ホジョウはすり足で一気に距離を詰めた。
タニアのステップインも鋭かったが、ホジョウはやや沈み込みながら背筋をまっすぐ伸ばしたまま、一瞬で相手の眼前に肉薄する。
タニアの顔の10cm前にホジョウの顔が現れる。
ビビッてタニアが後ろへ下がろうとすると、ホジョウがタニアの、ズボンのヒザのところをつかんでいて、タニアが後ろに転びそうになる。
タニアが体勢を立て直したときには、ホジョウはタニアを中心に大きく回りこんでいるのでタニアの視界から消えている。
見失ったタニアがホジョウを探そうと振り向くと、後ろを向こうと振り向いてねじれた首と肩をホジョウががっちりと掴んでいた。
「確かこの状態からは、ボクシングには攻撃手段が無いですよね。」
「ひゃ…ひゃい!」
口元にホジョウの手のひらが当たっているのでタニアは上手く喋れない。
そのまま、ホジョウはタニアを地面に引き倒しながら、タニアの下あごを掴んだ。
「タニア曹長、実はこれで曹長は一回死んでいます。」
「ですよね…。」
ホジョウはタニアを引き起こして立たせると、次の攻撃へ移った。
タニアの腕を極めたまま、すたすたと歩いてタニアをギャラリーの人垣に押し込む。
「これ、本当は壁に押し付けるんですが、この状態で、眼、鼻っ柱、鼻の下、下あご、のど笛、心臓、みぞおちと順番に殴っていきます一応、秘伝なんですが別に隠しても誰も得しないので、『北条流八点ふさぎ』ですね。」
寸止めしながら人垣に解説する。
「一応、『〇年殺し』みたいな殺人技の大半は、現代の医学にかかったら治療されちゃうんですが、これは私の父が作った『一日殺し』ですね。実践ではこんなキレイには決まらないと思うんですが。」
タニアは何度も死んでいるはずなのに、ホジョウの技と寸止めがキレイすぎて妙な安心感に包まれながら殴りかかっていった。
ホジョウは斜め前に歩いてかわすと、タニアの膝ウラを手のひらで押してタニアの体勢を崩した。
タニアは思わぬタイミングで片膝をついた状態になって、急いで立ち上がろうとすると頭を押さえられて立てない。
「一旦ここでストップです。本当だったら、この立とうとした瞬間に…私がこう上体をぐっと捻って、こういうビンタを顔面に叩き込むんです。」
卓球のスマッシュのような動きをホジョウが見せた。
「これは確実に意識がトビます。運が悪いとアゴ外れます。人間、思わず立っちゃうので、その反射的な動きに隠れている一瞬の気の緩みを狙うんですね。」
一同、思わず「ほー」と声を揃えて感心した。
「そういえば、『ほー』で思い出しましたが、私がやってるようなこの歩き方、こういうの武道では全般的に歩法って言うんですが、こういうのをしっかり身に着けておくと、自分が正座している高さから、まっすぐ立ってる高さの間なら、いつでも力が発揮できる…踏ん張れる体勢が取れるので。タニア曹長が私の体勢が低くて、顔も狙いにくいような状態でも、私のほうは一方的に強い打撃が打てる。こう掴んでも、強い力で引き倒せる。男女で力の強さが違う以前の話です。私は片膝ついてても立ってるときと同じだけ力が使える…って言うのを訓練しているので。」
「ホジョウ中尉、もしかしてそれはダジャレってヤツかね?」
ホスマン司令がダジャレに食いついた。
しばらくして、その日の北条流祭りはおひらきになった。