巨蟲列島 蟲姦お断り!【完結】   作:灰色の空

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脱出の為に

 

 

「は、ははっ これは想定外過ぎんなぁ」

 

 ギチギチと巡視船を締め上げる大ムカデ。一体何メートルあるのか考えるのが馬鹿らしいほどの体を使って船を締め上げている。あれでは船に行けないし、何より救命艇が使えない。

 

「織部さん、ムカデはどうしてあんな事を?」

 

「…分かりません、本来ムカデは食欲を満たしたら速やかに湿度度の高い暗所へと身を隠します。太陽光のもとで活動するのは珍しいんです」

 

「なら何でアイツは船を締め上げているんだ?敵かなんかと思ったのか?」

 

 アキラの尤もな疑問。それは何故ムカデが船に巻き付いたかだ。その言葉で織部さんはハッと顔を上げた。

 

「もしかしたらですが…ムカデは巡視船を交尾相手と勘違いしているのかもしれません」

 

「はぁ!?何言ってんだ!?」

 

「交尾相手って…アイツ船を雌だと思ってんのか?」

  

「虫にはよくある事なんですが、多分巡視船にある燃料や火薬の微細な匂いを異性虫が出すフェロモンと勘違いしていることがあるんです」

 

 だからムカデは船を交尾相手だと認識し締め上げているって事か?相手が明らかに自分とは違うと気付かないってのかアイツは?…所詮は虫か。

 

「つーかありゃ異種姦だな」

 

「異種姦?」

 

「蟲×機械。…こりゃかなりのもの好き(変態)じゃないと無理やでぇ…」

 

「…偶にお前の言ってることが分け分かんねぇんだが?」

 

 正直ゲロ吐きそうだ。なーにが悲しくて虫と機械の交尾を見なければあかんのか。俺は蟲姦が嫌いだって言ってるだろうに!

 

「それで、出来るだけ沢山のムカデを捕まえて一気に燃やせばあの大ムカデを引き離せるんだね」

 

 アキラに向かってアホなことを話していたらいつの間にか今後の方針が決まったらしい。何でもムカデを焼いた時に出てくるフェロモンであの巨大ムカデを引き離すって戦法らしい。流石は女性陣、頼りになるぅ  

 

「危険はないのか?」

 

「リスクはあります。もしかしたら他の大ムカデをおびき寄せてしまうかもしれません」

 

「ヒッ!?」

 

「確かにあのムカデが一匹だとは限らないからなぁ…船の奴をおびき寄せる筈が他の奴を呼んでしまったら目も当てられん」

 

「でも、このままうかうかして居たら巡視船沈んじゃうよぉ?」

 

 確かに今もムカデは船に巻き付いており、何時沈んでもおかしくはない。救命艇だって無事かどうかすらわからないんだから。

 

「じゃあ離れたところでおびき寄せるチームと巡視船から救命艇を奪取するチームの2班に分かれて速やかに行動しましょ」

 

 迷っているところに委員長の鶴の一声だ。確かにこれだけの人数が居るのなら別れて行動した方が得策か。  

 

「いや、待機するチームを追加して3班だ」

 

 と、思っていたところでおやっさんが待ったをかけた。何事かと見れば頭をガシガシと掻いて皆…正確に言えば肩で息をして震えている鈴木さん達を

見ていた。

 

「ここまでずっと歩き詰めだったんだろ。…嬢ちゃん達を休ませてやれ」

 

「皆…ごめんなさい。私はもう無理…皆について行っても足手まといになるだけ…」

 

 確かに考えてみれば朝早く起きてずっと歩き詰めだった。ヤゴとかに遭遇し命の危機を何度も感じながら希望を信じて巡視船を目指していたが、 皮肉にも手が届きそうな希望は何回も踏みにじられてしまったのだ。

 

(…そう考えるとここで休ませた方が良いのかな…)

 

 目的をもって行動できるのならいいのだが、心折れてしまった人を連れて行動するのは骨が折れる。…言いたくはないが足手まといを引き連れて行動するのは余りにも危険すぎる。

 

「鈴木さん、大丈夫。無理はしないで。他の動けない人も休んでちょうだい」

 

 震えて動けないでいる鈴木さんを慰める委員長。他のメンバーにも問いかければ何人かもコクリと頷くものが居た。やっぱり無理はさせない方が良さそうだ。

 

「睦美、ここで休憩させるのは大丈夫?」

 

「…ここなら木々の葉が生い茂って空気の流れが停滞しています。松明とヨモギの生葉を燻して置けば煙が充満して虫たちを寄せ付けなくなると思います」

 

「絶対じゃないんだね」

 

「他の場所よりかは安全としか言えません。それに二酸化炭素や汗に引き付けられる種類もいますから」

 

 結局の所危ないのはどこも一緒か。なら、人数を調整してメンバーを選ばないと…

 

 

 

 

 

 

「と言う訳でこれで決まったな」

 

「はぁ…こんなメンバーで大丈夫かよ」

 

「安心しろ嬢ちゃん。なるようになるさ」

 

「テキトーなこと言ってんじゃねぇぞおっさん」

 

 話し合いを進めた結果、船に行くチームは俺、神野、上條に甲斐、そして識森さんとおやっさんの6人となった。船の内部構造を知っているおやっさんと救命艇の操作を知っている識森さんは当然として電気工学になぜか強い甲斐と力仕事を担当する俺達三人だった。

 

「キャプテン気を付けて行こうね」

 

「ああ、分かってる真美もな」

 

「睦美ムカデってどれくらい集めるの?」

 

「色んな種類を出来る限り、です」

 

「うへぇ…これは結構大変そうだね」

 

 ムカデを集め火にくべるメンバーは織部さんに委員長、キャプテンに三浦、そして伊能となった。ムカデを呼び寄せるので危険な仕事だが、織部さんと伊能が一緒に居るので大丈夫だと信じたい。

 

「さて、俺達余りもんは待機組か」

 

「現実的に考えれば一番楽なはずなんだが…」

 

「…何だか一番危険なような気がしてきました」

 

「だ、大丈夫ですよ先生、大人しくしていれば虫なんて来ませんから」

 

 この場で残るのは残ったメンバーたち全員だ。アキラ、箕輪、先生青山に白川さん桃崎宮園さんに鈴木さん、体力的に限界が近い者も居れば精神的に疲労している者まとめて休んでもらう事となった。

 まとめ役として先生がおり、護衛役として箕輪とアキラが居る。有事の際にはこの二人が何とかしてくれるだろう。…頑張れ男の子

 

「…離れ離れだね」

 

「まぁいつまでも一緒って訳にはいかないだろうよ」

 

 伊能の神妙な声。確かに言われてみれば初日から今までずっと一緒に居たが今回は別行動となる。俺は船へと、伊能は森へと。

 

「大丈夫?蟻原君って結構抜けてるから割と心配になるんだけど」

 

「あのなぁ…抜けてるのは否定しないけど危険なのはそっちだろ」

 

 そもそも俺はムカデが去った後の船に乗り込むんだ。何処からどう考えても伊能達の方が危険すぎると思うんだが?

 

「僕達はどうにでもなるよ。…何か嫌な予感がするんだ」

 

「女の勘って奴?」

 

「そうかもね。兎も角心配で仕方ないんだ」

 

「……むぅ」

 

 そう言われると何だか不安になってくる。ここで一つ冗談でも言って場を和ませればいいんだが、伊能の目が真剣なので言おうにも言えない。

 

「あ?なにつまんねぇ事話してんだ」

  

 そんな俺たちの間にひょっこりと現れたのはアキラだった。侮辱するとかそんな言葉ではなく心底不思議そうな顔をしていた。

 

「アキラ。ちょっと蟻原君が心配になってさ」

 

「そうかぁ?俺ぁ大丈夫だと思うけどよ、なぁ蟻原」

 

「お、おう」

 

 屈託なく笑いかけてくるアキラ。その笑顔を見るとなんだか不安になりかけていたのが馬鹿みたいに感じてしまう。

 

「んな事よりも今日の晩飯足りるかそっちの方が心配だろ」

 

「えぇ~そっちの方が心配なの?」

 

「巡視船に食料はあるとはいえこの人数だからな。詰め込める量にも限りがあんだろ」

 

「そりゃまぁそうか」

 

「だからよ、心配すんのはそんな事ぐらいにしておけ。どうせ数時間後には顔合わせて飯食ってんだからよ」

 

 離れ離れになるというのにアキラはあまりにも自然に話すので面食らってしまった、この信頼の厚さは何なんだろうか、この底抜けの明るさは?…俺にはまねできそうにない。

 

 でもその屈託のない物言いが心に響くのもまた事実。

 

「そーだな。どうせ後で合流するんだ、何も心配することは無いさ」

 

「…うん。ごめんね何だか水を差すようなことを言っちゃって」

 

 アキラの言葉で気が紛れたのか心配するような不安そうな声音は無くなった。どうせまた後で会えるのだ、そう考えれば何も怖くはない

 

 

「さぁ皆!各自無理はしない様にっ!」

 

「「「はいっ!」」」

 

 

 そうして識森さんの号令のもと俺達は行動を開始するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「虫…居ないね」

 

 織部が先頭となって山道を歩く中ふと伊能はそんな事を呟いていた。山道は不自然なほど静かで何時も感じていた虫が自分達を狙っているような気配はしなかったのだ。

 

「ムカデの活動範囲内ですから虫達は大人しくしてくれています」

 

「そっか、なら今のうちにだね」

 

 蟲が来ないのなら話は早い。急ぎ足で歩き適当な場所を見つける。

 

「ムカデの仲間は多湿で涼しい場所を好んで隠れます、丸太の下や石の下に多く潜んでいます」

 

「なら、あの丸太を動かそう」

 

 松岡が腕をまくり丸太に近づく。このメンバーで一番力があり体力がある自分が頑張らねばと考えたからだ。そんな松岡に織部が待ったをかける

 

「待ってください松岡さん」

 

「どうしたんだ睦美?」

 

「今から捕獲用のサスマタを作りますので、それを使って動きを止めてから私が捕獲します」 

 

「サスマタ?そりゃ睦美が言うのならそうするけど必要なのか?」

 

「噛まれたら大変って事だよキャプテン」

 

 疑問はあったが伊能と協力し丸太を動かす、そうすると丸太の下には確かにムカデが居た、どういう種類かは知らないが全てのムカデが大きくなった訳では無かったのだ

 

「…うん?この丸くなってるやつはムカデか?」

 

「うーん、どれも一緒じゃないの?」

 

 丸太の下にムカデが居たが、丸くなっているのやら逃げ出そうとしているのやら数が多かった。虫に対して疎い三浦は取りあえず虫を捕まるべきじゃないかとサスマタを向ける。先ほど織部が入った話を聞いていたからこその行動だった。

 

「待ってください!その丸まっている子はヤスデです!」

 

「ヤスデ?ムカデじゃなくて?」

 

「ヤスデは刺激を受けると身を守るために青酸化合物を使います!絶対に触れないようにしてください!」

 

「せ、青酸化合物って劇物じゃないの…」

 

 慌てて丸太から一歩下がる三浦。虫には疎くとも青酸と言う薬物が危険な物とは認識しているのだ。

 

「気化した青酸を吸い込むと大変なことになります。このサイズだと…ヘタをしたら死んでしまうかもしれません」

 

「そうなのか…睦美が居て助かったよ」

 

「虫を集めるのも命がけだね…」 

 

 どこからともなく溜息なようなものが出てくる。ムカデを集める作業も楽ではなさそうだった。

 

 

 

 

 

 

「しかし、なんだか不思議な気分だな」

 

「うん?どうしたのキャプテン」

 

 丸太を力を合わせて動かし、ムカデを見つける。見つけたムカデは睦美が捕まえ見つけた灯油缶の中へと入れていく。単純で力仕事だったが以外にもハプニングは起きず作業は順調に進んでいた。そんな中ふと松岡が漏らしたのだ。

 

「私たちが無事に生きているって事だよ。…何だか一種の夢を見ている様な、そんな気分なんだ」

 

 どこか、遠くを見つめる様な目で話す松岡のそのつぶやきに伊能は頷けるものがあった。

 

「…そうだね。なんだか不思議な気分なのは否定しないよ」

 

 ほぼ全員が生きて脱出をするために協力しているこの光景が妙に言葉には言い表せない物だったのだ。

 

(虫が巨大化した島。それなのに犠牲は最小限でほぼ全員が無事。…何人かは死んでもおかしくなかったけど無事だったんだ)

 

 普通に考えれば何人かは死んでもおかしくない筈だった。誰が命を落してもおかしくない、それなのに生きているのが…まるで夢みたいだと言う松岡の言葉はあながち嘘でもなさそうだった。

 

「ハイハイ、二人とも。ちゃんと生きているんだからボーっとしていないでよ」

 

「そうよ、まだ脱出していないのだから呆けるのは後からにして」

 

「ああ、ごめんごめん。少し感激に耽っていたよ」

 

 三浦と千歳からお小言を言われ苦笑した松岡はムカデ集めの為に作業を再開する

 

(…もしかしたら彼が居たから全員無事だったりして、なんてね)

 

 たった一人が居たから何かが変わった。そんな突拍子もない事を考えながら伊能もまた作業へともどっていく。

 

 

 

 

 

「これで大体集まったよね」

 

 時間が掛かる事、30分。灯油缶の中には見るのが憚れるほど様々なムカデが蠢いていた。

 

「後はムカデを缶の中に入れたまま火を起こすだけです」

 

「む、蒸し焼きかぁ」

 

 睦美の言葉に引き気味に声を出す松岡。想像したくはないが狭い缶の中で蒸し焼きにされるムカデたちの事を考えると吐き気と同情と嫌悪感が混ざり合い嫌な汗が出てきてしまう。

 

「薪の準備はオッケーだよ」

 

「流石ワンダーフォーゲル部。早いわね」

 

「まぁね。これぐらいは出来ないとワンダーフォーゲル部として沽券にかかわるよ」

 

 千歳の賛辞を受け止め伊能は蟻原から借りたライターの火を灯す。鉛色に輝くライターは今だにオイルが尽きそうにない興味深い物だった。

 

「これで来てくれるといいんだけど」

 

 用意した薪の上に灯油缶を設置し火を灯す。最初は小さな灯が時間がたつとともに徐々に大きくなる。それと同時に缶の中から異臭が匂ってくる。ムカデの焼けた匂いだった。

 

「くさい…」

 

「仕方ないさ、それよりこれからどうするんだ」

 

「引き続き新たなムカデを採取しながら巡視船に巻き付いた大ムカデを待ちます」

 

「うげぇ…」

 

 ムカデの匂いに鼻を覆っていた三浦が露骨に嫌な顔をする。仕方がないとはわかってはいたが改めて言葉に出されると顔をすくめてしまうのも無理は無かった。

 

「大丈夫よ三浦さん。ムカデがやって来たら全力で逃げればいいんだから」

 

「分かっているわよ…もぅ」

 

「ははっ 後もう一人だぞ真美」

 

 不満そうな三浦を朗らかに笑い元気づける松岡と千歳。あともう少しだと思えばこれも笑い話の一つになるのだ。

 

「……」

 

「織部さん?」

 

 そんな光景を微笑ましく見ていた睦美に伊能が近づく。何となく嬉しそうな気がしたのだ。

 

「いえ…その、人生で役に立たないと言われていた昆虫の知識がしっかりと役に立ったんだと思って」

 

 昆虫の生態に知識。確かにそれは高校生活では役に立つものでは無かった。昆虫を飼育する専門の学校でも無ければ研究所でもない。只の一つの趣味なはずのその知識が今、皆の命を救っているのだ。

 

「そうだね。織部さんの知識が皆を助けてくれたんだ。だから、有難う織部さん」

 

「はいっ!」

 

 目尻に溜まった涙を拭う織部。そんな少女を伊能は優しく見つめる。

 

 その後、順調にムカデを集めていた時、三浦が港を見て叫んだ。

 

 

「あ、皆!船に巻き付いていたムカデがやって来るよ!」

 

 三浦が示した通り、巡視船に巻き付いていたムカデがずるずると這い寄る様にして動き始めたのだ。動きは遅くとも巨体である以上その速度は中々に速い

 

「ふぅ、これで後は蟻原君たちがうまくやってくれれば問題ないよね」

 

「ええ、その通りです。それでは私達はいったん山中に……」

 

 睦美の言葉は最後まで出る事は無かった、後は山中に隠れムカデをやり過ごし、気付かれない様にして船へと戻る筈、その予定だったのだが、睦美の予定を大幅に上回る事態が起きてしまったのだ

 

 

 

 

 

「あれ…あの姿は!?」

 

 

「…私が想定した中でも最悪のシナリオです」

 

 

 三浦が指さした方向には新たな巨大ムカデがその姿を現していたのだった… 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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