巨蟲列島 蟲姦お断り!【完結】   作:灰色の空

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どうでもいい事ですがタイトル案募集中です。…流石にこれはどうかと思ってきました。
気が向いたら活動報告までよろしくお願いいたします~


怪しげな診療所の中で

《伊能 愛》

 

 グチリッ 

 

 最初はその音が何の音か分からなかった。蟻原君がアキラの腕に触った瞬間聞こえた音は私達の中で誰もが何の音か分からなかったと思う。

 

 それがアキラの腕の肉を引きちぎった音だと気が付いたのは、蟻原君の摘まんだ赤い物からうごめく虫と滴り落ちる血の赤色でようやく気が付いたんだ。

 

「いやぁあああ!!!」

 

「てめぇえええ!アキラに何してんだあああ!!」

 

 三浦さんの絶叫と上条の怒鳴り声。絶叫が響き渡る中、当の蟻原君は自身が摘まんだ肉片を見ていた。

 

 蟻原君の摘まんだ手のひらにはさっき織部さんが言ってた寄生虫レウコクロリディウムが動いていた。自分の安息の場所を見うしなかったかのようにうごめくそれを蟻原君は無機質な目で見ていた。

 

「テメェ何とかッ!?」

 

「―――――」

 

 胸ぐらを掴もうとした上條が一瞬黙り込むほどの冷酷な目。そんな目で上條を一瞥すると掴んでいた肉片とレウコクロリディウムを振りかぶって壁へと叩きつけた。

 

 バチンッ! 壁に叩きつけられシミとなったそれにはもう目もくれずポケットの中からスキットルを取り出し中のミネラルウォーターをアキラの負傷した腕へと掛けていく。その段階になってようやく蟻原君の目に色が戻ってきた。だから僕もようやく声を掛けることが出来た。

 

「な、なにやってんの?」

 

「…あー消毒液の代わりにと思って… マズかった?」

 

「マズいに決まってんだろ!?さっきからお前何やってんだよ!」

 

 上條の叫びでようやく皆も意識を取り戻し、行動する。僕は織部さんと白川さんと一緒にアキラの傷ついた腕の具合を確認することにした。

 

「あれ、意外と傷は小さい?」

 

「でもこのままではいけませんね…消毒して包帯を使いましょう。幸いさっき蟻原君が持ってきてくれました」

 

 意外な事に血の量に反してアキラの腕は軽傷だった。殆ど力づくだったけど虫を抉り取った後の怪我は思ったより小さかったのだ。ピンポイントで引きちぎったのだろうか。…ほんのちょっとだけ怖いと感じたのを心に押し込める。

 

「やらせてください。包帯の巻き方は私知っています」

 

「白川さん応急処置できるの?」

 

「はい、おばあちゃんに何度か教わったので…」

 

「そ、そうなんだ」

 

 白川さんの意外な特技に驚きながらも僕も包帯を巻くのを手伝う。しっかりと包帯を巻けばアキラの腕の傷は目だたなくなった。今は少しだけ赤い血がにじむ程度だ。

 

「おかしいんだよお前は!普通あんな取り方があるかよ!」

 

 ホッとした僕の耳に怒声が聞こえてくる。でも上条の言い分は尤もで、いきなりアキラの腕からレウコクロリディウムを引きちぎるのはいささか乱暴すぎると思う。

 

「やっぱそうだよな…いや、俺も分かってはいたんだけどよ。他に方法なんてあったのか?」

 

「ああ!?」

 

「急がないとあの虫はアキラの脳内を貪って目ん玉から飛び出てくるんだぞ。…なんていうのか…それは人がしていい死に方じゃないっていうか……」

 

 後半は尻すぼみとなってしまったが自分がいきなりやり過ぎてしまったという自覚はありそうだ。でも、あの時蟻原君が虫を引きちぎらなかったら…止めよう、もう済んだ話だ。現にアキラは今も眠っている。

 

「上條、蟻原君に突っかかるのは止めときなよ。どういうやり方でさえアキラはもう助かったんだから」

 

「…チッ」

 

 眠っているアキラを一瞥し助かったことを理解したのか上條は舌打ちを一つして蟻原君の傍から離れて行った。取りあえずはこれで険悪な雰囲気にはならずに済んだ。ホッとしながらも蟻原君にも注意をする。助かったことは事実だけど釘はちゃんと刺しておかないと。

 

「蟻原君。君のお陰でアキラは助かった。有難う。きっと君が居なかったらアキラは死んでいたかもしれない」

 

「それは…そうかな」

 

「そうだよ。でもね、こんな危ない事を事をしようとするのなら僕や織部さん。皆に相談して」

 

 今回は蟻原君の咄嗟の行動が功をなした。でもそのせいで皆が蟻原君を見る目が変わるかもしれない。だってそれしか方法がなかったとは言え 人の腕の肉を引きちぎったんだ。とてもじゃないけど普通じゃできない。そして普通じゃない人間は孤立していく。

 

 折角皆と打ち解けてきたのに一人になってしまうのは寂しいしこの島では危ないんだ。

 

「僕や織部さんも一緒に考えるからさ。だからもう少し頼ってよ」

 

「…うん、わかったよ」

 

 あ、これきっと分かっていない奴だ。目を泳がせて頷く蟻原君を見ているとふとそんな事が頭に浮かぶ。付き合いは短いけど何となく蟻原君の思考が読めてきたような気がする。

 

「はぁー ほら、取り合ずコレ上げるから少し休んで」

 

「カロリーメイト? 有難う。…そう言えば何も喰っていなかったな」

 

 差し出したカロリーメイトを一口食べてふぅと一息をつく蟻原君。兎も角少し休まないと、有り難い事に甲斐君が見つけてきた食料品は沢山ある。これで救助が

来るまで凌げればいいんだけど…

 

 

 

 

 

 

 大体一時間ぐらいこの場で休憩していたのだろうか、その間はずっと雑談とか仮眠だとか各自好きな事をしていた。そんな中僕や蟻原君と言うと診察所を見て回っていた。

 

 電灯が付いたとはいえ夜明け前の廊下をたった二人で歩いているのは割と雰囲気がある。何となく襲われそうな気がするけど…でも皆が休んでいる間は誰かが見回りをしなくちゃ。

 

「…うーん。やっぱり人っ子一人いないな」

 

「逃げたのかな?ヘリポートもあったから多分ヘリで避難して」

 

 診療所を見て回るがやはり人は誰もいない。襲われて亡くなったのかと思ったけど血の跡や何かと争った跡は無かった。慌てて逃げたような物が散乱したような跡はあったけど。だからこの島にいた人…正確にはこの診療所に勤めていた人は避難したと考えた方が良いのだろう。

 

「それにしても鍵のかかった部屋が多いな。甲斐の話では地下に部屋があるらしいってよ…もしかしてここに虫の巨大化した原因があったりして」

 

「それか虫が大きくなった原因を探ろうとしていたとか。…でも蟻原君、流石にそれはゲームや漫画、映画の見過ぎじゃないかな」

 

「その漫画や映画みたいなことになっているんですけどねー っと珍しく開いている」

 

 話しながら蟻原君が開けた部屋には色々と段ボールや物が乱雑に置かれていた。どうやら倉庫代わりの部屋だったみたい。何か使えるものが無いか物色していく。

 

「懐中電灯が数本に…色々と使えそうなものがあるね」

 

「全部持っていく?」

 

「必要な物だけを選ばないと重くなって虫から逃げれなくなるよ」

 

 そりゃそうかと納得した蟻原君と別れて物資の捜索をする。今は安全な場所にいるけどいつ何時何が起こるのかはわからないんだ。準備しておくに越したことはない。

 

 と、そんな事を考えながら探っていると遠くの方で何か物音が聞こえたような気がした。何だろうと自分たちが入ってきた方に視線を向ける。

 

「お!?伊能良いもん見つけたぞ!」

 

 そんな僕に気が付かず呑気な声を上げる蟻原君。先ほどの音は気のせいかと感じ何やら喜んでいる蟻原君を見れば大きなため息が出てしまった。

 

「メガトンハンマーと俺の好みのマチェットか。いいねぇ男心をくすぐる実直さ。一体誰が仕入れたんだ?」

 

 工事用の大型ハンマーとこれまた丈夫なマチェットを持って嬉しそうに笑っている。何だかほしかった玩具を手に入れて喜ぶ子供みたい。そう言うところは可愛いと思うけど手に持っている者が物騒だ。

 

「一応聞くけど…それなに?」

 

「武器!いや~そろそろ素手で戦うのもどうかなーと思ってさ。良いだろうカッコイイだろう。ふふん」

 

「…武器を持って戦うより逃げた方が良いんじゃない?それにマチェットはともかくとしてそのハンマーはちょっと持っていけないと思うけど」   

 

 嬉しそうな所を悪いけど水を差すことにする。そもそも虫はかなりの強固な甲殻を持っているんだ。そんな虫相手に果たして武器が通じるのだろうか?勿論蟻原君の馬鹿力なら有効かもしれないけど。

 

 一応マチェットはまだ使い道はあるかもしれない、刃物が一本あるかないかでも結構違うからね。でもそのハンマーはちょっと重すぎると思う。見た所重さは5キロぐらいかな。上手く扱えるか怪しくそして持ってもふらつきそうな頑丈さだ。

 

「え~この浪漫が分からないとは伊能もまだまだ男心が分かっていないなぁ~」

 

「ハイハイそうですよ~ 取りあえず役に立ちそうなものは取ったらさっさと」

 

「きゃぁぁあああ!!!」

 

 言い切る前に誰かの悲鳴が聞こえてきた。勿論それは僕らの仲間の声、蟻原君と目を合わせ直ぐに走る。何が起こっているのかはわからないけど大抵こういう時は何かに襲われているのが相場なんだよね!

 

 

 

 

「皆!いったい何がっ!?」

 

「おいおい巨大化したのは虫だけじゃなかったのかよ!」

 

 みんなが居る広間に駆けつければそこにいたのは…蟹だった。

 

 数は全部で5匹、大きさは巨体とは言わないけどベッドと同じくらいと思えばいいのか。蟹特有のハサミは巨大化し人の足ぐらいなら平気でへし折りそうだ。甲羅も硬そうで今上條が必死に蹴りを放っているが何も応えていない。

 

「クソッ!どうすれば…ってそうだキャプテン!上條!その椅子を使って蟹を動けなくしてくれ!」

 

「分かった!」

 

「うるせぇ指図すんな!」

 

「それでもやってくれよ!一体五は無理だけど一対一なら何とかする!」

 

 横にいた蟻原君がこの中で力と体力のある2人に指示を出し蟹の方へ向かっていく。向かう先には蟹のハサミによって足を挟まれてしまった神野だ。

 

 蟻原君は神野を助けに行った、僕はどうするべきか。あの蟹の甲殻は物凄く硬く生半可な事じゃ立ち向かえない。僕が蟻原君の手伝いをしようとしても悔しいけど足手まといになる可能性がある。

 

 どう動くか、その時蟻原君と目が合う。

 

「―――――」

 

 ああ、なるほど。言葉に出さずとも何を考えたのかわかった。蟻原君はやるべきことをやったのなら僕も頑張らないと。

 

「皆こっち!蟹の動きは遅いから冷静に対処すれば大丈夫だよ!」

 

「伊能さん!三浦さんが!」

 

「分かった!」

 

 いきなりの蟹の出現によってだろうかヘタっていた三浦さんを助け起こし、白川さんの手を引っ張り三浦さんの事を任せる。

 

「千歳ちゃんには触れさせない!」

 

「織部さん手を貸すよ!」

 

 委員長を背負うとしていた織部さんに協力しまだ目覚めない委員長を助け起こす。

 

 戦えない人達を無事に避難させること!

 

 

 

 それが蟻原君に任された僕の役目だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《???》

 

 

 夢を見ていた。自分が変な寄生虫に蝕まれ、脳味噌を貪られてしまい目から変な虫が生えて来る夢だ。にょろにょろと蠢くそれは自分の身体を勝手に使い病院の外にある鉄塔へ登っていく。

 

 誰かが自分を止めようとしていた。兄弟と言ってもいいほどの仲の親友にそれ以外の誰か達。だが奇声を上げ鉄塔を登っていたソレはもう自分の身体をしたナニカであり…結局は飛んできた巨大な虫の化けものに喰われて死んだ。

 

 不快で不愉快で気色悪い夢は突如感じた痛みと共に消え去った。

 

 そうして悪夢は消えて……

 

 

 

 

 

「――!」

 

「――!?」

 

(……あ?)

 

 何か大きな物音と誰かの叫び声がする。白く靄が掛かった頭を振り払い体を起こす。辺りは薄暗くどこかの施設だと思われた。

 

(俺、確か…修学旅行で飛行機に乗ってて…それで事故って)

 

 ぼんやりとした頭で自分の身に何が起きたのかを順番に思い起こす。修学旅行、飛行事故、鬱蒼とした森をさまよい喉が渇き水場を探して…

 

(そうだ…川の水を飲んでいたらなんか空からデケェ音がして…!)

 

 空からの音を何だと思う暇なく大きな虫に刺されたのを思い出したのだ。そして記憶は瞬間的によみがえる。自分がどうなったのかを自覚した時ようやく周りに意識が向く

 

「うぉぉおおおお!!」

 

「ああああああ!!!」

 

 男の雄たけびと女の咆哮が聞こえる。そちらに視線を向けようやく今この状況が安全では無い事を知った。

 

「な、何だあの化けもんは!?」

 

 薄暗い中にウソウソと動くそれは大きな蟹だった。見たこともない大きさの蟹は5匹でハサミを振り上げて人に襲い掛かろうとしている。薄暗い中で見かけた人は四人。下手り込んでいる扇情的な女と三匹の蟹相手に大立ち回りをしている深緑色のジャケットを着た男そしてベンチイスで二匹を壁際で抑え込んでいるのは鉢巻を巻いた女と兄弟分の親友、上条アツシだった。

 

「アツシ!大丈夫か!」

 

「アキラか!?生きているんだな!?

 

「おお!そう簡単にくたばっちゃいねぇぞ!」

 

 こちらを見ずに叫ぶ親友の姿に心が湧き上がる。早く助けようとして、寝かされていたカウンターから飛び降りる。どうやら蟹に襲われない様に誰かが乗せてくれたらしい。

 

 何か武器が無いか当たりを見回せばジャケットを着た男の近くにデカいハンマーがあった。迷わずそれを武器にしようとして近づき手に取る。

 

「お!?アキラ起きたのか!寝起きでいきなり災難だな!」

 

 ずっしりと重いハンマーを手に取ればジャケットの男が気が付いたのか嬉しそうに声を上げる。見たことも顔も知らない男だがなぜか親近感がわく変な男だった。

 

 

「誰だお前は!つーかお前何やってんだ馬鹿なんじゃないのか!?」

 

 その男は三匹の蟹を相手に立ちまわっている。その内の一匹の蟹の頭上に飛び乗り飛び出た目玉を鷲掴みする。ニヤリと不敵に笑うその顔に気のせいか目玉を握られた蟹が震えたような気がした。

 

「ふへへっ それじゃあいただきまっす!」

 

 ブチリと目玉をはぎ取られた蟹、悶絶しているのか滅茶苦茶にハサミを振り回すが頭上の男には当たらない。寧ろロデオを楽しんでいるかのようだった。

 

「ははっ暴れんなよ! そもそも何でお前らは弱点が露出しているんですかねぇ!?」

 

 嘲笑した男は今度は全身を使ってハサミを両手で根元から掴み一気に引っこ抜く。肉がちぎれたような音と共にあの大きなハサミを引っこ抜いた事実に一瞬ポカンと口が開いてしまった。 

 

「うははっはは!!痛ぇ!手が滅茶苦茶痛ぇ!あははっ今夜は蟹鍋か!?」

 

 目の前の男と蟹の乱闘を見て取りあえず考える事をやめる。滅茶苦茶なのは把握したし正直理解が追いつかないのも理由だが、今は蟹を倒す方が優先だろう。

 

「おい!そこのお前さっさとどけ!」

 

 一応注意を入れてハンマーを振りかぶる。それで何をするのか理解したのか狂人はひらりと蟹から飛び降りた。

 

「うぉぉおおお!!」

 

 気合を入れハンマーを振りかぶり蟹の口当たりに向け一気に振り下ろす。グジャァッ!と大きな音を立てた蟹の顔面と思われる部分が陥没しへこむ。

 

「へっへへ んだよ、やれば結構できんじゃねぇか」

 

 元々小さくても硬いのに巨大になった蟹の固さには手こずるだろうとは考えてはいた。だが全身全霊の全力の一撃は確かに届いたのだ。

 

「やるじゃんアキラ!なら俺も負けてられねぇな!どらぁ!」

 

 アキラの会心の一撃を見た狂人は今度はベンチイスを持ち上げ蟹へと投げつける。軽い素材のベンチイスとはいえども質量のある物には違いなく叩き落された蟹は気絶したのか動かなくなる。

 

「今だ!いけェええ!!」

 

「言われなくてもぉぉおお!!」

 

 気絶した蟹に向かって先ほどと同じようにハンマーを振り下ろす。今度もまた垂直に振り落されたハンマーは吸い込まれるようにして蟹の脳天を砕いて行く。頭を砕かれた蟹は泡を履いてそのまま力なく取れ伏した。

 

(…俺ってここまで力がついてたっけ? まぁいいや今はこいつらをヤル方が先決だ!)

 

 素手での格闘戦ならある程度は心得はある。しかしだからと言って蟹をここまでへこませるほどの力はあったのだろうか。ふとした疑問は直ぐに頭を振り投げ捨てる。妙に熱くて力が漲ってくる左腕もこの際考えないことにする。

 

「どっせぃ!アキラ追撃頼んだ!」

 

「分かった任せろ!」

 

 疑問を打ちのめすかのようにベンチイスを振りかぶり壊しつつ蟹を気絶させていく狂人に合わせる様にして蟹を叩きのめしていくのだった。  

 

 

 

 

 

《蟻原》

 

 

「これで最後だ!」

 

 上条とキャプテンが抑えていた蟹の最後の一匹をアキラがハンマーで砕き潰しようやく弱肉強食の戦いは終わった。

 総勢五体の蟹はやっぱり俺一人ではきつく途中でアキラが参戦してくれなかったら喰われていたかもしれなかった。そう思うほど割ときつい戦いだったのだ。

 

「ふぃー」

 

 呼吸を整えながら周りを見渡す、いったいどこから蟹がやってきたのかは知らないが騒動でほかの虫がやってくる気配はない。あれで全部だろう…これ以上はいないよね?

 

「アキラ!もう大丈夫なんだな!平気なんだよな!?」

 

「ああ問題ねぇって。ちっと左腕が熱いが…まぁどうって事はねぇよ」

 

 上条と無事を喜び合い笑いあうアキラ。…寄生虫が体内に潜んでいた後遺症はどうやら見受けられない。正真正銘無事なのだろう。良かった良かった。

 

「お、おいお前」

 

「うん?」 

 

 息を整え終ると同時に恐る恐ると言った様子で声を掛けられる。話しかけてきたのは神野だった。

 

「……あ、ありがとよ」

 

「ああ、気にすんな。それより無事でよかった」

 

 神野は蟹のハサミによって足を掴まれていたのだ。それを知って蟹の腕を引っこ抜いて助け出したのだが…足をくじいたみたいに引きずっているのが気になる…後で白川さんに見てもらおう。ま、無事でよかった。

 

「んで、お前を治すためにここに来たんだ。いやー無事でよかった!」 

 

「そうか、本当にやばかったのか俺。マジでサンキューな兄弟。っと」

 

 上條と話していたアキラが俺に振り向く。うん、こうやって見ると中々の男前な奴だ。そんなアキラは俺を見て二カっと笑う。

 

「確か蟻原って言ったか。なんか兄弟から色々と聞いたけど俺が助かったのはお前のお陰でもあるらしいな」

 

「あーまぁ上條につられて動いたってのがあるけど」

 

「あんがとよ。お陰で助かった」

 

 …そう言ってニカりと礼を言われるととても照れてしまう。俺がやったのはただ単にアキラをジカバチの巣から助け出そうとして寄生虫を無理矢理取り除いただけなんだから…あれ?結構頑張っているから褒められて当然?

 

「蟻原君!皆!無事ですか!?」

 

「うわっ!蟹が叩き潰れている!?」

 

「うわぁーこりゃ準備し無くてもよかったかな~」

 

 思わぬアキラの真っ直ぐな感謝に照れていると織部さんの声と共にようやく皆が戻ってきた。潰れた蟹に驚く者何故か長靴とバケツを抱えたものなどいるが皆怪我もなさそうだった。

 

 

 あー本当によかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベンチイスを振り回して蟹を叩いた?なんて言うかそろそろ蟻原君のやる事に驚かなくなってきたよ」

 

「めんご」

 

 心底呆れた様子の伊能に謝りながら皆の様子を伺う。死んだ蟹をまじまじと見つめる人やアキラの自己紹介を聞いている者、ぐったりと疲れている物様々だ。

 

 その中でも目を引くのは…

 

「睦美…有難う…皆も、私体は動かなかったけどちゃんと覚えていたから…」

 

「千歳ちゃぁぁあん!…良かった…千歳ちゃんが目を覚まさなかったら私…」

 

「もう泣かないで、睦美の事はちゃんとわかってる。虫たち相手につらかったんでしょ」

 

「ぢどせちゃん…わたし…私 虫を殺すために勉強したんじゃなぃぃ…」

 

「うん。睦美は頑張ったよ 謝らなくていいんだよ」

 

 あの涙を流して再会を喜んでいる2人だろう。委員長は織部さんとやっとで再会できたと思ったらすぐにジカバチに刺され攫われたんだ。そこからずっと親友の事を思いながらも道を切り開いてくれた織部さんは本当に頑張ってくれた。  

 

 それにしても虫たちを殺すために勉強したんじゃない、か。確かにそりゃそうだ。害虫駆除のために勉強したって訳では無さそうだったし本当は虫だって殺したくなんてなかったんだ。虫の知識も駆除じゃなくて…本当は観察とかその他の、そういう殺すのとは違う目的の為の知識だったんだろうに。

 

「……だよな。やっぱ、()()()俺の役目だよな」

 

 あの泣いている少女を見ていると自分の役目を再認識する。自分の事は知らないことだらけだけどそれでも蟲に対抗できる力がある。なら、俺の役目は決まっている。

 

「…織部さんが気になるの」

 

「うん?…まぁ色々とな。それよりこの死骸どうしようかね」

 

 決意を新たに織部さんを見ていたら伊能からなんだか拗ねたような声が聞こえてきた。隣で膨れている伊能の視線が若干気になるが、濁すことにした。こんな昏い決意聞かせてもいい気分じゃない。 

 

「…まぁいいけど。そうだね、死骸は外に運ぶとして…」

 

 多少不満があるようだがすぐに話題に乗ってくれた。内心感謝しつつ蟹の死骸を割とどうするのか真面目に考える。

 

 救助が来るまであと数日だ。それまでこのメディカルセンターを拠点として使うと考えるとどうしたって蟹の死骸があるのは衛生的によろしくない。頑丈な壁に割と清潔な部屋。二階には入院患者のためのベッドが多数あるとはいえどうしたって化け物の死骸があるだけで気分が滅入ってしまう。

 

「…ねぇ蟻原君。織部さんに聞いてみようか?僕達だけじゃ手詰まりだし」

 

 伊能の提案にそれもそうかと納得。やはりここは知恵袋である織部さんに聞くべきだろう。そもそも前提として外に運んで放置するのは果たしていいのだろうか不安もある訳だし。

 

 

「直ぐにここから離れるべきです!このガザミのような甲殻類の骸は強烈な匂いを発し直ぐに肉食蟲に発見されてしまいます!」

 

「ひぃ!」

 

「マジかよ…折角安全な場所を見つけたってのに!」

 

 駄目でした。匂いにつられてやってくる虫たち相手に籠城なんて悪手でしかなく直ぐにここから離れるべきだという事が判明していた。やっぱり彼女の知識は俺たちの命にかかわる重大な事だった。

 

 織部さんの意見を聞いた委員長は事の重大さをすぐに分かったのか皆を見渡してハッキリとした声で指示を出す。

 

「皆、すぐにここから出ましょう!睦美移動の準備をお願い!」

 

「はい!皆さん各自の判断で食料や医療品、武器等各自判断して集めてください!」

 

「おい!リーダーは俺だ勝手に「アツシ、アイツらの意見は尤もだ。俺達も集めよう」グッ!」

 

 委員長の号令に各自顔を見回せ移動するために必要な物を取りに行く。上条が委員長の号令に不満を漏らしたがアキラの言葉で飲み込んだ。…なるほどアキラが上条のブレーキ役って事か。

 

 

 これで皆で移動の準備をして脱出。…とはいかないのがこの島なんだよなぁ。

 

 

 

 

 

 

 バァワッサッバァワッサッ!

 

 

 

 

 

 

 

 その巨大な羽音は直ぐ近くで聞こえたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうでもいい注意!
この物語では蟻原が無理矢理寄生虫を腕から引きちぎるという暴挙をしていますがあくまで小説なので真似しないでおきましょう。寄生虫が発見?されたら医者に行きましょう。良い子も悪い子も約束だぞ♪じゃないと目ん玉が飛んでいって変わりに虫が出てくるゾ♪(そもそも引きちぎったのも原作じゃいかにも取り出してくださいと言わんばかりの大きさだったし…)

アキラ ちょいとおバカな不良君。良い奴。
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