巨蟲列島 蟲姦お断り!【完結】   作:灰色の空

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都合が良すぎる様な?


薄暗い穴の中で

 

「…ん、んん?」

 

 最初に感じたのは体の浮遊感と締め付けられるような束縛。薄暗い視界に疑問を持ちながらぼんやりと周囲を見渡す。

 

 辺りは暗く光が漏れているのすら怪しい。何故か動かない体に視線を移せばそこにはグルグルと何重にも巻き付けられた糸が。

 

「……ファッ!?」

 

 あんまりにもあんまりな状態に驚きの声をあげ直ぐに視線を四方に向ける。その結果どうやら俺は薄暗い縦穴の中で ミノムシみたいに糸で吊るされていたのだ。ああ、だから浮遊感があって…じゃなくて!

 

(は、ハングドマンッ…でもなくて!)

 

 声が出なかったのはいい加減この島では音が虫をおびき寄せると身に染みていたからか。焦る気持ちとは裏腹に体は意外に冷静に事態を飲み込んできつつあるのか必要最小限の動きをしていた。なにせ動こうとすれば撒きつかれた糸が締め付けてくるのだ。

 

 動けない体でさらに目を凝らし周囲を見た結果

 

「…ワァーオ」

 

 頭上にデカいケツがあった。比喩表現無しの物凄くデカいケツだった。これが女の子の尻なら喜んだだろう、男の尻なら居た堪れない気持ちになっただろう、しかし現実は違った。

 

 デカい蜘蛛の尻だったのだ。しかも皮肉にも糸を吐き出す器官(ケツの穴?つまりア○ル?)まで見えるのだからもう何が何だか。

 

(オマケに織部さんに先生まで!?一体何が?)

 

 しかも俺だけかと思ったら横には先生と織部さんまでもが同じように糸を巻きつかれて吊るされていたのだ。目を凝らし2人の様子を見ると怪我はなさそうで気絶しているのか目はつぶったまま小さく呼吸をしていた。

 

(起こすべきか?いや、まずは状況を把握してから…だな)

 

 起こすのは状況を把握してから、そのために二人をよく見てみるのだが、糸を撒かれているその姿が嫌に目に付く。織部さんは後ろ手で糸が巻かれており足も巻かれているため身動きが出来ない姿だった。

 

(…でもこの巻き方は…その、目の保養に…)

 

 こんな時に思うのは何だが、お腹と首元に糸が巻かれているからか織部さんのたわなな胸が物凄く目立つ糸の巻かれ方だった。迷彩ジャケットはチャックが壊れているため、シャツに張り付いた胸がそれはもう主張するかのように突き出ていて…特に胸元が見えるのが実に

 

(…ゴクリッ じゃなくて!!阿保か俺は!)

 

 何処からどう見ても命の危険があるはずなのに俺の頭は現実逃避を起こし始めた。織部さんの突き出た胸を見てしまう自分の頭を殴りたいが糸で拘束されているため何も出来ない。

 

(取りあえず織部さんは無事!次っ!先生は……えぇ~)

 

 もう一人捕らわれている先生の様子を見て、なんかもう居た堪れなくなり目を逸らしたくなった。

 

 先生はなんとМ字開脚で拘束されていたのだっ!しかも黒のロングスカートが破れてしまって下半身はパンツ一枚しか身に着けていなかった(オマケにパンツは一部汚れていた)糸に巻かれているとはいえ肉付きの良い太ももが強調されているこの状態を俺は如何思えばいいのか。

 

「なんつーマニアックな…つか悲惨な」

 

 分かるだろうか、今まで冷徹な立ち振る舞いをしていた妙齢の女性が不可抗力とはいえ下半身を露出させМ字開脚をし、オマケに年下とは言え異性にまじまじと見られてしまったこの状況が。

 

 これは蜘蛛が随分と特殊プレイな事に精通していると感心をすればいいのか、それとも今までのツケを払わされている先生に同情をすればいいのか。絶体絶命なのに何とも気の抜けてしまう空間だった。

 

(はぁ…どうしてこんな事に………って、そっか。俺は)

 

 何故こんなトンチンカンな状況になったのか考える事数十秒。ようやく俺はどうしてこんな状況に陥っているのか思い出すことが出来たのだった。

 

 

 

「俺は先生を助けようとしたんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事の始まりは俺たちが目指す目的地に着いた時だった。

 

 目的地は多少の高い所にあるようでそれまでずっと登山の様に歩き続けてきた俺たち。ジカバチが空を飛んでいるのを発見し、藪の中で身を潜めていたり、物音がすれば全員で動かず周辺に気を配って、時間を掛けて少しづつ少しづつ。

 

「織部さん、貴方が蟲からの回避能力が高い事は分かりました。でもまだ着かないんですか」

 

「あともう少しです先生」

 

 意外にも思う事があったのか大人しく織部さんの意見を聞いた先生からもこんな言葉が出るくらい順調だった登山は山の中腹で事件が起きた。

 

「アレは…石垣?」

 

 石垣がある階段の登った先、高台に目的地があるのだというのだ。まぁそれはいい、しかしその後が問題だらけだった。

 

  

「皆さん樹木の影に隠れてください」

 

 織部さんの指示で木の陰に隠れ様子を伺う俺達。どうやら織部さんは生き物の気配がしないことに違和感を持ったらしい。そそくさと皆が木の陰に隠れる。

 

「何かいるのかな?どう思う?蟻原君」

 

「さてな…嫌な予感がするからこのマチェットは伊能が持っていてくれ」

 

 何となく不穏な物を感じて伊能にマチェットを渡す(持ってきた竹刀はほとんどを使い潰してしまったのだ)あと少しで安全な所に着くという事実がどうにも引っかかるのだ。より正確に言えばフラグが立ったような直感だった。

 

「何も居ねぇよ。足が痛いんだ、早く休ませろ…」

 

 愚痴を言う神野だが、それもその筈朝からずっと歩いていたのだ。皆も言葉には出さないが早く休みたさそうだった。言葉には出さないが皆の目的地へ着いたことへの安堵感が周囲を漂う。

 

 しかし、その油断こそが命取りだった。

 

「ふぅー」

 

 箕輪が息を吐いて持っていたバッグを地面に降ろした時パキリと枝が折れたような音が鳴った、その瞬間だった。

 

 黒い大きな影がもぞもぞ素早く動き油断していた箕輪に襲い掛かったのだ。

 

「箕輪!危ねぇ!」

 

 ほぼ反射だった、箕輪に襲い掛かろうとしていた巨大な影に蹴りを入れたのと箕輪の近くに糸が吐き出されたのはほぼ同じだった。

 

「うぉ!?」

 

「チッ!」

 

 糸は咄嗟に箕輪が転がって回避したため辛うじて当たらず、捕まえられることは無かった。しかし俺の方はと言うと出てきた蟲…大きな蜘蛛が余りのも巨体過ぎて重量があったため蹴りを放った足を痛めてしまったのだ。

 

 幸いにも蜘蛛は吹っ飛んで階段近くまで距離を開かせる事が出来たが…依然として生きていることに変わりは無かった。しかもまだピンピンとしている

 

「アレは…ジグモ?いったいどこから出てきたのっ」

 

「織部さん、あの石垣のアレ。アレが巣なんじゃないの」

 

「石垣?…そうか見落としていた。」

 

 伊能が指さした石垣にはなにやら繭のような糸状の物が張り付けてあった。数は一つでその形を見て織部さんはあそこが巣だと判断した。

 

「ジグモは振動と地面に響く音で獲物を感知します。出来るだけ音を出さずに後ずさりこの場を離れましょう」

 

 幾ら安全地帯がもう目と鼻の先とは言え、ジグモがいるのでは話にならない。この場からジグモに刺激を与えず撤退をしようと言う時だった。

 

 

「先生?どうなさったのですか……や、やめてください」

 

 ポカンとした青山の言葉で階段を見た時、嫌な予感が的中した。中条先生がフラフラと憔悴した顔で傍にジグモがいるにもかかわらず階段に向かっているのだ。

 

「…と少しで安全地帯…私が…私が切り開けば…」

 

 うわ言のような呟きが聞こえてくる。それは少しでも早く安全な所へ向かおうとする保身のためか、それとも、後半の言葉から察するにもしかして…

 

 

 だが、そこにどんな思いや行動があろうとジグモにとっては獲物が自分から歩み寄って来た事に間違いは無かったのだ。  

 

「ひっ!ひょきぃぃいい!!()()()()、たすけてぇぇええ!!」

 

 獲物を視認したジグモの行動は素早かった、すぐに先生に襲い掛かると尻から糸を吐き出し先生を拘束し始めたのだ。

 

 

 蜘蛛の糸は強靭である。もし、一センチの太さがあればジャンボジェットを持ち上げることが出来ると言われているほど強靭で切れない糸なのだ。だから捕まった以上、先生の末路は決まっていた。

 

 

 だが、ここで俺にとって予想外な事に大きな三つの誤算が出てきてた。

 

 

「皆っ!今のうちに行くんだ!」

 

 まず一つ目は恐怖と突然の事によって動けないでいる皆に向かって先生がつかまっている間に本来の目的地だった安全地帯に逃げろと叫んだ事。余りの切り替えの早さに自分自身驚きを感じるほどだった。

 俺のそんな声に反応したのか上條が我先にと階段を上って行き他の皆もその背中をついて行った。

 

「伊能、アキラ!皆を連れて行くんだ!」

 

「ちょっ!?蟻原君!?」

 

「俺はあの人を助けるッ!」

 

 そして二つ目は先生を助けにジグモへと向かって行った事。どう考えても手遅れであるはずなのに、俺は先生を助ける事を選択してしまったのだ。何故、そんな事をしてしまったのか。今になって思い返せばやはり先ほどの先生の言動だろう。

 

 そして最後の誤算は…

 

「なっ!?固くて重ぇ!?」

 

 ジグモの顔面に向かって飛び蹴りを放ったのに全く動かなかったのだ、それは俺の想像以上にジグモが重かったのもあるし、先ほど足を挫いていたのもあるが…

 

 それ以上に俺は自分の力を過信しすぎてしまったのだ。

 

 蝶を投げ飛ばし、蜂を殴って、マダニに気付かれず、ヘビトンボを翻弄して、そしてホタルの幼虫を何匹も殺しまくって、俺は自分が強いと勘違いをしてしまったのだ。

 

 今まで虫に対抗できたからと言って次も出来るとは限らない。そんな簡単な事に気が付かず、俺は力に過信をし自惚れてしまったのだ。

 

「うわっ!うわわわ!?」

 

 愚か者には相応の結末が待っている。あっさりと俺はジグモによって体に糸を撒きつかれてしまった。蜘蛛の糸は強靭である。だから俺の力では千切る事なんてできないし、切るのはもっと無理だった。つまりどう考えても詰んだ。

 

「蟻原君!今助けに…」

 

「うるせぇ!こっちに来るんじゃねぇ!アキラ、伊能を連れて逃げろ!」

 

 捕まった愚か者にできる事と言えば後は仲間たちを逃すのみだ。こちらへと駆け寄ってくる伊能に怒声を出し、アキラに後を頼むと伝える事しかできない。

 

「そんな…そんな事っ出来る訳が!」

 

「良いから行くぞ!…クソッ!後で助けに来るからなっ!それまで諦めんなよ!」

 

 絶望したかのような顔をする伊能の腕を無理矢理握り悔しそうに顔を歪めるアキラを見送り、そんな視界の端では青山が委員長に刃物突きつけ織部さんに先生を助けるように喚き、ジグモがその声の大きさで青山と委員長を捕まえようとして織部さんが二人をかばって…

 

 

 

 そして

 

 

 

 

 

「…これ俺のせいじゃん」

 

 記憶を思い返し大きな溜息。考えれば考えるほどなんだか自分の失態が目立ってしまう。先ほどは先生を助けるためだとほざいたが結局は己の自惚れだ。

 

(…はぁ。もうちょっと先生に気を使っていたら防げていたかもなぁ)

 

 事の八端としては先生がフラフラとジグモの傍を通り過ぎようとしていたのが問題だったわけだが、そもそも先生は普通の人間だ。いくら冷徹に振舞いをしようが中身は普通の女性なのだ。安全地帯と言われたらそこへ目指してしまう。

 

 もう少し目を配っていたらこんな事は起こらなかったわけで…後悔が募る。

 

(過信して自惚れた結果が…ミイラ取りがミイラか。オマケに突き出るたわななおっぱいとパンツ丸出しМ字開脚)

 

 横で気絶している織部さんと先生を見て増々溜息が深くなる。ふざけたことを考えないとやっていけないがそれにしたって目の保養やら虚しいやら恥ずかしいやら悲しくなるわでもう何が何だが。

 

(はぁ…伊能達は無事についたかなぁ)

 

 薄暗い竪穴で考える事は、仲間たちの無事。できればみんな怪我なく居て欲しいが、あの安全地帯だってどうして安全なのか誰も織部さんに聞いていないのだ。俺も含めて皆が迂闊過ぎて、悲しくて次はなんだか虚しくなって来る。願うのは皆の無事を祈るのみなのに。

 

「はぁ…………ぃよし。後悔と反省は此処まで」

 

 大きな溜息を吐き、続けて深呼吸を繰り返して、そして後悔するのをやめる。自分の行いを悔やむのは結構だが今はそれどころではないのだ。

 

 

 

 

(脱出の手段は…駄目だな、動けば糸が締まってくる)

 

 脱出の手段を探そうにも糸は確実に締まってくる。これでは動かない方が利口そうだ。仕方ないので周囲の観察でもしていると、隣からうめき声が聞こえてきた

 

「う、うぅ…ここは?」

 

 起きたのは先生だった。頭を何度か降って目を開けようとしている。

 

「おはようございます先生」

 

「貴方は…ここは?一体…っ!??」

 

 あ、自分の置かれている状況に気が付いたのか、物凄く目を見開いている。終わりのない穴を見、自分の身体に巻きつかれている糸を見、そして上にあるデカいプリケツを見て口を大きく開いて絶句している。うむ、気持ちは物凄く理解できる

 

「どうやらここはジグモの巣みたいですね。さしずめ俺達は保存食扱いって所でしょうか」

 

「保存食!?冗談じゃないっ!早くあの子たちのもとに帰らないと…あの子たちは私が居ないと!」

 

「あ、先生待って動くと」

 

 場の状況を理解して必死でもがく先生。しかし悲しいかな逃げ出そうと体を動かせば動かすほど糸が体に巻き付いて縛り上げようとする。

 

「ぐぅう…うぇぇえ」

 

「あーもう。もがくと糸が締まるみたいなんです。安易に動いちゃ駄目ですよ」

 

 ボンレスハムみたいに太ももや体が締まってしまう先生。平時ならば笑える光景だが状況が状況なので笑えない。寧ろ尚更悲惨さが増してしまっている。

 

「ゲホッケホッ…それならそうと早く言いなさい」

 

「言おうとしたら動いたのはそっちじゃないですか。全く、安易な行動は身を滅ぼしますよ」

 

「……そ、れは」

 

 冗談で言ったつもりだったのだが黙ってしまった先生。もしかして責められていると勘違いをしてしまったか?全く持ってそんな気はないので突然の沈黙は止めて欲しい。

 

「……」

 

「……」

 

 織部さんは未だ気絶中で、絶賛俺達は保存食の真っただ中。織部さんを起こしたいものの声を掛けようとして大声を出したら蜘蛛が来るかもしれないと考えると  何も出来ない。つ~訳で本当に何もできない状況だった。

 

(…まぁ平たく言えば暇だな)

 

 命の危機があるくせにこういう時は妙に開き直ってしまう俺は本当に何なのか。そう言えば先生は俺のこと知ってるんだったっけ?でも今話してもらうような状況じゃないし…

 

「…ねぇ先生。聞きたかったことがあるんですけど」

 

「…何ですか」

 

「どーしてそうなったんですか?」

 

 つーわけで言葉に出てきたのは中条先生に関してだった。まぁ俺も死にかけてることでヤキが回ったのだろう。スラスラと口が回る回る。

 

「伊能や委員長、白川さんにアキラ。皆から聞きました。中条先生は真面目で温厚な人だったと。それがどうして人に命令するわ威圧するわ、何より人に対して冷たくなるわ。…何かあったんですか?」

 

 俺の言葉に先生は俯いて声を出そうとはしなかった。反論をするつもりもなければ、こちらを糾弾するつもりもない。…青山が居ないからだろうか。

 

「命の危機で本性が出てきたって言うのならそりゃまぁそういう人だったって話ですけど、どうにも皆の反応を見ると違うと思うんですよねぇー」

 

「……」

 

 ゆさぶりを掛けるが依然として黙ったまま。ふむ、ならざっくりと核心を突こうか。

 

「野沢先生と青山に何かあったんですか?」

 

「!…どうしてそれを」

 

 食いついたっ!となると俺の想像通りか。ならほど漫画みたいな虫が出てくる島なら人間関係もまた漫画っぽいな。本当面倒だなっ!

 

「鈴木さんに色々と聞いたんですよ。そしたら最初は野沢先生と一緒に行動していたっていう話じゃないですか。それが食料を探しに出かけたら青山は見つかって野沢先生は行方不明、と」

 

「え、ええ、その通りです。青山さんを私が見つけて」

 

「でもその時見つけたのは本当は野沢先生も一緒だったのでは?それで野沢先生が青山に何かしているところを発見して…」

 

 続きを想像できるように意味深に言えばそれだけで先生の顔色は青くなる。となるとやっぱりあたりか。

 

「コレは俺の想像ですが、いなくなったって言うけど真相は先生が野沢先生を殺したんじゃないですか。だから鈴木さん達と合流した時は青山だけを見つけて、野沢先生は行方不明になったと話した。…違いますか?」

 

 掻い摘んだ情報を空想と想像と妄想で練り混ぜた話だ。突然の先生が人が変わったかのような理由と青山が先生を狂信する理由に野沢先生が居なくなった経緯をかき混ぜたらこういう結論に至ったのだ。まるで火サスだな。

 

「ち、違う…悪いのはあの人で私は、青山さんを」

 

 案の定と言うか先生は顔を青くして何やら呟いてしまった。その顔には恐怖と後悔と言う感情が強く出ていたのだ。

 

「…ここには俺と気絶している織部さんしかいません。話してくれませんか、何があったのかを」

 

「……わ、たしは…野沢先生を」

 

 俺の断言を持った言い方に絞り出すような声。っていう事は明言はしない物のやっぱりそう言う事なんだろう。

 

(…だよなぁ 人が変わった理由なんてそれしかないもんなぁ)

 

 急激な人格が変わった理由、それは人を殺してしまったから。普通の善人だった先生にはそのストレスが重くのしかかったのだろう。  

 だから人が変わった、自分を守るために、自分は間違っていなかったと誰にも気づかれない様にと様々な理由を乗せて。

 

「…するしか。…だってあの人は、青山さんを」

  

 元々善良な人だった先生には人殺しの罪はあまりにも重い。そもそもこの人さっきの言葉からして生徒のこと考えているっぽいんだよなぁ。過失はあるけど。

 

 まぁ兎も角このまま罪の意識にさいなまれるのも、高圧的に振舞うのもやめてもらおう。

 

 全ては皆が生き残るためだ。

 

「すんません、後悔しているところ悪いっすけど野沢先生は生きていましたよ」

 

「……へ?いや、でもあの時私は崖から」

 

「生きていました。尤もマダニに寄生されていましたがね」

 

 キョトンとした顔でこちらを見る先生に事のあらましを説明する。しかし崖かぁ、本当にサスペンス染みた事件だったな。

 

「…野沢先生は生きて…いたのね」

 

「まぁマダニに寄生された時点で生きていたかどうかは分かりませんがね。なんにせよ止めを刺したのは俺です、あの人を囮としてマダニから逃げたのは事実ですから」

 

 割と淡々と言う俺だが悲しい事に罪悪感がまるでない。必要な犠牲が出てきてしまった、ただそれだけの認識である。…情でも湧いたら違ったのかねぇ?

 

「そう言う事ですから人を殺したと思って罪の意識を持つのは違うと思いますよ。うん?違うのか?事実は違う?ああもぅ兎も角、罪の意識を持つのならせめて俺たちにもうちょっと優しく…」

 

 人を殺していないと伝えたいのだが何分言い方が酷い。まぁともかく最後のは出来ればである、いい加減威圧されるのも飽きてきたし、少しぐらい仲良くなってもイイじゃないか。

 

「…貴方はどうして私を助けたんですか」

 

「うん?」

 

 暫く考え事をしていた先生は今度は俺にそう聞いてきた。ふむ、ここは正直に言おうか。

 

「そうですね。色々と理由や下心はありますが…『ゆるして』って叫んだからでしょうかね」

 

 人を殺しても一切気にしない人間ならそんな言葉は出てこない。しかし先生は蜘蛛に襲われた時にハッキリと言ったのだ、『ゆるして』と

 

「他にも切り抜けないととか…ま、結局の所助けようとした結果こうして捕まった訳なんですがね。ははっ笑えねぇ」

 

「…あの」

 

「うん?どうしました」

 

 はぁと溜息を吐くかのように笑えば先生から遠慮がちな声が。…あれ?こんなしおらしい声初めてじゃね?でもまぁともかく

 

 

 

 

 

 

 

 

「…有難う、蟻原君」

 

 

 

 

 

  

 

 遠慮がちに呟いたその声は、はっきりと俺の耳に聞こえたのだった。

 

 




取りあえず書きたかったシーンの一つができて満足です
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