巨蟲列島 蟲姦お断り!【完結】   作:灰色の空

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蝶のように舞い蜂の様に刺す

「あるー日森の中ー」

 

 どこかで聞いた歌を小さく口ずさみながら舗装された道を歩く。歩き始めて数十分もしかして無人島かと懸念していたが人の手が加えられたであろう道があったので人が住んでいる島なのかもしれない。

 

「なら、何で人と出会わないのかねぇ~」

 

 先ほどから独り言が多くなってるのを自覚しながらも疑問は出てくる。全く持って人の気配が無いのだ。それより何か嫌な予感がじくじくと感じてしまうのは寂しさからの杞憂か。

 

(…独り言を言ってても仕方ないし少し黙ろうか)

 

 口を閉じ、当たりの音に耳を澄ませながら歩くことに専念する。出来ればそろそろ人と出会いたいところだが…そんな時ふと声が聞こえたような気がした。

 

「……女の子?」

 

 若い声だった。響からして女性か。やっとでつかめた人の痕跡と言うのに嫌な予感がした。聞こえた声が悲鳴だと感じたからだ。

 

「何処だ。どこから声が…「……ぁぁあああ!」っ!」

 

 今度は割とはっきりと聞こえた。女性の声だが先ほどとは違う声。でも悲鳴のような響きは変わらない。どうやら緊急事態が起きた様だ。直ぐに声が聞こえてきた方へ走り出す。  

 

(いったい何だってんだよ!)

 

 生い茂った草を踏みしめ全力で駆ける。山道で足場は不安定なのに俺の足はそんな事を一切苦にせずすいすいと進みやすい道や足場を選び声の聞こえてきた方へ最短距離で突っ切っていく。

 

「見えた! ってなんじゃありゃ!?」

 

 遠くに見えた光景に驚きの声が出てくる。糞でかい蝶が居たのだ。大きさは、二メートルぐらいか、目視では判断できないがそれぐらい大きいと思った方が良いだろう。

 そして最悪な事にその蝶の下にはへたり込んだ女の子が居たのだ。

 

(や、ヤバイ…アレは凄くマズい!)

 

 ゾワゾワと首筋が産毛を上げる。明らかに友好的には見えない。寧ろ捕食しようとさえ見える。つーか絶対にあの女の子に危害を加えるしか見えん現にストローのような口で何故かパンツが丸出しで出ている女の子の尻をつんつん突いている。あ、マズい。

 

「~~~っ!とぅ!」

 

 茂みを抜けた瞬間体を跳躍し両足を揃え女の子に覆いかぶさってる蝶に向かってドロップキックを繰り出す!

 

『ッ!?』

 

 繰り出した速度と全体重を乗せたドロップキックは見事蝶に炸裂し、思いっきり吹き飛ばすことが出来た。しかしまだ安心するのは早い、他にも数匹の蝶が居るのだ。華麗に着地し女の子をかばうように蝶と対峙する。

 

「はっ!悪いが蟲姦は好みじゃないんでな!他を当たれや虫けらが!」

 

 啖呵を切り威嚇する様に拳を構える。蝶の方は所詮虫なので何を考えているかはわからないが標的を女の子から俺へと変えたように感じた。何の感情もない虫の目が俺に向けられるというおぞましさで反吐が出そう!

 

「おい、大丈夫か!?」

 

「え…あ、うん」

 

 背中越しではあるが倒れていた女の子に声を掛ければ生きているみたいだ、本当によかった。しかしだからといって油断は厳禁。だって蝶がストロー状の口で俺を狙ってくるのだから!

 

「危ない!」

 

 女の子の叫びに返事を返す余裕はない。ストローを凝視し集中する。俺の顔を狙ってきた口を体を逸らすことで回避し流れる様に一気に踏み込んでガラ空きとなった胴体へと怒りの鉄拳をさく裂させる。

 

「オラァ!」

 

 唸る拳はめり込むような勢いで蝶の胴体へと当たる。外しようが無い一撃はしかし蝶を吹き飛ばすだけで終わり絶命させるには至らない。

 

「チッ 思ったよりも頑丈だなオイ!」

 

 悪態一つ。虫を吹き飛ばすことが出来たとしても始末しなければ堂々巡りだ。まだまだ体力的に余裕があるがこのままだとじり貧で尚且つ女の子が危ない。

 

「後ろ!」

 

 どうするべきか、攻めあぐねている俺の背中や頭上に何か細い固い物がひっつくような感触を受ける。何かがもぞもぞと動きちくちくとした痛みが背中を押す。

 視界の端に細い枝のような物がみえる。これ、蝶の足か!?

 

「ははっ そこは特等席何でな。さっさと消え失せろ!」

 

 細っこい足を掴み背負い投げの要領で地面へと叩きつける。舞い散る羽の鱗粉が気色悪いこと仕方ないが、地面に叩きつけた蝶に止めとばかりに踵落としを加える!

 

「虫は虫らしく潰れて死ねよ」

 

 蝶の頭部を砕きつぶせば後はぴくぴくと動く生ゴミの出来上がり。でも潰せたのはたったの一匹。まだほかにも蝶は周りをふよふよ浮いているのだ。

 今はまだ一匹一匹掛かってくるので対処できるがこれが全部向かってくると…かなりマズい。

 

「痛い!たすけてぇ!」

 

「まみちゃっ え”っ」

 

 ここでようやく俺は他にも人がいる事が分かった。視界の端で蝶に襲われているのは女の子か?続けて聞こえた声は男だったがすぐに聞こえなくなった。何となく何が起きてしまったのか察してしまい胸糞が悪くなる。

 

「み、んな…」

 

「待って。危険だ俺の傍から離れないで」

 

「そんな…」

 

 女の子が這いつくばりながら声を出すが生憎俺はスーパーマンじゃない。今出来るのはせいぜいこの子を守る事だけだ。

 

 蝶は依然として周りを漂い時折俺に纏わりつこうとした奴を背負い投げの要領で投げ飛ばすことしか出来ない。そんな詰みかけていた時だった。

 

 凛とした決意に満ちる声が聞こえたのだ。声の主は新たにやってきた帽子をかぶった女の子。

 

「今私にできる事!」

 

 女の子はその声とスプレーとライターの組み合わせで蝶に炎を浴びせたのだ。羽に燃え移ったのか凄まじい速度で燃えていく蝶。物の数秒で蝶はこんがりと焼けてしまった。その姿に又は炎を恐れてか他の蝶達もどこかへと飛んで逃げて行く

 

「…ふぅー」

 

「僕達…助かったの?」

 

「みたいだな」

 

 女の子に返事を返しながら念のため残心を残すが、他に蟲の気配は無かった。つまり俺たちは生き残れたという訳だ。安堵のためか大きなため息が出てくる。

 

「君、怪我はない?大丈夫?」

 

 改めて女の子に向き直る。蝶に押さえつけられていた女の子…ポニーテールで快活そうな子だ。先ほどまで降ろしていた半ズボンは今はちゃんと履いている。…良かった。あのままだったら目のやり場に困ってしまう所だった。

 

「…うん。大丈夫。怪我もお陰様で全く無いよ」

 

 女の子はそう言ってぎこちなく笑ってくれる。先ほどまで死にかけていたのにそれでも無理矢理笑顔を見せようとするのは中々出来ることではない。

 

「そっか。無事で本当によかった」

 

 女の子は気丈に振舞うが恐怖で未だに少し震えているのだ、出来る限り優しく労わる様に声を掛ける。それでも震えは止まっていない。こんな時どう声を掛ければいいのか俺は分からない。巨大な虫を殴る度胸や腕力はあってもこういうことは点で駄目みたいだ。

 

「これでも飲んでみる?少しは落ち着くかも」

 

 ふと思いつきポケットに合ったスキットルを手渡す。怪訝な顔をした少女に苦笑し、中身は只の水だと話した。取りあえずはお腹の中に何か入れば気分が落ち着くって聞いたことがあるような気がしたのだ。

 

「確か落ち込んだ時は何でもいいから食べて飲めば心が落ち着くってどこかで聞いたんだけど…どうぞ」

 

「あ、ありがとう」

 

 少し驚いた様子の少女だったが、スキットルに口をつける。一口飲んで驚いた顔をして二口目、三口目と飲みぷはーと一息をつけた。

 

「ふぅー そう言えば喉が渇いていたんだ。ありがとう、これとても美味しかったよ」

 

「それは良かった。やっぱ人間すきっ腹だと暗い事しか考えないもんね」

 

「そうだね。…んんっ!良し、なんだか元気が出てきたぞっ」 

 

 返されたスキットルを受け取り、ぴょんと跳ねて立ち上がる少女。その動きにポニーテールも元気よく跳ねる。

 

「改めて助けてくれて有難うっ!僕の名前は伊能愛。君は?」

 

 目をぱっちりと開けたその顔は元気な女の子でとても眩しい。糞みたいな虫が居た島だがこんな出会いがあるのだから侮れない。

 

「あー俺か。俺は…そう言えば誰だっけ?」

 

「…へ?」

 

 差し出された手を取り握手をし俺も同じように自己紹介をしようとして…そう言えば自分が記憶喪失だという事をようやく思い出す俺なのであった。

 

 

 

 

 

《伊能 愛》

 

 修学旅行中に飛行機事故が起き、見知らぬ島に遭難した時は最悪だと思った。それでも委員長やほかの皆と会ったことは幸運だったと思う。意見やそりが合わないのは仕方ないとしても協力すれば生還率が上がって助かることが出来ると思ったから。それなのに…

 

(こ、こんなのってないよ!)

 

 委員長から離れ茂みで用を足そうとした僕に向かって大きなチョウが襲ってくるなんて信じられなかった!

 

 悲鳴を上げ逃げようとするも上から覆いかぶされ身動きが取れなくなってしまう。人の背丈を超えた巨大な昆虫でも怖くて仕方ないのにその虫が僕のお尻を探る様に突いてくるなんて恥ずかしさを通り越して只の恐怖だった。

 

「ちょ…やめ いやだぁ……」

 

 恐怖の余り失禁さえしてしまったがもはやそんな事はどうでも良い。数秒後の未来が脳内を横切り動こうにも動けない。

 

(怖い怖い!食べられるっ 誰か、誰か助けて!)

 

 思考がパニックになり誰かに助けを求めていた。でも委員長も神野さえも助けに来れない。もう駄目だ、そう思った瞬間だった。

 

「トゥ!」

 

(…へ?)

 

 僕を覆いかぶさっていた蝶が吹っ飛んだのだ。余りにも訳が分からなくてポカンと口を開ける事しかできなかった。

 

「悪いが蟲姦は好みじゃないんでな!他を当たれや虫けらが!」

 

 僕をかばいながら現れた男の人。後姿で顔が見えないその人は僕を助けてくれたのだと、呼びかけられるまで気づくのに時間がかかってしまった。それほど余りにも非常識だったんだ。

 

「おい、大丈夫か!?」

 

「え、あ、うん」

 

 我ながら間の抜けた答え方だがそれよりもチョウが男の人にストロー状の口で攻撃しようとしたのがみえて咄嗟に叫んだ。しかしそれはすべて杞憂だった。

 

(す、すごい…)

 

 ストローを避け、一瞬で懐に入り込みパンチをする男の人。あんな大きな蝶を苦もなく吹き飛ばすのだけでも凄いのに背中に伸し掛かられた蝶を地面に叩き落し追撃をする始末。明らかに強い、まるで物語に出てくるヒーローみたいだとさえ思った。

 

 

 それから帽子の女の子、織部さんが蝶を燃やしたことで全ての蝶は逃げ去り僕達は助かることが出来た。

 

「君、怪我はない、大丈夫?」

 

 ようやく振り向いた男の人は思ったよりも幼くて、僕と同じ年ぐらいの男の子だった。それでも佇まいは大人っぽいけど。

 

 無事だったことを告げようとするが、死の恐怖で体の震えは止まらない、それでも顔を無理矢理動かし助けてくれたこの人を安心させようとして笑顔を作る。

 

「そっか、無事でよかった」

 

 口調は優し気だけど、その人は悲しそうに笑ってしまった。怯えてしまっていることに気付かれてしまったのかもしれない。駄目駄目だな僕は。助けてくれた人に迷惑を掛けてしまって。

 

「これでも飲んでみる?少しは落ち着くかも」

 

 そんな僕に男の子はよく映画で見かけるお酒を入れる水筒を手渡してきた。どうしてこれをと怪訝な顔をしたら中身は水だと苦笑していた。飲んで食べたら心は落ち着くかもしれないとどこかで聞いた話をドヤ顔でしてくるのは案外子供っぽい。

 

(…本当だ。お酒じゃない) 

 

 蓋を開け少しだけ匂いを嗅ぐと確かにアルコール臭はしない。中には本当に水が入っているのだろう。そんな時ふと委員長たち(正確には委員長以外)が飲み物を飲んでいたことを思い出した。人間現金なもので思い出せば喉が渇いてくる。

 

 ゴクリと一口、その味は、何とも言い難い美味しさだった。自分が生きていると実感できる力のある水だった。調子に乗って二口、三口目を付ければ暗くなっていた思考が明るくなり、体の疲れが取れたような気がした。

 

 完全に自分の調子を取り返し、助けてくれた男の子に自己紹介をする。感謝と一緒に感じたきっとこの人と一緒ならこの島から生き残れるというある種の確信を持ちながら。

 

 変な島だけどこの人と出会えたことは何か大きな意味があると僕は強く思うのだった。

 

 

 

 

 

 でもね、記憶喪失まではさすがの僕も予想できなかったよ…

  

 

 

 

 

 

 




伊能 愛 ポニーテールの僕っ子少女。

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