深夜のテンションで作ったので多少手直しするかもしれませんが、兎に角アッサリ気味に完結です!
「今の爆発って…もしかして」
「急ぎましょう!」
山を下っている最中に見えた黒い煙に睦美と顔を見合わせ伊能は走る。先ほど自分たちの傍を木々をなぎ倒しながら通っていたムカデが見え無くなってから数十分は経っていた。
「あれは…船が燃えている!?」
「それにあれは…ムカデの死骸か?
ようやく森を抜け港にたどり着いた睦美たちが目にしたのは大破し沈んでいる巡視船だった。ブリッジ部分はもはや原形をとどめておらず、炎が真っ黒い煙を吐き出しながら燃え盛っていた。そんな船の周りではムカデだったであろう肉の欠片が散らばっていた。
「皆は!?」
「あそこだ!」
「良かった…無事だったのね」
巡視船に向かったメンバーは無事か、確認をすれば松岡が示したところにはオレンジの救命艇とそこで荷物の整理をしているであろうメンバーが居たのだ。
「良かった。上手く行ったみたいですね」
「あ、睦美ちゃん。睦美ちゃん達がムカデをうまく誘ってくれたおかげっすよ」
近寄ってきた睦美たちにホッと息を吐くのは甲斐だ。見かけない銃器を持っているのは巡視船から手に入れた物だろうか。慣れない手つきで持つ銃は酷く似合わなかった。
「…ねぇ、他の皆は?」
一瞬緩んだ雰囲気食い入るように詰めたのは伊能だった。周りには待機していたはずの宮園や鈴木がいるからして自分達が最後だったのだろうと分かったからだ。しかしそれでも人数が足りなかった。より正確には伊能が最も気にしている人物が居なかったのだ
「他の皆も無事っすよ、ただちょっと…蟻原の奴が」
「何かあったの!?」
伊能に問いに甲斐は何も言わなかった。代わりに答えたのはアキラだった。その表情に見えるのは後悔だろうか、伊能の心中がざわつき始める。
「蟻原は…アイツは船の爆発に巻き込まれて…今、救命艇で」
「っ!」
アキラの声は最後まで聞こえなかった。甲斐を押しのけ救命艇へ急ぐ。やはりあの胸騒ぎは本物だったのだ。
船の爆発とムカデの死骸、その断片から何が起きたのか想像するのはたやすい。ムカデが巻き付いた船が爆発したそれだけの事だ。しかし何故蟻原がそれに巻き込まれなければいけないのか。
はやる気持ちを抑える事もせず救命艇の中へと飛び込む。
そこで伊能が目にしたものは…
「うわぁ…何でこんなに火傷を負ったのに生きているんですか蟻原君?」
「白川さんその言い方酷くね?」
「そうもなりますって。ほら、伊能さんも呆れていますよ?」
「え?…イヤーーッ!?伊能さんのエッチ!」
白川と識森によって包帯を巻かれている裸の蟻原だった。
「あのさぁ?無理はしないでほしいって前言ったよね?」
「…言ってたか?ア、ハイ。スイマセン」
何故か笑いながら怒るという器用な怒り方をしている伊能に取りあえず謝る。顔は笑っているのに目が一つも微笑んでいない、コワイ!
「それが何?時間稼ぎの為にムカデを引き付けて、挙句の果てには一緒に爆発に巻き込まれたって?頭おかしいんじゃない?」
「いや…あの状況ではそれしか方法が、ア、ハイ。スイマセン」
仕方なかったのだ。ムカデに捕まれている以上、逃げる事は出来ず、かと言って喰われるわけにもいかない。なら方法は一つしかなかった。
「ま、生きているわけだし、それで良いじゃん」
「はぁ…ホント無事でよかったよ」
呆れて大きなため息をついた伊能。それで許してもらえたのは良いのだが、包帯を巻かれている俺の身体をつんつんと触るのは止めて頂きたい。
「でも、爆発に巻き込まれたのに火傷が少ないのは何でだろうね」
「あ~それなんだけど。これ、見てみぃ」
「コレ、蟻原君のジャケット?」
つい数時間前まで着ていた焦げてボロボロになったジャケットを見せる。もう着る事は出来ないがそれでも俺の命を守ってくれた一品だった。つっても爆発を受けたのは間違いなく所々火傷を負ったのは間違いないんだが…
「コイツ、どうにも耐火服の役割も持っていたみたいなんだ」
「…本当に?」
「あと、調べたんだけど多分耐刃効果もあるっぽい。多分」
ジャケットの内側にはどうにも薄い鉄板のような物が張り巡らされていた。詳しくは知らないが防刃ベストと同じ素材なのだろう。思えばホタルの幼虫の噛みつきにも耐えていたような気がする。
「…蟻原君、何でそんなもの着て修学旅行に来たの?」
「さぁ?それは記憶を失う前の俺にでも言ってくれよ」
一体どうして俺は、こんな訳の分からんものを着て修学旅行に来ていたんだろうね?マジで。
「っと。そろそろ動いても良い?白川さん」
「え、もう動けるんですか?」
「ちょっと体が引きつってるけど大丈夫だと思う」
応急処置をした個所を触りながら座席に手を突き立ちあがる。ここでゆっくりとしているのも良いが早くこの島から出た方が良いのは確実だ。多少体に違和感がある程度で問題は無かった。
「それよりもさっさとこの島から出ないと…っ!」
「きゃっ!?」
「うわっ!?」
言い終わった直後に地響きのような振動が救命艇を揺らす。外で何かが起きたに違いない。すぐに近くにあった誰かの上着を羽織り外に出る事にする。
「まって蟻原君」
「おおん?悪いがこのままジッとしているつもりは」
「僕も行くよ」
有無を言わさない、そんな言動だった。フッと苦笑が漏れる
「そうか、それじゃ行こう」
「うん」
外に出ると最初に目がいったのは山中から立ち上がった大ムカデだった。所々ボロボロになっているがまだ健在のようだ。
「アレは…洞窟の中にいたムカデ?」
ぼそりと言った伊能の言葉から大方俺の予想通りらしい、って事は今後起きる事も大概予想ができる。
「おやっさん!荷物を積んでさっさとずらかろうぜ!」
「んなことわかってる!おい皆!さっさと荷物を持って入れ!」
ムカデを呆然と見上げていた皆はおやっさんの鶴の一声で我に返り荷物を持って慌てて中へと入っていく。
「おい甲斐そのアサルトライフルを貸せ!俺が殿をするからお前は識森さんの操縦を手伝え!」
「わ、わかったすよ!」
「三浦さん!僕にもその銃を貸して!」
甲斐から銃を受け取りそのまま救命艇へと押し込む。隣では伊能が三浦から銃を受け取ったみたいだ。…何で三浦が銃を持っているのかはツッコまないでおこう。
「蟻原君、銃を撃つのは待って!あのムカデにはオサムシが張り付いています!銃を撃ったらあのオサムシが落ちて私達を狙ってきます!」
「ソイツは厄介だ!なら、なおさら中に入ってくれ織部さん!あのムカデそろそろ倒れてくるぞ!」
ムカデがボロボロだったのはオサムシが張り付いているからだという。織部さんがマズいと感じるのならあのオサムシは相当ヤバい種なんだろう。ならなおさらの事早く脱出しないと。
「あーあ、ちょっとばっかし良い雰囲気にさせようと思ったんだけどなー」
「アホなこと言ってないでさっさと船に入れよアキラ!んでさっさと発進させろ!」
織部さんを船の中へと押し付け銃を構える。残っているのはアキラのみで全員救命艇の中へと非難することが出来た。隣にいた伊能はどうやら救命艇の上部に居て銃を大ムカデへと構えていた。ハッチの所から援護してくれるらしい。相変わらず頼れる奴だ
そんなやり取りをしていたら遂に大ムカデが倒れてしまった。
「うげっ!?オサムシが振り落とされやがった!」
ドシンッと地響きを立て倒れる大ムカデ、その拍子に張り付いていたオサムシが何匹も地面へと堕ちて行く。これでムカデを貪っていれば良かったのだが、ここには生憎死んだ人間…餌が豊富にあるのだ。
一斉にオサムシたちがやって来る。その数およそ…駄目だ数えるのがめんどくさい。
「伊能!単発にセットして撃て!」
「わかった!」
フルオートでは無駄な弾を消費し、又反動が強すぎる為上手く扱えないだろうという判断だ。その点単発なら無駄玉は減るし何より銃を撃つことに慣れていく。そう言った考えで伊能に指示を出し俺もまた銃を構え、狙いをつけ発砲する。
タンッタンッ!!
ストックから伝わる反動は肩へと伝わり、今自分が銃を撃っているのだと認識する。狙い撃ちだされた弾は、オサムシの脚や胴体へと当たっていく。
(流石はライフル弾。貫通力が半端ない!)
猟銃は面で攻撃できたが流石は貫通力抜群のライフル弾、オサムシに当たった弾はそのまま後方にいたオサムシも巻き添えにして当たっていく。
「蟻原君!救命艇が動くよ!早く乗って!」
そうしているうちにどうやら発進準備が整ったらしい。急いで構えを解き船に向かって走る。後方にはオサムシの群れがまだやって来るが何も最後まで相手をする必要はないのだ。
「うぉぉおお!!」
走る、走る。救命艇はまっすぐ進んでいき、港から離れていく。このままでは間に合うか微妙な距離。その時救命艇の入り口からアキラが身を乗り出してきた
「蟻原掴まれ!」
「いよっしゃ!ファイト―ッ!」
「いっぱぁぁぁぁつ!」
ジャンプし救命艇にへばりつきアキラの手を握る。そのまま引きずられるようにして中へ。
「みなさん!出しますっ!」
識森さんが叫び、救命艇がスピードを上げるのが分かる。ようやく俺達はこの恐怖の島から脱出するのだ。
その事を誰よりも望んでいた皆が声を合わせて叫ぶ
「「「「いっけぇええ!!」」」
その言葉の想いに答える様にして救命艇は徐々にスピードを上げていくのだった…
「かぁぁっっ!!うっめぇぇええ!」
大喜びで叫び歓喜の声を上げるのは上條。口一杯にインスタントカレーを頬張るその姿は非常に微笑ましい。隣の箕輪もやかましそうに眉根を寄せるが気持ちは分かるので苦笑染みて顔をしていた。
俺達はあの島…正確な名称東ノ小島から脱出の後近場にある辰野神島へと移動をしていたのだ。燃料やらの時間を計測して十時間ほどで到着するらしい。
ゆっくりと休息し時間も経ち、俺達はようやく四日ぶりの暖かい食事へとありつけたのだ。
「おーい、他の人ー出来たよー」
伊能が簡易コンロで温めたインスタントカレーを配っていく。神野や識森さんが集めた食料品の中にカレーがあったので皆で食べる事となったのだ。
「ウメェ…ウメェ…」
「おい、上條。あんまり動くな、当たるだろ」
「あ?しゃーねーだろうが。ここ狭いんだしお前図体がデカいんだから」
救命艇は19人はいる事を想定して作られた訳では無いので、中は結構狭かった。しかし命の危険が無いと分かれば不満なんて小さなものだ。現に上条は不満を零している物の嫌がってはなさそうだった。…言われた箕輪は気にしているのか体を小さくしているけど
「ほら、香代。このカレー結構おいしいよ?」
「うん。…本当に美味しいね」
宮園さんは先ほどから涙を流し続けて目を腫らしている鈴木さんの面倒を見ている。なんでも虫に殺される恐怖が凄まじかったらしく少々弱っているらしい。でも、宮園さんがそばに居れば大丈夫だろう。
「おじさん、腕は大丈夫ですか?」
「ああ、平気だ。しっかし俺はカレーよりも背脂こってりのラーメンが喰いてぇな」
片腕となったおやっさんの補助をするのは白川さんだ。祖母の面倒を見ていた経験は確からしく片腕となったおやっさんのヘルパーを上手くやっている。…所であの人片腕無くなっているのにどうしてあそこまで平然としていられるんだろう?超人じゃね?
「お医者様に止められているでしょ」
片腕を失くしつつもいつもと変わらないであろう父親に識森さんが苦言を零せば場に笑いが溢れる。もしかし俺達が余計な心配をしない様に?…意外と素のような気がする。
「ラーメンかぁ。私も食べたいなぁ~薄塩スープにバターをたっぷり入れて♪」
「それは美味しそうだな。今度食べに行こう」
「うん!約束だよっキャプテン」
おやっさんのラーメンの言葉で涎をたらしそうな顔をして自分の好きな具材の入ったラーメンを思い浮かべる三浦。そんな三浦を微笑ましそうに見るキャプテンはもぅ何だか彼氏っぽいです。お幸せに~
「じゃあ私は味噌コーン増し増しで。睦美は?」
「私はキャンプで食べるインスタント麺が好きです」
委員長は嬉しそうに笑い織部さんはニコニコと微笑みながらカレーを掬う。ううん、何だか俺も腹が減ってきた
「何ですの?ラーメンってそんなに美味しいですの?」
「おいおいこのブルジョワはどこまでお嬢様なんだ…」
「むっ本当に知らないんだからしょうがないじゃないですの」
一度もラーメンを食べたことが無いという恐るべき桃崎にうげっとした顔で呆れるのは神野だ。確かにここまでお嬢様が過ぎるとそもそも同じ人間か疑いたくなる。…別に貧困の差が激しいって訳じゃないのに、ここまでの金持ちって何なんだろうね?
「ラーメンかぁ…私も帰ったら食べたいなぁ」
「あ、それなら私も一緒に行きたいです」
「そう?ふふっそれなら私のお気に入りのアレを一緒に食べましょう青山さん」
「ネギラーメンチャーシュー抜きですね。楽しみですっ」
中条先生と青山はそんなのんびりとした会話をしている。しかしネギラーメンにチャーシュー抜きか。…腹減らない?それとも俺の胃袋が大きいだけ?女の人の食事ってわかんない!
「いいねぇラーメン。俺も食いたくなってきたな」
「そうだな一杯食いてぇな~ アキラはどんなのが良いんだ?」
「あ?そうだな。俺はニンニク増し増しでチャーシューが目一杯入った奴だな」
「うほっ!美味そう~」
想像すると涎が出てきてしまうのは仕方ない。ニンニクは次の日がとんでもない事になるがアレがあるとマジで美味いんだよなぁ~チャーシューもトロッとした奴があるとなお美味い。
「はいはい、どうせ帰ったら沢山食べれるんだから今はこれで我慢しなよ」
「お、ありがとう伊能」
カレーを手渡され、有り難く封を開ける。途端に広がるスパイシーな香り。がっつきたいが味わって食べなければ…ぬぅ!
「ハグッハグッ…あ~癒されるぅ~この一口の為に頑張ってきたんじゃ~」
「安いなぁ。蟻原君って」
「まったくだ」
隣でケラケラと笑うアキラと伊能。何となく気恥しいがそれも心地よいものだ。
「そう言えば伊能はどんなラーメンが好きなんだ?」
「僕?僕は、織部さんと一緒。袋ラーメンを自分の好きな野菜でトッピングでするのが好きなんだ」
そいつは何とも美味そうだ。グツグツと煮えたラーメンに野菜をたっぷりと入れる。ラーメンのダシを吸って旨味が増した野菜をパクリと…うぅマジで涎が…でとるやないか!
「蟻原君は?どんなラーメンが好きなの?」
「俺か?俺は…これと言ってねぇな。割と何でも好きなんだ」
「そうなの?」
「ああ、つっても毎回特盛を頼むもんだから良くアイツに呆れられて、それでお互い笑いながら食うのが滅茶苦茶美味いん……」
ふと、誰かの苦笑している姿が頭に浮かんだ。俺の真正面に座って、何時も呆れたような苦笑いをしている誰かの姿が浮かび上がりそうになって…
「蟻原君?」
「…何でもない。それより本土に着いて落ち着いたら三人で飯でも食いに行かねぇか?」
誰かの顔は浮かび上がらず消えた。それを悲しいとは思わなかった。どうせまた会えるのだろうという変な確信があったのだ。
「うん、良いよ」
「ああ、構わねぇぜ。つっても蟻原の驕りでな」
「げっ!?そいつは勘弁してくれよ~」
話を切り替え、飯の誘いをすればキョトンとした二人は苦笑しながらも快諾してくれた。
周囲を見渡せば温かい食事に和やかな雰囲気。皆が穏やかに笑い、雑談をしている。それは何処にでもある、しかし何より尊い人の営みだった
夜空に輝くのは綺麗な月だ。前見たのは確か最初の夜。命からがら逃げだした海岸で見かけたものだった。
あれから和やかな夕食を終え、皆は穏やかな眠りについた。暖かい食事が済めば眠気をが来るのは当然の事だ。なにせこの救命艇は多少の手狭さを我慢すれば安全な所なのだから。
座席にもたれ掛かり、ある者は人の肩を枕にし、ある者は何度も首を上下にさせ、それでも皆はゆっくりと休んでいた。今までずっと気を張り詰めて行動し、体を酷使してきたのだから。
そんな皆が眠っている中、俺は救命艇のハッチを開け月を眺めていた。救命艇の上部部分は開閉することが出来、それで外の夜風を辺りに来ていたのだ。
「ふぃー……」
縁に腰かけ大きく息を吐く。涼やかな風と海の穏やかな波の音が心を落ち着かせる。夜の海は怖いものだが、今は平気だった。
「蟻原君?どうしたんですかこんな所で」
そんな一人の夜を楽しんでいたらふいに声を掛けてくる者が居た。もはや振り向替える事もない。この島で何でも俺達を助けてくれた声だ
「やぁ織部さん。ちょっと夜風に当たりたくてね」
現れたのは織部さんだった。いつもは被っている帽子を外し、背中に背負っていたゴマ夫さんもいない。正真正銘の彼女一人だった。
「そうですか…私も隣に行っていいですか?」
「良いよ。おいで」
快く快諾すればひらりとやって来る織部さん。その顔は穏やかな物だった。
「風が気持ちいいですね」
「おう、でも風邪は引かないでくれよ。風邪薬なんて便利な物は無いんだから」
「分かっていますよ」
俺の冗談をクスクスと笑ってくれる。それが何とも気楽なもので、ざわついていた心が落ち着いて来る。そんな俺の心境に織部さんは気付いたのか顔色をうかがってきた。
「…どうかしたんですか?」
「ちょっとね。…あー結局記憶は戻らなかったなーって」
隠すようなことでもないので本音で話す。あれこれとサバイバルをしてきたが結局俺の記憶は戻らなかったのだ。それで少し考えていたのだ。
「そう…ですね」
「ほらっよくあるじゃん。こんなB級映画みたいな物って脱出するときに記憶がよみがえってそれで正体がわかってENDみたいな」
よくある物だと思っていたが、結局俺の記憶は戻らない、予兆はあったが、断片的で余りにも情報不足だ。
「それでふと思ったんだ。知らないほうが良いことも有るんだってね」
それは、中城先生達と出会って俺が眠って起きた時に自分で言ったうわ言だった。
世の中には知らない方が良い事もある。俺は今、知らなくていい事に触れようとしているのかもしれないと思っていたのだ。
「そう…ですか?私はそうは思いません」
だが織部さんは違ったようだ。織部さんに向き直るとその目は真剣に俺を見ていた。綺麗な目だとふと場違いな事を考えてしまった
「昔、尊敬する先生から教えてもらったんです。人間は知らない物を恐れる…しかし知ってしまえば恐怖は無くなると」
それは、夢の中で聞いたセリフと一緒だった。驚く俺に織部さんは少しだけ恥ずかしそうに答える
「蟻原君は確かに謎な所があります。…虫たちに対抗できる腕力は私は最初怖かったんです。あり得ないとすら思ったんです」
「…意外と言うねぇ」
「それが蟻原君に対しての誠意だと思っていますから。でも知ってしまえば怖くはありません。だから…」
ずいっと織部さんが俺に顔を近づけさせた。綺麗な目が俺の顔を映し出す。キョトンとしていた
「私は蟻原君。貴方の事を知りたいです。知って貴方は怖くない、優しい人だって証明したいんです」
「……」
「謙遜するかもしれませんがはっきりと言います。貴方が居なければ皆で脱出することは出来なかった、出来なかったんです」
そんな事は無い…とは言わなかった。思い当たる場面が実在しているからだ
「夕食のとき、皆が笑っているのを見ましたか?あれは他の誰でもない蟻原君が居たから生まれた物なんです」
誰もが穏やかに笑っていたあの空間。それは俺が何より尊いものだと思った。
「そんな蟻原君が怖いものだと私は思いたくない。だから私は…」
ふと、俺を見る目が閉じられた。その顔からは何を考えているか分からない、それでも好ましい物を感じる。
そして目を開けた彼女はハッキリと俺に宣言した
「蟻原君。私は貴方に興味があります。だから貴方の事をもっと調べさせてください」
「…それってつまり俺の記憶探しに協力してくれるって事?」
「い、言い方を変えればそう言う事になります…かね?」
「…気のせいかもしれないけど蟲と同じ扱いになっていない俺?」
「き、気のせいですよ!」
自分がなんか変な事を言ったと思ったのか顔を見る見るうちに真っ赤にさせていく織部さん。うーん可愛い!
「そっか…うん、何か元気が出てきた有難う」
「い、いえ。お役に立てたなら嬉しいです…えっとあの、私先に休んでいますね!」
早口に言い終えるとそのまま救命艇の中へと帰っていく。耳まで真っ赤になったその顔は明日になったら治っているのだろうか?治って居て欲しい、じゃないと明日は大変そうだ。
「……ふふっ」
月を見上げふと笑う。記憶が無くて心配していたが、それはもう問題なさそうだ。残す懸念があと一つだが、その前にまた闖入者が現れた
「へへっ見てたぞ見てたぞ~この色男」
「…もう僕は何も言わないよ」
ニヤつく笑みで現れたのはアキラ、呆れた顔をするのは伊能だった。ほんと、お前らってセットで出てくるよな。
「何を話してたのさ」
「…言わない」
「何で?」
「まぁまぁ男には内緒にしておきたいことも有るのさ」
伊能の追及はアキラのニヤついた笑みで止まった、有難うアキラ、お前のそう言うところ俺は大好きだぞ!
「はぁ…それで心配事でもあるんでしょ」
「よく分かったな。ご名答だ」
「んな事だろうと思ったぜ。なんか俺、お前が何を考えているのかわかるような気がするんだ」
それは、あのミネラルウォーターを飲んだ…違った、触れたからだろうと言わなかった。恐らくこの二人は薄々気がついている。それでも何も言わないでくれるのは…信頼だと思いたい。
「それじゃ二人には話しておこう。この先向かう辰野神島だが、恐らく虫が巨大化している」
俺の言葉に二人は驚愕…する事もなく黙って続きを促していた。全くほんと有り難い
「そもそもの話、俺たちの飛行機が墜落した原因って何だ?飛行機事故は1%にさえならない数字何だぞ。それが墜落?」
馬鹿げている。エンジンが故障した?操縦士がミスった?それよりももっと信憑性のある原因がある
「虫が飛行機に激突した。って事だよね」
「そう言う事だ。あのヘビトンボが空を飛んでいたんだ。なら他の飛行する虫が居たっておかしくはない」
あんなでっかいヘビトンボが居た以上、他に飛行する虫は俺達が出会わなかっただけでたくさんいると考えた方がいいだろう。
「それが不幸にも俺達の乗っていた飛行機はその虫のせいで墜落して…って所か」
「これで俺達がこの島に来た理由は説明された。さて、次だ」
過去の謎はこれで解明した。次は未来の話だ。俺達が向かっている次の島だ
「辰野神島の虫が大きくなっているかどうかは知らない。それでもあの島には」
「飛行する虫が居てもおかしくはないって事だね。東間ノ小島からやってきた虫が」
蟲の中には遠くへ旅をする種が居たっておかしくはない。それを考えれば今この上空に飛行していてもおかしくはないのだ。
「織部さんに聞けば…」
「折角島から脱出できたのに次に向かう島にも虫が巨大化している可能性がありますってか?」
「言いたくねぇな…折角命からがら生還で来たってのにまだ何も終わっていないなんて」
皆に説明すれば対策が出来、備えることが出来るだろう。しかしむやみに不安をあおるようなことも言いたくはない。
「だから僕達に相談することにした」
「お前が最も信頼しいてる俺と伊能に」
俺が飲んだあのミネラルウォーターは一体何だったのか。結局は解らないがアレのお陰で伊能もアキラも人として強くなった。それは当人たちがよく知っているはずだ。
「…すまんな。お前らを知らずに巻きこんで」
体の至る所に巻かれていた包帯を取る。本来なら火傷跡が残っている筈のそこには何もなかったのだ。きっと恐らくだけど伊能もアキラも同じような事が起きている可能性が高い。
「良いよ、君にはずっと感謝しっぱなしだから」
伊能はそれでもふわりと笑う。
「お前に拾われた命だ。好きに使えよ」
アキラはそれでも不敵に笑う。
「そっか。じゃあここに宣言しようか。例えこの先あの島に何があっても皆を俺たちで守ろうって」
「うん!」
「ああ!」
手を出せば重ね合わせてくる二人。それが頼もしくまたとても心強い。
そんな俺達を祝福する様に太陽が顔をのぞかせて朝日を浴びせてくるのだった…
長かった…約半年?ぐらいお付き合いしていただき誠に感謝です!
月並みな言葉ですが皆様のおかげでここまで来れることが出来ました。
ひとまずは蟻原たちの話はここで区切らせていただきます。
それでは皆様、今までありがとうございました。