ホジョウが懲罰房に入っている間、基地内はヘタレ中隊長と我らがホジョウ中尉でハナシが尽きなかった。
そしてホスマンにこってり絞られたのか、恥をかいたのが効いたのか何なのか、新入りの連隊の人間は、だいぶおとなしくなっていた。
「わきまえる」ようになっていた。
コーエンはその様子を小さな驚きとともに眺めていた。
コーエンはホジョウと言う人物をだいぶ見誤っていたことを認めざるをえないところまで来ていた。
コーエンはホジョウに関しては「そこそこ出来る」人間だと考えてはいた。
ただ、その上で「平凡で小賢しい将校」の範疇を出ないと考えていた。
ところが現実はどうだ。
とんでもない現場を目の当たりにしてしまった。
流石にホジョウの手並みが鮮やか過ぎたため、誰も彼もがホジョウの素性を調べた。
そして傷害事件の翌日にはそこそこ判明した。
ホジョウの実家は武道の道場を併設していて、父親は優秀な指導者だったらしい。
そしてホジョウ自身も、出場した数少ない競技会では無敗だったそうだ。
これまでのキャルフォルニアベースのみならずジオン公国軍のホジョウに対する印象は「士官学校をとくに目立ちもしない成績で卒業してから後方で補給任務を淡々とこなす、勘定の得意な文官」だった。
ところが今回の一件と、判明した生い立ちから導かれるホジョウという青年は「圧倒的強者として生まれ育ちながらも、その爪を隠したまま士官学校を出て中尉まで昇った」人間だったのだ。
あの才能が士官学校時代に発揮されていたら、今頃はいけ好かない貴族の護衛でもしていただろう。
そう考えながら生産ラインを視察していると、ホジョウが事件のときに浮かべていた表情を思い出した。
「ウェルカムじゃないんだろうね。」
思わず声に出てしまった。
ホジョウがこの基地内で一生懸命取り組んでいたのは、前線へ送る補給物資の正確さと速さの両方を実現する仕事だ。
その仕事に取り組んでいたときの屈託のない明るさに対して、バカの肩を外した後に見せた顔は、いつものように気軽に声をかける気にはなれそうに無い。
彼にとって、天賦の才能である「ケンカの強さ」は本当にウェルカムではないのだろう。
目の前で働いている技術者達も前線で敵を殺す仕事だったらこんなに精力的に働けただろうか。
仕事をする彼らも、頭の中で「これは人殺しの道具だ」と分かってはいるはずだ。
自分達の設計や、数式が、人体を吹き飛ばし、焦がし、一生残る傷や、時には蒸発して亡骸も残さないモノに変わっていくことを知っているはずだ。
しかしながら、それはあくまでも間接的な事実であって彼らはモノに向き合っている。
コーエンは自分が誰かの手を折るところを想像してみた。
もしかすると痛快なのかもしれない。
だが、ホジョウがそうではないことは明らかだった。
ここには戦争では人を殺したことがある人間はゴマンといる。
コーエンは気づくとホジョウが懲罰で放り込まれている部屋の近くまで来ていた。
壁一枚隔てた向こう側にいる。
面会できるわけではないが自然と足が向った。
コーエンはあまり自分の行動に驚かなかった。
ーホジョウ中尉は我々に必要な人材かもしれない。
前々からゴンザレスはコーエンにそう語っていたが、コーエンは半信半疑だった。
しかし、今、コーエンですらそう考え始めている。
ゴンザレスは果たしてホジョウのどこを見てそう評価していたのだろう。
「…難問か。」
コーエンはそう呟くと形ばかりの監視役に敬礼してその場を立ち去った。