巨蟲列島 蟲姦お断り!【完結】   作:灰色の空

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ひっそりできました
楽しんでいただけたら幸いです


お願いだから

 

 

 夜明けとは良い物である。

 

 さんさんと煌く太陽の光によって暗闇から徐々に光り輝く世界へと変わるあの美しさは一度体験し目にした者でないと分からないだろう。

 

「光…お日様がキレイ…」

 

 特に暗闇の中で恐怖に怯えていた者にとっては朝日はなんと心強い事か。想像してほしい、怨霊とか、殺人鬼やこの際化け物だっていい。闇夜に潜むそれらから逃げ出し、遂にたどり着いた太陽の光は一体どれだけの希望となる事か。

 

「もう2度と見られないと思った」

 

 だからその希望に向かってつい走ってしまうのは無理もない。木の影から顔を出す太陽の光に向かって駆けだす美少女。

 うむ、かなり絵になるな。

 

 

 尤もそれが本当に太陽の光だったらなぁ!

 

 

 能天気な顔して走り出す三浦に向かってもはやただの棒となった竹刀を足にめがけて投げつけるっ!

 

「シュー!超エキサイティン!」 

 

「あいだっ!?」

 

 俺の投げた竹刀は上手く三浦の足の間に挟み込まれ顔面から地面に熱烈なキスをかます三浦。ほぅ…どうやら俺は中々の投擲技術があると見た。覚えておこう!

 

「ちょっといきなり何すんのよっ!」

 

「あ、蟻原!?」

 

 怒った三浦の顔には砂利や砂が付いていて…アイドルって言うか凄く…コメディアンです。取りあえず三浦は放置して俺達を見て安堵やら驚いているやらで忙しい仲間たちに手を上げる。

 

「よう、皆無事だな。怪我もなさそうで何よりだ」

 

「今怪我したわよ!何でいきなり変なことするのアンタは!」

 

 おーおー発声練習でもやってたのか中々の声だ。しかも怒った表情は迫力満点で流石はアイドル。メンタルはヘタレでもやっぱアイドルなんやなって。ちなみに俺は三浦がアイドルと聞いてもピンと来ない。本当にアイドルかぁ?

 

「そう怒るなって。あのままじゃお前死んでいたぞ」

 

「怒るわよっ! …へ?死んでた?」

 

 キョトンとした三浦に今上がってきた太陽を指し示す。山から顔を出しさんさんと光る本物の太陽を。

 

「嘘…何で太陽があそこに?それじゃ、私が見たのは…」

 

「蛍の光。危うく虫の朝ご飯になる所だったな」

 

 三浦が太陽の光だと思い向かった光の正体は実は蛍の光だった。木に隠れるように光っていたから解りやすいはずなんだが…まぁ人間安堵した瞬間が一番狙われ易いって誰かが言っていたような?

 あれ?それとも絶望とは希望が見えた瞬間が鮮やかになる物だったっけ?まぁどっちもでいいや

 

「迂闊な行動をとるなよ三浦。気のせいかもしれんがお前の行動が発端となって騒動が起きている気がするんだ」

 

 真っ青な顔になっている三浦に一応の苦言を残す。言わなくてもよかった事だけど一応ね。 

 

「良く気が付いたな蟻原」

 

「夜明けまでずっと蛍の光を見てきたからな。慣れちゃった」

 

 アキラに苦笑を返しながら皆の様子を見れば、うん大丈夫だ。疲れているのか座り込んでいる奴がいるが皆平気だね。

 

「神野。腹をくくったお前って滅茶苦茶カッコよかったよ」

 

「うるせぇ。そこは黙っとけ」

 

 労い言葉を掛ければ照れたのかそっぽを向く神野。神野が腹をくくったあの瞬間見惚れたのは間違いが無いので…なんていうかね、お色気キャラから姉御キャラに変心したっていうか人間的に成長したっていうか。 

 

 そんな皆の中で白川さんはバッグを持って皆を見回していた。

 

「怪我をした人は言ってください。直ぐに私が手当てをしますので」

 

「それじゃ蟻原の頭を見て欲しいっしょ」

 

「あ?何でだよ。どこも怪我してないぞ」

 

「自分から囮になるその頭は見てもらわないといけないっしょ」

 

「んな!?」

 

「ごめんなさい。蟻原さんの頭に効く薬は一つもありません」

 

「ぬぉお!?」

 

 甲斐のあんまりな物言いに驚いたら今度は白川さんも酷い事を言い始めた!?

 

「だってそうですよ。いくらなんでも危ない事を平然とするなんて…心配する人の気持ちを考えてください」

 

「そーだそーだ。言ってやれ白川さん」

 

 白川さんはかなり怒っているようでいつもの大人しさからは考えられないぐらい怒気が強かった。普段は大人しい人が起こるとすさまじいとは聞くが、余りにもあまりの迫力にたじたじになる。

 

「で、でも…そうしないと」

 

「でももへちまもありません。ちゃんと反省してください」

 

「し、しーましぇーん…」

 

 距離を詰めてきた白川さんに平伏する。そのまま数秒が過ぎただろうか、頭上からクスクスと笑い声が聞こえてきた

 

「フフフッ…し、しーましぇーんって…」

 

 どうやら俺の言い方がツボに入ったのだろうか、白川さんはクスクスと笑いだす。その雰囲気に当てられたのか周りからも笑い声が聞こえてくる。

 

「ククク…アッハハハハ」

「可笑しいっ…な、何でこんなしょうもない事で…」

 

 何故か腹を抱える者や肩を震わせる者。笑顔は伝染するのだろうか、和やかな雰囲気が辺りを包む。織部さんはもとよりアキラも伊能も。委員長や箕輪も、あの上条なんて呆れた顔をして、神野に至っては肩をすくめていた。

 

(ああ…良いなこれ)

 

 思えば一瞬の油断が死を招く島にいるのだ。心が安らぐ暇なんてなかったんだ。そんな皆が今この瞬間だけは年相応に笑っている。

 

 それが嬉しくて…なんか涙が出そうだった。

  

 

「皆さん無事だったの?良かったわ」

 

 とはいえそんな和やかな雰囲気をぶち壊す輩は何時の時代もいる訳で…

 

 全く心配していない棒読みでこちらに歩み寄って来たのは真っ先に逃げ出した先生たちだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆、遅れないでしっかり歩きなさいよ」

 

 青山の号令を筆頭に歩きだす俺達。休息は無く、疲れた体を引きずって山道を歩くのはしんどい物だった。俺はまだ大丈夫だが他の人達は…どこかで休憩を入れた方がいいかも。

 

 先生たちと合流した俺達はそのまま織部さんが言う安全地帯へと向かう事になった。朝日が上っても蟲からしてみればだから何だという話だ。さっさと移動した方が良いのは理解できるのだが…疲れている人たちからしてみれば移動を強制する先生たちに怨みの視線を向けてしまうのは仕方のない事だろう。

 

「チッ 真っ先に逃げた癖に何を偉そうに」

 

 神野から零れ落ちた愚痴が耳に入る。宮園さんや鈴木さんに聞けば先生たちはあの場から逃げ出した後小屋を見つけることが出来、そこで籠城をしていたらしい。蟲が入って来るかもと言う恐怖はあった物の小屋の中で休めたのは事実で、青山なんて元気いっぱいだ。

 

「言うなよ美鈴、あんな奴ら結局口だけで何にもできねぇんだから」

 

 心底馬鹿にしたような上條のセリフ。上條からしてみれば自分達を置いて真っ先に逃げたので心証が悪いのだろうか。取りあえずお前が言うなーと心の中でツッコんでおこう。

 

「あのねぇ さっきから聞いていれば結構な言い草じゃない」

 

 耳ざとく聞こえていたのか青山がこちらに振り向かえる、その顔は何やら眉を吊り上げて不満げで…あ、これ面倒なパターンだ。

 

「そもそもあの虫から襲われたのは織部さんが移動を提案したからじゃない。私たちは織部さんが言う安全な場所へと向かっていたら虫に襲われてしまった」

 

 まぁその通りではある。先生たちが居た住居で一晩を過ごしてから朝方動けばホタルの群れに襲われる可能性は無かったかもしれない(なお、家に居たら大勢のホタルに囲まれていた可能性も勿論ある。…こればっかりは結果を見てみないと分からんがね)

 

「私や先生は死にたくないから逃げ出したのにあたかも私たちが悪いように言うのはおかしいんじゃない?そもそも追いかけてこられない貴方達が不満を言うのは何様よ。言いたいことがあるなら移動を提案した織部さんに言いなさい」

 

「そんな言い方っ!睦美は只安全な場所があるからそこへ向かうべきだって」

 

「そんな無謀なプランに乗せられたから私や先生は危険な目に合ったのよっ!危険な目に合ってでも織部さんの指示に従うより先生について行った方が

よっぽど安全よ」

 

 やたらと胸を張って言う青山に苦虫を潰した顔になる委員長。確かに結果だけ見れば先生について行った青山たちは疲労もなく怪我もない状態で、一方俺達とは言うと夜が明けるまで戦い続け、大きな怪我は無かったモノの疲労は溜まり、精神的にも疲れているのは事実だ。

 

 結果だけ見れば先生について行った青山は安全だったわけで、俺達は疲労が残ったと。

 

「……っ」

 

 青山の言葉が薄々正しいと思っているのか織部さんは何も言えずにいた。俯いたその顔からは自分の言葉で皆を危険にさらしたことに後悔をしているのだろうか。

 

(蟻原君、言ってもいいかな?)

 

 ひそひそと声を潜めて目線でアイコンタクトを取ってくるのは伊能だ。流石にカチンと来ているのだろう。しかし俺は首を振る。

 

 

 それを言う(恨まれる)のは俺の役目だ 

 

 

「間違ったリーダーについて行けば命を落す可能性がある。ここはそう言う世界なのよ。その点先生は私達を安全なところまで導いてくださるわ」

 

「…で、でも、このまま舗装路で歩いて行ったら虫たちが簡単に私達を補足してしまう…」

 

「織部さん…私に指示したい事でもあるのかしら」

 

 口を開く先生は目線がどこまでも冷たい。これで先生と言うのだから笑えない。俺の知ってる先生ってのはこう…まぁいいや。そろそろ介入しようか。

 

「陣形を組みなおすか、せめて山中を進まないと」

 

「織部さん、貴方そんなにリーダーになりたいのかしら。なら先行して皆に危険を知らせて下さらない?」 

 

「あーあーチョイと良いですか?」

 

 何だか場の雰囲気が悪くなりつつあるこの状況で介入するのは面倒で仕方がないが横やりを入れさせてもらう。もういい加減口を開かないとね。

 

「…何ですか」

 

「いえね、先生と青山さんに聞きたいんだけどB級映画って見ます?」

 

 いきなり口を挟んできたからか何とも訝しそうな目線を向けられるがそこはスルーする。マチェットをクルクルと回しながら話をすればアラ簡単。口を挟めなくなる。無言になった二人を無視して俺はスラスラと詭弁を宣おう。()()()()()()()()()

 

「パニック物やホラー物、何でもいいですけど、俺アレ等を見てつくづく思うんですよ。何で生きている奴皆で協力できないんだろうかって」 

 

「それって勝手に行動して死ぬ人達の事?」

 

「その通り。まぁ化け物や怨霊、殺人鬼に殺されるのはもうしょうがないとして、なーんで一致団結って出来ないのかなって」

 

 B級映画でよくある、主人公に反発する人や考えが浅い奴ら。あれらって何で協力をしないんだろうかなって。勿論理由は知っている。

 

「…アンタ、何が言いたいの」

 

「話は最後まで聞いてくれよ青山さん。ちゃんと理由は知ってるんだよ、人間がいざこざを起こさないと盛り上がり欠けてしまうからってさ」

 

 映画や漫画であることだが登場人物全員が仲良しこよしではどうしても盛り上がりが無い、簡単に言えば山場が無くなってしまうのだ。それではさすがに娯楽として面白くない。

 

「でもそれは、あくまでも映画の話。さて本題に戻るが…今の俺達はどうだ?」

 

 ここで意味深に青山と先生に向かって不敵に笑う。気丈にも睨み返す青山だが、虫を殺しまくって割とハイになって俺からしてみれば子猫が威嚇している様なもんだ。勿論それは感情を出さないように努めている先生も同じ。

 

「アンタ…先生に歯向かうつもり?いきなり出てきたアンタが何様のつもりよっ!」

 

「何様のつもりねぇ。別に何様でもないさ。俺が言いたいのは皆で生き残りましょうって話だ」

 

「はぁ!?」

 

「なぁ青山さっきから聞いていればどうしてそう皆を…織部さんや委員長相手にマウントを取ろうとしているんだ?」

 

 割と最初に話しているところから思っていたが何をそんなに高圧的に振舞うのだろうか。俺達は何も危害を加えていないのに何をそんなに気に入らないのだろうか

 

「口を開けば、先生が正しい、先生は守ってくれる。なるほど確かにその通りかもしれない。でもさ、それならそうと普通に言えば良いんだよ?高圧的に言う必要は一つも無いんだよ?」

 

 疑問である。なぜそこまで先生が偉い、先生は正しい吠えるのだろうか。別にそんなことをわざわざ言わなくてもいのに。

 

「それはアンタ達が先生のいう事を聞かずに行動しようとするから!」

 

「なら、言い方ってものがあるだろ。お前の言葉や態度のせいで先生の立場やお前自身の印象が悪くなっていく。なぁ考えてくれよ、今お前がこのまま好き放題言いまくってたら何が起きるのか」

 

 本当に考え付かないのだろうか、高圧的に物を言い協力もせず人を見下す人間の末路が、本当に理解できないのだろうか。

 

「…見捨てられるぞ?」 

 

「っ!」

 

「話を聞かず強調性のない人間。そんな奴は誰からも助けられなくなる。危ない目に合っても『アイツはいない方がいい』と思われてしまう。それでいいのか青山。皆から見捨てられても仕方がないって判断されて本当に良いのか?」

 

 俺の言葉に言葉が詰まってしまったのか悔しそうに唇をかみながら俺を睨みつける。だから痛くも痒くもないってば

 

「先生もですよ。貴方が偉いのはもういいとしても生徒の話位聞いてもいいはずじゃないですか」

 

「そのせいで危険な目に遭いましたが?」

 

「それでも織部さんの知識のお陰で全員生きています。疲れている者はいるものの全員が五体無事で揃っています、これは紛れもなく織部さんによる賜物です」

 

 織部さんを一瞥してこちらに向かって口を開こうとする先生。申し訳無いがその口を閉じさせてもらおう

 

「その織部さんの意見に「そう言えばあなた方のメンバーに野沢先生と言う人がいたそうですね。何でも行方不明になったとか」っ……」

 

 被せる様に禁句ワードを挟めば効果はてきめんだった。ほんの一瞬の動揺を俺は見逃さない。

 

「…で、野沢先生が何か?」

 

「ああ、別に何でもないですよ。ただね居なくなったという割には…誰からも心配の一つもされていないのが気になりましてね」

 

 先生たちだが行方不明だというのに出会ってから誰もが野沢先生に関して普及をしなかった。俺達のメンバーは事の結末を知っているので誰もが口に出したくないのだろうが…

 それにしては一言も話題に出ていないのはどうなんだろうね。

 

「…野沢先生は気が付いたらいなくなりました。あの人は大人です、勝手に行動するのならそこから先は自己責任でしょう」

 

「そうですね。その通りです。でも行方不明になっても誰も心配しないなんて…一体どんな先生だったのでしょうね」

 

「………」

 

「先生だから無条件に慕われる訳ではないんですよ。居なくなっても誰からも気にされない、それは酷く悲しくはありませんか、中城先生?」

 

 無能の上司は嫌われる、役に立たない指導者は蹴り落とされる。さて、ではこんな危険な島で生徒を見捨てて逃げ延び、尚且つ生きるための知識を持っている生徒を自身の狂信者に蔑ろにさせる先生はどうなんでしょうね?

 

「先生、別に誰が上だとかはどうだっていいんですよ。ただあんまり冷たくすると…俺達もそれ相応の行動に移してしまいます」

 

 何も言わなくなった先生に対して、口外に威圧的な態度をやめろと忠告する。もし今後それでも続けるのであれば野沢先生と同じようにいなくなっても仕方がないと思われると警告を出す。

 

 俺の前では睨みつける青山と黙り込んでしまった先生。俺の後ろでは事の成り行きを見守る生存者たち。

 

「気に喰わないのは仕方がない、そりが合わないのもしょうがない。だけど生きて帰りましょうよ。皆で一緒に」

 

(…漫画みたいな世界だからって漫画のキャラクターのように行動する必要はないんだよ)

 

 大きなため息が出てきてしまいそうになる。それでも我慢して、俺たちの根本的な願いを口にする。

 

「誰だって死にたくはないんだ。だから『生きてこの島から脱出する』…そのためには考えて行動しましょう。生きて日本へ帰るためにさ」

 

 誰しもがそう思う筈なのにどうして足並みをそろえることが出来ないんだ?誰もが虫に喰われたくない死にたくないと願いながらどうして面倒な事が起きてしまう?

 

 

 

 そんな思いのこもった言葉に誰もが返せないでいるのが少しだけ悲しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 




ちなみに主人公が話している最中マチェットをくるくる回しているので怖くて誰も何も言えなかったり…バカジャネーノ?
これで三巻の半分までいきました。そろそろ折り返し地点かな?
お盆に入りクソ忙しくなりました。次回は時間がかかるかもです
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