原作5巻に入りサクサクと進めていきます
「ハァ…ハァ…まだ着かないの」
「あともう少しだ、頑張ろう真美」
「そう…だよね。うん、あと少し…頑張らないと」
息が上がった三浦をキャプテンは励ます。後もうちょっとで助かると思えばここで弱音を吐くにはまだ早すぎと思ったのか三浦は汗を拭い歩みを続ける。
(このまま順調に行けばいいんだけど)
時間帯にして5時30分、俺達は救助艇に向かって山道を下っていた。早朝起きてから最後の食事をとり、直ぐに用意を整え出来る限りの荷物を減らしての強行軍だった。
セップクし死んだジグモの死骸はいつの間にか消えてなくなっていた。織部さん曰くジグモを越える危険な何かがいるとの事だが…正直な話、虫全てが人間にとって危険なので今更の話だと思っている。
(そいつに俺は敵うのか?…いいや、敵対するんじゃなくてどう凌ぐか、だな)
島の危険度は日数を超すたびに強くなっている気がする。その事を踏まえると俺が倒すとか考えるのではなくどう凌いで逃げるかに思考をシフトして行った方がいいような気がするのだ。実際救助艇は着ているのだ、危険を冒す必要性は薄い。
そんな事を考えていた時、隣にいたアキラがやけにニヤついて俺に肩を回してきた
「で、昨日の夜はどうだったんだ」
「アキラ…お前なぁ」
「知ってんぞ、両手に花をやっていたんだろ。ニクイねぇ~よっこの色男」
「あのなぁ、何もしてねぇよ。つか出来る訳ないだろうが」
ニヤニヤとアキラは揶揄うように笑う。確かに両手に花だったのは間違いなかったが何も手を出してはいないぞ。そもそも手を出す勇気が無いという事実があるんだけどな!
「マジか!?…ヘタレだなぁ。そのままじゃ一生童貞だぞ?」
「うるせぇ」
ニヤニヤと笑ったアキラはそう言って俺から離れて行った。あの野郎顔が良いからって覚えていろよ!
そんなこんなでしばらく歩いていた時、ぴたりと織部さんが止まった。そうなると皆も自然と足を止める事になる。織部さんの反応こそが生存への道だと皆が理解しているからだ。
「……何しているんだろう」
誰かがポツリとつぶやいたがそれも仕方のない事だった。織部さんはスンスンと鼻を鳴らし何かの匂いを嗅いでいるのだ。
「…臭いますね」
何かに気付いたのか、織部さんはそう言った。ああ、なるほど臭いのか。
「確かにシャワーは浴びていないからな」
思えば漂着してから4日目だ。何度も走っていたので汗は限りなくでている。しかも今は少し気温が上がったのか暑さを感じている。となれば俺達の匂いも相当な物だろう。
「いや、絶対そっちじゃねぇだろ」
「そうか?」
「違います蟻原君。この匂いはカメムシです」
「そっかー…ってカメムシ?」
どうやら俺の匂いでは無かったらしい。とりあえずホッとするのもつかの間、においの元はカメムシだというのだ。
「な、なに?カメムシって人を襲うの?」
「カメムシの仲間には人を含む動物を襲う種類も存在しています」
「はぁ?カメムシって臭ェだけだろうが」
上條が鼻を掴み呆れた声を出す。なるほど確かに一見カメムシは臭いだけの虫だ。しかし…
「なぁなぁ上條」
「あんだよ」
「この島に来てから危険でなかった蟲なんて一匹でも存在したか?」
この島においてはその常識は当てはまらない。何せ虫が巨大化しているのだ、小さいときは無害でもデカくなればその分栄養を取ろうとする、その時狙われる獲物はこの島で一番か弱い生物、人間だ。
「…居ねぇな。全部ヤバイ奴ばっかりだ」
「でしょ。だから油断するのは止めよう」
と言う訳で織部さんによる解説を聞きながら辺りを伺う。かなりざっくりとした解説によるとこの虫はサシガメの仲間で体内で毒ガスを作り出すバイオプラントを持っているらしい。しかもこのカメムシにはシャーガス病と言う寄生虫の媒介中になっている異種も存在しているらしい。
「よーするにとにかく危険って事か」
「…織部さんの説明をかなりはしょったね」
蟲の生態については聞く価値があるだろうが、今求められているのは、この状況をどうするかだ。
「取りあえずどうするの?四方八方囲まれているけど…」
今俺達は舗装路を通って強行してきた。しかし今現在は周りを木に囲まれた場所にいるのだ。カメムシはその木にびっしりと張り付いていて…まだ襲ってくる気配はないが、もしやって来たら数分で俺達は取り囲まれてしまうだろう
「…今はひとまず静かに迂回するのが一番かと思います」
「だね。それじゃ皆、ゆっくりと移動を…っ!」
織部さんの言葉で皆渋々と動こうとしたその時だった。
ドンッ!!
何かが爆発したような音と共に木にいたカメムシたちがはじけ飛んだ。粉々になり弾け飛んだカメムシたち、音と衝撃によってカメムシたちは動き始めるが俺達にとってはそんな事は二の次だった
「どうなってんだこの島は…」
猟銃を構えた男達が居たのだ。年頃は中年で数は二人。構えている銃から硝煙が出ているところからして発砲をしたのはこの人たちで間違いない。
「ぜんさん 次っ!」
「あいよ!おやっさん」
煙草をくわえた壮年のおっさんは眼鏡をかけた男性に次の発砲を促す。そこから先は男二人の猟銃の連射によって次々とカメムシたちが死んでいく。
「救助に来ました!こっちに来てください!」
突然の事で呆然としている俺達に今度は女性の声がかかる。見た目は先生と同じぐらいか。
「助けが来たの!?」
「これで助かったのね!?」
鈴木さんに三浦さんが安堵した声で叫ぶ。その声でようやく状況を掴め始めたのか皆の顔に希望が満ちてくる。
しかし現実としてカメムシは俺達を標的としたのか、徐々に詰め寄ってくる。
「沢に行きましょう!そこに行けばサシガメはやってきません!」
「なら早く行きましょう!皆、移動するわよ!」
我に返った織部さんがカメムシがやってこない場所を提案し、先生が指示を出す。その声に反論するものは当然いない。
「そこのおっさんたちも早く行きましょう!撃退するには無理があります!」
「ああ、わかってる!しかしとんでもねぇ虫の数だな!?」
「おやっさん!速く行こう!弾が無くなっちまうぜ!」
猟銃を撃つ男達を呼びかけて、俺達はサシガメのいる場所から沢へと移動するのだった。
「私は海上保安庁『巡視船みの』の乗務員、識森涼子と言います」
全員が沢へと下り、一息ついたところで状況の整理が始まった。若いが冷静にキビキビと話すこの人は流石海上保安庁と言った所か。
「二週間前から音信不通になっているこの島の調査に来ました。貴方達は…この島の方ですか?」
「いいえ、違います。私たちは――学園の者で」
「まさか、あの飛行機事故の生存者ですか?」
識森さんに事情を説明する先生。飛行機事故だとか、その生存者だとかは先生が説明した方が早いだろう。事情説明などは先生や委員長に任せている間、俺としては識森さんの言葉が気になった。
(あれ…?この島の調査がメインで飛行機事故の方じゃない?)
飛行機事故が起きたのは僅か四日ぐらい前なのに、この人たちはその救助活動に来たのではなく音信不通になった島の調査に来たのだというのだ。いくら音信不通になったとはいえ、普通は飛行機事故の生存者たちを探すのが先ではなかろうか。
(…うーん、優先順位がどっちが上なのか分かんないけど、なーんかきな臭いなぁ。考えすぎか?)
偶々この人たちは島の調査に来た人達であって、飛行機事故の生存者を探す人たちが別に居るのかもしれない。そう考えればおかしなことは無いとは思うのだが…
(でも飛行機事故って結構大々的にニュースで流すよなぁ…ヘリとか使って。それなのにヘリコプターの音は一度も聞いていないし…この人たちのは救助艇で来て優先順位は島の調査。外の世界ではいったいどういう報道のされ方をしているんだ?…駄目だな一度疑うとドツボにはまりそうだ)
妙な物を感じるがこの人たちが俺たちの救助に来たのは間違いない。疑うのは諸々が終ってからにするべきだろう。
そんな事を考えていたら話は進んでいたらしい。ベテランの風格を匂わせるおやっさんが不敵に笑っていた。
「今、俺達猟友会12名と海上保安庁20名でこの島の探索を行っている。今まで何度も仕事をしてきたが俺以外みんな頼りになる奴ばっかりだ」
クククッと物凄く大胆不敵に口角を上げるおやっさん。俺達を安心させようというジョークだろうか。取りあえず突っ込んでおこう
「でも、そう言う貴方が一番ベテランなんじゃないんですか?」
「ほぅ?なんでそう思ったんだ坊主」
煙草を加え、猟銃に弾を装填しながらピクリと眉を上げたおやっさん。
「だってあんなデカい虫の大群を見ても狼狽えていないですもん。普通は腰抜かすか逃げようと考えるでしょ。それなのにそんな余裕そうに笑っていられるなんて、絶対こういう事態に馴れていますって」
大体デカくなった虫の大群を見たらビビるのが普通なのに、この人は特に気にしてい無さそうだった。周りの識森さんと眼鏡の男性もこの余裕があるおやっさんに信頼を置いている感がある。
「おう坊主よくわかったな。おやっさんと一緒なら安心だぁ」
俺の返答に気を良くしたのか眼鏡をかけた男性…確かぜんさんだったか?がにこやかに笑った。
「猟友会の害獣駆除で絶対に怪我なく無事に帰ってくる。して一緒に行った奴らも怪我無くな」
「ほらやっぱりベテランだったじゃないですか」
「ふん」
気恥ずかしいのかそっぽを向いたが向けられている信頼は絶対のものだ。実際俺達としても銃を持って取り乱さない壮年の男性と言うのは安心感がある物だ。
「良かったぁ~これで私たち助かったのねぇ」
「ほっ これで一安心ですわ」
あからさまに安堵の息を吐く女性陣。後は救助艇まで護衛してもらいながら移動するだけだ。皆で沢を移動しながら出たのは安堵からの疑問だった。
「つっても害虫駆除と害獣駆除は全然違うと思うんですけど…」
「虫を打つか獣を撃つかの違いだろ。へっ これさえあれば心配いらねぇ」
巨大な虫は獣とは違うと言いたかったのだがぜんさんはそこまで気にはしていなかった。まぁ猟銃があれば大半の事はどうにでもなってきたんだろ。その銃に対しての信頼感は流石猟友会と言った所か。
ドォンッ!ドォンッ!
「お、他でも害虫駆除が始まったみてぇだな」
遠くから響いてきたのは銃の発砲音。ぜんさんが当たりを付けているところからして救助に来た人が何度か撃ってるんだろう…うん?そもそもマズくね?
(虫て言っても結構な数が居るんだぞ?弾も限りがあるんだし、効かない奴が居たらどうするんだ?)
折角やってきた所悪いがすぐに救助に来た人全員が撤退するべきなのではないかと、考えた時だった。
「蟻原君っ!」
「え?」
伊能の声が聞こえた瞬間、思いっきり伊能に飛びつかれたのだ。倒れる瞬間混乱しながらも伊能を抱き留めて地面に背中から倒れ込む。
(一体何がっ!?!?)
地面に倒れ混乱しながら俺は見てしまった。俺の近くにいたぜんさんが巨大な物体に襲われるその光景を。ぜんさん自身ほぼ分からなかっただろう、いきなり隣からロケット発射染みた速度で虫が襲い掛かって来るなんて。咥えられるその瞬間まで何が起きたか分からないに違いない。
「キャァァアア!!」
ベキッバキッゴキッ!
悲鳴を上げたのは一体誰か。もはやそんな事を考える暇もない。捕らわれたぜんさんをまるでせんべいみたいに音を鳴らし食っている虫。アレは一体…
「はぁ…はぁ…大丈夫蟻原君」
「あ、ああ大丈夫だ。有難う伊能」
助けてくれた伊能に礼を言い、ざわつく鼓動を呼吸で押しとどめながら虫を見た。恐ろしいスピードだった、視認するのが難しい速さであっとう間の出来事だった。もし伊能が助けてくれなかったら…
呆然とする俺の前では織部さんがワナワナと震えていた。
「あれは…ヤゴっ!?そんな…湿地帯でヤゴと遭遇するなんて…私たちが逃げられる可能性ほぼ無いっ!」
ヤゴ。確かトンボの幼虫だったか?詳しくは知らないがあの一瞬の加速には何かしらの生態があるはずだ。それが何なのか知らないがすぐに対策を取らないといけない。
それなのに…
(体が…震えている!?)
伊能が助けてくれなかったら本当に死んでいたのかもしれないという事実が体に刻み込まれてしまったのか震えているのだ。先ほどまで危惧していた事態が一瞬でやってきた、自分が反応できなかった、それぞれの要因が俺の身体を蝕む。
「チッ 野郎ぜんさんを食いやがって……初撃で仕留める。下がってな」
同僚を食ったヤゴを前に出たおやっさんが忌々しそうに見据えると銃で狙い発砲した。
「やったぜっ!」
神野の喜色に満ち溢れた言葉通りヤゴの眉間に銃弾は当たる。しかし、ヤゴは衝撃にたたらを踏んだだけで応えた様子は無かった。
「やはり、ヤゴの固い装甲には散弾は通じない…」
一般的に人間が想像する最強の武器『銃』、その威力は誰もが知っている通りだったが、この巨大化した虫の甲殻は銃弾を受け付けなかったのだ。
しかしおやっさんはまだ余裕を崩さず不敵に笑っていた。
「ほぅ…だが、今度のは一味違うぞっ!このイノシシ弾で何頭の熊を仕留めてきたっ!」
今度装填した弾はイノシシ弾。確か別名がスラッグ弾と言うのだったか。詳細は知らないが強力な弾だというのは知っている。
(ああ、それでもまだ威力が足りない。…くそ何時までブルってんだ!)
俺の思い通りに動かない体を無視して状況は進んでいく。狙いを付けたおやっさんはしかしヤゴがケツから水を注入して排出するロケット噴射によってヤゴの体当たりを食らってしまう。
「早く…助けないと…」
「蟻原君…」
木に激突したおやっさん。銃を盾にすることで致命傷を免れたが、それでも危険なことに変わりはなく
「銃を捨てて逃げてぇ!ヤゴにはまだ奥の手がっ!」
織部さんが叫んだ瞬間だった。ヤゴの下顎が伸びおやっさんの左腕を切り飛ばしたのだ。出血した左肩を抑え込みながら倒れるおやっさん。生きてはいるが果たしていつまでもつか。少なくとも早く止血をして助けないと生き残れない。
(クソックソッ!動けよっ!)
焦る、焦っていく。動きたいのに動けない。余りにももどかしさに悔しくなる。今まで何度も危険だったのに予想外の事で簡単に動揺する自分が無さくない。
「大丈夫だよ」
そんな俺の耳に入ってきたのは…伊能の声だった。隣を見ると伊能が勇気づける様に俺の目を見た。
「君なら行けるよ。だから大丈夫」
「…はは」
現金な物でたった一言言われただけで俺の震えは止まった。それが悲しくも恥ずかしくまた、嬉しかった。
「お父さんっ!」
そんな事をしている間に状況は進んでいく。識森さんが叫べばヤゴがこちらを標的にし、その隙に倒れたおやっさんが片手で銃を撃つ
ドォンッ!
その音を切っ掛けに俺はようやく立ち上がった。することはヤゴの無力化とおやっさんの救出。ヤゴはイノシシ弾を食らいながらもまだ健在で、おやっさんは血を流し続けたまま。
ヤゴに対抗するには素手ではキツイ。だから下にあった銃を手に取る
「ぜんさん…お借りします」
手にした銃は先ほどまで銃を持っていたぜんさんの物。勝手に借りるのは忍びないがおやっさんを助けるためだ、きっと本人も笑ってくれるだろう。
「うぉぉおお!!」
銃を手に取りふらついているヤゴへと向かう。流石にイノシシ弾の衝撃は強かったのかフラついている今がチャンスだった。
(確か持ち手を頬にくっつけるようにして…)
忘れた記憶の中では知らないが俺は銃を撃ったことなんてない。出来るのは先ほどまで撃っていたベテラン二人の真似ごとだ。
「坊主、お前…」
おやっさんの呆然とした声が聞こえたが無視をして、ヤゴに接近する。動くヤゴだがその動きは鈍重だ。だからこそ狙いはしっかりと付ける。寧ろしっかりと銃口を当てる。
(しっかりと衝撃に備えて…撃つ!)
ドォンッ!
体に感じる衝撃と思いっきり跳ね上がる銃口。やはり素人の模倣は辛いものがある。だけどその代わりにヤゴの体勢は大きく崩れた。
「見ろ!ヤゴの前脚が吹っ飛んだぞ!」
「坊主、ヤゴの関節を撃ったのか!?」
俺が狙ったのはヤゴの前脚の間接だった。あの巨体を細い足で支えるのはかなりの力が居る筈。だからこそ細い足の関節を狙ったのだ、間接なら装甲が少ないと信じて。
目論見通り、ヤゴは体勢を崩した。だがまだ生きているのは変わりない。もう一発食らわせようとした時だった。
ドォンッ!
俺がいる場所の反対方向から銃撃が聞こえてきた。同じように関節を狙ったのか体制を大きく崩したヤゴの頭が地面に沈む。
「ってぇ~ 銃って結構使いづらいのな」
「アキラ!?」
呑気な声を出したのはアキラだった。その手には同じように猟銃が握られていた。どうしてと思い後ろを見れば伊能に引きずられているおやっさん の手には何もなかった。それでアキラが何をしたか察した。つくづく手癖の悪い奴だ
「ワリィけど俺、リロードを知らねぇからな」
銃を逆さに持ちバットみたいにして振り上げるアキラ。まぁそれは俺も同じだ。だから最後の一発は確実に狙うとしよう。
「それは俺も同じだっての。ったく、それじゃ先にやらせてもらうぜ」
「おう、いっちょ派手にぶちかませ!」
アキラに後押しされ、銃を構える。今度の狙いは、外しようがないほどの大きな的。
保護するものが何もない虫の大きな目。
「さっさとくたばらねぇと後が辛ぇぞ?」
皮肉を一つ。後に残るのは一発の銃声と力任せに関節をへし折っていく暴虐の音だけだった
正直な話登場人物皆がいざこざを犯さないので物凄くサクサクと進んでいくんですよね…
最終回まであと5,6話無いかもしれないですね。