「曹長、お名前を伺ってもよろしいですかね?」
「タニア・ロボ。高校ではボクシング部でインターハイに出場しました。」
ホジョウは納得した。
「タロウ・ホウジョウです。部活は帰宅部でした。」
お互いの自己紹介が終わると、二人は距離を詰めた。
マグカップはホジョウの父が考えた「余興」であって、素人を達人が「いなす」遊びのようなものだ。
ホジョウにもタニアにもお互いの実力差は分かっている。
ホジョウの方が圧倒的に強い。
しかし、タニアは好奇心を止められなかった。
ホジョウもその好奇心を無視できなかった。
ホジョウは先ほどとはうって変わって、全くパンチをかわさなくなった。
タニアはホジョウに打つパンチを全て捌かれている。
ー回ってる洗濯機にパンチ打ってるみたい!
パンチを捌かれるたびにタニアの体勢が崩れる。
ホジョウは徐々に前に進み始めた。
「中尉、一発も攻撃してないのに曹長を押してるぞ!!」
「なんだアレ!スゲー!!」
ギャラリーが騒ぎ始めた。
ホジョウはそろそろ、タニアの背中に壁が近づいているのを見て、タニアが横に回りこむのを押さえ込むことにした。
タニアはホジョウを見て左へ回り込みたいのになぜか回れない。
ーパンチを捌かれながら、こんなところまでコントロールされる!?
タニアが驚いていると、ホジョウのプレッシャーが消えた。
ホジョウがパンチを捌かなくなった。
タニアが押し返し始めたが、今度は、ホジョウはタニアのパンチを全部上体をダッキングして避けはじめた。
タニアのパンチが空を切り続ける。
「軟体動物!?」
ホジョウはそんな声を聞きながら、木刀相手にこの練習をやらされていた日々を思い出した。
「そういえばこんなのあったな。」
タニアの拳がホジョウの顔面をとらえた。
右ストレートがホジョウの額のど真ん中をヒットしたのだ。
「え!?」
タニアは当てておいて驚いた。
ヒットした感覚がほぼ無いのだ。
ホジョウが伸びきった右ストレートにわざわざ額で当たりに行ったのだ。
パンチの威力を完全に殺して、サッカーボールをトラップするような曲芸だった。
タニアは気のせいかと考えてもう一度同じコンビネーションを出すと、やはり右ストレートだけホジョウの額で殺されている。
「ジャブは流石に出来ないです。ところでそろそろ、私も攻撃しますね。」
見ていた人間は全員その一言で思い出した。
ホジョウは攻撃をしてこなかったのだ。
完全な距離感、完全な防御、相手の逃げ道すら塞いだホジョウがここから攻撃するというのだ。
「お…お手柔らかにお願いします。」
タニアは圧倒的な実力差に恥らいすら覚えていた。