「Z機体の正式名が決定した。ゾックだ。」
あれから試作初号機は様々な試験を経た上で、分解され、スクラップだそうだ。
そして、様々なデータを検分した上で新型モビルスーツ「ゾック」の設計は頭頂高23.2メートル(ただし、頭部フォノンメーザー砲を装着時は23.9メートル)と大幅に小型化(?)した。
頭部フォノンメーザー砲とメガ粒子砲の切換え機構は構造的不安が多い事と、機体の不要な大型化を避ける為に撤廃されて、換装によって切り替えるように変更された。
「この新型のゾックは…例のモビル…なんとやらとは違うのかね?」
「モビルアーマーですか?」
ホジョウはホスマン少将と工場内を巡回していた。
設定変更を経た新型のゾック3機が同時進行で作られている。
「まだ、公国の上のほうからモビルアーマーの規格について詳しいお達しが来ておりません。そちらの枠組み次第ではゾックもモビルアーマーの分類ではないかと。」
「ううむ…」
ホスマンが唸っているのは最近「モビルアーマー」というカテゴリで新機体を作る新方針がジオン公国軍で取り決められた件に関してだ。
前々から開発していたゾックがモビルアーマーだということになれば、キャルフォルニアベースはモビルアーマー開発でトップに躍り出ることになる。
「小型化するんじゃなかった…」
「ホスマン少将ですよ。大きいのを嫌がられたのは。」
ゾックの開発計画中に「大きすぎる」と再三文句を言ったのはホスマンだった。
ホジョウは「では少将閣下!私はこれにて!」と敬礼すると、駐車場へ向うと、一台拝借して、ゴンザレスの研究棟に向った。
20分もすると妙に背が高いおんぼろ体育館のような建物が見えてくる。
「やあ、ホジョウ君。よく来た。」
ゴンザレス博士が出迎える。
「ホスマン司令が『モビルアーマーがほしい』って泣いてましたよ?」
建物の中にはグリーンに塗装されたゾックが直立している。
高さ35メートルの解体されたはずの「ゾック」だ。
「これの存在は極秘じゃからな。」
「何のために隠すのか教えてくださいよ。」
ホジョウは呆れた面持ちでため息混じりに尋ねる。
「極秘は極秘じゃ。わっはっは!」
ゴンザレスは若者の質問を白いあごひげを揺らして笑ってかわした。
ホジョウも軍人なので、当然教えてもらえるとは思っていないが、本件に関しては、書類の改ざん諸々、詐欺(?)の片棒を担がされている立場なので、やや機嫌を損ねている。
そこへ建物の外からクラクションが鳴った。
ゴンザレスが黄色いビニールで分厚く補強されたリモコンを操作すると、シャッターが開いてトレーラーが姿を表す。
銀紙で梱包された小屋ほどもある巨大な荷物を積んでいる。
「またキャルフォルニアベースの物資をちょろまかしてきたんですか!?」
運転してきたのはコーエンだ。
トレーラーの高い座席から慎重に降りると涼しい顔で「そうだ。またよろしく頼む。」と言う。
「そろそろボクが睨まれますよ!ナンですかこの巨大なの!?こんなデカブツごまかし切れませんよ!?」
コーエンが首を振った。
「これは大丈夫だ。検査で故意に不良が出るようにして、不具合原因の解析ということにして頂いたブツだ。入手してほしいのはこいつだ。」
コーエンがメモをホジョウに渡す。
「こんな大量のプルトニウム!?手に入るわけが…」
コーエンはホジョウの口が文句を吐ききるのを待たずに、ホジョウの肩を力強く引き寄せた。
「手に入れられるとしたらジオン広しといえども…中尉。君しかいないな。ドズル中将は『ホジョウ中尉は期待に答える』と言っておられた。」
ホジョウはそう言われると弱い。
ここキャルフォルニアベースはドズル・ザビ中将の率いる宇宙攻撃軍ではなく妹(?)のキシリア少将率いる突撃機動軍の系統だ。
ドズル中将が正面切って開発を頼みにくい事情があるのだ。
モビルアーマー規格を推し進めたのはドズル中将だという噂もある。
何よりホジョウは大型ジェネレーターの秘密の実験データをドズル中将に直接手渡したこともある。
「や…やりますけど!…もし私が軍法会議にかけられたら助けてくださいね!」
「任せたまえ。技術将校といえども伊達に大佐になったわけではない。」
「安心せい!」
コーエンは内心「実際、本当に伊達に大佐なんだけどな」と考えながら口には出さない。
ゴンザレスも似たようなものだ。
「本当にお願いしますよ!」
ホジョウはぷりぷりと怒って見せながら、ゴンザレスのアジトを立ち去るべく乗ってきた車にキーをさした。
その様子をコーエンとゴンザレスはニコニコと眺めている。
「本ッ当に!お願いしますよ!」
そして二人は土煙を上げながらボロい軍用車で工場を去るホジョウを見送った。
「中尉は御しやすくて良いな。」
「あれでいてなかなか切れ者じゃよ?」
コーエンは「知ってるよ」と頷いた。
「処理能力が高いんだろうな。軍人向きじゃない気もするが、あの年齢では抜きん出てる。」
コーエンの評価にゴンザレスは頷いた。
「女にだまされて数千万ドル横領する銀行員みたいないびつな能力の高さがあるのう。」
「ゴンザレス、それは喩えとしても少々ひどくないかい?」
半笑いのコーエンに咎められると、ゴンザレスは「くっく」と笑った。
「さて、デカブツを取り付けるかのう。」
ゴンザレスは天井クレーンのリモコンを操作しはじめた。
「お前さんは尊敬する偉人なんかはおるんかの?」
ゴンザレスに「おまえさん」と呼ばれたコーエンは少し考える。
「ゴダート…ノイマン?あまり意識したことがない。爺さんは?」
「リンドバーグじゃな!チャールズ・リンドバーグじゃ!」
コーエンに「じいさん」とよばれたゴンザレスが答えた。
「スピリッツ・オブ・セントルイス号には程遠いな。どっちかと言うとバード少将の…なんだったか?離陸できずにコケた飛行機。」
「重量過多で飛ばなかった奴か?アメリカ号かコロンビア号かじゃろ?」
コーエンは思い出したようだ。
「それならアメリカ号だ。コロンビア号は…確かもっと上手くいった飛行機だったはずだ。」
そう話している間にもゾックの前面の外装が開いていく。
建物に備え付けの整備用のマニピュレーターがのろのろと動いている。
ゴンザレスは一旦リモコンを手放すとトレーラーからおろしたユニットの包装の銀紙をはがし始めた。
コーエンも無言で手伝う。
「重くてコケるほど何を積んだんじゃっけ?」
日光よけの包装をバリバリとはがしながら、ゴンザレスは記憶を手繰る。
「ベッドだよ。」
「ベッドか。」
二人は顔を見合わせてしばらく動きを止めた。
そして急に笑い出す。
二人が今、ゾック試作機に組み付けようと作業していたのが、まさに小型の居住ユニットだったからだ。