翡翠の弾丸~ゾックはかく戦えり   作:スナ惡

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マッド・アングラー隊出陣

「あれって正式名称じゃなかったんですか?」

「いーや、正式名称だよ?」

ホジョウは公告を見ながらコーエンに尋ねた。

コーエンは即答した。

「マッドアングラー隊はマッドアングラー隊だ。潜水艦部隊の通称だったのが水陸両用モビルスーツの編隊を保有する部隊に再編されて、正式名称が『マッドアングラー』になったんだ。今までも潜水艦部隊は水陸両用機を持っていたが、ジオンの水陸両用機の拡充も進んだのを鑑みて…ってことだろうな。」

「お詳しくありがとうございます。」

コーエンは冬も近づく11月初旬、未だにキャルフォルニアベース司令代理をやらされていた。

「司令代理をやらされている間は訊かれたことには答えないとな。」

コーエンはやや恨めしい目でホジョウを見ている。

「ホスマン少将は一体…」

「分からない。」

これも即答だ。

そして、司令のデスクから立ち上がると、ホジョウの目の前まで歩み寄った。

「恐らく、地球におけるジオンの形勢に変化が起きている。悪い変化だ。」

小声でささやく。

聞かれたら不味いのだろう。

「ラル大尉がガルマの仇討ち戦に出陣してそろそろ一ヶ月。あれだけ盛大に公国民を煽っておいて、未だ何の戦果の報告もない。」

そういうとコーエンは司令室の椅子に戻っていった。

「確かに…。」

「ホスマン司令は文官出身とはいえザビ派の重鎮だ。ズム・シティでごたごたでもあれば戻ってこない可能性もありうる。新任の司令が来る可能性もあるな。もしくは、この基地内で誰か適当な人間を司令に据えるかだが、そうなったら誰か心当たりはあるかな?」

ホジョウは考えたこともないことを言われて面食らった。

「えっと…コーエン大佐でよろしいのでは?」

「階級で言えばな。ただ、知ってのとおり私は企業から派遣されている技術将校で、不要に高い階級を提げている。それはその内、是正されて、軍医の連中と同じような切り分けになるだろうな。他には?」

「え?…もしかしてワタクシですか!?」

コーエンは意地が悪そうに微笑んだ。

「佐官が手薄だからな。キャルフォルニアベースは。」

「嫌ですよお…」

ホジョウはあからさまに嫌そうな顔をする。

「なんでだ?仮に司令代理になったとしても、最低でも少佐までは昇格できるだろう?ジオンは人手が足りないんだ。」

ホジョウはそう言われて不思議な感覚だった。

出世はしたいのだが、何か違う。

「ホジョウ中尉。キミに面白いところがあるとするとそういうところだな。」

「そういうところ?」

コーエンは立ち上がると、慣れた手つきでインスタントコーヒーを淹れ始めた。

「ああ、ボクやりますよ。」

コーエンは手で制止した。

雑にコーヒーを淹れている。

「ゴンザレス博士に教えてもらったんだが、君は単に出世したいわけではなく、『実(じつ)』が伴わないと満足できないらしい。」

「『実』ですか?」

コーエンはずいぶん溶け残ったコーヒーをすすりながら説明した。

「何かを成し遂げた結果として出世したいんだと、ゴンザレスは言ってたよ。確かに中尉に昇格したときは成果を出していたからな。」

「え…ありがとうございます。」

ホジョウは素直に喜んでいいのか分からない面持ちだ。

「活躍したいんだろうな。」

「それは…どうなんですかねぇ…」

20代の人間が誰しもそうであるようにホジョウも自分のことはなかなか分からない。

「ジオンに貢献したいとか、この戦争を終わらせるために成果を挙げたいとか、人命は出来るだけ救いたいとか…そういうことが活躍だ。」

「ああ、なるほど。それは出来るものなら『活躍』したいです。コーエン博士は普段そんなことを考えてたんですか?」

コーエンは少し上目遣いに天井を見上げた。

「いつもではないが、自分の力で時代が変化するとしたら、それは嬉しいものだよな。モビルスーツの開発もそのためにやっているのだからな。」

そう話していると、ホジョウの後ろの扉の向こうから「コーエン司令代理!」と威勢のいい声で別の将校がやってきた。

「入りたまえ。」

ホジョウは敬礼すると、その将校と入れ替わりに司令室を退出した。

 

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