翡翠の弾丸~ゾックはかく戦えり   作:スナ惡

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疑念

オデッサ鉱山基地の一部始終が明るみになりはじめた。

未だマ・クベは行方不明のままだが、モビルスーツの爆発に巻き込まれて戦死したのではないかと言う噂も流れ始めた。

水陸両用モビルスーツで再編成されたマッドアングラー隊の運用成績はかねがね好感触であったらしい。

ゾックの有用性も示せたと考えていいだろう。

さてジオン公国軍は人手不足に陥っていた。

レビル将軍がいないと寝返りも打てない地球連邦軍もたいがい人手不足だが、ジオン公国軍の人材不足も決して楽観視出来ない。

ホスマンは部隊を率いて軍艦で帰ってきた。

オデッサが陥落してヨーロッパからジオンが撤退し、前線が近づいたことと、オデッサ援軍派遣の失態でジオンの上層部がキャルフォルニアベースの兵力の増加を決定したためだ。

単純に行けばオデッサへの増援失敗はコーエンの失点となるところだが、ホスマンが久々の宇宙を堪能していた疑惑などがあって、ホスマンは降格だけですんだ。ただし、この降格処分は、どちらかと言うと「技術将校の階級は公国軍事技術総監を最高位として云々(うんぬん)」からはじまる技術将校の階級に関しての是正が行われたのが発端で、「企業からの出向は尉官どまり」という新ルールに移行したからだ。

そこでコーエンは完全に軍籍に移るかどうかをきかれて「お断りする」と即答したらしい。

結果、大尉まで下がった。

「そもそも、社から貰っている給与は変わってないのだ。」

事後、コーエンはホジョウにネタバラシをした。

話は変わってホスマン司令がつれてきた連中は武闘派ぞろいだった。

キャルフォルニアベースを我が物顔で闊歩する様子にメカニックやエンジニア達からホジョウに苦情が殺到した。

「ホスマン司令、キャルフォルニアベースでは精密機器を扱っているんです。軍人と技術者の領域を分けてください。」

そもそも、ホジョウがその苦情を受けるのがおかしいのだ。

ホスマンが放置するので、困り果てた技術者達がホジョウに苦境を陳情してくるのだ。

「いや、まあ、仲良くやっていこうではないか。」

「そういう問題ではないんです!キャルフォルニアベースの生産拠点としてのクオリティに関わっているんです!」

何の弱みを握られているのか知らないがホスマンがのらりくらりと取り合わない。

そんな中、事件が起きた。

エンジニアの若い女性が、その新しく入ってきた連中に乱暴されそうになったのだ。

最近の嫌な空気を嗅ぎ取って警戒していたホジョウがたまたま現場近くにいたので未遂に終わったが、技術者達と軍人達の間での不和が決定的になった。

特にコーエンがキレた。

「ホスマン司令、何が言いたいかはお分かりですな。」

「分かってはおるが、酔っていたそうじゃないか。」

「自室や独房で酔っ払うのは一向に構いませんが、酔っ払って生産ラインに闖入するのは看過できません。」

ホジョウはその様子を横で見ていたが怒るコーエンに対してホスマンは明らかにイラついている。

「監視房に24時間で納めたまえ。」

ホスマンの申し出をコーエンは即断った。

「宇宙(そら)へ送り返すべきです。」

コーエンがそういうと横から口を挟むものがいた。

「それは出来ない相談だ。アイツがやらかしたのは認めるが、俺達の仕事は戦争で、戦争はチームじゃなきゃ出来ねえ。あいつはチームなんだ。」

「司令?」

コーエンは口を挟んだ男に一瞥もくれずにホスマン司令にその男が何者かを説明するよう促した。

「…ベン・ハドマン大尉だ。地球方面軍所属、キャルフォルニアベース連隊、第2中隊隊長だ。」

「ほう?」

コーエンはハドマンの前まで歩み寄る。

ホジョウは胸倉でもつかむのじゃないかと、思わず間に割って入った。

「キミかあのバカの飼い主は。首にナワでもつけときたまえ。」

ホジョウは「あちゃー」と思いながらハドマンの様子を見ると、完全にコーエンを殴ろうとしている。

ホジョウはハドマンの前に立つと「まあまあまあ」と言いながら、ハドマンの視界をふさいだ。

ハドマンは無言でホジョウをどけようとするが、上手くいかないようだ。

渾身の力でホジョウをどけようともがくハドマンに対して、ホジョウはひたすら「落ち着きましょう?」と言いながら平然と前に立っている。

その光景の滑稽さにコーエンは毒気が抜けたような顔をしている。

「ホスマン司令!今回の件は司令が悪いんですよ!何度も私も言ったじゃないですか!」

「あ、うん…すまなかったけど…それどういうこと?」

ハドマンが必死になってホジョウをどけてコーエンのところへ回り込もうとしているのに、一向にホジョウがどけられないしかわせない様子に対して、流石のホスマンも異常事態だと理解したのだ。

「何の話ですか?」

もはや、ホジョウはハドマンの方を見てすらいない。

それでもハドマンは抜けられない。

まるでクモの巣にからめとられたように徐々に動けなくなっていくのだ。

そして、あがけばあがくほど段々と壁に追い詰められていく。

「お前!このやろう!ふざけるなよ!!」

ベン・ハドマンは激昂して、怒りの矛先をホジョウに向けたようだ。

「だから落ち着いてくださいって!」

ハドマンは耳を真っ赤にして怒って右手を自分の背中に回した。

コーエンとホスマンがその様子に真っ青になった。

ハドマンは武器を「抜く」つもりなのだ。

ホジョウはホスマンを見たままで気づいている様子はない。

「ハドマン大尉!」

「やめろバカ!!」

しかし、腰の後ろに回された腕は帰ってこなかった。

--ゴキン

「えっ?」

「えっ?」

ハドマンは呆然としている。

ホジョウは目の前のハドマンを哀れむような、失望したような顔で見ている。

ホジョウがハドマンの肩を脱臼させたのだ。

 

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