巨蟲列島 蟲姦お断り!【完結】   作:灰色の空

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ひっそり投稿します。


空はお前のものではない

 

「オイオイなんだあの化けもんは!?」

 

 空化の羽音を聞いて隠れ乍ら外の様子を伺えばそこにいたのは大空を飛ぶ虫がいたのだ。

 

 体長は8から10メートルか?もっとありそうな気がする。刃物のような牙を持ちアレに挟まれたら人体は直ぐに両断されてしまうだろう。なんつーかここにきて一番ヤバそうなものに狙われたというか…あれは俺の力では無理っぽさそうだな。

 

「あれはヘビトンボ!?」

 

「知っているのか織部さん」

 

 蟲の事なら何でも知ってる織部さん。こういうときはまず彼女に情報を教えてもらわなければ。

 

「あれは大型の飛翔昆虫です。蛇蜻蛉の名前の通り非常に攻撃的で触れるものすべてに強い力で噛みついてきます」

 

「じゃあアレは私たちを襲ってくるの!?」

 

「…本来なら樹液が主食なのですが小昆虫を襲うことも有ります。あの大きさだと小昆虫では栄養が足りなくて、多分私達も標的にされるかと…」

 

 教えてもらった情報はなんともまぁ絶望感漂う内容だった。あの巨体の癖にして動きは中々素早さそうだったしあの牙は勿論致命的だ。何とかしてやり過ごすことは出来ないのだろうか。

 

「逃げるのは難しい?」

 

「…正直かなりキツいです。逃げ切ろうにもあっちの方が速く捕まると思います」

 

 無理でした。んでこのまま籠城するには蟹の死骸の匂いによりさらに危険な虫が来ると考えると…となると手段は限られてくる。

 

「甲斐さん。あの外にあったライトをつけれますか?」

 

「あのライトって虫を集め寄せる奴の?お~け~確か施設内を管理しているパソコンがあったから出来るよん」

 

「なら…ライトの出力を上げて…うん。出来る」

 

 織部さんと甲斐が話しているのはヘリポートに会った鉄塔型の電灯の事だろうか。アレを使ってできる事と言えば 

 

「皆さん手伝ってください、今から私がヘビトンボをやっつけます」

 

 だよね、ですよね。それしか方法ないもんね。なにせ今から避難を考えないといけない所に空に捕食者が居るのだ。とてもじゃないけど放っておいて逃げ出すのは無理がある。

 

 織部さんの言葉を聞いて周囲は色々と反応を返してくる。驚くものや安堵の息を吐くもの、震えるものや織部さんを心配する人。みんなそれぞれだ。

 

「私が囮を引き受けます」

 

「睦美、危険すぎるわ、もっと他に安全な方法を」

「囮なら私がする。だから」

 

「大丈夫だよ。私は昆虫採取で荷物を持ちながら野山を駆け巡ってたり、野生動物にあった時の準備を備えているから」

 

 安心させようとしているのか朗らかに笑う織部さん。そんな笑顔だからか皆も任せて大丈夫だろうと織部さんが囮をするのを承諾する雰囲気になりつつある。

 

 

(…でもそれはなぁ。…うーん)

 

 このまま任せてしまえばそれでいいのかもしれない。でもそれでいいのだろうか。しかし本当に彼女に任せてしまっていいのだろうか。

 

『私…虫を殺すために勉強したんじゃない』

 

 あの言葉とあの泣き顔が頭の隅をよぎってしまう。虫を殺すために詳しくなった訳ではない彼女に任せてしまって本当に良いのだろうか。

 

 そんな疑念が頭によぎってしまったせいか気が付けば俺は織部さんの肩を掴んでいた。

 

「蟻原君?」

 

「その役目。俺がする」

 

 驚いて俺を見てくる織部さんに出てきた言葉はほぼ無自覚だった。ただ彼女に虫を殺させたくはないというそれだけだった。

 周りの皆は驚いて俺を見てくるがそんなの気にせず言葉はすらすらと出てきてしまう。

 

「俺があのヘビトンボを殺る。囮も引き受ける。だから君がしようとしたこと俺に教えてくれないか」

 

「へ?あ…き、危険です!私はここにいる誰よりもヘビトンボの生態について詳しいから私が適任です!」

 

「そうです!歌や踊りだって付け焼き刃では失敗します」

 

「蟻原君。夜からずっと動いていますよね、ここは織部さんに任せた方が…」

 

 苦言を漏らすのは織部さんに三浦に白川さん。確かに織部さんの言う通り俺は蟲の生態に詳しくは無い。三浦さんの言う通り付け焼き刃では失敗して死ぬかもしれない。白川さんの指摘通り疲労も蓄積しているのは事実。

 

 それでもこれを譲る訳にはいかない。だから俺はそれらしく言葉を重ねよう

 

「確かに君の言う通りだ。でもね君を死なせるわけにはいかないんだ。たとえ何があっても」

 

「あ、蟻原君」

 

 織部さんに言い聞かせるように目を見て伝える。たとえ何があっても織部さんだけは死なせてはいけない。だってそうしてしまったら…

 

「…蟻原君。どうしてそこまで躍起になるの? 織部さんを信用する事は出来ないの?」

 

 見かねてしまったのか不満げな伊能。少々目が座っているようにも感じられるその目の問いかけに理屈を話す。感情は…抜きにしておこう

 

「信用とかの問題じゃない、ここで織部さんを失うって事は虫への情報が無くなる事と同義なんだ。今までの事を想い返してくれ。織部さんの知識が何度俺達を救ってくれた?何度虫の脅威から守ってくれた?」

 

「あ~~確かに睦美ちゃんの知識が無かったら俺達直ぐに死んじゃっていたかもねぇ~」

 

「甲斐の言う通り虫たちから生き残るには織部さんの知識が必要不可欠だ。その為にも死なせちゃいけない」

 

 集まっている皆を見回し俺は熱弁する。この子の存在こそが俺たちにとっては必要不可欠で大切な存在だと。勿論皆も同じように大切ではあるけどね。

 

「この島では人間は生態系の最底辺だ、まるで大昔の生態系と同じように簡単に死んでいく儚い命だ。だけど人間は弱いながらも知恵を身に着け知識を持って困難を乗り越えてきた。それと同じだ。今ここで知識の要となる織部さんは死なせてしまったら俺達の全滅と等しい」

 

 話せば自然と熱が入ってくる、浮つく熱気をそのままに織部さんへと振り向いてその肩を手を置く。ビクンッと跳ね上がった気がしたがこの際無視だ。  

  

「織部さん!」

 

「ひゃいっ!?」

 

「君の力が必要なんだ、だから頼む君の知識を共有させてくれ、皆が生き残るために」

 

 驚いてしまったのか目を見開いてしまった織部さんに俺の意思が伝わる様に。そのつもりだったのだが、手をパンパンと叩く委員長に止められてしまった。

 

「はいはい、蟻原君そこまで。睦美は男慣れしていないの。言いたいことは分かったから離れて」

 

「うん?っと、ごめんね」

 

 ようやく自分が何をしているのか理解して織部さんの肩から手を離す。気が付けばかなりの至近距離で話をしてしまったらしい。織部さんの顔は真っ赤だ。…これは反省だな

 

「話は聞いていたけど蟻原君貴方大丈夫なの?自信を持っていうんだから信用したいのはやまやまなんだけど」

 

 少し疑いの目を向ける委員長。そりゃ親友に詰め寄った男に多少の警戒を抱くのは仕方ないか。さて、どういって説得するべきか…織部さんを心配していたの委員長も同じだから割とあっさり引いてくれるとは思うけど。

 

「まぁまぁここはやらせてやろうじゃんか。男がやるって言った以上は出来るんだろ蟻原」

 

 と、ここで助け舟を出してくれたのはアキラだった。やたらとニヤニヤした顔で俺に同意を求めてくる。何でニヤニヤとしているかは分かんないけどその言葉は有り難い。

 

「出来る」

 

「なら決まりだな。委員長ここは蟻原に花を持たせてやれよ」

 

「そう言う事じゃ…はぁ分かったわ。睦美アイツを倒すってのはどうするの?私達はどう動けばいいのか教えてちょうだい」

 

「え、あ…わ、わかりました。今から皆さんに手伝ってもらう事をお話しします」

 

 溜息を吐いた委員長は織部さんに指示を仰ぎ始めればしどろもろになりながらも今からするべき事を皆に説明しだす織部さん。

 

 そんな彼女を見ながらアキラが俺の肩に手をを回す。何事かと思い見てみれば物凄くイイ笑顔をしているアキラの顔があった

 

「お前の言いたいことはちゃんとわかってんぜ蟻原」

 

「うん?何を言って」

 

「可愛い女の子の前でカッコつけたくなったんだろ? へへっ妙な奴かと思えばお前も男だったんだな」

 

 この言い方…どうやらアキラは妙に勘違いをしているらしい。織部さん(の一部分)を見てうんうんと頷いている。

 

「別にそんなんじゃ」

 

「良いって良いって。俺はちゃんとわかってるからよ。あのでっけぇプルンプルンの可愛い女の子のためならそりゃ張り切るのは仕方ねーわ」

 

 肩をバンバンと叩き滅茶苦茶爽やかな顔をかましてくるアキラ。だから違うってば!

 

「あのなぁアキラ俺は」

 

「だから死ぬなよ」

 

 俺の言葉に多い被せる様に放った言葉は底冷えするぐらい真剣だった。俺の正面に回ったアキラの目はさっきまでのふざけた雰囲気が無くなって本気の目だった。

 

「死ぬんじゃねーぞ。勝手に死んで女を悲しませるな。それにまだ俺はお前に受けた恩を返せていねぇ。 …俺を恩知らずにさせんなよ」

 

「…ああ」

 

 その返答で納得したのか離れていくアキラ。…もしかしてワザと言ってくれたのだろうか、もしそうだったら。そんな思考は脛にコツンと入った痛みで消えてしまった。

 

「あいたっ」

 

 誰かと思い見ればそこにいたのは拗ねたような表情の伊能。ぷくりと膨れた頬が子供っぽくて幼さを感じて可愛く見えたが…

 

「僕の気も知らずに勝手に熱くなっちゃって…」

 

「え?あ、ごめん?」

 

「全くホントッ蟻原君って馬鹿なんだから。死なないでよ!分かった!?」

 

 ぷりぷりと怒る伊能。どうやら俺の心配をしてくれたみたいだ。それが嬉しくて苦笑が出てきてしまう。

 

「何さ、変な顔をして」

 

「いや、嬉しいなって」

 

「?」

 

 俺を心配してくれる人たちがいるっていうのはとても幸せ事なんだと改めて気付かされるってのは…うん、良いもんだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(抜き足、差し足、忍び足…)

 

 コソリコソリとヘリポートへ出てくる俺。足音を立てず気配を感じさせない様に動く。空は明けてきており太陽が昇るのも時間の問題だろう。それまでにはなんとしてでもアイツを始末しないと…

 

 ジュル…ジュル……

 

 件のヘビトンボは今俺の五、六メートル離れたところで呑気に蟹の体液を啜っていた。俺の気付く様子はない、ならこのまま前進だ。

 

『昆虫の思考パターンはONとOFFしか存在しません。昆虫は同時に別の行動することが出来ず、餌を食べる事にスイッチが入ってしまえば獲物を追うスイッチが入らない限りどんな事があっても餌を食べ続けます』

 

 これが織部さんが教えてくれた昆虫の生態の一つ。ならあのライトに近づくためにはどうしてもヘビトンボの気をそぐようなものが必要だった。

 

 そこで用意したのが俺とアキラで倒した蟹を使う事にしたのだ。甲殻類の死骸は強烈な匂いを発するという、ならその死骸を使ってヘビトンボの餌としたのだ。

 

 力のある物たちで蟹の分解作業を行い体液や脳味噌、諸々を詰めた段ボールを用意してもらい三階の窓から一気に放り投げたのだ。力のある上条とアキラのお陰で上手い事中身をぶちまけた段ボールはヘビトンボの注意をそらしてくれ俺が行動する時間を稼いでくれたのだった。

 

 

(この隙にこのカーテンをあのライトへ巻いてっと!)

 

 鉄塔の梯子を上りライトへ女子達が用意してくれたカーテンを巻き付け一気に剥ぎ取れるようにロープをたらしていく。これでライトが光ってもまだヘビトンボは気が付かない筈。そろりそろりと鉄塔から降りヘビトンボに向き直る。

 

 ここで一度段取りを確認する。

 

 この鉄塔のライトはハロゲンと呼ばれるものらしく明るくなるまで五分ぐらい時間がかかるらしい。それまでは俺が囮となって時間を稼がないといけない。

 

 時間を稼いだ後はカーテンを取り外し光ったライトへヘビトンボを誘導する。

 

 ライトへヘビトンボが食いついたら後は甲斐たちの仕事だ。発電機の出力を上げ一気に感電させる。後に残るはヘビトンボの感電死骸だけだ

 

 これが俺達がヘビトンボで対抗できる作戦だった。途中で蟹を貪っている間に逃げてはどうかと言う提案もあったが空を飛ぶ虫は早めに対処した方がいいという事になったのだ。つまりどう動いてもコイツはここで殺らないと俺達は移動もままならない。

 

 

(…後は時間を稼ぐだけ) 

 

 

 カーテンは巻き後は時間を稼ぐだけ。深呼吸をして織部さんから託されたリュック、ゴマ夫さんの中を探る。取り出すのは熊避けの音が出るサイレンだ

 

(…どうでもいいけどゴマ夫さん滅茶苦茶可愛いな。…ちょっとだけ抱きしめてもバレへんやろ)

 

 個人的にかなり可愛いと思うゴマをさんをハグ。ふかふかとした触感に妙に愛嬌のある顔。そして僅かに匂う甘い匂い。………安全なところに着いたら抱きしめさせてもらう様に織部さんに頼もうかな。頼もうそうしよう。

 

「さぁ!始めさせてもらいましょうか!」

 

 気合が十分入った所で熊避けサイレンを鳴らす。ピュウピュウと鳴くサイレンは見事ヘビトンボの注意を引いたってっ!?

 

「うぉっ!?速いなコイツ!」

 

 俺を獲物と認識した直後の行動は目を見張るものだった。巨体に似合わない機敏さで突撃をかましてくるヘビトンボ。ギチギチと音を鳴らしてくるその姿はまさしく捕食者だ。

 

「空を飛ぶ生き物だからって陸でも速いとかふざけてんのかよ!」

 

 愚痴を飛ばした直後背中から感じ取る空気と圧に肉体が反応し真横へと転がった。直後風の動きと共に大きな破壊音が響き渡る。建物に激突したのだ。

 

『蟻原君、ヘビトンボの直接的な行動を予測して注意すれば貴方なら躱せます。気を付けて!』

 

 織部さんの言う通りヘビトンボは真っ直ぐにやってきた。それを横に転がる形で躱せば回避は出来る!

 

「さぁどうした羽虫野郎!さっさと掛かって…うぇぇああああ!!」

 

 建物から這い出てきたヘビトンボに挑発をすればかさかさと動いて俺を捕食しようとする。その怖さと言ったらちびっても仕方がない。

 

「ふぉぉお!」

 

 転がって躱して空へ飛ぼうとするのをサイレンで妨害して、俺の引き付ける。虫の何も考えていないその目は中々の恐怖もんだ。

 

 

「チッ!アイツ飛び上がったか!」

 

 それでも一歩及ばず飛び上がってしまうヘビトンボ。このまま逃がしてしまえば俺達は行動できなくなる。熊避けサイレンゴマ夫さんを掲げもう一度引き付ける。

 

「ィィィアアアア!!!」

 

 ガチィン!

 

 引き付けて引き付けて、頭から地面へ飛び込めば頭上では牙で俺を挟みこもうとしたヘビトンボがそのまま空へ飛んでいく。ほんの一瞬行動が遅れてたら俺の身体は半分になっていた。その事実に鳥肌が立つ。

 

「クソッ!ビビんなよ俺!それよりアイツはって」

 

 空へ逃げてしまったのかと思ったのは杞憂だった。空中でUターンすると今度こそ俺を仕留めようと速度を上げてくる。それと同時に俺のポケットに入れておいた携帯が五分を過ぎたとタイマーの振動を告げてくる  

 

「そうだ!こっちに来やがれ!」

 

 後は鉄塔のカーテンをはぎ取るだけ。鉄塔に向かい全速力で走る、後ろから虫の羽音が聞こえてくるがそれでもかまわずに走り抜け。

 

「おおおお!!」

 

 カーテンに細工したロープを力いっぱい引っ張る。勢い余ったせいか着地を決めれず地面を転げ回ってしまったが仕方ない。

 

「へばぁ!」

 

 地面と熱烈なキスをかました時、頭上から大きな音が聞こえてきた、大きな何かがぶつかるような衝撃音、そして次に響いたのは

 

 バチバチバチバチッ!

 

 大きな電気が流れる感電した音だった。見上げれば黒焦げになったヘビトンボの巨体がを地面へと墜落していく。作戦は成功したのだ。

 

 

 

「はぁ…はぁ…つ、疲れた」

 

 地面に仰向けになりながら荒い呼吸を繰り返す。今になって疲れがにじみ出てきたようで体中から汗が噴き出ているような感触がする。オマケに少々眠気も感じてきた。

 

「ふわぁ~~ …はぁ」

 

 太陽が昇り朝日を浴びながら欠伸をしたがまだこの島に来てから二日しかたっていないことに落胆のため息が出てきてしまうのであった。

 

 

 

 




次は何時投稿できるのやら…

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