なお僕の趣味が多分に反映されているのでお姉ちゃんは結構えぐい死に方をし続けます
かわいそうですね
20××年6月2日
――それはあまりにも唐突で、不思議な告白だった。
「――俺、前世の記憶があるんだ」
幼馴染、というよりは手のかかる弟のような存在のなーくんからいきなり呼び出されたかと思ったら、開口一番これだった。
時刻は七時半。
アタシたちが通ってる高校に行く直前だ。
「……えっと、よく分かんないけど……ちゅーに病ってやつ?」
「みや姉、これは冗談とかじゃないんだよ。茶化すのはいい加減にしてくれ」
「えっ、ご、ごめん……」
真剣な表情で怒られた。
アタシまだ一言しか喋ってないはずなんだけど。
「みや姉、今は分からないことばっかりだろうけど、これだけは信じて欲しい。俺はみや姉を助けるために動いてる。だから今日一日、俺の指示に従って動いてくれ」
「……まあ、今日一日くらいなら?」
「大丈夫。今日一日だけだ。今日さえ乗り切れば、それでいいんだ」
昔からなーくんは少しおかし……もとい、変わった男の子だったけれど、まさか高校に進学してから更に磨きをかけていたとは。
一番彼と仲がいいであろう妹のかなちゃんは全くそんなことを言っていなかったというのに。
「……それで、アタシはどうすればいいの?」
「とりあえず私服に着替えてきてくれ」
「え、学校あるのに?」
「大丈夫。もう休みの連絡は入れておいた」
「早いよ⁉」
この時間ですでに連絡を入れているっていうことは、アタシがどう動いても学校に行かせるつもりはなかったってこと?
なんで学校に行かせたくないのかは分からないけど……
「一日くらいズル休みしてみたかったんだよね! 待ってて、すぐ着替えてくるから!」
「あ、俺も行く」
「んー? じゃあリビングで待ってて」
家が隣同士で、なーくんのご両親がよく海外出張に行くこともあってうちに泊まることも多かったなーくんにとっては勝手知ったるもの。
鍵を開けたアタシに付いてきたなーくんはそのまま二階へ――
「って、なんで付いてきてるの!? 部屋まで入ってくる気⁉」
「これまで何回もお互いの裸を見せ合った仲じゃないか」
「子供の頃にね⁉」
「部屋までは入らないって……前回前々回とは違うんだったな」
「……覗いたりしないでよ?」
「分かってるよ」
ああ、もう。
本当にどうしちゃったんだろう。
今日のなーくんは明らかにおかしい。
でも、なんでだろう。
思わず背筋が震えるほどその表情は張りつめていて。
まるで今すぐに何かが襲ってくるんだ、と言わんばかりの鬼気迫るそれに怯えてしまったのを隠したくて、茶化すように反応してしまった。
……正直に言えば、ちょっと怖い。
制服を手早く脱いで、なるべく動きやすい服装に着替える。
乱れた髪も軽くまとめ直すと部屋のドアを勢いよく開いた。
「お待たせ! ごめんね、待ったでしょ?」
「いや、想定範囲内だよ」
「えーなにそれ……まあいいや。それでどうする? せっかくのズル休みだし、どっか遊びに行く?」
「水族館と遊園地と都会以外ならどこでも」
「ほぼ選択肢ないじゃんっ⁉」
遊びにいけるところがほぼ全滅している。
今日のなーくんに対してそれでも行きたいといえるほどの勇気はない。
「……えと、じゃあゲームセンターとか?」
「…………………………いいよ」
「あっごめん嫌だった⁉ 別のところにする⁉」
「いや、みや姉が行きたいところに行こう。大丈夫……大丈夫……鉄砲水も観覧車墜落もないんだ……ゲーセンに危険物はない……」
「すっごく顔色悪いよ! 今日は家にいたほうが……」
「絶対に家から出ないと駄目だ!! 今すぐ出よう!!」
「なーくんがそう言うなら……でも本当に体調悪かったりしたらすぐに言ってね?」
どこか血の気の引いた顔で頷くなーくんが立ち上がり、アタシの手を握って……あわ、あうぁ……ごつごつしてるし、力強い……
「――ゲーセン、行こう」
「……はい」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
それから特に珍しいこともなく――そもそもこの時間にこの二人で遊びに来ていることが珍しいというのは置いといて――時間は過ぎていく。
二人で色々なゲームで遊んで、騒いで、はしゃいで。
お昼も適当に済ませてしまって、夕方になって、嫌がるなーくんと無理矢理プリクラを撮ってから、外に出る。
なーくんは一日中ずっと鋭い目つきで周囲を見渡しながら何かを警戒しているようだったけど。
あまりにもいつも通りの日常過ぎて、平穏すぎて……だからこそ、アタシは油断していた。
どれだけなーくんが頑張っていたって、当のアタシ自身が警戒していなかったら話にならない。
「……なに、してるの?」
「っ、かなちゃん……!」
ちょうどゲームセンターから出てきたところだった。
目の前に立っている、アタシによく似た少女は紛れもなく大事な妹で。
一度も見たことのないような怒りの表情でアタシを睨みつけていた。
「許せない。あたしのこと、応援してくれるって言ってたのに!!」
「待って、かなちゃ――」
まさか数日前に相談された好きな人というのがなーくんだとは思っていなかった、なんて言い訳にもならないけど。
せめて話だけでも聞いて欲しいと手を伸ばした瞬間、
「駄目だみや姉、離れろ!!」
――始めに感じたのは猛烈な熱さだった。
ぞぶり、と突き立てられたそれが引き抜かれて、赤いものが服や地面を汚していく。
足元から力が抜ける感覚。
傾いた身体が地面に叩きつけられるのを他人事のように感じる。
周囲から聞こえる悲鳴と驚愕の声がやけに響いて、ちょっとうるさい。
「みや姉!! おい、おいおいおいおい……ここまで来たっていうのに……!! 意識をしっかり保って! 大丈夫、助かる……また明日も、みや姉は生きていられるから……!」
「かな、ちゃん……」
「あいつのことはどうだっていい!!」
そんなことない、と言おうとした口から吐き出されたのは赤黒い塊。
びちゃりと跳ねたそれがなーくんの顔まで汚して――ああ。
「……思い出した。思い出したよ、なーくん。いつも……こうやって抱きしめてくれて……」
「駄目だ、駄目だ駄目だ駄目だ!! 死なないでくれ!! 頼むから!!」
「その台詞、前回と全く一緒だね……」
ようやく思い出した。
なーくんがどれだけ
どれだけアタシを助けようとしてくれていたのか。
どれだけ……愛してくれているのか。
身体の感覚は曖昧で、それでも腹部に感じるその熱さだけははっきりしていた。
その熱が段々と引き始めると、今度は全身が寒くて仕方なくなる。
寒くて、
怖くて、
辛くて、
苦しくて、
それでも、霞んだ視界に唯一映るその人が余りにも酷い顔をしているものだから、つい言ってしまうのだ。
「……泣かないで。アタシは、大丈夫だから……」
ああ。
うまく、笑えただろうか。
本当はもっと伝えたいことも、あったのに。
ようやく、思い出したのに。
感覚がなくなる。
思考が溶けていく。
さいごにきこえたのは、
「絶対、絶対に……助けてみせるから。そのためなら何度だって繰り返すから。だから……待っててくれ、みや姉」
みや姉:本作主人公。高校三年。誰にでも優しく、家事能力も高く、巨乳の茶髪ポニーテールギャルお姉ちゃんというまるでエロゲのキャラクターのような存在。何故か6月2日に死因はどうあれ絶対に死ぬ呪いに掛かっている?
なーくん:本作のメインキャラクター。高校一年。長めの黒髪で目元を隠していたが、いつからか短く切っている。絶対に死んでしまうみや姉を助けるために何回も同じ時間を繰り返している少年。みや姉のことが大好きすぎてつらい。
かなちゃん:みや姉の妹。高校一年。姉と同じ茶髪を肩口で切りそろえたTHE 幼馴染という感じの外見。うまく処理しないと地雷に早変わりする。