三人称の練習です。
アンケートご協力感謝します。方針が決まったので消しておきます。本当に感謝です。
「はぁ 何でこんな事に…」
生存者たちの今後の行動指針は食料を取りに行くべきだという中城の案に決定されてしまった。虫の襲撃を切り抜いてきたとしても元は高校生であり子供で相手は大人で教師。逆らう事はとても難しかったのだ。
『仕方ねぇ。コイツは俺が面倒を見といてやるよ』
『ありがとう。蟻原君の事よろしくね』
『おう、任せとけ。それとアツシあんま調子乗んなよ』
『うるせぇ!』
意識を失う様に眠ってしまった蟻原をアキラは苦笑しながら運んでいった。容体が気にはなる物の蟻原はアキラに任せておけば大丈夫だろう。
診療所へ行くメンバーは伊能、織部、成瀬、神野、上条、箕輪、宮園、桃崎の8名だった。他のメンバーは中条たちのいた空き家で休む事となった。
「はぁ…」
もと来た道を引き返しながら、溜息が出てしまう。どうやら癖になりつつあるような気がする。だが今回は違う、前は蟻原の行動や言動に呆れていたが今回は他の生存者たちとの今後の事を考えていたからだ。
(中城先生何であんな感じになっちゃったんだろう)
伊能の知る中条は、温厚で真面目な教師という認識だった。ごくごく普通の厳しくあれば優しい所もあるそんなどこにでもいる普通の…こんな非常事態では頼りになる教師だったはずなのだ。
それが再会してみれば、まるで独裁者のような雰囲気を纏う冷血な女へと変貌していた。一つも笑わず喜ばず、あるのは徹底的な支配と人の話を聞こうともしない冷徹さ。とてもではないが同一人物だとは思えない。
少なくとも食料が少ないからと言う理由で危険な場所へ生徒達を向かわせるほど危険な人間ではなかった。
(何かあったと考えるべきなのかなぁ…蟻原君ならどうするんだろう)
驚愕するほど豹変した中条にイマイチ危機感が足りていないようなメンバー。…生存者と出会えたのは幸福と言えるのだろうか。
不安がよぎり気が付くと蟻原から託されたマチェットを触っていた。一緒に診療所を探索した時に見つけて、蟻原が気に入って持ってきたものだった。
(コレ…マチェットって言うより鉈の方が正しんじゃ)
蟻原が嬉しそうにマチェットと呼んでいたが実際は鉈の方が近かった。刃は厚く切っ先は鋭い。重さもなかなかの物で女である伊能では片手で振り回すのはとても難しいだろう。なぜこんな危険な物を持って「浪漫!」と喜んでいたのか伊能にはわからないがそれでも今は触っているだけで蟻原が力を貸してくれているようだった。
「…うん。何時までも悩んでいたら駄目だよね」
能天気に笑う蟻原の顔を思い出し、悩みを払拭する。取りあえず今は無事に生きて戻ってくることだけを考えなければ。
「ふん!こんなバカなお嬢は虫に食われちまえばいいんだ!」
「何ですって!?貴女お爺様に頼んで絶対に退学にさせますわ!」
「はっ この島じゃそんな権力何の役にも立たねぇよ!」
「って思ったとたんにこれかぁ」
目の前では神野と桃崎が口論をしていた。元々素行の悪い神野とお嬢様の桃崎は相性は最悪だ、どこかでぶつかると思ったら直ぐにこれで深いため息が出てくる。
この島は危険で大声を不用意に出せば虫が襲ってくるかもしれない、桃崎はどうしようもないが神野は何回も経験しているだろうに。
神野と桃崎の口論を止めようとしている成瀬と宮園に加わろうとした時だった。
「……え?」
全身に鳥肌が立つほどの悪寒を感じたのだ。まるで気が付かない危険に対して体が勝手に反応するかのように。
(いったい何が…)
自身のいきなりの変化に戸惑いつつも周りの様子を注意深く探る。考えるよりも今は警戒する方が先だった。
そうしてよくよく見てみれば地面にうっすらと丸い円が幾つもある事に気が付く。一見何の変哲もないように細工されたそれは見れば見るほど獲物を捕らえようとするかのように見える罠のように見える。
「織部さん、あの穴は」
「きゃっ」
異常があればすぐに織部に報告をする必要がある、そうしてでた言葉は宮園が神野に振り解かれて尻もちをついた声と重なった。
「駄目!逃げてぇぇ!!」
(あ、マズ)
隣で大声を上げる織部とその言葉にキョトンとした宮園。そして宮園の後ろで丸い円が動いた瞬間、マチェットを鞘から抜いていた。
織部が違和感に気が付き注意を呼びかけようとした時全ては手遅れだった。宮園が尻もちをついた後の穴から巨大な虫が現れ宮園の足を巨体には見合わない小さな前足で引きずっていたのだ。
「いやぁぁぁあ!!」
「宮園さん!」
「なんだありゃ!?」
(ここはハンミョウの巣だったんだ!)
つい数時間前までは皆と歩いていた地面はいつの間にかハンミョウの巣へとなっていたことに驚愕する織部。出てきたハンミョウは幼虫ではあったがそれでも人よりかも大きい巨体だった。地面に巣穴を作り獲物を待ち構える生粋のハンター。ハンミョウが連れ去ろうとするのは巣穴でありもし引きずり込まれたら…命は無い。
「誰か!助けてぇ!」
「宮園っ!」
引きずられている宮園を助けようと箕輪が動くが、向かっている途中で別の方向からハンミョウが襲い掛かってくる。横に転がる事で回避するが、引きずれられていく宮園から遠くなってしまう。
「ハンミョウは振動を感知して襲い掛かってきます!動いちゃ駄目です!」
「だからと言って仲間を見捨てられるわけがないだろう!」
忠告通り人の走る振動を感知して襲ってくるがそれでも人を見捨てる理由にはならない。立ち上がり宮園に駆け寄り手を伸ばすが
(クソ!あと少しなのに)
伸ばした手は空を切る。助けを求める宮園の手に触れようとする箕輪の手が届くよりハンミョウが引きずる方が早かった、諦めかけたその時だった。
「やぁぁああ!!」
宮園を掴むハンミョウの小さな前足をマチェットを持った伊能が切り飛ばしたのだ。マチェットが切ったのは小さな前足の関節部分。伊能の全力の振り下ろしがうまく当たったのだ。
「宮園さん大丈夫!」
「はっ…はっ…わ、私死ぬかと あのままだと死んで」
前足を失いもがくハンミョウから遠ざかる様に宮園を起こしかけるが恐怖に見舞われた宮園は荒い呼吸と死にかけたという実感で震えて我を失っていた。
(マズい…宮園さんは助けたけど皆がっ!)
宮園を助けようとした箕輪はハンミョウに捕まってしまい自身の力で地面に這いつくばって必死で抵抗していた。上條も同じく捕まっており細い木に捕まって抗っていた。悲惨な事に神野は三体から捕まえられ別々の方へと引っ張られていた。
「だ、誰か私を助けなさいっ!」
皮肉なことに腰が抜けてしまったのかへたり込んだ桃崎にはハンミョウは襲い掛かっていなかった。動けなかった事で難を逃れたのだろう。それでも時間の問題でもあるが。
(皆を助けないと…織部さんと委員長はどこに?)
危機的な状況だが伊能は皆を見捨てるつもりは無かった。だからこそ知識を持っている織部を探した、この状況を打開できる一手を必ず持っていると信じて。
「いた。…なんで竹林にって。あーなるほど」
見回せばすぐに織部と委員長は見つかった。ハンミョウが襲い掛かろうとしているが竹によって跳ね返されそこは一種の安全地帯となっていた。その光景を見た伊能はすぐさま思考を切り替える。まずは震えている宮園を非難させないと
「宮園さん。あそこに竹林があるのが分かる?」
「あ、ぁ 死…いや 怖ぃ…」
「そうだね怖いね。でもあの場所まで走っていけば絶対に安全だよ」
震えていた宮園の目が竹林へとむけられた。その光景にはハンミョウを跳ね返してもなお折れない竹のしなやかな強靭さが目に映る。宮園の目に光が灯ったのを見て冗談めかして伊能は笑う。
「ここから竹林まで大体2,30メートルかな。宮園さん50メートル走の記録は何秒?」
「…七秒台」
「速っ!? そ、それくらいならあの距離は屁でもないよね」
「…うん」
意外に俊足だった事に驚きながら竹林を指差せば今度こそ宮園は大きく頷いた。誰かさんと同じような言い方を真似したのだが意外に効果があったようだ。心の中で感謝を入れ宮園に喝を入れる
「それじゃあ陸上部のエースの走りを見せてよ。宮園さんの得意分野をさ!」
「うん!」
背中に喝を入れると宮園はすぐさま立ち上がり走り出した。付近には転がっているハンミョウぐらいしかいないため問題は無いだろう。問題は次だ。
捕まっている皆を助けようと辺りを見回した時、委員長が半分に割れた竹をもって走るのがみえた。
「胴ぉぉおおお!!」
気合の入った委員長の竹を持った横薙ぎは襲い掛かろうとしたハンミョウをいとも簡単に両断した。それも委員長自身が驚くほどに内臓を露わにし一目見て絶命していると認識できるほどに。
「あ、そうか。正面は駄目だけど皮膜は柔らかいんだ。…へぇそうなんだ」
簡単に両断されてしまったハンミョウを見て対抗できると判断すれば後はやるべき事は一つだった。
マチェットを両手で握りしめる。剣術なんて知る筈もなくそもそも刃物自体振り回した事なんてない。それでも皆を救うため覚悟を決める。
思い返すのは誰よりも危険を前にして立ち向かった男の背中。
「よしっ!それじゃ行こう!」
まずは近くで木に捕まっている上条からだ。案の定地中から飛び出てきたハンミョウを横飛びでかわす。ハンミョウの飛びかかりは確かに怖いが空中で軌道を変えることが出来ないのは知っている。
「お返しだよっ!」
横腹に向かってマチェットを突き刺せばズブリと勢いよく肉に刃物が入っていく触感が手に伝わる。臆することなくそのままで横に薙ぎ払えば簡単にハンミョウの腹は裂くことが出来た。
「上條!ほらもうちょっと頑張ってよ!」
「う、うるせぇさっさと助けやがれ!」
「もう!口だけは一人前なんだから!」
上條を捕まえていたハンミョウを横から襲い掛かり一閃を叩きこむ。あっけなく命を散らしたハンミョウに振り変えることなく上條に檄を飛ばせば震えた声で虚勢を張ってくる。
取りあえずは助かった上條を放置してへたり込んでいる桃崎へ足を向ける。道中で何度かハンミョウが襲い掛かって来たがを撃退するのは手馴れてきてしまった。
「ほら桃崎さん!座っていないであの竹林へ!」
「遅いっ!もっと早く助けなさい!」
「何で皆偉そうなのかなぁ!?」
涙目でへたり込んだまま声を荒げる桃崎につい言葉を荒げてしまう伊能。何故助かったメンバーは誰も彼も癖が強く我が強いのか。偉そうに命令する桃崎の尻を叩きながら伊能は大きく溜息を吐いてしまう。
(あ~~!もぅ!皆個性が強すぎるよぉ!早く蟻原君や白川さんと合流したい!)
癖の強すぎる生存者たちに変人だが頼りになる男と比較的おとなしいクラスメイトの顔を思い出し残りの箕輪と神野を助けようとして足が止まった。
大量のハンミョウの死骸に囲まれ返り血を浴びた委員長が立っていたからだった。
(……まともなのは僕だけなのかな)
返り血を浴び肩で息をしている委員長を見ながら伊能は遠くを見つめそんな事を考えていた。
「良かった…本当に無事で良かった」
「いつも言ってるじゃない、信念をもって行動すれば上手くいくって」
竹林で親友の無事を喜ぶ織部に涙目になりながら宥める委員長。先ほどまでハンミョウを撃退していたとは思えない優しい顔だった。げんなりとしながらも宮園に向き直る。今いるメンバーで一番怪我をしているのが彼女だったからだ。
「宮園さん、大丈夫?」
「うん。でもちょっと指が…」
宮園の手を見れば引きずられながらも必死に地面に捕まろうとしたのだろう。手の皮が剥け何枚かの爪が欠けたりが剥がれていた。早急に手当の為持ってきた荷物の中から応急セットを取り出す。
「ちょっと痛いかもしれないけどごめんね」
「ううん。生きているから、だから平気だよ。…ありがとう伊能さん」
指先の痛みは相当な物だろうにぎこちなく涙で濡れた笑みを浮かべる宮園に出来る限り丁寧に処置をする。確かに傷はある物の生きているのだ。そう思えば我慢できるのだろう。気丈な彼女にホッと安堵の息を吐きつつ委員長に話しかける。
「それにしても委員長、良く竹で戦おうとしたね。普通じゃ思いつかないよ」
「睦美の入れ知恵よ。じゃなきゃ何も出来なかった」
返り血を拭いながら息を吐く委員長。話を聞けば織部が竹林に入る事を提案し、それで凌げたというのだ。
「竹は地中に強い茎を作るから。それに柔軟性があって加工もしやすいですし」
竹林があるのならそこにハンミョウの巣は無い。それに竹は細工がしやすく、縦に割ってしまえば簡易的な武器となるのだ。軽く握りやすく鋭利な武器。近くに竹林があったのは僥倖だった。
「竹の切り口は鋭く鋭利です。テーピングで持ち手を確保さえすれば…」
「武器となる訳か。兎も角九死に一生を得ることが出来た。感謝する」
話に入ってきた箕輪が深々と頭を下げる、体格が大きく迫力があるがこういった真摯な面は好感が持てた。流石は武道経験者と言う事か。
「イイってイイって気にすんな!」
「貴様に感謝した訳では無い!」
調子に乗っている上條に箕輪が怒鳴っているが、険悪な雰囲気ではない、後はもう大丈夫だろう。
「ひとまずここに居れば大丈夫です。様子を見ましょう」
「そうしよう。もう診療所へは行くのはやめておこう」
「良いの?」
「先生からは俺が説得する。緊急事態だ、命には代えられん」
診療所へ行くことを諦め織部の提案でここで休息をとる事となった。誰もが疲れていたし、誰もが危険を冒してまで診療所へ行こうとは思わなくなったからだ。
そうして休む事二時間。休んでいる間に竹を切って武器を何本か作っているとふと辺りが静かになっていた。
「ハンミョウ達、姿を消したね」
「何かに警戒しているのかもしれません」
ハンミョウたちが姿を見せず、静かになったのだ。織部が地面に耳をあて何かに気付いた様に驚く。
「森の方…何か大きなモノが来ます」
「どういう意味だ?」
「この子達の警戒具合からすると大型の肉食蟲に間違いありません。すぐにここから離れましょう」
「動いて大丈夫?またハンミョウたちに襲われないかな」
「この子達が動きを止めていることを考えるとほかの虫たちも警戒している筈です。今がチャンスですので私が先導して移動しましょう」
織部がそこまで言う事なら間違いはない。皆は他の仲間たちと合流することとしたのだった。
ハンミョウの恐ろしさより委員長の無双が印象に残る原作。すげー
宮園さん救出成功。