ボスが何なのかしら。」
「......あの人がいるから、多分大佐は死ぬ。」
それを聞いた目の前の女スパイは更に目を細めて、こう強く述べる。
「彼女は大佐の味方よ。どうして彼女のせいで大佐が死ぬと言い切れるのかしら。」
「さぁ...でも、多分死ぬ。これは勘だけど...僕の勘はよく当たるんだよ?」
その言葉に少しだけ考える素振りを見せた後,ターニャ...タチアナは僕の方に再度質問をした。
「そう...なら、私もその勘とやらで生きるか死ぬか、占って頂戴?」
そういうとソコロフから渡された小型フィルムを胸ポケットにしまい込み、目の前の女スパイが僕に近寄ってくる。
「......っ!」
ズザザッ
僕は後ろのめりになり後ずさるが、彼女はポケットから何かを取り出し、僕の顔の方に近づけてくる。
「ッ 僕を殺しても,ここからは出られないぞ...!」
ぼくは最後の警告を発するが、彼女はどこか優雅な場違いの雰囲気で、取り出した何かを自分の口のあたりに持っていった。
「あら?女の人には優しくしなさい、ボウヤ。」
「ぼ、ボウヤっ...ふんっ!」
彼女はただ単に口紅を塗っていただけだった。
色気で誘うとは、やはりKGBのやりそうなことだ。
「ぼく...何か食べてくる...食料庫にレーションでもあったでしょ。」
と、ソコロフに食事のことを伝えて、少しの間離れることにした。
「あら、なら私もお暇するわ。長居して悪かったわね。」
と、この金髪女 ターニャもこの部屋を出ていく。
はぁ、あの女はいったい...。
僕は大佐が持ち込んだ複雑な厄介ごとに巻き込まれたのであった...。
「おげぇぇぇ〜〜っ...あのレーションくそまずかったな...ちくしょぉー...。」
全く食う側のことを考えていない軍用糧食に腹を立てながら、ぼくは西棟に戻るために向かっていると
「む...?シェルド中佐貴様いったい何をしている?
ソコロフの監視はどうしたっ!」
と、運悪くヴォルギン大佐に見つかった。
「あ、は、はっ!ヴォルギン大佐!こ、小腹が空きましたので...その...食事を...。」
「ふむ...まぁそんなところだと思って、私も奴を見に来たところだ。ソコロフの女が研究棟に立ち入ったと聞いたが、やはり......中佐、一緒に来いッ。」
「はっ!」
スタッ
と、僕は敬礼してから、彼の後ろに立ち添う。
ソコロフの女...あのお姉さんがここに来ていた事はバレてたのか。
警備兵も馬鹿じゃない、報告してくれたんだろう。
多分これでもう当分は会わなくて済む...助かった。
ウィーン ガシャッ
大佐と一緒に研究棟の前まで行き,扉のロックが解除された音がしてから横に機械的に開いた。
そして研究室の中に入ってみると、
「なっ...変態...(ボソっ)。」
「中佐 ...聞こえたぞ。」
ヴォルギン大佐が僕の小声を聞いたらしく、重圧感のある声で戒めてくる。
「も、申し訳ありません!」
こんなことを口漏らしたのは至極当然。
中には先程はいなかったソコロフと一緒にいるイワン... ライコフ少佐が佇んでいたからだ。
「(こんなところで何をしてるんだ?まさかライコフはソコロフにまで手を...ヴォェ...。)」
こみ上げてくる吐き気を抑えながら、ぼくは彼らを見据える。
そうすると、ヴォルギン大佐はライコフ少佐に近づいていき、
「少佐?ここで何をしている。部屋で待っていたんだぞ。」
と、彼に問いただしていく。
部屋で待っていた...?コイツフルシチョフが軍隊を差し向けてきている間に何をしてるんだか...。
哨戒兵の話で耳にしたが,フルシチョフのソ連正規軍がこの要塞線に数師団分の軍を派遣してきているらしい。
遂に本腰を上げたってわけだ。
スタッ
「ッ...。」
だが、不自然なことに彼は直立で敬礼したままだ。いつものキザな表情はどこへやら、無表情・無言で突っ立っている。
そんなヤツを見ていると、不意にヴォルギン大佐はあり得ない行為に出る。
ガシッ...
「え...。」
「ッ!?」
ライコフ少佐も流石に僕やソコロフの前で股間を握られるとなると、戸惑ったらしくヴォルギン大佐の手を払いのける。
が、
ガシッ
再度ライコフ少佐の股間に手を伸ばし、グッと掴み、
再びライコフ少佐が手をはねのける。
「あ、あのヴォルギン大佐っ...ここは研究室でもありますので、その...。」
と、僕がそのほも行為を流石にやり過ぎだと鎮めようとすると...
「...お前は誰だ!!」
と、目の前のライコフ少佐に...いや、少佐らしき人物に問い詰めた。
(ええええええぇぇぇぇぇぇぇ!?)
まさかの、大佐は股間で人を見分けるという奇怪な行為に出たのだ。
しかもそれで相手が少佐じゃないことを当てた...。
嘘だろ?何という技術...。
「とぼけなくてもいい...。騙し通せるとでも思ったか。
少佐のことは誰よりもよく知っているからな...。」
呆然としている間に、事は進んでおり、目の前の侵入者の正体が一体何者なのか僕は気になった。
が、
カチッ
と、ヴォルギン大佐はなんと、目の前の侵入者にホルスターから引き抜いたマカロフ自動拳銃を向けた。
「っ。」
侵入者も少し動揺したようで、身構える。
が、
パァンッ パァンッ
二回の乾いた銃声が研究室に響き渡る。
「ひぃぃ...くっぁぁ...。」
撃たれたのは、ソコロフの方であった。
バタッ
足を二本とも撃ち抜かれた彼は、その場に倒れ伏した。
その時、その隙を見計らったかのように目の前の侵入者...おそらくヴォルギン大佐が言っていたであろう
ライコフ少佐に化けていた者の正体である、【あの男】が動き出した...。