翡翠の弾丸~ゾックはかく戦えり   作:スナ惡

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暗雲

それはあまり大きな取り上げられ方ではなかったが、あっという間に話題になった。

戦死者名簿にランバ・ラル大尉の名前が載ったのだ。

ジオン公国のメディアはその報せを極めて抑制的にしか伝えなかった。

ガルマ・ザビの戦死については大々的に取り上げたのに対し、その弔い戦の失敗については無視といっても良い状態だ。

悪い報せは続く。

ジオンの鉱山基地オデッサに、連邦軍が猛攻撃を始めたのだ。

キャルフォルニアベースからも援軍を送るべき事態だったが本来の司令であるホスマンは不在であったため初動が遅れた。

また、前線からは程遠いキャルフォルニアベースにはメカニックとエンジニアはウヨウヨいたが、有事の際の即戦力となれる兵力がなかった。

一応、防衛隊がいるにはいるが、これを出すとキャルフォルニアベース自体が危ない。

「ホジョウ中尉、よろしく頼む。」

「ハッ!」

それでも人員をかき集めて、かろうじて輸送機のガウを動かせるだけの体裁を整えた。

ホジョウが急造の機長としてコーエンに任命されて、オデッサへ飛び立った。

「なんとか飛んだな。」

コーエンとゴンザレスが一息ついたのもつかの間、将校の一人が「オデッサ陥落!」と叫びながら走ってきた。

マ・クベは消息不明、オデッサからHLV(この世界における輸送用の宇宙ロケット)で宇宙へ脱出した将兵のほか、連邦軍に投降した兵も多数、何より基地を放棄して脱出するときに何かを爆発させたらしく、被害の状況が分かりにくくなっている。

結局、ホジョウはすぐにキャルフォルニアベースに帰還した。

この一件でジオンはキャルフォルニアベースに駐屯部隊を置く事を決定するが、編成がなかなか進まない。

結果的に軍の人材不足が表面化させる結果となった。

「しかも、南極条約は破られたか。」

ここはゴンザレスの研究所で、目の前にはゾックが直立している。

ゴンザレスはもう一度「南極条約は破られたか」とつぶやいた。

ハッキリしないがマ・クベか副官のケラーネが核兵器を使用したであろうことが明らかになったのだ。

ホジョウとコーエンが木箱にクッションを置いただけの粗末な椅子に座っている。

「しかし、まだ核だと決まったわけじゃないですし…」

ホジョウが弱弱しく意見する。

「ホジョウ中尉。気持ちは分かるが、使用のいかんに関わらず、オデッサにジオンの手によって核兵器が持ち込まれていたことは確定したのだ。」

オデッサでは連邦軍によって、戦闘中に不発だった核弾頭が回収されている。

「そして、連邦のニュースでは核兵器の使用は確実だと報じている。こと今回に関しては信憑性は高い。」

特にコーエンとホジョウは基地を空けていると不味い立場だが、この際はあまり気にしていないようだ。

南極条約はジオン公国と地球連邦の間で戦時中のいくつかの禁止事項をまとめた条約で、その条約の目玉が「コロニー落としの禁止」「核兵器の使用禁止」だった。

「本来は停戦の条件として…」

ホジョウの言葉をゴンザレスがさえぎった。

「その通りじゃな。元はジオン側が停戦の条件として『コロニー落としの封印』を掲げたものじゃ。しかし、いつの間にか戦時条約にすり替わった為、ジオンは決定力を欠いた形になった。」

コーエンも深くうなづいた。

「その通りだ。ジオンは『核』と『コロニー落とし』という地球人を震え上がらせるツートップを失った。ジオンのお家芸だったモビルスーツも、最近は連邦の白いヤツに出し抜かれ続けているそうだ。これはつまり、『ジオンには連邦に勝る点はない』と言うことだ。それだけではないぞ。ブリティッシュ作戦でジオン国内がどうなったか覚えているだろう。グラナダを取ったところまでは拍手喝采だったジオン公国民がシドニー壊滅で真っ青になった。核の再使用でジオンの民心は離れるぞ。」

ホジョウはうつむいていた。

かく言うホジョウが今回の核使用でショックを受けている1人だからだ。

ブリティッシュ作戦でのコロニー落としの折も心の整理に時間がかかった。

大量破壊兵器と言う猛毒が人類全体を蝕んでいるのだ。

「ここも時間の問題かもしれんのう。」

「達者で。」

ゴンザレスがゾックに乗り込む。

「くれぐれもお気をつけて!」

「ああ、こんな時勢じゃが、ホジョウ中尉、キミとはまた会えるじゃろう。」

沈む夕日へ向ってゾックの実験初号機は動き出した。

海まで出てあらかじめ決めた隠し場所へ隠すのだという。

ゴンザレス博士は極秘任務の為にそこに潜伏するのだという。

ホジョウとコーエンは二人、別々に基地へ帰った。

翌朝、ホジョウは事故発生の警報で起こされる。

ゴンザレス博士の研究所であった倉庫が爆発して消し飛んだのだ。

研究中だった大型ジェネレーターが暴走して爆発したのだという。

ホジョウがその報せを聞いたときにちらりとコーエンの顔を見ると、目にいっぱい涙らしきものを貯めていた。

ホジョウも見習ってトイレに駆け込むと、目薬をさした。

モビルスーツ用のジェネレーターの爆発といえば核爆発だ。

死体は蒸発して痕跡すら残らない。

偽装工作は成功したのだ。

 

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