翡翠の弾丸~ゾックはかく戦えり   作:スナ惡

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監視房

「なんかすいません。まさか中尉まで…」

「いや、いいよ。」

酔っ払って狼藉を働いた曹長がぶち込まれている隣に、ホジョウもぶち込まれた。

ホジョウは武器を抜きそうな気配を察して思わずハドマン大尉の腕を捻ったのだが、咄嗟のことで(見てもいなかったし)、少々捻りすぎたのだ。

結局、ハドマンは武器を抜けなかったので、お咎めの受けようもなかったが、結果的に、一方的に怪我をさせたのはホジョウと言うことになって、3日間の懲罰を食らっているのだ。

キャルフォルニアベースは技術者対軍人の空模様から急転して、「補給係に中隊長が成す術もなくやられた」「空威張りのへタレ連隊だった」という空気に変わっていた。

「本当にオレの酒癖のせいで。」

「酒癖だけじゃなくて女癖もだよ。」

「はい…すいません。」

ホジョウはため息をついた。

「謝る相手はボクじゃないでしょ。」

「はい…すいません。」

不毛な会話をしていると、ホスマン少将がやってきた。

「…まあ出にくいとは思うけど。24時間たったので。」

酔っ払い狼藉者は未遂で終わったため24時間で懲罰終了だが、ホジョウは未遂ではないのだ。

「ホジョウ中尉…なんかすまない…」

ホジョウはもう一度深いため息をついた。

「ホスマン司令がいなくなってこの方、まともに休んでいなかったので。怪我をさせたのは私ですし。暴力は良くないですよね。」

「…そうだよね…あの、はん…」

「『はん』…?なんです?」

ホスマン司令が何か言いにくそうにしている。

「…わ…私も反省するのでホジョウ君も反省してください!」

「…私が反省していないとでも?」

「いえ!そんなことは思っておりません!」

「…いや、私も反省したりないと思っていたところです。」

「反省してます!」

ホスマンはそう言うと退出していった。

恐らく、今回の一件で怪我人が出たせいで、事件が明るみになり上層部にこってり絞られたのだろう。

ホジョウは嫌なことを思い出して沈痛な気持ちになっていた。

ホジョウは父親が指導者だった関係で武道の心得があった。

しかし、ホジョウは中途半端に才能があったせいで、何度か試合で相手を骨折させたり脱臼させたりしているのだ。

怪我をさせた相手はいずれも熱意はあるが、お世辞にも上手とはいえないタイプだった。

対してホジョウは武道に熱意なんてなくて、お世辞か本気か上手いといわれ続けてきた。

本人にとっては嫌々やらされている習い事の一つだった。

士官学校に入った時、ホジョウの父親はたいそう喜んで「武道をやらせて良かった」と言っていたが、時代は白兵戦の時代ではない。

学校では半端に腕に覚えがあるヤツは上級生にイビられると思ったので、武道の心得があることはひた隠しにしてきた。

ジオンはモビルスーツの時代を目前に、優秀なパイロットを求めていたので、徒手格闘のサラブレッドなどお呼びじゃなかったし、使う機会もなかった。

その亡き者となっていた才能が、昨日、何年かぶりに火を吹いてしまった。

関節を外す感覚が、まだ左の手のひらに残っている。

ずっと忘れたかった感覚だ。

段々、自分があの場に呼んだホスマンのバカ面を思い出してきた。

もしかすると、激昂したハドマンを放っておいたら、ホスマンが撃たれて死んだんじゃないだろうか。

そうしたら、あの犬の群れみたいな連隊も上から下まで全員処分されてキャルフォルニアベースが健全化したのではないだろうか。

そうやって考えていたら、お腹が鳴って我に返った。

「…くだらない」

そう言って、ホジョウは再び絶え間ないため息をついた。

長く絶え間ないため息だった。

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