人間、口にしてはいけない言葉があると、逆に声に出してみたくなるものだ。
「ジオンは滅びる。」
白衣の男性がそう呟く。
ここは元連邦の軍事拠点キャルフォルニアベース。
この場所で宇宙から地球に送られた莫大な鉱物資源が兵器になり、そしてジオンを苦しめた。
現在はジオン軍に占領されて、今度は地球連邦軍を苦しめる兵器工場としてフル稼働している。
男は自分に与えられた狭いが快適な研究室の中でつぶやいた。
「ジオンは腐敗した。」
このキャルフォルニアに過去に存在した国家は、憲法第9条で貴族制を禁止し廃止していた。
男はその国家のあり方に少なからず共感していた。
ノックの音がする。
「入りたまえ。」
「失礼します。」
なかなか年齢の若そうな将校が入ってくる。
「先日、連邦から接収したIフィールドに関する論文と資料がここに来ていると聞いて。」
「写しだ。現物はちゃんと書庫にあるだろう。…まあ、持っていって構わんが。」
「ありがたい。」
来訪した将校は、少し嬉しそうに見える。
「Iフィールドなんぞ理解していなくとも、軍人は困らんだろうに。」
そう言いながら白衣の男は、自分に割り当てられているいくつかのデスクの上から、紐でまとめられた紙束を拾い出して、将校に渡した。
「せっかくキャルフォルニアベースに来たので、これを期に勉強し直そうかと。この新しい論文、ドズル様もお読みになられたと聞きまして。」
白衣の男は鼻で笑った。
「所詮は連邦の研究者の論文よ。穴だらけだ。」
将校は精一杯気を使いながら反論した。
「あくまでも私の考えですが…連邦に与したというだけで科学者の質が損なわれるとは、私には考え難く…」
その言葉には特に同意も反論もせずに白衣の男性は将校の肩を叩いた。
「その写しは少尉にプレゼントしよう。しかし、それを読む前にミノフスキー博士のジオニック時代の論文には一通り目を通したほうがいい。理解できない。『穴だらけ』の意味も分かるようになるだろう。」
「ありがとうございます。」
将校は頭を下げると部屋を辞した。
ドアが閉まると白衣の男は
「ジオンにはもったいない。この戦乱の時代には不必要な人間だな。」
と呟きつつタイヤ付きの事務用の椅子にギイと音を立てて座った。
そこへ受話器が鳴る。
「はい、コーエン。…わかった。すぐ行く。」
白衣の男は再びギイと音を立てて立ち上がると、部屋を足早に出ていった。
宇宙世紀0079年、ジオン公国軍占領下の北米キャルフォルニアベースで、ある試作機が完成した。
18万馬力の出力はザクⅡ4機分に相当する。
それが3体も製造された。
その名をゾックという。
ゾックはモビルアーマーという言葉がなかった当時、異様なモビルスーツであった。
計画中からその製造には否定的な意見も多く見られた。
得に当時、モビルスーツには高い機動性能が求められていた。
自走砲の如きゾックの設計思想は各部隊への配属をためらわせた。
そもそも下手な自走砲よりも足が遅く、弾道が山なりではないため、遮蔽物に弱い。
地上戦闘ではそれが急所となると考えられ、戦車にすら負けるのではないかと噂された。
水陸両用であるので水中であればなかなかの機動性能を見せるが、今度は自慢の表裏8門のメガ粒子砲が役に立たない。
そのゾック開発陣の中でも、大型化を強硬に主張した男がいた。
男の名前はリチャード・コーエンという。