巨蟲列島 蟲姦お断り!【完結】   作:灰色の空

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希望の船は

 

 

 

 

 

「海上保安官は許可が無ければ発砲することが出来ないんです…」

 

 手当てを受けるおやっさんを見ながら重い口を開いたのは識森さんだった。その言葉は父親が片腕を失う怪我を負っても助けに行かなった事だろうか。

 

「なんだそりゃ?じゃあ身内が襲われていても許可が無けりゃ何もしないっていうのか?」

 

 呆れた口を開くのはアキラ。ヤゴの関節を散々とへし折った癖にまだ力を余らせているようで銃を鈍器代わりに持っている。…銃床がべこべこになっているがお前マジでどんな腕力しているんだよ。

 

「そう責めるな。俺達猟師にはできても役所勤めには規則を破れないって事もあるんだ」

 

「色々と理由があるって事なんですね」

 

 片腕を失ったのに未だに煙草を加え複雑そうに娘を見るおやっさん。その右肩には白川さんによって包帯が何重もまかれており痛そうに血がにじんでいるが本人は苦痛の表情を浮かべていなかった。 

 

「さぁそんな話はもういいだろ。それよりさっさと船へと向かうぞ」

 

 ヤゴをアキラと一緒に殺し、沢を下る俺達。救助艇には識森さんが連絡を入れおり、近場の港?ベイ?に寄ってくれるらしい。

 なんでも識森さん達三人はゴムボートで上陸したとか、ベイは製薬メーカーが使っていた大型のものだったとか色々と単語が飛び出してきたが、兎も角脱出まではあと少しだった。

 

 あと少しで脱出だと思えば疲れも吹っ飛んでいくのだろう、歩きにくい林の中を歩く皆の顔は明るい。それなのに俺は不安で仕方なかった。

 

(後少しなんだけど…うーん、上手くいくって保証、どこにもないんだよなぁ)

 

 今までの事を思え返せば、これで脱出なんて上手く行けるのだろうか。そんな不安がぬぐえない、拭えないから少しでも備えておきたいと思うのは必然だった。だから

 

「おやっさん、怪我してるところ申し訳ないんですけどおおざっぱでいいから銃の使い方教えてくれませんか?」

 

「あぁん?どうした急に」

 

 片腕を失っているというのにしっかりと足取りをして居るおやっさんに俺は不安になりながらも銃の使い方を請うていた。  

 

「なんつーかさ、この島から脱出するまでは危険じゃないですか。だったら少しでも皆が生き残れる手段はあった方が良いかなって」

 

 実際のところ銃が役に立つかどうかは未知数だ。虫の甲殻を見ていれば通じるのが怪しい種だっている筈だ。それでももしもの時と言う後悔を失くさないようにはしたかった

 

「…確かにそうだな。よし分かった、口頭にはなるが俺のやり方を教えてやろう」

 

 そんな俺の願いは割とあっけなく通ってしまった。やっぱりおやっさんも今の状況に危惧しているだろうか。兎も角も移動しているこの時間を有効に使わなければ…

 

 

 

 

 

 

「と、大体こんな所だ。理解したか坊主」

 

「多分…大丈夫かと」

 

 一応猟銃の扱い方は教えてもらったが…上手くできるのだろうか。取りあえずリロードのやり方を覚えたので良しとはすることにしよう。

 

「あ、僕はちゃんと覚えたよ?」

 

「へぇー流石は伊能。ってお前聞いていたのかよ」

 

 隣でやたらと自慢そうに胸を張る伊能。良くもまぁ聞き耳を立てていた物だ。感心するよりも前に呆れてしまう。聞きたいのなら素直に言えば良いのに

 

「はっ 頼もしい限りだな嬢ちゃん。つっても使う機会が無いのが一番いいんだが」

 

「全くですね」

 

 こんな状況だ、銃なんて使わない方がいいに決まってる。もし使う時が来たのならそれは虫に襲われているとき。願わくば使わずに脱出したいものだ。

 

 そんな雑談をしながら一時間ほど歩いた時だった。

 

 ドンッドンッ!

 

 まるで連続打ち上げ花火をしているかのような発砲音が聞こえてきたのだ。その鳴りやまない音にゾワゾわとした悪寒が募る

 

「急ぐぞ…」

 

 おやっさんの声に弾かれたように全員が一斉に走り出す。この林を抜ければ後は脱出するのみ。

 

 

 そう考えていたのに…

 

 

 バキバキバキバキッ!

 

「な、なんだありゃ…」

 

 森を抜けた先にいたのは

 

 

 巨大な大ムカデだった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(う、うわぁ…デカいってレベルじゃねぇぞ!?) 

 

 巨大。只々巨大と言う言葉しか見つからない。何せムカデは長い尾を伸ばしていないにもかかわらずビル7階ぐらい大きさまであるのだ。いったい全長何メートルあるのか想像すらつかない。

 

「しょ、正真正銘の化け物だな」

 

 震えて出た声に反応を返す者はいない、そりゃそうだ。全員が絶賛目の前の光景に目を奪われているからだ。

 

 

「うあわぁぁああ!!」

「駄目だ!イノシシ弾が効かねぇ!誰かライフル持っていねぇか!?」

「おい何やってんだ!さっさと艦を出せ!」

 

 船で待機していたであろう猟友会の人達と海上保安庁の人たちが必死に大ムカデに抵抗している。猟銃を絶えなく撃ち続け停められている船を出して一刻も早くあの化け物から逃げようと奮闘していた。

 

 しかしそれは余りにも儚い抵抗だった。

 

「うぎゃぁあああ!!」

「ぐあっ!?」

「ギャッ」

 

 ムカデが体を揺らし一薙ぎ払えばそれだけで人が死んでいく。上半身を千切られ、顔面を剃られ、次々と無慈悲に死んでいく俺達を助ける筈だった人達。

 

 それでも生きる為に猟銃を撃ち続けるのだが…保安庁の人達はどうやら違ったようで

 

「おいおいアイツ等ムカデに水をぶっかけてなに遊んでんだ?」

 

 アキラが引きっつった顔で呆れた声を出す。巡視船には一応武器となる砲が付いている筈。それなのに保安庁の人達は放水をムカデに放っていたのだ。呆れたアキラの言い分も納得してしまう愚行だった。そもそも放水は人に有効であっても虫には効かないってわかんないのかねぇ?

 

「そうっすよ!なんで大砲を撃たないんっすか!」

 

「ほ、本部からの許可が下りないと発砲は出来ないの…」

 

 甲斐の真っ当過ぎる質問は仲間達が殺されているのを見ている事しかできない識森さんが応えてくれた。  

 

(許可って…始末書より命を取ってくれよ)

 

 なるほど、確かに勝手に発砲をすれば海上保安庁として大問題になるだろう、しかし現状命の危険がある以上は生き延びる可能性がある大砲で攻撃してほしいのだが…

 

(これだからお役所仕事しかできないって人は嫌なのよ。現場判断で勝手に動く奴が言うのもなんだけどさ…うん?お役所仕事?現場判断?)

 

 呆れとむず痒い物を感じながらも慌てて仲間たちを助けに行こうとして織部さんに止められている識森さんを見る。

 

「わ、私が艦を…皆を呼んでしまったの…」

 

 …考えてみれば俺達を助ける為に巡視船を呼んでくれたのは識森さんだ。未確認の生物がいると注意したとはいえまさかこんな事になるなんて思いもしなかっただろう。そう考えると居た堪れない気持ちになる

 

「落ち着け、お前の判断は間違っちゃいない。それに今行った所で化け物のエサが増えるだけだ」

 

 俯く識森さんを宥めるのはおやっさん。少々冷たい言い方のような気もするが猟師である以上死生観がどこか達観しているのだろう。浮かべる表情は冷たいのに識森さんの頭を撫でるその手つきは優しい。

 

 ドンッドンッ!

 

「ぎゃぁああ!!」

「死にたくねぇよぉぉおお!」

 

「…チッ バカが。逃げればいいのにアイツ等早まりやがって。焦った方が負けって事が分からんでもないのに…」

 

 でもちょっと達観しすぎてません?皆貴方の様に冷静には動けないんですよ?なにこのメンタル超人?

 

「おいアンタ!仲間がこの島の周りにいるんだろ!?違う船やヘリとか呼べねぇのかよ!」

 

「み、未知の危険がある以上他の艦は動きません」

 

 つまり他の助けは望めないって事か。…その事実に知った皆の表情が絶望へと染まっていく。このままだと皆の士気が危うい

 

「仕方ねぇ…丸太で船でも作るか!」

 

「こんな時に冗談は面白くないよ?」

 

「ア、ハイ」

 

 無理矢理ひねり出したジョークは伊能にバッサリと切り捨てられてしまった。クスン

 

「涼子…生き残れる可能性がある者を優先しろ。それが俺が生きてきた山で生きる者の掟だ」

 

「……うん」

 

 とかなんとかアホなやり取りをしていたら識森さん達はどうやらが話が決まっていたようで、涙を拭ったその顔は今まで以上に凛としていた。

 

「みなさん、私たちが上陸する前にここから数キロ先に漁港を見ました。そこへ全員を誘導します」

 

「操縦は俺がどうにかする。あと少しの辛抱だ」   

 

 結果的に言えば今巡視船は大ムカデの捕食範囲内だ。それなら多少は離れているとはいえ漁港で適当な船を見繕った方がいいだろう。皆もその判断に不満を唱える者はいなかった。…何人かは疲労の色を滲ませていたが

 

「織部さん、今移動に関して注意することは?」

 

「ムカデの仲間は素早く動くものを獲物として認識します。出来るだけゆっくりと動いた方がいいでしょう」

 

「了解。他に虫が現れる可能性は?」

 

「…ムカデの活動範囲内なら他の虫たちは大人しくしてくれます」

 

 ヘタに動けば喰われるからか。となれば今迅速に動いた方が良いのは確実だ。

 

「それじゃ識森さん。誘導をお願いします」

 

 俺の言葉にうなずき先導してくれる識森さん。…考えれば今あの人は職場の同僚たちを見捨てて俺たちの救助を優先してくれたのだ。呼び出したせいで虫に襲われてしまい、結果的には見捨ててしまう事になった識森さんその内心は複雑な物だろうが…

 

 

 

 表情の見えぬ識森さん、その後をついて歩く俺達。掴みかけた希望はまだ手に入らず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして時間をかけ、虫に襲われる恐怖を耐え凌ぎ、着いた漁港。脱出の鍵を見つけ歓声を得る筈だったがしかし現実は甘くは無かった。

 

「どうなってるんスか?」

 

「な、なんで…」

 

「私達もう終わりなの…?」

 

 

「まーさか、これは想像できないなぁ」

 

 絶句するみんなの前にあったのは数々の漁船が沈没している様だった。何十隻とあった船はどれもが斜めに傾き役目を果たせず沈んでいた。流石の俺もこの光景は予想外が過ぎた。せいぜい船が無かったとか、壊れているとかは思ったんだが…

 

「コレは…フジツボか?」

 

 沈没している原因はハッキリと見えていた。船にびっしりと巨大なフジツボが張り付いていたのだ。大きさは大体傘ぐらいだろうか?そんな大きさのフジツボが無数に張り付いているのだから重さで船が傾くのは道理だった。

 

「私が三日前に食べたフジツボより大きい!?……育ってるの?」

 

「え、フジツボって食えるの?」

 

「食べたぞ、味はエビっぽかった」

 

 意外!フジツボは食えるらしい!?キャプテンが律儀に返してくれたが…そうかフジツボって食えるんだ。尤もここまでデカいと食う気は失くしてしまうが。

 

「虫だけじゃなくフジツボまで巨大化してんのかこの島は…何がどうなってやがんだ」

 

「他にも蟹が巨大化していましたよ。シンメイ製薬メディカルセンターって所のですが」

 

「シンメイ…だと?」

 

 おやっさんの呟きに返せばピクリと眉が上がった。知ってる会社だろうか?そんな俺達のやり取りの傍では甲斐が船から戻ってきて引きつった顔をしていた

 

「一通り見てきたけど全部駄目っしょ。例えフジツボを剥がしても電気系統が海水に浸かって動かないっす…オールでも漕ぎますか?」

 

「んじゃ電気系統が海水に浸かってなかったらお前何とか出来たのか?」

 

「うーん、応急処置なら何とか」

 

「すげー」

 

 甲斐とアキラののほほんとした会話で分かる通りこの一帯にある船はすべて駄目だった。電気系統が海水に浸かっている以上もはやこの船全ては駄目だろう。

 

(こりゃマジで丸太舟の出番か?)

 

 いい加減マジで脱出するための手段がなくなってきた。上手くはいかないだろうとは思っていたがまさかここまでスムーズにいかないとは。マジで漫画や映画染みてきた。

 

「もうこれ以上この島に居ては駄目っ!一刻も早く脱出しましょうっ!」 

 

 そんな時もはや悲鳴染みた織部さんの声が聞こえてきた。何事かと振り向替えれば鬼気迫った表情で委員長に迫っている織部さんがそこにはいた。  

 

「そ、そうね。早く出ましょう」

 

「言われなくたってこんな島一秒だっていたくねぇ!」

 

「そう言う事じゃない!」

 

 神野が叫ぶが織部さんはさらに悲痛に叫んだ。…もしかしてこの娘アイデアロール失敗している?SANチェック失敗?

 

「上手く説明できないけど私達がこうしている間にも今より巨大で強力な捕食者たちが生まれてきているっ!」

 

 ほぼ金切り声が響けば皆がざわつく。あ…この空気は、うん、マズい。非常に不味い。

 

「巨大化した理由は分からない。でもずっと観察してきた私にはわかるのっ まだどこかで羽化を待っている虫たちが眠っているって。この島はまだ途中なの…今ならまだ逃げ出せる…島を本当に支配する虫達が現れる前に脱出しなきゃ!」

 

「今でもキツイっていうのにどうすりゃいいんだよっ!?」

 

「もう嫌ぁ…どうしてこうなったのぉ…」

 

「ははっ…もう駄目なんだ…私達ここで死」

 

 織部さんの言葉が引き金となって皆から弱音が漏れ出してしまった。一度出てしまえば感染はあっという間だ。でも

 

「―――諦めるのはまだ早い」

 

 絶望と諦観が漂う空気を明確な声で切り捨てる。確かに日が立てば立つほど凶悪な虫が出てきていた、危険なのは間違いない。

 

「危険?なるほどその通りだ。でもまだ俺達は生きている。生きて動けて知恵を絞る事が出来る」

 

 皆の顔を見回す、諦めた者苦い顔をする者、苦笑する者耳を傾ける者それぞれだ。でも生きているんだ。

 

「本当にここで諦めるのか?大人しく虫のエサになるのか?俺は御免だ、申し訳ないが死ぬときは腹上死って決めてる」

 

「ふ、腹上死って…」

 

 ぷっと誰かが噴き出した気がした。気にするもんか、この際だ、我慢していた事言ってやる!

 

「つーか腹減ったまま死ねるかって話だ。目ー覚めてからずっと美味いもん食ってねぇんだぞ!?いい加減お冠だっての!」

 

「確かに何も喰ってねぇしな。あーあさっさと帰ってラーメンでも食いてぇな」

 

 アキラがニヤリと笑ってこちらにアイコンタクトをしてきた、流石はアキラ解ってるぅ!

 

「そもそもまだまだやりたい事は一杯あるんだ。こんな糞みたいな島で死ねるかっての」

 

「ふふっそうだね、その通りだよ。皆もそうでしょ?」 

 

 伊能が苦笑して同意すれば諦観していた空気が変わった。一人一人死にたくないと顔つきが変わっていく

 

「はい!私おばあちゃんが心配です、だから絶対にあきらめません」

 

「そうですわよね…わたくしもお爺様に合うまでは…死ねませんわ」

 

「そうですね。(先生)が諦めていてはいけませんね」

 

 白川さんと桃崎と先生が頷けば、皆それぞれ死ぬわけには行かないと気力を振り絞ってくる。うん、ここまで行ければみんなの士気は大丈夫だろう

 

(ほっ…これで良しっと)

 

 安堵の息を内心で吐いて、元凶となった織部さんにそっと近づきで凸ピンを一発

 

「あたっ!?あ、蟻原君?」

 

「もぅ駄目だよ織部さん。君が諦めたら」

 

 ビックリしている織部さんにひそひそと声を潜める。あんまりこういうことは言いたくないのだが仕方あるまい。

 

「こう言っちゃ酷いと思うけど皆君の事を頼りにしているんだ。そんな君が取り乱したら皆も同じようにパニックになっちまう」

 

 酷い話だがもはや織部さんの知識と言動がこの島で生き残る指針となっているのだ。虫の知識を知りサバイバルの知識を知る彼女がパニックに陥れば

それが皆に伝染する。一度恐慌に陥ってしまえば立て直すのは不可能だ。 

 

「あ…ご、ごめんなさい」

 

「ううん。謝る事じゃない、でも不安になったら俺や委員長、伊能や先生に話せばいいんだ」

 

 だから出来れば取り乱さないでほしい。そう伝えると織部さんは俯いて、今度はしっかりとした顔で顔を上げた。

 

「はい、分かりました。…その時はよろしくお願いいたします」

 

「OK さぁ脱出の案を考えよう。出来れば安全な奴を」

 

 そうとなればみんなで顔を合わせる。脱出の手段はどうするべきか。以外にも案はずっと考え込んでいた識森さんから上がった

 

「…状況が変わりました。漁船が使えないのなら多少のリスクを冒してでも巡視船に戻ります」

 

「大ムカデのいる船へ?何か案があるんですか?」

 

「私一人で巡視船のオート機能を使い海に出してみようと思います。それが駄目でもPL55巡視船には最新の救命艇が搭載されています」

 

「あ、それなら俺も手伝いますよ~」

 

 ふむ、危険かもしれないがやはり巡視船しか脱出の方法は無いか。最悪巡視船が使えなくても救命艇に乗ることが出来れば…大丈夫か?

 

(後、俺達を置いて船が行ってなければいいんだけど)

 

 案外見捨てられている可能性だってあるはずだ。そんな事は言わないが可能性の一つとして考えておかないと。後はムカデが残っている場合か、これはどうなんだろう

 

「ねぇ織部さん、ムカデっていなくならないの?」

 

「空腹が満たされればその場を離れるとは思いますが…実際は何とも言えません」

 

 三浦の言葉に答える織部さんは断言することは無かったが…まぁこればっかりはいかないと分からない。居なくなってることを祈るしかないばかりだ。

 

 懸念事項を言い合い、巡視船に戻る事に決まった俺達。皆の顔を委員長が見回す。 

 

「みんな、覚悟を決めましょう」

 

「やってやんぜぇ!」

 

 神野の力強い叫びに合わせて、その言葉に全員が頷くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「所で嬢ちゃん、さっき言ってたおっかねぇ奴が目覚めるまではどんくらいだ?」

 

 巡視船まで戻る道中、俺に肩を貸していたおやっさんはふと織部さんにそんな事を聞いてた。俺も気になっているので聞き耳を立てる。

 

「正確な事は…大型昆虫が羽化するまでは一年以上かかります」

 

 ふむ、でも確かこの島って二週間音信不通だったから…

 

「でも羽化まで八か月以上はかかるヘビトンボが確認できた以上時間的余裕は全くありません」

 

「なるほど、今以上の化けもんがもうすぐ出てきてもおかしくねぇって事か」

 

 ふむふむ、ヘビトンボが成長するには八か月か…それが二週間で成虫になるって事は。

 

(普通大きくなるにはもっと時間が掛かると思うんだが…駄目だな前例が無さ過ぎるから何ともいえねぇ)

 

 そもそもフィクションに片足突っ込んでいる状況なのだ。普通が通じなくて当たり前だった。

 

(つーかフィクションみたいな飛行機事故からしてかなりの確率なのに…うん?)

 

 ふと考える。飛行機事故の確率は確か1%にも満たなかったはずだ。それなのに俺達は現にこうして飛行機事故に遭ってこんな島でサバイバルをする羽目になってる。

 

(…もしかして飛行機が事故った理由って機械の故障とかじゃなくて…)

 

 八か月以上かかるはずのヘビトンボが僅か二週間で成虫になっている。ヘビトンボの姿形、すなわち空を飛ぶ大型の虫。頭によぎるワードを組み合わせると冷や汗が流れる。

 

(これは……駄目だ。皆に知らせるのはまだ早い)

 

 思いついてしまった懸念は実在すれば最悪の結果となる。そして今否定するほどの材料を俺は持ってない。

 

 

 思いついた最悪の事実は胸にしまう事にした。今はまだ…ね。

 

 

 

 

 

 

 

「さんざん喰い散らかした後ってもんだな…」

 

 風によって流れてくる血と糞尿を混ぜ合わせた異臭に皆が顔を顰める。そりゃそうだあの大型のムカデがきれいさっぱり人を食う筈がない、見えていた港は血と骨と臓物によって彩られていた。  

 

「うぇっ…」

 

「無理しないで青山さん」

 

 先生に背中をさすられる青山。他の皆も似た様な表情だ。特に宮園さんに支えられている鈴木さんは今にも胃の中にある物すべてを吐き出しそうだ。

 

「…死者には悪いが銃と弾は拾っておいた方が良いかな」

 

 死んでいった者達には悪いが銃弾は貴重品だ。出来る限り回収しておいた方がいいかもしれない。そんな事を考え乍ら巡視船が見える距離まで着いた時。

 

 

「は…ははっ」

 

 乾いた笑い声が俺の口から出てきてしまった。隣にいた織部さんは余りの光景に絶句しトサリと地面に座り込んでしまった

 

「まさか…この状況は…想定していませんでした」

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺たちの脱出する予定の…希望の船は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「流石にこれは俺も考えていなかったよ…」

 

 

 

 大ムカデによって巻き付かれていたのだった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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