巨蟲列島 蟲姦お断り!【完結】   作:灰色の空

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短いですが投稿です
戦闘描写は難しい!


森の乱闘騒ぎ

 

「クソッ!コイツら固ぇ!」

 

「甲殻を狙うな!ひっくり返して腹を狙え!」

 

「もっと正確に言えば足の付け根だよっ」

 

 上條のがなり立てる様な悲鳴に伊能と一緒に忠告をする。ホタルの幼虫は背を甲殻で覆われているが腹の部分は比較的柔らかいのだ。竹を割り鋭い武器となった竹刀は甲殻には弾かれてしまうが、それでも腹なら刺すことが出来る。

 

「まぁ俺の場合は一味違うけどなぁ!」

 

 みんなが持っているのは竹刀だが、俺は診療所で拝借したマチェットがある。甲殻なんて何のその、寧ろ両手でしっかりと握って振り下ろせば真っ二つだ。切れ味が鋭いのか鈍る気配が無いなんとも頼もしい相棒だ。

 

(でも普通は両断なんて出来ないはず。何か武道でもやってたのか?)

 

 しかしふと思いつく疑問もある。いくら蟲だとは言え大きさは小型犬ぐらいの大きさのホタルだ。丈夫なマチェットがあるからと言って果たして簡単に切り捨てる事なんてできるのだろうか。素人だとは思うのだがいくらなんでも…

 

 ギョパッギョパッ!

 

「ああもう!うるせぇなぁ!さっさと殺してやるから死んどけよっ!」

 

 考え事をしているときに限って地面から三匹のホタルが這いよって来る。余りにも煩くムカついたのでボールを蹴るのと同じ要領で蹴り飛ばせば面白いように蹴り飛んでいく。

 

「スッゲェ…ホタルが空を舞ったぞ」

 

「さっきから思っていたが何なんだお前の馬鹿力は!蟲は真っ二つにする、蹴っ飛ばせば空へ飛んでいく!俺でもできんぞそんな事!」

 

「俺が知るか!んな事より手を動かせ!」

 

 上條が呆然として箕輪が物凄く驚いた顔で叫んでいるが俺だって知らないんだ。でも今は重要な事じゃない、その筈だ。

 

「ひぃぃいいい!!もういや!おうち帰る!」

 

「もう駄目ですわ!私たち虫に食べられてしまうんですの!」

 

「三浦さん落ち着いてください!桃崎さん大丈夫ですっ!」

 

 と、ここで後方で女性陣の悲鳴が聞こえてきた。虫が近づいたというより精神的に限界が近づいてきたのか。白川さんが必死で抑えているが、何分それもいつまで続くか。

 

(…こうなったら、アレをやるしかないのか?)

 

 委員長と神野がライトを照らしホタルが来るの抑えて、それでも来たホタルは戦える連中で撃退する。上條、甲斐、箕輪キャプテンそれに伊能と俺でホタルを切り捨て、織部さんは薬を撒きに離れていきその護衛としてアキラが傍にいる。

 

 それでも夜明けまで防衛するのは難しい。連携が取れつつある俺達でも数の暴力差はいかんともしがたいのだ。

 

 だから…だからこういう時こそ俺がやるのだ。

 

「すまん皆。少し抜けるわ」

 

「はぁ!?蟻原お前何言って」

 

 上條の言葉を待たずに俺は一人防衛陣から抜け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(これで周辺に薬は撒き終えた。あとは気化すれば…)

 

 結界を蟻原たちに任せ森の中に入り酢酸エチルを撒き終えた睦美。自分達が生き残るには口に含みまき散らすため吹いて撒いた酢酸エチルが空気へと気化するまでの時間がカギだった。

 

「それで大丈夫なのか」

 

「はい、酢酸エチルが気化すればこの子達の動きは鈍ってきます。後は夜が明ければ…」

 

 夜明けは近く、徐々にだが空が薄っすらと明けてきた。松明とホタルの光が無ければ真っ暗だった視界も徐々に慣れ始めてきており状況は打開してきそうだった。

 

「それじゃさっさと皆と合流しよう。いい加減アツシたちが心配だしな」

 

 親友の事を想ってか苦笑するアキラに頷き、来た道を戻るために走る。その途中ふと睦美の口から出てきたのは感謝の言葉だった

 

「あのアキラさん」

 

「なんだ?」

 

「先ほどは助けてくれてありがとうございます」

 

 酢酸エチルを撒いている途中、吹くことに意識を捕らわれていた睦美の頭上からホタルが数体振ってきたのだ。ホタルといえども幼虫は肉食性。一度獲物に食らいつくと人の柔肌では噛み切られてしまう、まさに絶体絶命の中アキラが助けに来てくれたのだ。

 

 数体のホタルを殴り飛ばし、そのまま護衛に着いたアキラは今もこうやって睦美の傍で周囲を警戒している

 

「ああその事か。別にどうって事はねぇんだけどな、どうせなら例は蟻原の馬鹿に言ってやってくれよ」

 

「蟻原君ですか?」

 

「護衛に着けって言ったのは蟻原なんだ。あっちの方は蟻原が何とかするから俺が睦美ちゃんを守ってくれってな」

 

「そうだったんですか…」

 

 言われて考えれば戦力的には一番大立ち回りができる蟻原が結界の近くにいた方が良いのだろう。そして恐らく蟻原の次に戦う力を備えているアキラが護衛に着けば、皆が生存できる可能性が上がるのだ。

 

(うん、蟻原君が居るのならきっと…?)

 

 危機的になると顔つきが変わる友人の事を思い出し、ふと睦美は無意識にこれで大丈夫だという確信に近い感情を持っていることに気が付き始めた。   

 

 蟻原なら必ず何があってもきっと皆を守ってくれるだろうという信頼感があったのだ。そんな睦美を知ってか知らずか横にいるアキラは茶化すように笑いかけてくる

 

「ま、あの馬鹿が気になっている女の子を守ってやんのも悪くは無いしな」

 

「…へ?気になってるって」

 

 アキラの言い方に何か引っかかる物を感じて聞き返せばアキラは首を傾げ、すぐに笑った。

 

「…へぇなるほどね。奥手なのは二人共ってか。仕方ねぇなあの馬鹿は」

 

「?あの」

 

「なんでもねぇよ。それより急ぐぞ!」

 

 何か有耶無耶にされた気がしたがアキラの言う通り急ぐ睦美だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆、平気!?」

 

「睦美!?良かった無事なのね」

 

 アキラと共に帰ってくれば、親友である千歳がホッと安堵した表情を見せた。肩で息をしている上条や甲斐など疲労困憊の者もいるが他の人達も無事なようで怪我と言う怪我はなさそうだった。

 

「良かった、夜明けまであと少しです。それまで」

 

 言いかけて違和感に気が付く。結界の周辺に転がっている死骸のホタルの数が予想よりも少なかったのだ。しかも皆の怪我がないのは確かだが人数が少ないのだ。より正確に言えば二人いなかった。

 

「…千歳ちゃん。蟻原君と伊能さんは」

 

 一番の戦力でありこのメンバーにとって柱となりつつある蟻原と良くその傍にいた伊能の姿が見えなかった。震える声で親友に聞けばいつもはハッキリと話す千歳が言いづらそうに答えた。 

 

「蟻原君はここを頼むって言ったきり急に離れて行って…伊能さんもその後をついて行ったのよ。自分達は大丈夫だから後はお願いって頼んで」

 

「そんな…」

 

 単独行動が何をもたらすのか、2人は十分に理解していたはず。それなのに蟻原は走って暗闇に消えて行ったというのだ。伊能も止めることなく何かに気が付くとその後ろ後をついて言ったのだというのだ。

 

「はっあの野郎自分が食われるかと思って逃げちまったんだよ」

 

 襲ってくる虫が減ってきていたので膝に手を突きながら休む上條は小馬鹿にした顔で嘲笑うがそれに同調する者はいなかった。

 

「んな訳ないっしょ。ああいう馬鹿が何を考えるのか、何で俺たちの周りに虫が少ないのか考えればわかるっしょ」

 

「…チッ 何であの馬鹿は」 

 

「…助けられたな」

 

 蟻原が何をしに出て行ったのか感づいた甲斐は同じく大きく深呼吸をしながら蟻原の去っていった方向に視線を送った。神野も頭を掻き吐き捨て居るように。箕輪はただ一言漏らした。

 

「もしかして蟻原の奴…マジかよ」

 

「迎えに行きましょう!蟻原君と伊能さんが心配です!」

 

 何をしに集団から離れたのか、感づいた睦美は直ぐに駆け出す。残るメンバーを考慮し睦美の後を追うのはアキラと千歳だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 意外な事に走って数分で二人は見つかった。夜明けが近いとも暗闇の中ですぐに発見したのは単純だった。ホタルの発する光の異常なほど集まる場所、そこに二人はいたのだ。

 

 

「二人とも…」

 

 2人を見つけ、しかし睦美は呼びかけることが出来なかった。それは後から続いたアキラと千歳も同様だった。

 

「おいおい、マジでやりやがってるよアイツ等」

 

 アキラが呟いたのもそれもその筈、蟻原と伊能はホタルの集団に襲われながらも踊るようにしてホタルと戦っていたのだ。

 

 

 

「だからさっさと皆の所に行けってば!」

 

「蟻原君が戻るのなら考えてあげてもいいよ!」

 

「うぉい!そんなご無体な!」

 

 軽口をたたきながら蟻原は迷わずマチェットを伊能の傍で振るう。その当たりそうな斬撃はあらかじめその動きを読んでいたかのように伊能は軽くステップし蟻原と位置を変え蟻原の背後にいたホタルを竹刀で弾き飛ばす。

 

「随分と身軽だな! ワンダーフォーゲル部ってのは護身術も学ぶのかっ?」

 

「そんな事無いよっ! 君が変な物を飲ませてから体が軽いんだ」

 

 竹刀で飛びかかってくる蛍を蟻原の方へと叩き飛ばせば、その伊能の行動に答えるかのように振り返り続けざまにマチェットを振るいホタルを切り飛ばす蟻原。

 

「えぇ?俺なんか変なもん飲ませたっけ!?」

 

「うわっ!人に間接キス強制させながら覚えていないなんて最悪!」

 

 足元にはホタルの死骸が無数に転がりいつ躓いて転んでもおかしくない、そんな足場を二人はまったく気にした様子もなく背中合わせで互いの死角をかばい合っていた。

 

「ああ、あの時のアレか!ゴメンって、ああするしか思いつかなかったんだ!」

 

「短慮だねっ!そんな忘れん坊さんには責任とってもらわないといけないね!」

 

「できれば俺の出来る範囲の事でお願いいたしますっ」

 

 軽口を叩きあいながらも決して警戒は緩めず寧ろ感覚が鋭くなっているのか不意打ちにはかからないその二人。両手に持った二本の竹刀を器用に操る伊能に大ぶりのマチェットを両手に持ち豪快に振るう蟻原。

 

 

「…まるで踊っているみたい」 

 

 千歳がポツリと漏らしたその言葉こそが二人とホタルとの戦いの様子を表していた。蟲と人と織りなす血まみれの劇場ながらも確かに2人は踊っていたのだ。

 

「んだよ、心配して損したぜ」

 

「囮を担ったと思ったら、まさか本当に平気だったなんて」  

 

 蟻原が集団から抜けた理由。それは孤立した物を狙うホタルのコミュニケーション能力を逆手に取った囮行動だったのだ。

 

 数の暴力に対抗するために、皆の被害を減らすために蟻原が犯した愚行はしかし、蟻原自身の腕力と伊能のサポートで無事に切り抜けているのだ。

 

「そろそろ切れ味が鈍ってきたんだけどっ!」 

 

「なら俺が始末する、伊能はひっくり返す事だけに集中しろ」

 

「アイアイサー!」

 

 疲れているだろうに元気よく返事をする伊能とそんな伊能に負担を掛けさせまいと奮闘する蟻原。

 

「………」

 

 そんな二人を睦美は只見ていたのだった。

 

 

 

 

 




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